農業経営において最も大きな投資の一つが農業機械の導入です。新品で購入する場合、トラクターやコンバインなどの主要機械は数百万円から一千万円を超えることも珍しくありません。一方で、近年の原材料費高騰や円安の影響を受け、2025年も農業機械の価格は上昇傾向にあります 。
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しかし、単に「高い」と諦めるのは早計です。中古市場の活性化や、国や自治体による手厚い補助金制度、さらにはシェアリングサービスなど、選択肢は広がっています。本記事では、主要な農業機械の新品・中古価格の相場を一覧で紹介するとともに、維持費や意外なリセールバリューについても深掘りしていきます。
農業機械の価格を知る上で、まず押さえておきたいのが「馬力」と価格の関係です。特にトラクターにおいては、新品価格の目安として「1馬力あたり10万円〜12万円」という法則が長年使われてきました 。しかし、近年の排ガス規制対応や自動操舵などのIT機能搭載により、この目安は1馬力あたり15万円近くまで上昇しているケースも見られます。
参考)農家必見!中古農業機械の選び方と相場、注意点を紹介【売り方も…
以下に、主要な農業機械の新品および中古の価格相場をまとめました。これらはあくまで目安ですが、予算計画の大きな助けとなるはずです。
| 機械の種類 | 規格・馬力 | 新品価格相場(目安) | 中古価格相場(目安) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| トラクター | 20〜30馬力 | 200万〜350万円 | 50万〜150万円 | 小規模農家や家庭菜園向け |
| 30〜50馬力 | 350万〜600万円 | 100万〜300万円 | 水田・畑作の主力サイズ | |
| 60馬力以上 | 700万円〜 | 250万円〜 | 大規模経営向け・高機能モデル | |
| コンバイン | 2条刈り | 150万〜300万円 | 30万〜100万円 | 兼業農家向け |
| 3〜4条刈り | 400万〜800万円 | 100万〜300万円 | 一般的な水稲農家向け | |
| 5条刈り以上 | 900万円〜 | 200万円〜 | 大規模向け、キャビン付きが多い | |
| 田植機 | 4条植え | 80万〜150万円 | 10万〜50万円 | 歩行型含む |
| 6条植え | 200万〜400万円 | 50万〜150万円 | 乗用型、施肥機付きなど | |
| 野菜移植機 | 全自動(乗用) | 150万〜300万円 | 50万〜150万円 |
ブロッコリー、キャベツ等 |
| 半自動(歩行) | 40万〜80万円 | 10万〜30万円 | 小規模・多品目栽培向け |
国内シェアトップクラスのクボタは、耐久性と部品供給の安定性から中古市場でも価格が落ちにくい傾向があります 。一方、ヤンマーはデザイン性や快適な居住性(キャビン)に定評があり、若手農家からの指名買いも多いです。イセキは比較的リーズナブルな価格設定のモデルが多く、コストパフォーマンスを重視する層に支持されています。
参考)クボタのトラクターが高く売れる理由は?主要モデルの買取相場も…
参考リンク:新品・中古農機具 価格相場【中古農機具販売 UMM】(実際の取引データに基づいた詳細な価格推移が確認できます)
また、野菜作において省力化の切り札となる「野菜移植機」や「収穫機」も、近年需要が高まっています。例えば、タマネギ収穫機やネギ調整機などは、中古でも数十万円から数百万円で取引されており、新品納期が遅れている機種は中古価格が高騰することもあります 。
参考)【2025年最新】Yahoo!オークション -野菜移植機の中…
2024年から2025年にかけて、農業機械の価格は上昇トレンドが続いています。背景には、鉄鋼や樹脂などの原材料費高騰、物流コストの上昇、そして急激な円安があります 。メーカー各社は数%から10%程度の価格改定を行っており、農家にとっては厳しい状況と言えるでしょう。
参考)関税 国内農機具の影響大きい?今後の価格見通し - ノウキナ…
しかし、この負担を軽減するための国の施策も強化されています。特に注目すべきは「スマート農業」に関連する補助金です。
2025年度の予算概算要求などから、以下のような支援策が継続・強化される見込みです。
産地の収益力強化や合理化を目的とした非常に大規模な補助金です。農業用機械のリース導入や取得に対して、本体価格の1/2以内(上限あり)の支援が受けられる場合があります 。特に「食料システム構築支援タイプ」などは、環境負荷低減や生産性向上に寄与する機械導入に有利です。
自動操舵トラクターや農業用ドローン、水管理システムなどの導入に対し、国や自治体が費用の一部を助成します。補助率は1/2〜2/3、上限額は数百万〜1000万円規模になることもあり、高額なスマート農機の導入には必須の制度です 。
新たに農業を始める人(49歳以下など条件あり)に対し、機械・施設の導入費用の3/4(上限1000万円など)を補助する強力な制度です 。これは「親元就農」でも条件を満たせば使える場合があり、事業承継のタイミングで大型機械を更新するチャンスとなります。
参考)2025年主要農業補助金・助成金の概要
参考リンク:農林水産省 補助事業参加者の公募情報(最新の公募期間や要件はここでチェックしましょう)
補助金申請のポイントは「公募期間」を逃さないことです。多くの補助金は年度初め(4月〜6月頃)や、補正予算成立後の秋口に募集が集中します。常に地元のJAや普及指導センター、農機具店と情報共有しておくことが、数百万円のコスト削減につながります。
農業機械のコストを考える際、つい「購入価格」ばかりに目が行きがちですが、購入後の「維持費(ランニングコスト)」を見落としてはいけません。特に中古農機を購入した場合、突発的な修理費用が高額になるリスクがあります。
農機具店やJA農機センターに修理を依頼した場合の工賃は、1時間あたり6,600円〜8,800円程度が相場です 。部品代は別途かかります。
参考)農機センター
参考)https://www.jaise.jp/main/wp-content/uploads/2023/05/noki_price.pdf
特に「オイルシールからのオイル漏れ」や「クローラー(キャタピラ)の亀裂」は、中古車選びの際に見落とすと後で高額な出費になります。クローラーは片側だけで10万円以上することもザラにあるため、購入前の入念なチェックが必要です。
近年、北関東を中心にトラクターや高額な作業機の盗難が多発しています。被害額は数百万〜一千万円単位になることも。これに対抗するためのコストも考慮すべき時代になりました。
参考)https://www.ok-nosai.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/12/R5_nokigu_pamphlet.pdf
「鍵を付けっぱなしにしておかない」という基本はもちろんですが、保管場所のセキュリティ強化も立派な「農業経営コスト」の一部として計上する必要があります。
「機械は所有するもの」という常識も変わりつつあります。使用頻度が低い機械にお金をかけるよりも、必要な時だけ借りる「レンタル」や「シェアリング」サービスを利用する農家が増えています。
農機シェアリングサービス(例:AgriComなど)では、近隣の農家同士で機械を貸し借りしたり、レンタル業者が貸し出したりします。
参考リンク:レンタルして安く利用!農機シェアリングサービスを活用してコスト削減(シェアリングの仕組みやメリット・デメリットが詳しく解説されています)
農薬散布や生育診断に使われるドローンは、スマート農業の入り口として人気です。
ドローンはトラクターに比べて場所を取らず、軽トラで運べるため、複数の農家で共同購入してシェアするのにも向いています。初期投資は安くありませんが、防除作業の時間を1/10以下に短縮できる効果を考えれば、人件費削減としてのコストパフォーマンスは非常に高いと言えます。
最後に、独自の視点として「農業機械の資産価値(リセールバリュー)」について触れておきます。実は、日本の農業機械は「世界で最も高く売れる中古品」の一つであることをご存知でしょうか?
日本では「20年以上前のトラクター=鉄くず」と思われがちですが、買取業者の視点では「お宝」です。理由は海外輸出にあります。
ベトナム、カンボジア、ポーランドなど、農業が発展途上にある国々では、日本の農機メーカー(クボタ、ヤンマー、イセキ)の製品が絶大な信頼を得ています 。
参考)古い農機具の買取価格が高い理由とは?買取業者選びのコツも解説…
もし納屋に眠っている古いトラクターがあれば、廃車にする前に一度、輸出に強い買取業者に査定を依頼してみてください。「壊れて動かない」状態でも、部品取りや修理前提で、数万円〜数十万円の値段がつくことが珍しくありません 。農業機械は、使い終わった後も「現金化できる資産」であることを意識すると、実質的な導入コストを計算し直せるかもしれません。