スーパーや直売所で販売されているみかんは、サイズによってカロリーが大きく異なります。「みかん1個」と一口に言っても、SサイズとLサイズでは摂取カロリーが倍近く変わることもあります。農業規格(JAS規格など)に基づいた一般的なサイズ区分を参考に、廃棄率(皮などの食べられない部分)を約20〜25%として計算した可食部ごとのカロリーと糖質量を把握しておくことが重要です。
一般的に「みかん1個」として栄養計算されることが多いのはMサイズですが、実際には以下の表のように差があります。
| サイズ | 総重量(皮含む) | 可食部重量 | カロリー(目安) | 糖質量(目安) |
|---|---|---|---|---|
| Sサイズ | 約60g~70g | 約45g | 約22kcal | 約5.0g |
| Mサイズ | 約100g | 約75g | 約34kcal | 約8.3g |
| Lサイズ | 約130g~160g | 約100g~120g | 約45~54kcal | 約11.0g~13.3g |
特筆すべきは、みかんの可食部100gあたりのカロリーは約45kcal(日本食品標準成分表による)であり、これは果物の中でも比較的低い部類に入ります。例えば、バナナは可食部100gあたり約86kcalあるため、同じ重量を食べた場合、みかんのカロリーは約半分です。
また、収穫時期によってもカロリーの中身である「糖度」は微妙に変化します。10月頃に出回る「極早生(ごくわせ)」は酸味が強く水分が多いため、カロリーは若干低くなる傾向があり、12月以降の「晩生(おくて)」や貯蔵みかんは水分が飛び糖度が凝縮されているため、同じ1個でも実質的な糖質摂取量はわずかに高くなる可能性があります。農業の現場では、糖度計を用いてブリックス値(糖度)を測定しますが、糖度11度と13度では甘みの感じ方が全く違います。しかし、1個単位のカロリー差としては誤差の範囲内と考えて良いでしょう。
文部科学省:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 - 食品成分データベース
※上記リンクは、正確な食品成分値を検索・確認できる公的なデータベースです。
「果物は果糖が多いから太る」という説を耳にすることがありますが、みかんに関しては、適切な量を守ればダイエットの強力な味方になります。むしろ、痩せるための間食として非常に優秀です。
その理由は、圧倒的な「水分量」と「低エネルギー密度」にあります。みかんの約87%は水分です。スナック菓子やクッキーなどの焼き菓子は水分が少なく、少量で高カロリー(100gあたり500kcal前後)を摂取してしまいますが、みかんはお腹いっぱいになるまで食べてもカロリーオーバーになりにくい食品です。
具体的な比較を見てみましょう。
ショートケーキを1個我慢して、みかんを2個食べたとしても、摂取カロリーは約1/5に抑えられます。さらに、みかんに含まれる食物繊維(ペクチン)は血糖値の急上昇を緩やかにする効果が期待でき、腹持ちを良くします。
ダイエット中に気になる「糖質」ですが、みかんの糖質は果糖、ブドウ糖、ショ糖の混合です。果糖はインスリンを直接必要とせずに代謝される割合が高いため、適量であれば血糖値を上げにくい特徴があります。ただし、夜遅くの摂取は中性脂肪に変わりやすいため、「朝のフルーツ」や「3時のおやつ」として取り入れるのがベストです。
また、最近の研究では、みかんに豊富に含まれる色素成分「β-クリプトキサンチン」に、内臓脂肪の蓄積を抑制する効果がある可能性が示唆されています。単にカロリーが低いだけでなく、代謝に関わる栄養素を含んでいる点が、他のお菓子にはないメリットです。
厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
※食事摂取基準において、果物の摂取目標量などが確認できます。
みかんを食べる際、綺麗に白い筋を取ってしまう人がいますが、これは非常にもったいない行為です。あの白い筋や薄皮には、果肉以上に重要な栄養素が含まれています。
白い筋の正式名称は「アルベド(Albedo)」と言います。ラテン語で「白さ」を意味する言葉で、維管束(いかんそく)と呼ばれる水分や栄養を果実に運ぶためのパイプラインの役割を果たしています。ここには、果肉の数倍とも言われる食物繊維と、ビタミンP(ヘスペリジン)が凝縮されています。
🔍 アルベドに含まれる注目成分
農業生産者の視点から見ると、アルベドの量は品種や栽培環境によって変わります。水分ストレスをかけて甘く育てたみかんは皮が薄くなり、アルベドも剥がれにくくなる傾向があります。逆に、勢いよく育った大きなみかんはアルベドが厚くなります。どちらにせよ、アルベドは「天然のサプリメント」です。無理に取らず、そのまま食べるのが健康への近道です。
農研機構:ミカンをよく食べる人では2型糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の発症リスクが低い
※農研機構による、みかん摂取と生活習慣病リスクに関する大規模な疫学調査の結果です。
いくら低カロリーで栄養豊富といっても、食べ過ぎは禁物です。「箱買いしたみかんをつい5個、10個と食べてしまった」という経験は誰にでもあるかもしれませんが、体にはいくつかの変化が現れます。
✋ 手が黄色くなる「柑皮症(かんぴしょう)」
みかんを食べ過ぎると、手足の裏が黄色くなることがあります。これは「柑皮症」と呼ばれる症状で、みかんに含まれるカロテノイド色素(β-カロテンやβ-クリプトキサンチン)が血液中に増え、皮膚の角質層や脂肪組織に沈着するために起こります。
肝臓の病気である「黄疸(おうだん)」と間違われやすいですが、白目(眼球結膜)が黄色くならない点が大きな違いです。柑皮症自体に毒性はなく、摂取を控えれば自然に元の色に戻ります。病気ではありませんが、体が「カロテンが飽和状態だよ」とサインを出している状態と言えます。
🚽 消化不良や下痢
みかんは水分と食物繊維が豊富です。適量であれば便通を良くしますが、過剰摂取すると水分過多でお腹が緩くなったり、食物繊維の摂り過ぎで消化不良を起こしたりすることがあります。特に胃腸が冷えやすい人は注意が必要です。
また、みかんは酸味(クエン酸)を含んでいるため、空腹時に大量に食べると胃酸の分泌を促しすぎて胃痛の原因になることがあります。
⚖️ 1日の適量は?
厚生労働省が推進する「健康日本21」では、果物の摂取目標量を1日200gとしています。これはMサイズのみかんで2個程度に相当します。楽しみとして食べる場合でも、1日3個(約120kcal程度)までに留めておくのが、糖質管理と健康維持のバランスとして理想的です。
実を食べ終わった後、残った皮をゴミ箱に捨てていませんか?実は、みかんの皮は「陳皮(ちんぴ)」と呼ばれる生薬になり、家庭でも簡単に作ることができます。また、農業やガーデニングを行う方にとっては、優れた資材にもなります。
🍊 自家製「陳皮」の作り方
🌱 掃除や農業での再利用
みかんの皮に含まれる「リモネン」には、油汚れを分解する作用があります。皮の外側でコンロ周りの油汚れをこすると、驚くほど綺麗に落ちます。ただし、発泡スチロールを溶かす性質があるため、プラスチック製品に使う際は注意してください。
また、家庭菜園や農業を行っている場合、みかんの皮は良質な堆肥の材料になります。
細かく刻んだみかんの皮を土に混ぜ込むと、分解される過程で土壌微生物のエサになります。ただし、リモネンには抗菌作用もあるため、大量にそのまま投入すると一時的に微生物の活動を抑制してしまうことがあります。コンポスト容器などで一度発酵させ、「ボカシ肥料」としてから土に還すのがプロの技です。乾燥させた皮をアブラムシ忌避剤として株元に撒くという伝統的な農法も存在します。
みかんは実から皮まで、捨てるところがない万能な果物です。1個のカロリーを気にするだけでなく、その全体を活用することで、より健康的でエコな生活を送ることができます。