ハモグリバエ類(マメハモグリバエ、トマトハモグリバエ、ネギハモグリバエなど)の防除において最も重要なのは、単に「効く農薬」を知ることではなく、「どの系統(作用機構)の薬剤か」を理解して選ぶことです。近年のハモグリバエは、特定の薬剤に対する感受性が低下している事例が多く報告されています。
ここでは、主要な登録農薬をIRACコード(作用機構分類)ごとに整理しました。これらは製品名が異なっていても、同じ系統であれば連続使用は避けるべきです。
| IRACコード | 系統名 | 代表的な薬剤(商品名) | 特徴と効果 |
|---|---|---|---|
| 6 | マクロライド系 | アファーム乳剤 | 筋肉の神経伝達を阻害。即効性があり、幼虫に対して高い効果を発揮します。収穫前日まで使える作物が多く、非常に使い勝手が良い基幹剤です。 |
| 5 | スピノシン系 | スピノエース顆粒水和剤ディアナSC | 土壌放線菌由来の成分。食毒および接触毒で作用し、優れた浸達性を持ちます。有機JAS規格でも使用可能な場合があり、天敵への影響も比較的軽微です。 |
| 28 | ジアミド系 | ベネビアODベリマークSCプレバソンフロアブル5 | 筋肉の収縮を制御するカルシウムチャネルに作用。摂食活動を速やかに停止させるため、食害痕の拡大を防ぎます。浸透移行性に優れ、定植時の灌注処理でも長期間効果が持続します。 |
| 4A | ネオニコチノイド系 | スタークル顆粒水和剤アルバリンダントツ | 神経伝達を阻害。高い浸透移行性を持ち、茎葉散布だけでなく土壌処理でも効果を発揮します。ただし、一部の地域や種では抵抗性の発達が報告されているため、効果確認が必要です。 |
| 17 | 昆虫成長制御剤(IGR) | トリガード液剤 | 幼虫の脱皮を阻害して殺虫します。成虫には効果が薄いですが、潜孔幼虫に対して特異的に高い効果を示します。天敵への影響が極めて少ないのが特徴です。 |
| 13 | ピロール系 | コテツフロアブル | 呼吸代謝を阻害。ハダニ類やアザミウマ類との同時防除が期待できます。 |
農薬選びのポイント
まず、定植時や発生初期には、残効性が長く植物体内に成分が行き渡る「ジアミド系(ベネビア、ベリマークなど)」や「ネオニコチノイド系」を処理して初期密度を抑えるのが定石です。その後、被害が目立ち始めたら、即効性のある「マクロライド系(アファーム)」や「スピノシン系(スピノエース)」をスポット的に投入し、個体数を叩きます。
農薬のラベルを確認し、対象作物に登録があるかを必ず確認してください。特に「ネギハモグリバエ」は、他のハモグリバエ類と薬剤感受性が異なる場合があるため、地域指導機関の防除暦も参照することをお勧めします。
農薬の系統分類(IRACコード)についての詳細な解説とリストです。
農薬の作用機構分類(IRACコード)一覧 - 農薬工業会
トマトやナスなど、主要作物におけるハモグリバエ類の登録農薬検索システムです。
ハモグリバエ類は、「農薬に対する抵抗性(耐性)」が極めて発達しやすい害虫として知られています。現場で「今年は農薬が効かない」と感じる原因の多くは、同一系統薬剤の連用による抵抗性個体の選抜です。
抵抗性が発達するメカニズム
これらの能力を持った個体は、最初は集団の中にわずかしかいません。しかし、同じ系統の農薬を使い続けると、抵抗性を持たない個体だけが死滅し、抵抗性個体同士が交尾して爆発的に増殖します。これが「抵抗性の発達」です。
効果的なローテーション防除の組み方
抵抗性を回避する唯一の方法は、「異なる作用機構を持つ薬剤をローテーション散布すること」です。商品名を変えるだけでは意味がありません。IRACコードを見て、番号が重ならないようにスケジュールを組みます。
【ローテーションの具体例(トマト・ナスなどの場合)】
このように、神経系(4A, 5, 6)→筋肉系(28)→成長阻害(17)といった具合に、攻める角度を毎回変えることが重要です。特に、繁殖サイクルの早いハモグリバエでは、1世代(約2〜3週間)の間に同一系統を複数回使わないことが鉄則です。
薬剤抵抗性の基礎知識と、なぜローテーションが必要なのかを分かりやすく解説しています。
ハモグリバエ防除で失敗するパターンの多くは、「白い絵描き筋(食害痕)」がたくさん見えてから慌てて散布することです。この段階では、すでに幼虫はかなり成長しているか、あるいは既に蛹(サナギ)になるために葉から脱出して土に落ちている可能性があります。蛹にはほとんどの殺虫剤が効きません。
ターゲット別の狙い目とタイミング
朝夕の散布時間の重要性
ハモグリバエの成虫は、気温が高くなる日中は活発に飛び回りますが、早朝や夕方は葉の上で静止していることが多いです。成虫も同時に叩きたい場合は、活動が鈍る早朝または夕方に散布することで、薬剤が虫体に直接かかる確率が高まります。また、気門封鎖剤(物理的に窒息させる薬剤)を使用する場合は、乾きにくい夕方の散布が効果的です。
物理的防除との併用
農薬の効果を最大化するためには、物理的な対策で初期密度を下げておくことが前提です。
ハモグリバエの生態、ライフサイクルに基づいた防除適期についての詳細資料です。
近年、化学農薬だけに頼らない「IPM(総合的病害虫・雑草管理)」の観点から、天敵製剤の利用が進んでいます。特にハモグリバエ類に対しては、寄生蜂である「ハモグリミドリヒメコバチ(商品名:ミドリヒメなど)」や「イサエアヒメコバチ」が高い効果を発揮します。
天敵製剤「ミドリヒメ」の特徴
ミドリヒメは、ハモグリバエの幼虫を探索して寄生(産卵)したり、体液を摂取(ホストフィーディング)して殺します。
天敵を殺さない農薬の選び方(サイドエフェクト)
天敵を導入する場合、最も気をつけるべきは「既存の農薬との併用」です。ハモグリバエを殺そうとして強い農薬を撒くと、せっかく導入した天敵(コバチ)まで全滅させてしまいます。
天敵利用中にハモグリバエや他の害虫(アザミウマやアブラムシ)が発生した場合、天敵への影響が少ない(やさしい)農薬を選ぶ必要があります。
天敵を導入する際は、事前に散布した農薬の残留期間も考慮する必要があります。「天敵導入の2週間前からはピレスロイド系を使わない」といった計画的な管理が求められます。メーカーが公開している「天敵影響表(サイドエフェクト表)」を必ず参照してください。
主要な農薬が天敵生物(ミドリヒメなど)に与える影響をまとめた一覧表です。
天敵影響表(農薬による天敵への影響) - アリスタライフサイエンス
検索上位の記事ではあまり触れられていない、しかし現場のプロや試験場レベルで実証されているテクニックとして、「展着剤の選び方による防除効果の底上げ」があります。特に、潜孔性害虫であるハモグリバエに対しては、薬液をいかにして「葉の中」や「虫体」に届けるかが勝負の分かれ目となります。
機能性展着剤の活用
一般的な展着剤(濡れ性を良くするだけのもの)ではなく、機能性展着剤と呼ばれる、浸達性や固着性を強化した製品を組み合わせることで、同じ農薬でも効果が劇的に変わることがあります。
一部の試験研究において、ネギハモグリバエなどの難防除種に対し、殺虫剤(特にネオニコチノイド系やジアミド系)に脂肪酸グリセリドを含む展着剤(商品例:スカッシュなど)や、パラフィン系展着剤(商品例:アプローチBIなど)を混用した場合、単用や一般的な展着剤使用時に比べて殺虫効果(蛹化抑制効果)が有意に向上したというデータがあります。
展着剤としての機能も持ち合わせる「気門封鎖型殺虫剤(フーモンなど)」を、化学農薬のタンクミックスとして使用する手法もあります。
注意点:薬害のリスク
浸達性を高めるということは、植物体への負担も増えることを意味します。
「とりあえず一番安い展着剤を入れている」という方は、一度ハモグリバエ防除のタイミングだけでも、アプローチBIやスカッシュ、まくぴかといった機能性展着剤に切り替えてみてください。隠れている幼虫への到達率が変わり、結果として散布回数を減らせる可能性があります。
展着剤の種類による殺虫効果の違い(特にネギハモグリバエに対する脂肪酸グリセリドの効果)について言及している研究報告です。
葉ネギのネギハモグリバエに対する殺虫剤の効果と各種展着剤を加用した際の影響 - J-STAGE

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