「小麦は体に悪い」という説の主な根拠として、タンパク質の一種である「グルテン」が挙げられます。しかし、グルテンがすべての人にとって有害というわけではありません。問題となるのは、特定の疾患や体質を持つ人々です。グルテンが関連する代表的な症状には、以下の3つがあります。
このように、グルテンが悪影響を及ぼすのは、主にこれらの疾患を持つ人々です。健康な人が無理にグルテンフリーの食生活を送る必要はなく、むしろ栄養バランスが偏る可能性も指摘されています 。ジョコビッチ選手がグルテンフリーでパフォーマンスを向上させた話は有名ですが、彼はセリアック病を患っていたため、グルテンを断つことが体質改善に繋がったのです 。「グルテンが体に悪い」という思い込みによるプラセボ効果(思い込みが良い影響を与えること)やノセボ効果(思い込みが悪い影響を与えること)も、体調の変化に関係している可能性があります 。
グルテン関連疾患の詳細については、以下の農林水産省の解説ページも参考になります。
グルテン関連の疾患とグルテンフリー - 農林水産省
「現代の小麦は品種改良でグルテンが増え、体に悪くなった」「輸入小麦は収穫後に散布される農薬(ポストハーベスト)が危険だ」といった不安の声を耳にすることがあります。これらの真相はどうなのでしょうか。
小麦の品種改良は、病気に強く、収穫量が多い品種を生み出すために、古くから行われてきました。現代の小麦が特別に危険になったという科学的根拠は明確には示されていません。品種改良の目的は、より安定的に食料を供給することにあり、必ずしも人体への有害性を高めるものではありません。近年では、特定の小麦アレルギーの原因となるタンパク質を含まない小麦の開発も進められています 。
ポストハーベスト農薬は、収穫した後の農産物に、輸送・保管中のカビや害虫の発生を防ぐ目的で使用されます 。日本では、食品衛生法により、ポストハーベスト農薬の使用は食品添加物として扱われ、その使用基準や残留基準が厳しく定められています。国産小麦ではポストハーベストは禁止されています 。
輸入小麦については、確かにポストハーベスト農薬が使用されている場合がありますが、日本国内の基準値を超える農産物が市場に出回ることはありません。基準値は、生涯にわたって毎日摂取し続けても健康に影響がないとされる量に基づいて設定されています。したがって、通常の食生活で摂取するレベルであれば、過度に心配する必要はないと言えるでしょう。
ただし、農薬に対して不安を感じる方は、ポストハーベストが禁止されている国産小麦を選ぶという選択肢もあります。日本の食料自給率は低いですが、安全な食料を供給するための様々な取り組みが行われています。
農薬の基準に関する詳しい情報は、農林水産省のウェブサイトで確認できます。
消費者の部屋/農薬Q&A - 農林水産省
「小麦粉は精製されていて栄養が少ない」というイメージを持つ人もいるかもしれません。確かに、私たちが普段よく目にする白い小麦粉(強力粉、薄力粉など)は、小麦の表皮(ふすま)や胚芽を取り除いて製粉したものです。この過程で、食物繊維やビタミン、ミネラルの一部が失われてしまいます 。
一方で、小麦を丸ごと粉にした「全粒粉」は、栄養価の高さが魅力です。一般的な小麦粉と比較すると、以下のような特徴があります。
| 栄養素 | 一般的な小麦粉(薄力粉) | 全粒粉 | 比較 |
|---|---|---|---|
| 食物繊維 | 2.5g | 11.2g | 約4.5倍 |
| 鉄 | 0.6mg | 3.1mg | 約5.2倍 |
| ビタミンB1 | 0.09mg | 0.34mg | 約3.8倍 |
| 糖質 | 約69g | 約57g | 全粒粉の方が低い |
※100gあたりの比較(参考値)
このように、全粒粉は食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富です。食物繊維は腸内環境を整え、便通を改善する効果が期待できます。パンやパスタを選ぶ際に、全粒粉を使った製品を選ぶのも健康的な選択肢の一つです。
近年、健康志向の高まりから「古代小麦」と呼ばれる品種にも注目が集まっています。その代表格が「スペルト小麦」です。スペルト小麦は、現在の一般的な小麦の原種にあたる品種で、約9000年前から栽培されていたと言われています。品種改良の影響をほとんど受けていないのが特徴です。
スペルト小麦は、一般的な小麦と比較して、タンパク質、ビタミン、ミネラルが豊富で、特に亜鉛や鉄分、マグネシウムの含有量が多いことが知られています 。また、グルテンの質が異なり、水に溶けやすい性質を持つため、一般的な小麦よりも消化しやすいと感じる人もいるようです。ただし、グルテンは含んでいるため、セリアック病や小麦アレルギーの人が食べられるわけではありません。
小麦が体に悪いと言われる理由として、「血糖値を急上昇させる」「麻薬のような中毒性がある」「リーキーガット症候群を引き起こす」といった説が挙げられます。これらの関係性について、科学的な視点から見ていきましょう。
パンや麺類などの精製された小麦製品は、消化吸収が速く、食後の血糖値を急上昇させやすい傾向があります 。これは「血糖値スパイク」と呼ばれ、繰り返されると血管にダメージを与えたり、インスリンの過剰分泌によって脂肪を溜め込みやすくなったりする可能性があります 。しかし、これは小麦に限った話ではなく、白米や砂糖など、他の精製された炭水化物にも共通して言えることです。全粒粉を使ったパンやパスタ、あるいは野菜やタンパク質と一緒に食べる「食べ順」を工夫することで、血糖値の上昇を緩やかにすることができます。
「小麦には麻薬のような中毒性がある」という説があります。これは、小麦のグルテンが消化される過程で生まれる「エクソルフィン」という物質が、脳内で麻薬に似た働きをするためだと言われています 。これにより、もっと食べたいという欲求が引き起こされる可能性があるとされています。しかし、この中毒性がどの程度の影響を及ぼすかについては、まだ科学的に完全に解明されているわけではなく、さらなる研究が必要です。
リーキーガット症候群とは、腸の粘膜に穴が開き、未消化物や毒素、細菌などが血中に漏れ出してしまう状態を指します。「腸漏れ」とも呼ばれます。小麦に含まれるグルテンが、腸の細胞同士の結合を緩める「ゾヌリン」というタンパク質の分泌を促し、リーキーガットを引き起こす一因になる可能性があると言われています 。しかし、リーキーガットの原因は小麦だけでなく、過度なアルコール摂取、ストレス、食品添加物、抗生物質の長期使用など、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています 。
「小麦は体に悪い」という議論の際、見落とされがちなのが、小麦そのものではなく、「小麦製品」に含まれる他の成分の影響です。私たちが日常的に口にするパンや菓子、麺類には、小麦粉以外にも多くのものが加えられています。
このように、「小麦を食べると体調が悪い」と感じる場合、その原因は純粋な小麦ではなく、一緒に摂取している糖質、脂質、添加物、塩分にあるのかもしれません。「グルテンフリー」を試して体調が良くなったと感じる人の中には、結果的に菓子パンや加工食品を避けることになり、食生活全体が改善されたというケースも少なくないでしょう。「小麦」という単一の食材を悪者にするのではなく、どのような「小麦製品」を、どのように食べるかが重要だと言えます。

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