2025年12月現在、日本国内における感染症の状況は極めて深刻な局面を迎えています。特に注目すべきはインフルエンザの爆発的な拡大です。厚生労働省の最新データ(2025年第47週)によると、定点医療機関あたりの報告数は「51.12」に達しました。通常、流行警報の基準値は「30」ですが、今回はその1.7倍近い数値を記録しており、過去数年と比較しても異例のスピードで感染が広がっています。
参考)インフルエンザ全国で流行拡大中 30日も空気カラカラ 週半ば…
この急増の背景には、今シーズンの主流株である「サブクレードK(Subclade K)」の存在があります。国立感染症研究所の分析では、検出されたウイルスの約96%がこの変異型であり、従来の免疫が効きにくい可能性が指摘されています。例年であれば12月下旬から1月にかけてピークを迎えるのが通例ですが、2025年シーズンは11月の時点で既にピーク並みの水準に達している点が大きな特徴です。
参考)流行中のインフルエンザ、96%が変異型「サブクレードK」 感…
農業従事者にとって、この時期の感染症流行は死活問題となり得ます。特に施設園芸や冬野菜の収穫、出荷作業が最盛期を迎える地域では、人手不足が即座に品質低下や出荷遅延につながるからです。都市部だけでなく、地方の農業地域でも学級閉鎖からの家庭内感染が増加しており、地域全体での警戒レベルを引き上げる必要があります。
以下は、直近のインフルエンザ報告数の推移です(定点あたり報告数)。
| 対象週 | 報告数(定点あたり) | 状況 |
|---|---|---|
| 第45週 | 25.40 | 注意報レベル接近 |
| 第46週 | 37.73 | 警報レベル超過 |
| 第47週 | 51.12 | 歴史的大流行 |
このように、わずか2週間で倍増する勢いを見せており、現場では「昨日まで元気だった従業員が今日は全滅」という事態も現実に起きています。農業経営者は、単なる風邪の流行と捉えず、災害級の危機管理意識を持つことが求められます。
最新のインフルエンザ流行状況については、以下のリンクも参考にしてください。
インフルエンザ全国で流行拡大中 30日も空気カラカラ(tenki.jp 2025年11月30日)
※2025年第47週の具体的な数値データや、都道府県別の詳細な流行状況(宮城県、静岡県などで特に多いことなど)が解説されています。
「インフルエンザだけ気をつければ良い」という考えは、2025年の冬には通用しません。現在は、インフルエンザに加え、新型コロナウイルス、そしてマイコプラズマ肺炎が同時に流行する「トリプルデミック」の真っ只中にあります。それぞれの感染症には特徴的な症状やリスクがあり、農業現場での対応も異なります。
まず、新型コロナウイルスについてです。2025年12月時点で主流となっている変異株は「NB.1.8.1系統」、通称「ニンバス(Nimbus)」と呼ばれています。この株の最大の特徴は、強烈な「喉の痛み」です。以前の株でよく見られた味覚・嗅覚障害の頻度は減少し、代わりに「焼けるような喉の痛み」や発熱が主症状となっています。喉の痛みが強いため、食事や水分摂取が困難になり、脱水症状を起こすケースも報告されています。
参考)【2025年12月】コロナの最新症状や潜伏期間について確認し…
次に、マイコプラズマ肺炎です。2025年は秋口から報告数が急増し、過去最多レベルで推移しています。マイコプラズマの厄介な点は、「熱が下がっても咳が長く続く」ことです。頑固な咳が数週間続くため、体力を消耗しやすく、農作業のような肉体労働を行う従事者にとってはパフォーマンスの著しい低下を招きます。また、飛沫感染により濃厚接触の機会が多い家族間や共同生活の寮などでクラスターが発生しやすいのも特徴です。
参考)【2025年秋冬に急増中】マイコプラズマ肺炎の症状・流行・治…
これら3つの感染症を見分けることは困難ですが、初期対応の目安として以下の特徴を押さえておきましょう。
農業現場では、従業員が「ただの風邪だろう」と無理をして出勤し、結果として感染を広げてしまうケースが後を絶ちません。特にマイコプラズマは「歩く肺炎」とも呼ばれ、軽症でも動き回れるため感染源になりやすいのです。症状の特徴を周知し、「喉が痛い」「咳が止まらない」といった訴えがあった場合は、即座に業務から外れて受診を促すルール作りが重要です。
2025年冬の特有の症状については、専門医の解説も参考になります。
【2025年12月】コロナの最新症状や潜伏期間について確認しよう(ファストドクター)
※2025年12月時点の主流株「ニンバス」の特徴や、インフルエンザとの同時流行状況について詳しく解説されています。
農業経営において、感染症による人材の離脱は、天候不順と同じくらい、あるいはそれ以上にコントロール可能なリスクです。しかし、多くの農家では「誰かが休んだら残りのメンバーで頑張る」という精神論での対応に留まっているのが現状です。今回の警報級の流行を受け、農業法人や家族経営の農家でも、より具体的な「事業継続計画(BCP)」の策定が急務となっています。
農業特有のリスクとして、「代替要員の確保が難しい」点が挙げられます。収穫や選別、機械操作など、熟練した技術が必要な作業が多く、急に派遣スタッフを呼んでも対応できないことが多いからです。そのため、BCPの中心は「感染者を出さない」予防策と、「感染者が出た場合に業務を止めない」体制づくりの二本柱になります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/pdf/gl_dainihonnoukai.pdf
1. チーム制の導入(ゾーニング)
従業員を複数の班(チーム)に分け、休憩時間や食事の時間をずらすことで、班ごとの接触を断ちます。もしA班で感染者が出ても、B班は濃厚接触者とならずに稼働を続けられるようにするためです。選果場や休憩所など、人が密集しやすい場所での動線分離も効果的です。
2. 重要業務のマニュアル化と多能工化
「この機械は〇〇さんしか動かせない」という属人化を解消しておくことが、最大の防御策です。平時から複数の従業員が主要な作業を行えるようローテーションを組み、手順を動画や簡易マニュアルに残しておきましょう。特に、出荷データの入力や取引先への連絡など、事務作業のバックアップ体制も忘れがちですが重要です。
3. 外部連携の事前確認
万が一、家族全員や主要スタッフが倒れた場合に備え、近隣の農家仲間やJA、自治体の支援制度(営農支援員など)を確認し、リスト化しておきます。収穫代行サービスの利用条件や連絡先を事前に調べておくだけでも、パニックを防ぐことができます。
また、2025年の流行では感染力が非常に強いため、発症してから対策を考えるのでは手遅れになります。「体調不良者は休ませる」だけでなく、「休んだ場合の給与保証(有給休暇の活用など)」を明確にし、従業員が安心して休める環境を整えることが、結果として組織全体を守ることにつながります。
農業現場でのBCP策定については、以下のガイドラインが役立ちます。
農業関係者における新型コロナウイルス感染者が発生した時の対応(農林水産省)
※コロナ禍で作成された資料ですが、インフルエンザを含む感染症全般に応用できる、代替要員確保や衛生管理のチェックリストが掲載されています。
空気感染や飛沫感染への対策(マスク、換気)は浸透していますが、農業現場で意外と見落とされがちなのが「接触感染」のリスクです。特に、トラクターや軽トラック、収穫用ハサミ、選果機などの「農機具や設備の共有」が感染の媒介となっているケースがあります。
ウイルスは、金属やプラスチックの表面で数時間から数日間生存することが知られています。例えば、感染者が鼻を拭った手で軽トラックのハンドルやシフトレバーを握り、その直後に別の人が同じ車を運転すれば、ウイルスは容易に次の人の手に移動します。その後、無意識に目や口を触ることで感染が成立してしまうのです。
農業現場で特に注意すべき「接触感染ホットスポット」は以下の通りです。
これらのリスクを低減するためには、以下の「接触感染対策」を徹底することが効果的です。
「外での作業だから換気は大丈夫」と油断しがちですが、道具を介した感染は静かに広がります。特に忙しい収穫期は、手洗いや消毒がおろそかになりがちです。現場の入り口や軽トラの中に消毒液を設置し、「目に見える対策」を行うことが、意外な盲点を防ぐ鍵となります。
従業員や家族が感染した場合、「いつから仕事に復帰できるのか」という判断は、現場の混乱を避けるために非常に重要です。早すぎる復帰は感染拡大のリスクを高め、遅すぎる復帰は人手不足を深刻化させます。各感染症の潜伏期間と、一般的な待機期間の目安を正しく理解し、明確な出勤ルール(就業規則)を定めておく必要があります。
各感染症の潜伏期間と感染可能期間の目安は以下の通りです。
| 感染症 | 潜伏期間(目安) | 人にうつす可能性のある期間 | 復帰の目安(学校保健安全法準拠) |
|---|---|---|---|
| インフルエンザ | 1~3日 | 発症前日~発症後3~7日 | 発症後5日を経過し、かつ解熱後2日を経過するまで |
| 新型コロナ | 2~5日 | 発症2日前~発症後7~10日 | 発症後5日を経過し、かつ症状軽快から24時間経過するまで |
| マイコプラズマ | 2~3週間 | 発症前~解熱後も長期間 | 熱が下がり、激しい咳が治まるまで(明確な基準なし) |
インフルエンザとコロナの「発症後5日」ルール
学校保健安全法では、インフルエンザと新型コロナについて「発症した後5日を経過し、かつ解熱等の症状が治まってから一定期間」を出席停止期間としています。農業法人などの事業所でも、この基準を準用するのが一般的かつ安全です。
特に注意が必要なのは「解熱後」の条件です。解熱剤を飲んで熱が下がっている状態は「解熱」とは言いません。薬を使わずに平熱に戻ってからカウントを始めるよう、従業員に周知徹底してください。
マイコプラズマの特殊性
マイコプラズマ肺炎は潜伏期間が2~3週間と非常に長く、感染源の特定が難しい感染症です。また、熱が下がっても菌の排出が続くことがあるため、明確な出勤停止期間の基準が法律で定められていません。しかし、激しい咳が続いている間は飛沫を飛ばし続けることになります。現場判断としては、「熱が下がり、咳による業務への支障がないこと」に加え、復帰後も当面の間はサージカルマスクの着用を義務付けるなどの配慮が必要です。
「隠れ感染」を防ぐ環境づくり
最も危険なのは、「休むと迷惑がかかる」「給料が減る」と考えて、体調不良を隠して出勤することです。
これらのルールを就業規則や掲示板で明文化し、「休むこと=悪」ではなく「休むこと=リスク管理」という意識を組織全体に浸透させることが、2025年の厳しい感染症シーズンを乗り切るための最大の防御策となります。
2025年のインフルエンザの新しい変異株サブクレードKの特徴(クリニックフォア)
※潜伏期間や感染力、ワクチン情報のほか、2025年に流行している特定株に関する医学的な解説が参照できます。