糖尿病の合併症の中でも、最も早期から頻繁に見られるのが末梢神経障害による足の症状です。高血糖状態が続くと、神経細胞内にソルビトールという物質が蓄積し、神経細胞が変性したり、神経に栄養を送る微小血管の血流が滞ったりすることで神経障害が引き起こされます。この段階では、日常生活で「なんとなく足がおかしい」と感じる程度の違和感から始まることが多く、見逃されがちです。
初期症状として特徴的なのは、左右対称に現れる「しびれ」や「痛み」です。多くの患者さんが「足の裏に薄皮が一枚張り付いているような感覚」や「砂利の上を歩いているようなジャリジャリした感じ」を訴えます。これは感覚神経が障害され始めているサインであり、医学的には異常感覚(パレステジア)と呼ばれます。特に夜間、布団に入って体が温まった時や安静にしている時に、「ジンジン」「ピリピリ」とした痛みが強くなる傾向があります。
さらに進行すると、逆に感覚が鈍くなる「感覚鈍麻」の状態に陥ります。これは痛みが消えたから治ったのではなく、神経が死んでしまって痛みを感じ取れなくなっている非常に危険な状態です。熱さや痛みに鈍感になると、例えば熱いお風呂に入っても火傷に気づかなかったり、農作業中に長靴の中で小石が入って足を傷つけても全く気づかなかったりします。農業従事者の場合、土壌の細菌が傷口から侵入するリスクが高いため、この「痛みを感じない怪我」が命取りになることがあります。
Diabetic neuropathy (DN) is one of the main microvascular complications... - NCBI (英語論文ですが、糖尿病性神経障害のメカニズムと症状の進行について詳細なエビデンスが記載されています)
糖尿病の初期症状は? - きくち内科クリニック (「足の裏に膜が張ったような感覚」など、患者が自覚しやすい具体的な初期症状の表現が参考になります)
この段階での対策は、血糖コントロールを徹底することはもちろんですが、自分の足の感覚を過信しないことです。「痛くないから大丈夫」ではなく、「痛くないかもしれないから目で見て確認する」という意識転換が必要です。
足の「爪」は、糖尿病による血流障害や神経障害の影響が非常に現れやすい部位であり、健康状態を映す鏡とも言えます。糖尿病患者の足の爪には、健常者とは明らかに異なるいくつかの特徴的な変化が現れます。これを「ただの爪のトラブル」として放置すると、そこから細菌感染が広がり、最悪の場合は足を切断しなければならない事態に陥ることもあります。
まず挙げられるのが「爪の肥厚(ひこう)」と「変形」です。高血糖による血流不全で爪母(爪を作る工場)に十分な栄養が行き渡らなくなると、爪は正常に伸びることができず、厚く硬くなったり、層状に重なったりします。これを爪甲鉤湾症(そうこうこうわんしょう)と呼ぶこともあります。農作業などで厚手の靴下や安全靴を長時間履く環境にある場合、圧迫によってこの変形がさらに助長され、肥厚した爪が靴に当たって皮膚を傷つけ、そこから潰瘍(かいよう)ができるケースも少なくありません。
次に注意すべきは「爪の色の変化」と「感染症」です。糖尿病患者は免疫力が低下しているため、白癬菌(水虫菌)に感染しやすく、爪白癬(爪水虫)の有病率が非常に高いです。爪が白く濁ったり、黄色っぽく変色してボロボロと崩れるような場合は、ほぼ間違いなく白癬菌の感染です。爪白癬は単なる見た目の問題ではなく、分厚くなった爪が周囲の皮膚を圧迫したり、自分自身の皮膚を傷つけたりする凶器となり得ます。また、爪が黒っぽく変色している場合は、靴擦れによる内出血や、最悪の場合は壊疽(えそ)の前兆である可能性もあり、緊急の受診が必要です。
糖尿病で爪に出る5つの症状とは? - 浅草橋三好クリニック (爪肥厚や巻き爪など、糖尿病特有の爪のトラブルとその原因について分かりやすく解説されています)
糖尿病と爪の変化の関係 - 大石内科クリニック (爪の色の変化が示すサインや、具体的なケア方法についての専門的な助言があります)
爪切りの際も細心の注意が必要です。神経障害で手先の感覚も鈍っている場合、深爪をして出血させてしまうリスクがあります。視力が低下している(糖尿病網膜症)場合はなおさらです。
「糖尿病足病変」とは、神経障害、血流障害(閉塞性動脈硬化症)、そして感染症の3つの要因が重なり合って発症する足のトラブルの総称です。これらが進行した最終的な結末として恐れられているのが「壊疽(えそ)」です。壊疽とは、組織が死んで腐ってしまう状態を指し、一度壊疽が進行してしまうと、全身への菌の拡散(敗血症)を防いで命を守るために、足の切断を余儀なくされることがあります。
壊疽への道のりは、些細な「傷」から始まります。例えば、新しい長靴を履いた時の靴擦れ、爪切りの失敗による小さな切り傷、低温火傷、あるいは胼胝(タコ)や鶏眼(ウオノメ)の下にできた膿瘍などです。健康な人であれば数日で治るような傷が、糖尿病患者の場合は以下の悪循環によって治癒せず、急速に悪化します。
特に農業従事者の場合、泥や水に触れる機会が多く、足が不衛生になりやすい環境にあります。長靴の中は高温多湿で細菌が繁殖しやすく、作業中にできた小さな傷から細菌が入り込み、あっという間に蜂窩織炎(ほうかしきえん)や骨髄炎へと進行するリスクがあります。壊疽は「足が黒くなる」というイメージがありますが、その前段階として「足が赤く腫れる」「嫌な臭いのする膿が出る」「皮膚がただれる(潰瘍)」といったサインが現れます。
Understanding the multifaceted etiopathogenesis of foot complications... - NCBI (糖尿病足病変、潰瘍、壊疽の病態生理学的メカニズムに関する包括的なレビューです)
足病変 早期ケアで防ぐ リスク自覚し受診呼び掛け - 沖縄タイムス (放置することによる壊疽のリスクと、早期受診の重要性を啓発する記事です)
「タコやウオノメは削ればいい」と自己判断でカミソリなどで処置をするのは自殺行為です。そこから感染し、壊疽に至るケースが後を絶ちません。
壊疽を防ぐための警戒サイン:
糖尿病患者、特に屋外で活動する農業従事者にとって、足を守るための「靴選び」は命に関わる重要なテーマです。合わない靴は最大の「外傷の原因」となります。一般的に、足先の感覚が鈍っているため、きつい靴を履いていても「締め付けられている」と感じにくく、逆に脱げやすい緩い靴を履いていても気づきにくい傾向があります。
靴選びの際は、以下のポイントを重視してください。まず、つま先には十分な余裕(捨て寸)が必要ですが、踵(かかと)周りはしっかりフィットして足が靴の中で遊ばないものを選びます。また、糖尿病患者専用の「フットケアシューズ」や、足への負担を軽減する「ロッカーボトム(船底)構造」の靴底を持つ靴も推奨されます。これらは足裏にかかる圧力を分散させ、タコや潰瘍の形成を防ぐ効果があります。
農作業で長靴や安全靴を使用する場合、これらは通気性が悪く、素材も硬いため、糖尿病患者の足にとっては過酷な環境です。
日々の「フットケア」としては、毎日の入浴時の観察が必須です。足の裏や指の間は直接見えにくいため、手鏡を使ってチェックするか、家族に見てもらう習慣をつけましょう。洗う際は、ナイロンタオルなどで強くこすらず、石鹸をよく泡立てて手で優しく洗います。また、入浴後は乾燥によるひび割れを防ぐため、尿素配合のクリームなどで保湿を行いますが、指の間は湿気が溜まりやすいのでクリームを塗らないようにします。
糖尿病の方の靴選び方 - ドイツ整形外科靴マイスター (フットケア先進国ドイツの視点を取り入れた、糖尿病患者に適した靴とインソールの選び方が詳述されています)
糖尿病の足の健康を守る「フットケアシューズ」 - 糖尿病ネットワーク (産学医連携で開発された、足底圧を軽減する靴の科学的根拠について紹介されています)
農作業後のチェックリスト:
糖尿病の足の症状として、しびれや痛みほど知られていませんが、患者さんを激しく苦しめるものに「バーニングフィート症候群(灼熱脚症候群)」があります。これは、文字通り「足が燃えるように熱い」「火照って眠れない」と感じる症状です。実際に足が熱を持っている(炎症を起こしている)場合もありますが、多くは神経障害による「感覚の誤作動」です。
糖尿病による高血糖は、自律神経にもダメージを与えます。自律神経は血管の拡張・収縮をコントロールして体温調節を行っていますが、これが機能しなくなると、足の血流量の調整がうまくいかなくなります。さらに、感覚神経の異常興奮により、冷たいものに触れてもいないのに「冷たい」、熱くないのに「熱い」といった誤った信号が脳に送られてしまいます。
この症状の特徴は、夜間に増悪することです。日中の活動時は気が紛れていますが、就寝時に布団に入ると、足裏からふくらはぎにかけて「カッカッ」と熱くなり、布団から足を出さないと耐えられない、あるいは氷水で冷やしたくなるほどの不快感に襲われます。これが慢性的な睡眠不足を引き起こし、血糖コントロールをさらに悪化させる要因にもなります。
興味深いことに、この「足の灼熱感」は、糖尿病以外の原因(ビタミンB欠乏、甲状腺機能低下症、アルコール中毒など)でも起こり得ます。しかし、糖尿病患者でこの症状が出た場合は、かなり神経障害が進行しているサインである可能性が高いです。「ただのほてり」「冷え性の逆」と軽く考えず、主治医に「夜、足が熱くて眠れない」と具体的に伝えることが重要です。治療には、血糖コントロールの改善に加え、神経障害性疼痛を緩和する特定の薬剤が用いられることもあります。
足のほてり・灼熱感(バーニングフィート症候群)について - 石田内科 (糖尿病性神経障害との関連性や、夜間に症状が悪化するメカニズムが解説されています)
バーニングフィート症候群の特徴:

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