ハモグリバエ農薬一覧と抵抗性!系統別ローテーション防除

ハモグリバエに効く農薬一覧と、薬剤抵抗性をつけさせないための系統別ローテーション、天敵利用や展着剤の裏技まで徹底解説。防除効果が落ちてきたと感じていませんか?
ハモグリバエ防除の決定版
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系統別農薬一覧

IRACコードに基づく薬剤分類で、重複散布を回避し抵抗性対策を盤石にします。

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ローテーション防除

世代を超えた薬剤耐性の発達を防ぐための、具体的な薬剤リレーの組み方を解説。

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展着剤の裏技

ただ混ぜるだけでは損。浸達性を高め、防除価を劇的に向上させる展着剤の選び方。

ハモグリバエの農薬の一覧

登録農薬の系統別一覧と選び方

 

ハモグリバエ類(マメハモグリバエ、トマトハモグリバエ、ネギハモグリバエなど)の防除において最も重要なのは、単に「効く農薬」を知ることではなく、「どの系統(作用機構)の薬剤か」を理解して選ぶことです。近年のハモグリバエは、特定の薬剤に対する感受性が低下している事例が多く報告されています。

 

ここでは、主要な登録農薬をIRACコード(作用機構分類)ごとに整理しました。これらは製品名が異なっていても、同じ系統であれば連続使用は避けるべきです。

 

IRACコード 系統名 代表的な薬剤(商品名) 特徴と効果
6 マクロライド系 アファーム乳剤 筋肉の神経伝達を阻害。即効性があり、幼虫に対して高い効果を発揮します。収穫前日まで使える作物が多く、非常に使い勝手が良い基幹剤です。
5 スピノシン系 スピノエース顆粒水和剤ディアナSC 土壌放線菌由来の成分。食毒および接触毒で作用し、優れた浸達性を持ちます。有機JAS規格でも使用可能な場合があり、天敵への影響も比較的軽微です。
28 ジアミド系 ベネビアODベリマークSCプレバソンフロアブル5 筋肉の収縮を制御するカルシウムチャネルに作用。摂食活動を速やかに停止させるため、食害痕の拡大を防ぎます。浸透移行性に優れ、定植時の灌注処理でも長期間効果が持続します。
4A ネオニコチノイド スタークル顆粒水和剤アルバリンダントツ 神経伝達を阻害。高い浸透移行性を持ち、茎葉散布だけでなく土壌処理でも効果を発揮します。ただし、一部の地域や種では抵抗性の発達が報告されているため、効果確認が必要です。
17 昆虫成長制御剤(IGR) トリガード液剤 幼虫の脱皮を阻害して殺虫します。成虫には効果が薄いですが、潜孔幼虫に対して特異的に高い効果を示します。天敵への影響が極めて少ないのが特徴です。
13 ピロール系 コテツフロアブル 呼吸代謝を阻害。ハダニ類やアザミウマ類との同時防除が期待できます。

農薬選びのポイント
まず、定植時や発生初期には、残効性が長く植物体内に成分が行き渡る「ジアミド系(ベネビア、ベリマークなど)」や「ネオニコチノイド系」を処理して初期密度を抑えるのが定石です。その後、被害が目立ち始めたら、即効性のある「マクロライド系(アファーム)」や「スピノシン系(スピノエース)」をスポット的に投入し、個体数を叩きます。

 

農薬のラベルを確認し、対象作物に登録があるかを必ず確認してください。特に「ネギハモグリバエ」は、他のハモグリバエ類と薬剤感受性が異なる場合があるため、地域指導機関の防除暦も参照することをお勧めします。

 

農薬の系統分類(IRACコード)についての詳細な解説とリストです。

 

農薬の作用機構分類(IRACコード)一覧 - 農薬工業会
トマトやナスなど、主要作物におけるハモグリバエ類の登録農薬検索システムです。

 

農薬登録情報検索システム - 農薬インデックス

抵抗性発達のメカニズムとローテーション防除

ハモグリバエ類は、「農薬に対する抵抗性(耐性)」が極めて発達しやすい害虫として知られています。現場で「今年は農薬が効かない」と感じる原因の多くは、同一系統薬剤の連用による抵抗性個体の選抜です。

 

抵抗性が発達するメカニズム

  1. 皮膚透過性の低下: 害虫の皮膚が厚く、または強固になり、薬剤が体内に浸透しにくくなる。
  2. 解毒分解能力の向上: 体内で薬剤を無毒化する酵素(シトクロムP450など)の活性が高まり、薬剤が作用点に届く前に分解されてしまう。
  3. 作用点の感受性低下: 薬剤が結合すべき神経などのターゲット部位(受容体)の構造が変化し、薬剤が結合できなくなる(鍵と鍵穴が合わなくなる状態)。

これらの能力を持った個体は、最初は集団の中にわずかしかいません。しかし、同じ系統の農薬を使い続けると、抵抗性を持たない個体だけが死滅し、抵抗性個体同士が交尾して爆発的に増殖します。これが「抵抗性の発達」です。

 

効果的なローテーション防除の組み方
抵抗性を回避する唯一の方法は、「異なる作用機構を持つ薬剤をローテーション散布すること」です。商品名を変えるだけでは意味がありません。IRACコードを見て、番号が重ならないようにスケジュールを組みます。

 

【ローテーションの具体例(トマト・ナスなどの場合)】

  • 第1手(定植時・初期): IRAC 28(ジアミド系)
    • 薬剤例:ベリマークSC、プリロッソ粒剤など
    • 狙い:残効性を活かし、初期の飛び込み成虫からの産卵・幼虫被害を予防します。
  • 第2手(発生初期): IRAC 4A(ネオニコチノイド系)
    • 薬剤例:スタークル、アルバリンなど
    • 狙い:浸透移行性により、葉の中に潜った幼虫に薬剤を届けます。ジアミド系とは作用点が全く異なるため、リレーとして最適です。
  • 第3手(被害拡大期): IRAC 6(マクロライド系)または IRAC 5(スピノシン系)
    • 薬剤例:アファーム乳剤、スピノエース顆粒水和剤
    • 狙い:即効性で幼虫を直接叩きます。ここまでの薬剤で生き残った個体を処理します。
  • 第4手(抑制期): IRAC 17(IGR剤)
    • 薬剤例:トリガード液剤
    • 狙い:成虫密度が下がってきた段階で、次世代の幼虫の発育を阻止し、サイクルを断ち切ります。

    このように、神経系(4A, 5, 6)→筋肉系(28)→成長阻害(17)といった具合に、攻める角度を毎回変えることが重要です。特に、繁殖サイクルの早いハモグリバエでは、1世代(約2〜3週間)の間に同一系統を複数回使わないことが鉄則です。

     

    薬剤抵抗性の基礎知識と、なぜローテーションが必要なのかを分かりやすく解説しています。

     

    殺虫剤抵抗性が発達するメカニズム - シンジェンタジャパン

    幼虫と成虫への効果的な散布タイミング

    ハモグリバエ防除で失敗するパターンの多くは、「白い絵描き筋(食害痕)」がたくさん見えてから慌てて散布することです。この段階では、すでに幼虫はかなり成長しているか、あるいは既に蛹(サナギ)になるために葉から脱出して土に落ちている可能性があります。蛹にはほとんどの殺虫剤が効きません。

     

    ターゲット別の狙い目とタイミング

    1. 成虫(ハエ)を狙う場合
      • タイミング: 黄色粘着板(予察灯)に成虫が捕獲され始めた直後。
      • 有効な薬剤: 有機リン系やピレスロイド系(ただし抵抗性がつきやすいため注意が必要)、ネオニコチノイド系。
      • 戦略: 産卵される前に成虫を減らすのが理想ですが、成虫は移動性が高く、畑の外から次々と飛来するため、成虫防除だけで被害をゼロにするのは困難です。あくまで密度抑制の一環と考えましょう。
    2. 幼虫(ウジ)を狙う場合
      • タイミング: 葉にわずかな食害痕(針の先で突いたような産卵痕や、1cm程度の短い絵描き筋)が見え始めた瞬間。
      • 有効な薬剤: アファーム、スピノエース、コロマイト、トリガードなど。
      • 戦略: 最も確実な防除タイミングです。幼虫は葉の組織内(葉肉)に潜っているため、薬剤が葉の内部まで浸透する「浸達性(トランスラミナー効果)」や「浸透移行性」のある薬剤を選ぶ必要があります。
      • 注意点: 接触毒主体の薬剤(ピレスロイド系の一部など)は、葉の中にいる幼虫には届きにくいため、効果が落ちます。

    朝夕の散布時間の重要性
    ハモグリバエの成虫は、気温が高くなる日中は活発に飛び回りますが、早朝や夕方は葉の上で静止していることが多いです。成虫も同時に叩きたい場合は、活動が鈍る早朝または夕方に散布することで、薬剤が虫体に直接かかる確率が高まります。また、気門封鎖剤(物理的に窒息させる薬剤)を使用する場合は、乾きにくい夕方の散布が効果的です。

     

    物理的防除との併用
    農薬の効果を最大化するためには、物理的な対策で初期密度を下げておくことが前提です。

     

    • 防虫ネット: 目合い0.4mm以下のネットでハウス開口部を覆う。0.6mmや0.8mmではハモグリバエはすり抜けてしまいます。
    • 黄色粘着テープ: 成虫は黄色に強く誘引されます。株元や成長点付近に設置することで、捕殺と同時に発生予察(モニタリング)が可能です。

    ハモグリバエの生態、ライフサイクルに基づいた防除適期についての詳細資料です。

     

    ハモグリバエ類の生態と防除 - 愛知県農業総合試験場

    天敵利用と農薬の組み合わせ

    近年、化学農薬だけに頼らない「IPM(総合的病害虫・雑草管理)」の観点から、天敵製剤の利用が進んでいます。特にハモグリバエ類に対しては、寄生蜂である「ハモグリミドリヒメコバチ(商品名:ミドリヒメなど)」や「イサエアヒメコバチ」が高い効果を発揮します。

     

    天敵製剤「ミドリヒメ」の特徴
    ミドリヒメは、ハモグリバエの幼虫を探索して寄生(産卵)したり、体液を摂取(ホストフィーディング)して殺します。

     

    • メリット: 抵抗性の問題がない。潜っている幼虫をピンポイントで攻撃できる。作業者の安全性が高い。
    • デメリット: 即効性はない。農薬の影響を受けやすい。

    天敵を殺さない農薬の選び方(サイドエフェクト)
    天敵を導入する場合、最も気をつけるべきは「既存の農薬との併用」です。ハモグリバエを殺そうとして強い農薬を撒くと、せっかく導入した天敵(コバチ)まで全滅させてしまいます。

     

    天敵利用中にハモグリバエや他の害虫(アザミウマやアブラムシ)が発生した場合、天敵への影響が少ない(やさしい)農薬を選ぶ必要があります。

     

    • 天敵に影響が少ない薬剤(併用しやすい薬剤)
      • プレオフロアブル: チョウ目などには効くが、寄生蜂への影響は比較的軽微。
      • カスケード乳剤: IGR剤。成虫や寄生蜂への直接的な毒性が低い。
      • BT剤(チューンアップなど): チョウ目幼虫に特異的に効き、ハチ類には無害。
      • 気門封鎖剤(エコピタなど): 物理的に作用するため、薬剤残留による長期的な悪影響がない。
    • 天敵に影響が大きい薬剤(使用を避けるべき薬剤)
      • 合成ピレスロイド系全般: 残効が長く、強力な接触毒で天敵を長期間排除してしまいます。
      • 有機リン系全般: 神経毒性が強く、天敵もイチコロです。
      • 一部のネオニコチノイド系: 種類によっては天敵への影響期間が長いものがあります。

      天敵を導入する際は、事前に散布した農薬の残留期間も考慮する必要があります。「天敵導入の2週間前からはピレスロイド系を使わない」といった計画的な管理が求められます。メーカーが公開している「天敵影響表(サイドエフェクト表)」を必ず参照してください。

       

      主要な農薬が天敵生物(ミドリヒメなど)に与える影響をまとめた一覧表です。

       

      天敵影響表(農薬による天敵への影響) - アリスタライフサイエンス

      散布効果を劇的に変える展着剤の活用

      検索上位の記事ではあまり触れられていない、しかし現場のプロや試験場レベルで実証されているテクニックとして、「展着剤の選び方による防除効果の底上げ」があります。特に、潜孔性害虫であるハモグリバエに対しては、薬液をいかにして「葉の中」や「虫体」に届けるかが勝負の分かれ目となります。

       

      機能性展着剤の活用
      一般的な展着剤(濡れ性を良くするだけのもの)ではなく、機能性展着剤と呼ばれる、浸達性や固着性を強化した製品を組み合わせることで、同じ農薬でも効果が劇的に変わることがあります。

       

      1. パラフィン系・脂肪酸グリセリド系展着剤の威力

        一部の試験研究において、ネギハモグリバエなどの難防除種に対し、殺虫剤(特にネオニコチノイド系やジアミド系)に脂肪酸グリセリドを含む展着剤(商品例:スカッシュなど)や、パラフィン系展着剤(商品例:アプローチBIなど)を混用した場合、単用や一般的な展着剤使用時に比べて殺虫効果(蛹化抑制効果)が有意に向上したというデータがあります。

         

        • 理由: ハモグリバエの幼虫は葉のクチクラ層の下に潜っています。パラフィン系や脂肪酸系の展着剤は、ワックス層(クチクラ)への親和性が高く、薬液を葉の組織内部へ浸透させる「浸達性」を強力にアシストします。これにより、葉の表面にかかっただけの薬剤が、内部の幼虫まで届きやすくなります。
      2. 気門封鎖剤との混用(物理的アプローチの強化)

        展着剤としての機能も持ち合わせる「気門封鎖型殺虫剤(フーモンなど)」を、化学農薬のタンクミックスとして使用する手法もあります。

         

        • 相乗効果: 化学農薬の成分による殺虫効果に加え、気門封鎖剤が虫体の表面を覆うことで呼吸を阻害し、さらに展着効果で薬剤の付着量も増えるというトリプル効果が期待できます。特に、抵抗性がついて死ににくくなった個体に対して、物理的な窒息攻撃は有効なダメ押しになります。

      注意点:薬害のリスク
      浸達性を高めるということは、植物体への負担も増えることを意味します。

       

      • 高温時の散布回避: 夏場の日中など、高温時に機能性展着剤を高濃度で使用すると、葉焼けなどの薬害が出やすくなります。
      • ブルーム(白い粉)落ち: ネギやキュウリなど、ブルーム(果粉)が商品価値に関わる作物では、強力な展着剤を使うとブルームが落ちてシミになる可能性があります。作物の種類と展着剤の相性を必ず確認してください。

      「とりあえず一番安い展着剤を入れている」という方は、一度ハモグリバエ防除のタイミングだけでも、アプローチBIやスカッシュ、まくぴかといった機能性展着剤に切り替えてみてください。隠れている幼虫への到達率が変わり、結果として散布回数を減らせる可能性があります。

       

      展着剤の種類による殺虫効果の違い(特にネギハモグリバエに対する脂肪酸グリセリドの効果)について言及している研究報告です。

       

      葉ネギのネギハモグリバエに対する殺虫剤の効果と各種展着剤を加用した際の影響 - J-STAGE

       

       


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