トランス脂肪酸食品一覧とマーガリンの危険性や含有量

健康への影響が懸念されるトランス脂肪酸。具体的にどの食品にどれくらい含まれているのか気になりませんか?農産加工品の開発にも役立つ、食品一覧や正しい知識を解説します。

トランス脂肪酸の食品一覧

記事の要約
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加工油脂に注意

マーガリンやショートニングを使用する菓子・パン類には、工業的なトランス脂肪酸が含まれやすい傾向にあります。

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天然由来の違い

反芻動物(牛や羊)の肉や乳に含まれる天然のトランス脂肪酸は、工業的なものとは健康への影響が異なるとされています。

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摂取量の目安

WHOは総エネルギー摂取量の1%未満を目標としていますが、日本人の平均摂取量は基準値を下回っています。

農業従事者や食品加工に携わる皆様にとって、自社製品の安全性や品質を説明するうえで「トランス脂肪酸」に関する正しい知識は欠かせません。消費者の健康志向が高まる中、どの食品にどれくらいのトランス脂肪酸が含まれているのか、その実態を正確に把握しておくことは、農産加工品の差別化やリスク管理において非常に重要です。ここでは、市販されている主な食品のトランス脂肪酸含有量について、具体的なデータとともに詳しく解説していきます。

 

トランス脂肪酸は、大きく分けて「天然由来」と「工業由来」の2種類が存在します。消費者が特に懸念しているのは、植物油を加工する過程で生成される工業的なトランス脂肪酸です。これは、液体の植物油に水素を添加して固形化する際や、高温で脱臭処理を行う際に発生します。安価で保存性が高く、サクサクとした食感を出せることから、長年にわたり多くの加工食品に使用されてきました。

 

農林水産省や食品安全委員会の調査データをもとに、トランス脂肪酸が多く含まれる傾向にある食品カテゴリーを見ていきましょう。含有量は製品によって大きく異なりますが、一般的に油脂の配合率が高い食品ほど注意が必要です。

 

  • マーガリン・ファットスプレッド:パンに塗るスプレッドとしてだけでなく、製菓・製パンの材料としても広く使われています。かつては非常に高い含有量の製品もありましたが、近年はメーカーの低減努力により大幅に減少しています。
  • ショートニング:サクサクした食感を出すために、クッキーやビスケット、スナック菓子などに多用されています。無味無臭で扱いやすいため、業務用の揚げ油としても利用されます。
  • 洋菓子類(ケーキ、ドーナツ、パイ):バターの代用としてマーガリンやショートニングを使用する場合が多く、特にパイやクロワッサンのように層を作る生地では油脂の使用量が増えるため、含有量も高くなりがちです。
  • スナック菓子・ポップコーン:特に電子レンジで作るタイプのポップコーンや、植物油脂で揚げたスナック菓子には、トランス脂肪酸が含まれている可能性があります。
  • インスタント食品・ルウ:カレールウやインスタント麺の揚げ油にも、加工油脂が使われていることがあります。

これらの食品は、私たちの食生活に深く浸透しています。しかし、重要なのは「食品名」だけで判断するのではなく、実際の「含有量」や「使用されている油脂の種類」を確認することです。最近では、パッケージに「トランス脂肪酸フリー」や「トランス脂肪酸0g」と表示する商品も増えてきましたが、これはあくまで一定の基準(食品100gあたり0.3g未満など)を下回っていることを意味する場合があり、完全にゼロではないこともあります。

 

すぐにわかるトランス脂肪酸 - 農林水産省
トランス脂肪酸の基礎知識から、食品中の含有量、日本人の摂取状況まで、公的機関による信頼性の高い情報が網羅されています。

 

農業生産者の皆様が6次産業化などで加工品を開発する際は、原材料としての油脂選びが極めて重要になります。安価だからといって未対策の油脂を使用すると、健康意識の高い消費者から敬遠されるリスクがあります。一方で、バターやなたね油、オリーブオイルなど、トランス脂肪酸の少ない油脂をあえて選択し、それを「強み」としてアピールすることは、商品の付加価値を高める有効な戦略となります。

 

身近な食品のトランス脂肪酸含有量ランキング

 

消費者が日常的に口にする食品の中で、実際どの製品にどれくらいのトランス脂肪酸が含まれているのでしょうか。内閣府食品安全委員会や農林水産省の調査結果などをもとに、含有量が多い傾向にある食品をランキング形式で確認してみましょう。ただし、これらはあくまで過去の調査データや一般的な傾向であり、現在は各メーカーの技術革新によって数値が大幅に改善されている製品も多数存在します。

 

一般的に、トランス脂肪酸の含有量が高いとされるのは、以下の順位の傾向が見られます。

 

  1. ショートニング(製菓・製パン用油脂)

    もっとも注意が必要なのがショートニングです。100gあたり10g以上のトランス脂肪酸を含む製品もかつてはありましたが、現在は低減化が進んでいます。それでも、植物油を水素添加して固めるという製法上、他の食品に比べて含有量が高くなりやすい食品です。農家の方が加工品を作る際、サクサク感を出すために安易に安価な業務用ショートニングを使う際は、成分規格書を確認することをお勧めします。

     

  2. マーガリン・ファットスプレッド

    家庭用・業務用ともに、トランス脂肪酸の代表格として挙げられます。しかし、近年の日本の主要メーカーの家庭用マーガリンは、トランス脂肪酸の含有量がバターよりも少ない製品(100gあたり1g未満など)が多くなっています。「マーガリン=悪」という古いイメージだけで判断せず、最新の製品情報をチェックすることが重要です。

     

  3. マイクロ波用ポップコーン

    意外と知られていないのがポップコーンです。特に海外製の電子レンジ調理用ポップコーンには、味付けと加熱用油脂としてトランス脂肪酸を多く含む油脂が使われているケースがあります。100gあたり数グラム含まれている場合もあり、一度に食べる量が多いため注意が必要です。

     

  4. ビスケット・クッキー・パイ

    これらの焼き菓子は、油脂の含有率そのものが高いため、結果としてトランス脂肪酸の摂取量も増えがちです。特に、日持ちをさせるために酸化に強い硬化油(水素添加油)を使っている製品では数値が高くなります。

     

  5. 植物油脂クリーミングパウダー

    コーヒーに入れるポーションミルクや粉末状のクリーミングパウダーも、主原料は植物油脂です。製品によってはトランス脂肪酸が含まれています。

     

順位目安 食品カテゴリー 特徴と注意点
1位 ショートニング 製菓・製パン・揚げ油として使用。製品による差が大きい。
2位 ポップコーン 特に海外製やレンジ調理用に注意。
3位 マーガリン類 昔に比べ大幅に低減されているが、製品選びは慎重に。
4位 菓子パイ・デニッシュ 層を作るために固形油脂を多用するため含有量が高め。
5位 植物性油脂 揚げ物用油や業務用の調合油など。

食品に含まれるトランス脂肪酸の評価書 - 食品安全委員会
日本国内で流通している食品のトランス脂肪酸含有量に関する詳細な調査データや、リスク評価の結果がまとめられています。

 

このランキングを見て、「すべての加工食品が危険だ」と悲観する必要はありません。日本の食品業界は世界でもトップクラスの技術でトランス脂肪酸の低減に取り組んでいます。農業従事者として自社製品を開発する際は、こうした「隠れた油脂」の存在を意識し、代替可能な良質な油脂(例えば、地元産の米油やなたね油など)を使用することで、競合製品との差別化を図ることができます。「当園のクッキーはショートニング不使用、自家製バター100%です」といった表示は、強力なセールスポイントになるでしょう。

 

マーガリンやショートニングの危険性と健康への影響

なぜこれほどまでにトランス脂肪酸、特にマーガリンやショートニングに含まれるものが問題視されるのでしょうか。その最大の理由は、心臓疾患(冠動脈性心疾患)のリスクを高めることが科学的に明らかになっているからです。

 

トランス脂肪酸を過剰に摂取すると、血液中の「LDLコレステロール(悪玉コレステロール)」を増加させ、同時に「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」を減少させることが分かっています。この「悪玉を増やし、善玉を減らす」というダブルパンチの影響は、飽和脂肪酸(動物性脂肪など)よりも血管への悪影響が大きいとされています。

 

  • 動脈硬化の促進:LDLコレステロールが血管壁に蓄積し、動脈硬化を進行させます。これにより、狭心症や心筋梗塞などのリスクが高まります。
  • 炎症反応の誘発:体内で炎症マーカーの数値を上昇させ、血管の健康を損なう可能性が指摘されています。
  • その他の疾患リスク:一部の研究では、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、不妊症などとの関連も示唆されていますが、これらについてはまだ確定的な証拠は十分ではありません。

WHO(世界保健機関)は、生活習慣病を防ぐため、トランス脂肪酸の摂取量を「総エネルギー摂取量の1%未満」に抑えるよう勧告しています。これは、平均的な成人(約2000kcal/日)の場合、1日あたり約2g未満に相当します。

 

ここで重要なのは、「絶対量」の議論です。欧米諸国では、かつてトランス脂肪酸の摂取量が平均で数グラムから10グラム近くに達していた国もあり、深刻な健康問題となっていました。そのため、アメリカでは2018年以降、トランス脂肪酸の主たる供給源である「部分水素添加油脂」の食品への使用が原則禁止されました。

 

一方、日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は、総エネルギーの約0.3%程度と推計されており、WHOの目標値である1%を大きく下回っています。つまり、一般的な日本人の食生活においては、トランス脂肪酸による健康リスクは欧米ほど高くはないというのが、食品安全委員会や農林水産省の見解です。

 

しかし、「平均」はあくまで「平均」です。菓子パンやファストフード、スナック菓子を毎日のように大量に食べる生活をしていれば、日本に住んでいてもWHOの基準を超えてしまう可能性は十分にあります。特に、食の欧米化が進む若い世代や、偏った食事をしている層では注意が必要です。

 

農業生産者の皆様にとっては、自らが生産する野菜や果物、米といった素材そのものはトランス脂肪酸を含まない「ヘルシーな食材」であることを再認識する良い機会でもあります。加工品を作る際も、マーガリンやショートニングを使わずに、素材の味を活かす製法を採用することは、消費者の健康を守るだけでなく、国産農産物のブランド価値を守ることにも繋がります。例えば、シフォンケーキを作る際にサラダ油(植物油脂)を使うのが一般的ですが、これを圧搾搾りの菜種油に変えるなど、油脂の質にこだわる姿勢が評価される時代です。

 

WHOの摂取量基準と日本の表示

世界的な「トランス脂肪酸排除」の動きの中で、日本の表示規制はどうなっているのでしょうか。実は、日本にはトランス脂肪酸の含有量を表示する法的な「義務」はありません。これは、先述の通り日本人の平均摂取量が少ないことから、直ちに国民の健康に重大な影響を及ぼすレベルではないと判断されているためです。

 

しかし、義務がないからといって、企業が何もしていないわけではありません。消費者の関心の高まりを受け、大手食品メーカーやコンビニエンスストア、ファストフードチェーンなどは、自主的にトランス脂肪酸の低減に取り組み、その含有量をウェブサイトやパッケージで公開するケースが増えています。

 

世界の規制状況:

  • アメリカ:2018年6月以降、部分水素添加油脂の食品への添加を原則禁止(一部例外あり)。
  • EU:2021年より、最終製品中のトランス脂肪酸濃度を脂肪100gあたり2g以下に制限。
  • 台湾・韓国・香港など:栄養成分表示におけるトランス脂肪酸の表示を義務化。
  • シンガポール・タイ:部分水素添加油脂の輸入・製造・販売を禁止。

このように、世界では規制強化が進んでいますが、日本では「表示は事業者の自主性に任せる」というスタンスです。この違いは、食文化や摂取実態の違いによるものです。しかし、インバウンド需要や食品の輸出を考える農業従事者にとっては、海外の厳しい基準を意識せざるを得ない場面も出てくるでしょう。自社の農産加工品を海外へ輸出する場合、相手国の規制に適合しているかを厳密にチェックする必要があります。

 

日本の表示ガイドライン:
消費者庁は「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を公表しており、表示する場合は以下のようなルールが推奨されています。

 

  1. 100gあたりの含有量を表示する
  2. 飽和脂肪酸やコレステロールの量も併せて表示する(トランス脂肪酸だけを減らして、代わりに飽和脂肪酸が増えては意味がないため)。
  3. 「0g」と表示できる基準:食品100gあたりトランス脂肪酸が0.3g未満(油脂類の場合は0.3g未満)であれば、「0g」や「フリー」と強調表示することが認められています。

トランス脂肪酸の情報開示に関する指針 - 消費者庁
食品事業者がトランス脂肪酸の含有量を表示する際のガイドラインや、分析方法について詳しく解説されています。

 

農家の皆様が直売所などで販売する手作り加工品においても、原材料ラベルには細心の注意が必要です。もし加工にマーガリンやショートニングを使用している場合は、原材料名欄に「マーガリン」「ショートニング」と明記する必要があります。最近の消費者は原材料表示をよく見ています。「植物油脂」と書かれていても、それが水素添加されたものなのか、圧搾されただけのものなのかを気にする人が増えています。可能であれば、「北海道産バター使用」「圧搾一番搾り菜種油使用」など、具体的な油脂名をアピールすることで、トランス脂肪酸への不安を払拭し、安心感を提供することができます。

 

バターなど反芻動物の天然トランス脂肪酸

ここまでの話は、主に「人工的(工業的)に作られたトランス脂肪酸」に関するものでした。しかし、実は自然界にもトランス脂肪酸は存在します。それが、牛や羊、ヤギなどの「反芻(はんすう)動物」の肉や乳に含まれる天然のトランス脂肪酸です。

 

畜産農家や酪農家の皆様にとっては、ここが最も重要なポイントであり、かつ一般消費者にはあまり知られていない「意外な真実」でもあります。

 

反芻動物は、胃の中にいる微生物の働きによって牧草などの繊維を分解しますが、この発酵プロセスの中で、不飽和脂肪酸の一部がトランス化(構造変化)します。その結果、牛肉や牛乳、バター、チーズといった乳製品には、天然のトランス脂肪酸が微量に含まれることになります。具体的には、全脂肪酸の数%程度(バターで約2%前後)が含まれています。

 

では、この「天然のトランス脂肪酸」も、人工のものと同様に健康に悪いのでしょうか?
近年の研究では、「天然由来のトランス脂肪酸は、工業由来のものとは健康への影響が異なる可能性がある」という報告がなされています。工業的なトランス脂肪酸の主成分が「エライジン酸」であるのに対し、反芻動物由来のものは主に「バクセン酸」という種類です。このバクセン酸は、体内で「共役リノール酸(CLA)」という物質に変換されることが分かっています。共役リノール酸には、抗がん作用や抗肥満作用、動脈硬化の抑制など、むしろ健康に良い効果が期待できるという研究結果も動物実験レベルでは報告されています。

 

もちろん、天然だからといって無制限に摂取して良いわけではありません。バターや牛肉にはトランス脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸も多く含まれているため、食べ過ぎれば脂質異常症のリスクになります。しかし、WHOなどの国際機関の評価でも、「天然由来のトランス脂肪酸が、工業由来のものと同様に心疾患リスクを高めるかどうかについては、証拠が不十分である」とされています。実際、多くの疫学調査において、乳製品の摂取が心疾患リスクを上げるとは断定されておらず、むしろ適度な摂取は有益であるというデータもあります。

 

この事実は、畜産物を生産・販売する際の強力なメッセージになります。「バターにはトランス脂肪酸が含まれているから危険」という誤解に対し、自信を持って反論できる知識です。「牛が草を食み、胃の中で微生物が働くという自然の営みの中で生まれる成分であり、人工的な油とは別物である」と説明できれば、消費者の安心感は大きく変わります。

 

さらに、飼料の工夫によって脂肪酸組成をコントロールする試みも行われています。放牧主体で青草を多く食べた牛のミルクは、穀物肥育の牛に比べて、共役リノール酸やオメガ3脂肪酸などの良質な脂質が多く含まれる傾向があります。こうした「脂質の質」にこだわった生産を行うことで、単なる「牛乳」「牛肉」ではなく、「健康に寄与するプレミアムな畜産物」としてブランディングすることが可能です。

 

農業・畜産業の現場では、単に「トランス脂肪酸=悪」という単純な図式ではなく、その由来や種類、そして食品全体の栄養バランスを見極める視点を持つことが大切です。正しい知識武装をして、消費者に自信を持って自慢の農畜産物を届けていきましょう。

 

 


身近な食品テスト: 理科の自由研究