農業従事者の皆様にとって、切っても切り離せないのが「紫外線」との戦いです。一般的に、適度な日光浴はビタミンDの生成などに役立つと言われていますが、長時間屋外で過ごす農作業の現場では、そのメリットを上回る「酸化リスク」が潜んでいます。
紫外線、特にUV-Bは、皮膚の細胞内で水分と反応し、瞬時に大量の活性酸素を発生させます。この活性酸素は、本来であれば体内に侵入したウイルスや細菌を撃退する免疫機能の一部として働きます。しかし、過剰に発生した活性酸素は「暴走」し、正常な細胞や血管、DNAまでをも傷つけてしまうのです。これが、農作業後のひどい疲労感や、肌のシミ・シワ、さらには長期的な健康被害の原因となります。
参考)農作業はスプリンジー(R)で対策!紫外線が気になる季節がやっ…
特に夏場の繁忙期は注意が必要です。汗をかき、呼吸が荒くなるほどの重労働を行うと、呼吸によって取り込まれた酸素の数%が必然的に活性酸素に変化します。これに紫外線の影響が加わることで、農業従事者の体内は、まさに「酸化の嵐」にさらされている状態と言っても過言ではありません。
このように、職業柄避けられない環境要因が重なっているため、一般のデスクワークの人々よりも数倍強力な「最強の対策」が必要となるのです。単なる日焼け止めだけでなく、体の内側から酸化を食い止めるアプローチが必須となります。
農作業中の紫外線対策の重要性については、以下のリンクも参考にしてください。
農作業はスプリンジー(R)で対策!紫外線が気になる季節が...
では、具体的に何を摂取すればこの強力な活性酸素に対抗できるのでしょうか。多くの研究機関や専門家が推奨する、抗酸化力(スカベンジャー能力)が極めて高い成分と食材をランキング形式で紹介します。
多くの農家さんが自家用野菜を食べて健康を維持されていますが、実は野菜以上に強力な抗酸化作用を持つ食材が存在します。それが、海産物に含まれる赤い色素成分です。
| 順位 | 成分名 | 代表的な食品 | 特徴と抗酸化力 |
|---|---|---|---|
| 1位 | アスタキサンチン | 鮭、イクラ、エビ、カニ |
「海のカロテノイド」と呼ばれ、その抗酸化力はビタミンEの約1000倍、ビタミンCの約6000倍とも言われます |
| 2位 | リコピン | トマト、スイカ、ピンクグレープフルーツ | カロテノイドの一種で、ビタミンEの100倍以上の効力を持つとされます。加熱することで吸収率が高まるため、トマトソースなどが最適です。 |
| 3位 | スルフォラファン | ブロッコリー、ブロッコリースプラウト | 解毒酵素の生成を活性化させ、作用が3日ほど持続するという驚異的な特徴があります。 |
| 4位 | カテキン・ポリフェノール | 緑茶、赤ワイン、カカオ | 特に緑茶に含まれるEGCG(エピガロカテキンガレート)は強力な殺菌・抗酸化作用を持ちます。農作業の休憩中の一服は理にかなっています。 |
| 5位 | ビタミンC・E | パプリカ、キウイ、アーモンド | 基本の抗酸化ビタミン。単体で摂るよりも、CとEを合わせて摂ることで相乗効果(ビタミンエース)が生まれ、効果が持続します。 |
なぜ「鮭」が最強なのか?
鮭は産卵のために川を遡上する際、強烈な紫外線と酸素消費による酸化ストレスにさらされます。これに耐えうるために筋肉中に蓄えているのが「アスタキサンチン」です。農業従事者が過酷な環境で働き続ける姿は、まさに川を遡る鮭と重なります。日々の食事に、焼き鮭や鮭のホイル焼きを取り入れることは、農作業の疲労回復において理にかなった最強の食事療法と言えるでしょう。
また、野菜の中ではブロッコリースプラウトが注目されています。発芽したての新芽には、成長したブロッコリーの何倍ものスルフォラファンが含まれており、少量で効率的に抗酸化力を得ることができます。
食品ごとの抗酸化力についての詳細なデータは、以下の研究も参考になります。
The total antioxidant content of more than 3100 foods...(世界中の3100以上の食品の抗酸化物質含有量)
最強の食材を知っていても、食べ方を間違えればその効果は半減してしまいます。抗酸化物質(スカベンジャー)を無駄なく体内に取り込み、活性酸素除去能力を最大化するための「食べ合わせ」と「調理のコツ」をご紹介します。
1. 油と一緒に摂る(脂溶性成分の吸収率アップ)
アスタキサンチン、リコピン、ビタミンE、β-カロテンなどは「脂溶性」の成分です。これらは水に溶けにくく、油と一緒に摂取することで腸管からの吸収率が劇的に向上します。
2. ビタミンエース(A・C・E)の黄金トライアングル
抗酸化ビタミンは、単独で戦うよりもチームで戦う方が強力です。
この3つを同時に摂取できるメニュー、例えば「鮭(E)とブロッコリー(C)と人参(A)のクリームシチュー」などは、まさに農作業後の回復食として理想的です。
3. 皮ごと食べる「ホールフード」の実践
植物は、紫外線から自分自身を守るために、皮や種の部分に最も多くのポリフェノールや抗酸化物質を蓄えています。
農家さんだからこそできる、新鮮な無農薬・低農薬野菜を皮ごと使う贅沢な食べ方が、実は最も理にかなった抗酸化対策なのです。
食品の組み合わせによる効果の変化については、以下の文献に詳しい実験結果があります。
食品の組み合わせによる抗酸化力の変化 - 岐阜市立女子短期大学
私たちの体には、生まれつき活性酸素を無毒化する酵素「SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)」を作り出す能力が備わっています。しかし、この体内酵素の生産能力は、残念ながら20代をピークに40代以降激減してしまいます。
参考)抗酸化による老化防止の効果
ベテラン農家さんが「若い頃と同じように働いているのに、疲れが抜けなくなった」と感じるのは、気合が足りないからではなく、このSODの減少が大きな原因です。したがって、食事からこの酵素の代わりとなる物質を積極的に補給する必要があります。
SOD様作用食品(SOD様食品)を味方につける
SODそのものを食品から摂取しても、消化過程で分解されてしまいますが、「SODと同じような働きをする食品(SOD様食品)」を摂ることは非常に有効です。
また、近年注目されているのが「水素」の力です。水素分子は極めて小さいため、他の抗酸化物質が入り込めない細胞の隅々や、脳の関門までも通過することができます。さらに、水素は善玉の活性酸素には反応せず、最も毒性の強い「ヒドロキシルラジカル」という悪玉活性酸素だけを選んで結合し、無害な水に変えて排出するという特性があります。
参考)活性酸素ってなに?(後編)
水素水や水素吸入などは、医療現場やアスリートのケアでも導入が進んでおり、疲労困憊の農作業後のリカバリー手段として、取り入れてみる価値は大いにあります。
酵素や抗酸化の仕組みについては、厚生労働省のサイトも信頼できる情報源です。
抗酸化物質[各種施術・療法 - 一般] - 厚生労働省eJIM
最後に、多くの農家さんが見落としがちな「独自の視点」からの対策をお伝えします。それは、「休憩の取り方」そのものが活性酸素の発生量を左右するという事実です。
「日が暮れるまでに終わらせたい」と、休憩なしでぶっ続けで作業をしていませんか?実は、筋肉が酸素不足の状態(虚血状態)になり、その後休憩して急に血液が流れる(再灌流)瞬間に、大量の活性酸素が発生することが知られています。これを「虚血再灌流障害」と呼びます。
活性酸素を増やさない「スマートな農作業」のコツ
3時間働いて30分休むより、1時間ごとに10分の小休憩を挟む方が、体内の酸素濃度が安定し、活性酸素の爆発的な発生を抑えられます。
喉が渇いてから水を飲むのではなく、作業中にカテキンを含む緑茶や、ビタミンCを含むレモン水をちびちびと飲むことで、発生する活性酸素をその都度消去(スカベンジ)していくイメージです。
急に動きを止めると血流が滞り、老廃物が溜まります。軽いストレッチで血流を穏やかに戻すことで、酸化ストレスを軽減できます。
また、農作業着の選び方も重要です。通気性が悪く体温が上がりすぎると、体は熱ストレスを感じて活性酸素を出します。最新のファン付きウェアや、UVカット率の高いインナーを活用することは、単なる暑さ対策ではなく、立派な「抗酸化対策」なのです。
農業は体が資本。作物を育てるのと同じくらい、ご自身の体を「酸化」から守り、手入れをしてあげてください。今日からのお昼ごはん、そして休憩の取り方を少し工夫するだけで、10年後の体の軽さが劇的に変わるはずです。
活性酸素と疲労、老化の関係についての基礎知識は、以下の情報も役立ちます。