田植機を選ぶ際、多くの農家の方がまず悩むのが「どの条数(じょうすう)を選ぶべきか」そして「植え付け方式はどうするか」という点です。これらは作業効率に直結するだけでなく、導入コストやランニングコストにも大きく影響します。まず条数についてですが、一般的に圃場(ほじょう)の面積が3反(約30アール)未満であれば、手軽に扱える歩行型の2条植えや4条植えで十分に対応可能です。しかし、3反を超える規模になると、乗用型の4条植え以上が推奨されます。特に大規模な経営を行う場合は、作業時間を短縮するために6条、8条、さらには10条といった大型の田植機が選択肢に入ってきます。条数が増えれば一度に植えられる苗の数が増え、作業スピードは格段に上がりますが、その分機体が大きくなり、狭い圃場での取り回しが難しくなることや、格納スペースの確保が必要になることも考慮しなければなりません。
次に重要なのが「植え付け方式」の選択です。主に「クランク式」と「ロータリー式」の2種類が存在します。
さらに、近年では「疎植(そしょく)」と「密植(みっしょく)」に対応した機種選びも重要視されています。疎植栽培は、株間を広げて植えることで、風通しを良くし、病害虫の発生を抑えるとともに、一株あたりの分けつ(茎の数が増えること)を促進させる農法です。これにより、苗箱の数を減らすことができ、資材コストや育苗にかかる労力を大幅に削減できます。最近の田植機には、この株間をダイヤル一つで調整できる機能がついているものが多く、37株、50株、60株など、地域の慣行や品種に合わせて細かく設定できるモデルが人気を集めています。
また、付加機能として「側条施肥機(そくじょうせひき)」の有無も検討材料です。田植えと同時に肥料を土中に埋め込むことができるこの機能は、追肥の手間を省き、肥料の利用効率を高めることができます。しかし、施肥機がつくと重量が増し、価格も上がります。さらに、使用後の肥料詰まりを防ぐための清掃メンテナンスが必須となるため、ご自身の作業スタイルに合わせて慎重に選ぶ必要があります。
マイナビ農業:絶対おさえておきたい基本の田植機の選び方 - 条数や方式の違いによる選び方が詳しく解説されています。
参考)絶対おさえておきたい基本の田植機の選び方|マイナビ農業
農業機械の中でも、田植機は使用期間が極端に短い機械の一つです。一年のうち、田植えシーズンの数日、長くても数週間しか稼働しません。そのため、「エンジンはまだまだ元気なのに、年式だけが古くなっていく」というケースが非常に多いのが特徴です。一般的に田植機の耐用年数は、法定耐用年数としては5年とされていますが、実際の使用現場では10年から15年以上使われることも珍しくありません。時間ベースで見ると、寿命の目安はおよそ300時間から500時間、メンテナンスが行き届いていれば1000時間を超えても現役で稼働する個体もあります。
中古市場において田植機を選ぶ際、アワーメーター(稼働時間計)の確認は必須ですが、それ以上に重要なのが「保管状況」と「消耗部品の状態」です。田植機は泥水の中で使用するため、使用後の洗浄が不十分だと、サビや腐食が急速に進行します。特に植え付け部や肥料散布機周辺は、化学肥料による腐食が起こりやすい箇所です。中古車を見る際は、以下のポイントを重点的にチェックしましょう。
中古相場に関しては、春先の需要期直前が高騰する傾向にあります。逆に、田植えが終わった直後の6月や7月、あるいはオフシーズンの冬場は、比較的安価で良質な機体が出回ることがあります。また、離農する農家から直接譲り受けるケースも増えていますが、その場合でも、メーカーの部品供給期間(生産終了後おおよそ9年〜12年)を考慮に入れることが大切です。あまりに古い機種だと、小さな部品一つが手に入らないために修理不能となるリスクがあるからです。
最近では、ネットオークションや農機具専門のマッチングサイトも充実しており、遠方の機体を購入することも容易になりました。しかし、写真だけではエンジンの調子や異音、微細なガタつきまでは判断できません。可能な限り現物確認を行うか、信頼できる整備済み保証がついている販売店から購入することを強くお勧めします。
農機具買取の専門記事:田植え機の中古相場と耐用年数についての詳細なデータが掲載されています。
参考)田植え機の中古相場を解説|メーカー別の売れ筋田植え機 - 農…
田植機を長く、トラブルなく使い続けるためには、シーズン前、使用中、そしてシーズン後のメンテナンスが欠かせません。特に重要なのは、泥や肥料を完全に洗い落とし、適切な箇所に注油(グリスアップ)を行うことです。田植機は水と泥、そして腐食性の高い肥料という、機械にとっては非常に過酷な環境で使用されます。ここでは、具体的なメンテナンス手順を解説します。
シーズン前の点検(使用する1ヶ月前推奨)
シーズン中のメンテナンス(毎日の作業後)
シーズン後の格納整備(これが最も重要)
田植えが終わったら、来年まで使わない長期保管期間に入ります。この時の手入れが寿命を決定づけます。
また、最近の機種は電子制御が進んでおり、センサーの汚れ一つでエラーが出ることがあります。光電センサーや接触センサーの受光部・可動部は、柔らかい布で丁寧に拭き上げておくことも忘れずに行いましょう。
ヤンマー:シーズン中のトラブル対応 - エンジンオイルの不具合や点検ポイントがメーカー視点で解説されています。
参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/afterservice_support/trouble/riceplanter.html
田植機は「田植えをするためだけの機械」だと思っていませんか?実は、古い田植機や使わなくなった田植機を改造し、別の用途で活用している農家さんが増えています。その代表的な例が「田植機用溝切機」への転用です。
水管理は稲作において非常に重要な作業ですが、その中でも「溝切り(中干し時期に田んぼに溝を掘り、排水を良くする作業)」は、重労働の一つです。手押し式の溝切機や乗用溝切機も市販されていますが、足場の悪いぬかるんだ田んぼの中を歩いたり、不安定な2輪の機械に乗ったりするのは体力を消耗します。そこで注目されているのが、安定感抜群の4輪駆動である田植機の車体を利用する方法です。
改造のポイント
この改造では、田植機の後部にある植え付け部(ロータリーや苗載せ台)を取り外します。そして、その代わりに自作や市販の「溝切り板」や「作溝器」を取り付けます。田植機はもともと水田の中を走行するために設計されており、ラグ付きのタイヤや高い最低地上高を持っているため、走破性は抜群です。また、油圧昇降機能がついているため、溝切りの深さを手元のレバーで調整したり、旋回時に溝切り部を持ち上げたりすることも容易にできます。
実際にこの改造を行っている農家(山形県などの事例)では、作業時間が大幅に短縮され、体への負担も激減したという報告があります。さらに、田植機特有の細いタイヤは、稲を踏み倒す面積を最小限に抑えることができるため、作物を傷めるリスクも比較的低く抑えられます。
その他のユニークな活用事例
ただし、これらの改造や転用はメーカーの保証対象外となる行為です。安全性を十分に考慮し、自己責任で行う必要があります。特に公道を走行する場合は、構造変更の申請や保安基準への適合が必要になるケースがあるため注意が必要です。それでも、高額な農業機械を単一の目的だけで終わらせず、アイデア次第でフル活用しようとする農家の知恵は、コスト削減と効率化の大きな武器となります。
マイナビ農業:田植機の再利用で農作業の時短&省力化を実現 - 実際に田植機を溝切機として活用している農家の事例記事です。
参考)田植機の再利用で、農作業の時短&省力化を実現!新発想のアイデ…
日本の農業が抱える「人手不足」や「高齢化」という課題に対し、田植機の技術革新は目覚ましいスピードで進んでいます。その最前線にあるのが、ICT(情報通信技術)やロボット技術を活用した「スマート農業」です。かつては熟練の技が必要だった「真っ直ぐ植える」という作業も、今やテクノロジーが自動で行う時代になりました。
GPS搭載田植機と直進アシスト機能
現在、各メーカーが力を入れているのが、GPS(全地球測位システム)やGNSS(全球測位衛星システム)を活用した「直進アシスト機能」です。これは、オペレーターが最初に基準となる直線を登録すれば、あとはハンドルから手を離しても、機械が自動でハンドル操作を行い、誤差数センチ以内で真っ直ぐに進んでくれる機能です。
この機能の最大のメリットは、「植え付け状況の確認に集中できること」です。従来の田植えでは、前方の目印を見ながらハンドル操作をしつつ、後ろを振り返って苗が正しく植えられているか、肥料が出ているかを確認する必要がありました。これは非常に神経を使う作業です。しかし、直進アシストがあれば、前方の操舵は機械に任せ、オペレーターは余裕を持って後方の作業機や資材の補充タイミングを確認できます。これにより、初心者でも熟練者並みの精度で植え付けが可能になり、疲労軽減にも大きく貢献しています。
無人運転・ロボット田植機の登場
さらに技術は進み、オペレーターが乗車しなくても作業を行う「無人ロボット田植機」も実用化されています。これは、圃場の外周を有人で一周してマッピングした後、内部の植え付けを完全に自動で行うものです。監視者がタブレットなどで状況を見守る必要はありますが、一人が監視している間に、もう一人が苗の供給準備をするなど、作業分担の最適化が可能になります。
農研機構などの研究機関とメーカーが共同で開発を進めており、障害物検知センサーやAIによる画像認識技術を搭載することで、安全性も年々向上しています。
可変施肥技術とセンシング
植えるだけでなく、「土を見る」技術も田植機に搭載され始めています。土壌センサーを備えた田植機は、走行しながら土壌の肥沃度(深さや電気伝導度など)をリアルタイムで計測します。そのデータに基づき、肥料の量を自動で調整(可変施肥)して植え付けを行います。
地力が高い場所では肥料を減らし、低い場所では増やすことで、圃場全体の生育ムラをなくし、米の品質(タンパク含有量など)を均一化することができます。また、無駄な肥料を使わないため、コスト削減と環境負荷の低減にもつながります。
「疎植」と「密苗」の融合
ハードウェアの進化だけでなく、栽培技術と機械の融合も進んでいます。ヤンマーの「密苗(みつなえ)」技術などは、苗箱に高密度で種をまき、田植機が高精度で少量ずつかき取って植える技術です。これにより、必要な苗箱の数を従来の約3分の1に減らすことができます。田植機側にも、精密な掻き取り制御技術が求められますが、最新の機種はこれに完全対応しています。
「省力化」「低コスト化」「高品質化」。これらを実現するために、田植機は単なる「植える機械」から、「データを活用して最適な栽培管理を行うインテリジェントなロボット」へと進化を遂げています。
農研機構:田植機と技術革新 - GPS田植機やロボット技術の歴史と最新動向について解説されています。
参考)広報誌「NARO」

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