ふすま1kg施用で窒素25g相当が土壌に残ります
土壌還元消毒は、土着の土壌微生物の力を利用して土壌を消毒する、化学合成農薬を使わない環境にやさしい技術です。ふすまや米ぬかなどの有機物を土壌にすき込み、大量の水を施用してビニール被覆すると土壌微生物が急激に増加します。微生物の酸素消費によって土壌が還元状態(酸欠状態)になり、青枯病菌や褐色根腐病菌、センチュウ類などの病害虫を死滅させることができます。
ふすまは小麦の外皮部分で、易分解性の有機物として土壌還元消毒に広く利用されています。微生物が分解しやすい性質を持っているため、土壌中の酸素を素早く消費し、効率的な還元状態を作り出すことができます。
つまり消毒の引き金となる資材です。
また、この消毒効果には有機物から生成される有機酸や、土壌中の金属イオンによる抗菌作用も関係していると言われています。還元状態になると特有のドブ臭が発生し、これが還元化が進んでいる証拠となります。
化学薬剤を使わないため、作業者への身体的な影響や周辺環境への薬剤飛散のリスクがありません。
資材費も比較的安価で済みます。
土壌還元消毒では、一般的に10aあたり1トンのふすままたは米ぬかを土壌に混和します。これを1㎡に換算すると約1kgの施用量になります。
施用方法の手順は次のとおりです。まず、圃場にふすまを均一に散布し、耕耘機でよく混和します。混和の深さは通常の耕起と同じ程度で問題ありません。次に、灌水チューブを約40cm間隔で設置し、透明ポリエチレンフィルムで土壌表面を被覆します。被覆の際は隙間ができないよう注意が必要です。
その後、設置した灌水チューブから1㎡あたり100L程度の水を施用します。大量の水を入れることで土壌を湛水状態にし、微生物の活動を活性化させます。この湛水が還元状態を作り出す重要な要素です。
ふすまと米ぬかは同等の土壌還元効果を持っていますが、ふすまの方が入手しやすい地域も多いようです。
散布と混和が容易な点も選ばれる理由です。
施用量を守ることが大切です。
土壌還元消毒で高い消毒効果を得るためには、地温管理が最も重要なポイントになります。平均地温30℃以上を保つことが必須条件で、消毒期間は最低3週間必要です。地温が低いと微生物の活動が鈍くなり、還元化が不十分になって消毒効果が得られません。
特に消毒開始直後の3日間に良好な天候が続くことが重要です。この期間に地温が十分に上がらないと、その後の消毒効果に大きく影響します。処理開始日は天気予報を確認し、晴天日が4日以上連続する日を狙って開始するのが理想的です。
天候不順で地温の上昇が十分でない場合は、消毒期間を延長する必要があります。地温が低い状態で期間だけ守っても効果は期待できません。処理期間中は定期的に地温を測定し、30℃以上が維持できているか確認しましょう。
土壌還元消毒は比較的温度が低くても防除効果が期待される方法ですが、それでも30℃という基準温度は守る必要があります。太陽熱消毒よりも低い地温で効果を示すというのが特徴です。
夏期の気温が高い時期を選ぶのが基本です。
地温管理に自信がない場合は、デジタル温度計を土壌に設置して継続的にモニタリングする方法があります。土壌の深さ10~20cm程度の位置で測定するのが一般的です。
ふすまは単に土壌還元消毒の資材として考えてしまいがちですが、実はかなりの窒素を土壌に施用したことになります。ふすまを土壌に1㎡あたり1kg施用すると窒素で1㎡あたり25g程度となり、単純に化学肥料として換算するとキャベツやハクサイ1作分の施肥をすることになってしまいます。この事実を知らずに通常通りの基肥を施すと、窒素過多による生育障害や品質低下を招く可能性があります。
神奈川県の試験結果では、土壌還元消毒後は被覆をはがした直後の土壌の無機態窒素が非常に高くなり、地力窒素も増加することが確認されています。コマツナとホウレンソウを栽培した結果、総収量と窒素吸収量は土壌還元消毒後の方が高くなりました。
しかし、作物の窒素吸収量の増加は土壌の無機態窒素の増加ほど大きくなく、ふすまからの窒素がかなり無駄になっていることも分かっています。
それでも余剰窒素は残ります。
土壌還元消毒後は、作付け前に必ず土壌診断を行って施肥量を調整することが重要です。土壌のアンモニア態窒素を含めた残存無機態窒素含量を考慮して施肥を行うことにより減肥が可能になります。少なくとも数割の基肥窒素の減肥が望ましいとされています。
窒素過多を避けるためには事前の計画が必須です。
ふすま1トンあたり約24kg程度の窒素成分が含まれているという点を覚えておきましょう。この情報をもとに、消毒後の作物に合わせた施肥設計を行うことで、コスト削減と適切な栄養管理の両立が可能になります。
神奈川県農業技術センター「土壌還元消毒後の施肥を考えていくために」では、ふすまの窒素供給量と施肥調整の具体的なデータが公開されています。
ふすまを用いた土壌還元消毒には重要な限界があります。米ぬかやふすまによる土壌還元消毒は、資材が作土層までしか届かないため、それよりも深い層に分布する病原菌やセンチュウに対する殺菌・殺虫効果が不十分です。
トマトやナスなどの青枯病菌は土壌深層まで分布しているため、ふすまを用いた土壌還元消毒では深層までの消毒効果が不十分であり、青枯病菌を完全に死滅させることは難しいことが分かっています。青枯病菌は地中35cm程度に高密度で生息するため、表層中心の消毒では対応できません。
この課題への対策として、深層部まで浸透する液体資材の利用が有効です。糖蜜や低濃度エタノールを使う方法があります。糖蜜は水に溶かして施用することで深層部まで到達し、還元消毒を行うことができます。低濃度エタノール(成分65%)を300~1,000L/10a施用する方法も開発されています。
また、近年注目されているのが糖含有珪藻土を用いた新規土壌還元消毒法です。青枯病の汚染圃場で糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒を行ったところ、地下60cm程度まで還元されて深層部の青枯病菌も消毒されたという報告があります。
深層病害が問題になっている圃場では、ふすま単独での消毒は避けるべきです。
通常の2倍量のふすまを深さ40cmまで混和する方法も報告されていますが、作業負担とコストが増加します。圃場の病害履歴を確認し、深層病害のリスクがある場合は最初から深層対応可能な方法を選択することが経済的です。
ふすまや米ぬかなどの有機物を使って土壌消毒を行う方法は、分解工程でメタンガスが発生し、これが悪臭の原因となります。水を張って空気と触れないドブ状態となっているところで特有のドブ臭が発生し、これが還元化が進んでいる証拠となります。
この臭いは近隣住民とのトラブルの原因になることがあるため、事前に近隣の民家へ了解を得るなどの配慮が必要です。住宅地や人口密集地では避けたほうが良いでしょう。処理を行う際は風向きも考慮し、住宅地側から風が吹く日を避けるなどの工夫が求められます。
臭いを減らす方法として、水を張って空気と触れないドブ状態となっているところに空気を入れることによりニオイは少なくなります。ただし、消毒期間中は被覆を維持する必要があるため、消毒終了後の処理として有効です。被覆をはがす際は、風の弱い日を選び、段階的に開放することで急激な臭気の拡散を防げます。
ハウス内で処理を行う場合は3~4週間密閉する必要があり、その間は強いドブ臭が発生し続けます。
換気のタイミングも重要です。
窒素分をほとんど含まない低濃度エタノールを使った土壌還元消毒では、消毒時のにおい(どぶ臭)が少ないという利点があります。臭気が問題になりそうな立地では、こうした代替資材の検討も選択肢になります。
消毒後は圃場の換気を十分に行い、臭気が完全に抜けてから作業を再開しましょう。
土壌還元消毒が終了したら、適切な土壌管理と作付け準備が必要になります。3~4週間後、被覆フィルムをはがし、ハウスの側面を開けて換気を行います。還元状態の土壌は酸素が不足しているため、十分な酸化(エアレーション)が必要です。
耕起を行って土壌に空気を入れ、還元状態から通常の酸化状態に戻します。この作業を怠ると作物の根が正常に発達しません。2~3回の耕起を行い、土壌全体に酸素を行き渡らせることが推奨されます。
化学肥料、緩効性肥料及び有機質肥料は、土壌還元消毒前に入れると、かん水や還元化によって成分が下層へ流亡、または肥効が落ちる可能性があるため、消毒後の耕起・畝立て時に施用します。前述したように、消毒後は土壌診断を行い、残存窒素を考慮した施肥設計が不可欠です。
土壌還元消毒直後の無機態窒素を効率よく利用する方法として、窒素要求量の高い作物を最初に栽培する計画も有効です。葉菜類などは余剰窒素を吸収しやすく、次作以降の窒素バランスを整えるのに役立ちます。
消毒効果の確認も大切です。
土壌還元消毒の効果は目に見えにくいため、可能であれば土壌の病原菌密度を検査機関で測定してもらうことも検討しましょう。効果が不十分だった場合は、次回の消毒条件を見直す材料になります。地温の記録や天候のメモを残しておくと、次回の改善に活かせます。
埼玉県「土壌還元消毒作業マニュアル」には、消毒後の土壌管理と作付け準備の詳細な手順が記載されており、実践の参考になります。