生活習慣病は、かつて「成人病」と呼ばれていましたが、成人特有の病気ではなく、長年の生活習慣の積み重ねが発症や進行に深く関わっていることからその名が改められました 。遺伝的な要因もゼロではありませんが、それ以上に日々の環境や行動が大きなウェイトを占めています。
参考)主な生活習慣病
主な原因としては以下の要素が複雑に絡み合っています。
これらの要因が重なることで、「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」という状態に陥りやすくなります。メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧、脂質異常のうち2つ以上を併せ持った状態を指します 。この状態を放置すると、ドミノ倒しのように次々と重篤な病気を引き起こす「メタボリックドミノ」という現象が発生し、最終的には透析が必要な腎不全や、失明、足の切断、あるいは突然死につながる心血管事故などを招くリスクが跳ね上がります。
参考)あなたは知ってる?生活習慣病ランキング - ららぽーと横浜ク…
特に農業従事者の場合、「自分は毎日体を動かしているから大丈夫だ」という過信が、最大のリスク要因になることがあります。農作業による身体活動と、健康維持のための有酸素運動は質が異なります。また、収穫期の極端な忙しさによるストレスや睡眠不足も、生活習慣病を加速させる隠れた原因となっています。
生活習慣病の予防において、最も重要かつ即効性があるのが「食事」のコントロールです。特に日本の農業従事者において課題となりやすいのが「塩分摂取量」です。自家製の漬物や味噌汁、作業の合間のお茶請けなど、知らず知らずのうちに塩分を過剰に摂取しているケースが非常に多く見られます 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2005/058071/200501187B/200501187B0001.pdf
具体的な予防策としての食事ルールは以下の通りです。
予防には「特定保健指導」や「定期健診」の活用も欠かせません。自覚症状がない段階で数値の異常に気づき、早期に食事内容を見直すことが、将来の重病を防ぐ唯一の手段です。
厚生労働省:生活習慣病予防に関する詳細情報
※厚生労働省が提供する、生活習慣病の定義や予防に向けた国の取り組み、ガイドラインが網羅されています。
生活習慣病の中でも患者数が多く、国民病とも言われるのが「糖尿病」と「高血圧」です。これらは初期段階ではほとんど自覚症状がないため、「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」とも呼ばれています 。
参考)4章 生活習慣病を学ぼう - 神奈川県ホームページ
1. 糖尿病(2型糖尿病)
血液中のブドウ糖(血糖)が増えすぎてしまう病気です。インスリンというホルモンの分泌量が減ったり、効きが悪くなったりすることで起こります。
参考)生活習慣病とは?
2. 高血圧症
血管にかかる圧力が慢性的に高い状態です。血管壁が常に張り詰めた状態になり、動脈硬化を進行させます。
3. 脂質異常症(高脂血症)
血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)が異常値を示す状態です。
これらの疾患は単独で発症するだけでなく、互いに悪影響を及ぼし合います。例えば、高血糖は血管を傷つけ、そこからコレステロールが入り込みやすくなり、動脈硬化を加速させ、さらに血圧が上がるという悪循環を生み出します。
e-ヘルスネット:高血圧 | 厚生労働省
※高血圧のメカニズムから診断基準、生活習慣での改善ポイントまで、専門的な内容が分かりやすく解説されています。
日本人の死因の上位を占めるのが、いわゆる「三大疾病」です。これらは生活習慣病が重症化した最終的な結果として現れることが多く、命を取り留めたとしても、麻痺などの重い後遺症が残り、以前のように農作業ができなくなる可能性が高い病気です 。
1. がん(悪性新生物)
日本人の死因第1位です。生活習慣病の枠組みでは、特に肺がん(喫煙)、大腸がん(食生活・肥満・飲酒)、肝臓がん(肝炎ウイルス・飲酒)などが生活習慣と強い関連があります。
2. 心疾患(心臓病)
死因第2位です。主に狭心症や心筋梗塞を指します。心臓に血液を送る冠動脈が動脈硬化で狭くなり、血栓が詰まることで心臓の筋肉が壊死します。
3. 脳血管疾患(脳卒中)
脳の血管が詰まる「脳梗塞」、破れる「脳出血」、動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」の総称です。
これらの病気は「ある日突然」発症するように見えますが、実際には数年〜数十年かけて血管の中で静かに進行しています。健康診断の判定で「要再検査」「要精密検査」が出た場合、それは「まだ間に合う」というサインです。このサインを無視して放置することが、最も死亡リスクを高める行為と言えます。
国立がん研究センター:科学的根拠に基づくがん予防
※日本人のためのがん予防法として、禁煙や食生活、身体活動などの推奨事項が科学的根拠に基づいてまとめられています。
多くの農業従事者が抱いている「毎日畑に出て汗を流して働いているから、運動不足とは無縁だし健康だ」という認識。実はこれこそが、農業従事者を生活習慣病の罠に陥れる最大の誤解かもしれません 。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_1791
「労働」と「運動」は別物です
農作業は確かに重労働ですが、その内容は「長時間の中腰姿勢」「重いものの運搬」「特定の筋肉の酷使」といった偏った負荷がかかる動きが中心です。これは心肺機能を高めたり、脂肪を効率よく燃焼させたりする「有酸素運動」とは質が異なります。むしろ、過酷な肉体労働は活性酸素を発生させ、血管や細胞の老化を早める一因にもなり得ます。
実際に、農業従事者は一般の事務職等と比較して、心血管疾患(CVD)のリスクが2〜4倍高いというデータも存在します 。
農作業特有の「隠れたリスク要因」一覧
対策:農作業を「健康的な運動」に変える工夫
農作業を単なる労働で終わらせないためには、意識的な工夫が必要です。
「自分は健康だ」と過信せず、職業特有のリスクを理解し、毎年の特定健診(メタボ健診)を必ず受診すること。これが、長く現役で農業を続けるための最大の秘訣です。