農業の現場にいる皆さんであれば、作物の品質と価格のバランスを取ることの難しさは痛いほど理解されていることでしょう。しかし、そのバランスを大きく逸脱し、消費者を欺くような製品が「植物油」の市場、特にオリーブオイル業界には蔓延しています。一般的に健康に良いとされるオリーブオイルですが、日本国内で流通している「エキストラバージンオリーブオイル」と謳われる商品のうち、実に8割以上が国際基準を満たしていない「偽物」である可能性が指摘されています。
参考)【教養としてのオリーブオイル学】日本のオリーブオイルは偽物?…
この「偽物」が作られる手口は非常に巧妙で、単なる品質の劣るオリーブを混ぜるだけにとどまりません。さらに悪質なケースでは、大豆油やキャノーラ油、ひまわり油といった安価な他の植物油をベースにし、そこに少量のオリーブオイルを混ぜて香り付けをしたり、着色料やクロロフィル(葉緑素)を添加して緑色に見せかけたりする手法が横行しています。
参考)正しくないオリーブオイル|Exodus from Ennui
なぜこのようなことが許されているのでしょうか?それは、日本におけるオリーブオイルの法的規格が、国際オリーブ協会(IOC)の定める厳格な基準(酸度0.8%以下など)よりも緩い「日本農林規格(JAS)」に基づいているためです。JAS規格では「酸度2.0%以下」であれば「オリーブ油」として販売できてしまうため、世界基準では欠陥品とされるレベルのオイルでも、日本では堂々と「高級オリーブオイル」として棚に並ぶことになるのです。農家として、手塩にかけて育てた作物が安価な輸入品や偽装品に価格競争で負ける悔しさは想像に難くありませんが、油の世界でも同様に、本物を作ろうとする生産者が不当な競争を強いられている現実があります。
参考)本物のオリーブオイルとは?種類や選び方を徹底解説
消費者として、そして食のプロである農業従事者として、まず疑うべきは「安すぎる価格」です。オリーブの栽培から搾油までのコストを考えれば、数リットル数百円で販売される「エキストラバージン」が存在し得ないことは、生産現場を知る皆さんなら直感的に理解できるはずです。
オリーブオイルの国際規格と日本の現状について解説されています
本物のオリーブオイルとは?種類や選び方を徹底解説
「植物油」の中でも特にオリーブオイルにおいて、致命的な欠陥となり得るのが「酸化」です。皆さんも農薬や肥料の保管には気を使われると思いますが、オリーブオイルの保管、特に光の管理は品質を左右する最重要項目です。ここで皮肉な役割を果たすのが、オリーブオイルの健康成分の象徴でもある「クロロフィル(葉緑素)」です。
クロロフィルは抗酸化作用を持つ一方で、光に当たると「光増感剤」として働き、活性酸素を発生させてオイルの酸化を猛烈なスピードで加速させてしまいます。つまり、透明なボトルに入った鮮やかな緑色のオリーブオイルは、店舗の蛍光灯にさらされている間にも刻一刻と劣化し、過酸化脂質へと変質している可能性が高いのです。酸化した油は、風味を損なうだけでなく、体内で炎症を引き起こす原因となり、動脈硬化などの健康リスクを高める「危険」な物質へと変わります。
参考)https://pantry-lucky.net/blogs/column/organicoliveoil
本物のオリーブオイルを選ぶ際は、必ず「遮光」された容器に入っているものを選んでください。おしゃれに見える透明な瓶や、プラスチック容器に入った安価な製品は、製造から消費者の手に渡るまでの流通・保管過程で、すでに品質が著しく低下しているリスクがあります。農作物を収穫後の管理が重要であるのと同様に、オイルも搾油後の「光の遮断」が命です。
酸化を防ぐための容器選びと保存方法について詳しく書かれています
本物のオーガニックオリーブオイルを選ぶ5つのポイント
農業に携わる皆さんにとって「農薬」は身近な存在であり、その使用基準や安全管理の厳しさは日常的に実感されていることでしょう。日本の残留農薬基準は世界的にも厳しいレベルにありますが、輸入される「植物油」に関しては、少し事情が異なります。特に海外から輸入されるオリーブオイルやその原料となるオリーブには、輸送中のカビや腐敗を防ぐために収穫後に散布される「ポストハーベスト農薬」が使用されている可能性があります。
参考)植物油の道|一般社団法人 日本植物油協会
安価なオリーブオイルの中には、大量生産のために化学肥料と農薬を多用して栽培されたオリーブが使われているケースが少なくありません。さらに、効率的に油を搾るために、病気にかかった実や地面に落ちた実まで一緒に搾油機に投入されることもあります。こうした質の悪い原料から作られたオイルには、精製過程を経てもなお微量の化学物質が残留するリスクがゼロとは言いきれません。
我々農家が自分の家族に食べさせたいと思う野菜を作るように、オリーブオイルも「誰が、どこで、どのように作ったか」が明確なものを選ぶべきです。ラベルに「有機栽培」や「オーガニック」の認証マークがあるかは、農薬リスクを避けるための最低限のフィルターとなります。特に、植物油全般に対する懸念として、遺伝子組み換え作物を原料とした油(大豆油やコーン油など)のリスクも叫ばれる中、オリーブは比較的遺伝子組み換えのリスクが低い作物ですが、それでも栽培過程での農薬使用には注意が必要です。
参考)本物のオリーブオイルの選び方|偽物を見抜く方法を解説
オーガニック認証の重要性と農薬リスクについて解説があります
本物のオリーブオイルの選び方|偽物を見抜く方法を解説
ここからは、一般の消費者がほとんど知らない、しかし加工現場を知る農家なら背筋が凍るような「植物油」の製造プロセスの闇に迫ります。オリーブオイルには大きく分けて、物理的に圧力をかけて搾る「コールドプレス(低温圧搾)」と、化学的な溶剤を使用して油を溶かし出す「溶剤抽出法」の2種類が存在します。
激安で販売されているオリーブオイルや、「ポマースオリーブオイル」と呼ばれる種類の油は、一度搾ったオリーブの絞りカス(ポマース)に、「ヘキサン」という石油由来の溶剤を投入して作られます。ヘキサンはガソリンやベンジンの主成分でもあり、油を強力に溶かし出す性質があります。この方法を使えば、絞りカスに残ったわずかな油まで根こそぎ抽出できるため、生産効率は劇的に向上します。
理論上は、抽出後の加熱処理でヘキサンは揮発して製品には残留しないとされています。しかし、その高温処理の過程でオイルは酸化し、有毒な「トランス脂肪酸」が生成されるリスクが高まります。さらに、溶剤を使用して無理やり抽出された油には、オリーブ本来の風味も栄養もほとんど残っていないため、後から化学的に味付けや脱臭が行われるのが通例です。これを「精製オリーブオイル」として販売することは法的に認められていますが、それはもはや自然の恵みであるオリーブジュースとは別物の、工業製品に近い液体です。
参考)【医者が教える】ヤバい脂肪ワースト2は「植物油」、ではワース…
農家として「素材の味」を大切にするならば、この溶剤抽出によって作られた油は避けるべき筆頭です。ラベルに「ポマース」や「精製」の文字がある場合、あるいは製法が明記されていない安価な油は、このヘキサン抽出のリスクを孕んでいます。
ポマースオイルの製造工程とヘキサンの使用について詳細な記述があります
ポマスオイルの搾油(サクユ)に使う溶剤とは?
最後に、多くの人が見落としがちな「容器」のリスクについて、独自の視点から警鐘を鳴らしたいと思います。植物油、特にオリーブオイルの容器としてプラスチックボトルが使われているのをよく見かけますが、ここには「フタル酸エステル」などの化学物質が溶け出す危険性が潜んでいます。
プラスチックを柔らかくするために使われる可塑剤(フタル酸エステル類)は、油に溶けやすい(親油性)という性質を持っています。つまり、プラスチック容器に入った植物油は、流通や保管の過程で容器由来の化学物質によって汚染されている可能性があるのです。これらは「内分泌攪乱物質(環境ホルモン)」として知られ、生殖機能への影響やアレルギーの発症に関与する可能性が研究で示唆されています。
参考)知らずに使ってない? タッパーから溶け出す物質と安全な選び方…
農業資材でもプラスチック製品は多用されますが、口に入る「油」の保管においては、プラスチックは避けるのが賢明です。特に、高温になる厨房や直射日光の当たる場所にプラスチック容器の油を置くことは、溶出を加速させる行為です。本物のオリーブオイルが高価な遮光ガラス瓶に入っているのは、単なる高級感の演出ではなく、酸化を防ぎ、かつ容器からの化学物質汚染を防ぐという、品質保持のための必然的な選択なのです。
食品容器から溶け出す化学物質のリスクについて解説されています
知らずに使ってない? タッパーから溶け出す物質と安全な選び方

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