ナス半身萎凋病は、発生初期に「下葉の葉脈に囲まれた部分に不鮮明な淡黄色の退色斑が出て萎れる」ところから始まり、萎れが葉や茎の片側から全体へ広がって最終的に枯死することがあります。
典型的には「半身」という名の通り、株の片側だけ黄化・萎れが目立つことが多く、現場ではこの左右差が最初の重要サインになります。
見分けの決め手の一つが、発病葉の葉柄や茎の維管束(導管部)の褐変です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10148937/
株を抜いて茎を縦に割ったとき、地際から上にかけて導管が褐色に筋状に変わっていれば疑いが強まります。
ただし注意点として、導管の褐変は半身萎凋病だけの専売特許ではありません。半身萎凋病は土壌伝染性で、施設でも露地でも起こり、湿潤条件や日照不足で助長され、発病適温が22~28℃前後とされます。
「いつ、どんな環境で増えたか」を症状とセットで見ると、誤判定が減ります。
ここで「治る?」の話に直結する大事な考え方があります。半身萎凋病は土壌中に残る菌核が次作の伝染源になり得るため、株が一度維管束レベルで侵されると、同じ株を“完治”させるよりも、圃場全体の菌密度を下げる方向が現実的になります。
ナス半身萎凋病は、土壌伝染性の病害で、被害残渣上に多数の微少な菌核が形成され、それが土壌に残って次作の伝染源になる、と説明されています。
この「菌核が残る」という性質が、発生圃場で再発を繰り返しやすい理由です。
発病の出やすさは環境に左右され、気温22~28℃前後が発病適温、低温期や真夏の高温期には一時病勢が衰えることがある、とされています。
また、土壌が湿潤状態で発病しやすく、日照不足が発病を助長する点は、梅雨~初夏の管理で特に意識したいところです。
さらに厄介なのが多犯性です。ナス以外にもトマト、イチゴ、ハクサイ、ダイコン、キクなど多くの作物に寄生し得るとされ、単純に「ナスを休ませたから安心」とは言いにくいです。
輪作を組むときは「寄主になり得る作物を避ける」発想が必要になります。
現場でよくある落とし穴は、連作を避けるつもりでトマトやイチゴなどを入れてしまい、結果として菌を温存するパターンです。
“何を作らないか”まで含めて作付けを組むと、翌年の発病率が変わります。
今作で発病株が出たとき、最優先は「圃場内で増やさない」ことです。発病株は直ちに抜き取る、と明記されています。
抜き取り後に圃場内へ放置しないことも重要で、罹病葉を圃場に放置しないで処分することが効果安定化の要因の一つとして挙げられています。
「治る」を現場語に置き換えると、完全回復ではなく“病勢を鈍らせて収穫を続け、次作で被害を減らす”が現実ラインになりやすいです。
そのための管理は、派手な特効薬よりも、衛生と環境の積み重ねになります。
具体的には次の視点で点検してください。
✅ 圃場の過湿:半身萎凋病は湿潤状態で発病しやすいので、排水不良・潅水過多・畝の低さを見直します。
✅ 日照不足:日照不足が発病を助長するとされるため、混み合い・下葉の過繁茂・ハウス内の曇り要因を減らします。
✅ 病勢の波:低温期や真夏の高温期に一時的に病勢が衰えることがあるため、「一時回復」に見えても油断せず、圃場の菌密度を下げる打ち手を同時進行します。
なお、防除としては土壌消毒や土壌灌注(例:ベンレート)などが整理されていますが、農薬は登録や地域の防除暦に従う前提で、ラベル確認が必須です。
「薬剤を打てば治る」という発想より、「土壌中の伝染源を減らす手段の一つ」として位置付けると判断がブレにくくなります。
参考リンク(症状・発生条件・防除・薬剤の要点がまとまっており、現場の判断材料になります)
みんなの防除:ナス半身萎凋病(被害・発生・防除・薬剤)
次作へつなぐ“効きの大きい領域”が土壌消毒です。発病圃場では、7~8月に湛水処理する、またはハウス密閉による太陽熱消毒等を行う、という整理があります。
土壌に菌核が残って次作の伝染源になるため、土壌側に手を入れるほど再発率が下がりやすい構造です。
太陽熱消毒は、夏の高温を使って土壌環境を病原菌に不利に寄せる考え方で、ハウスなら「密閉」が鍵になります。
湛水処理は、同じく夏期に行う選択肢として明記されており、圃場条件(用水確保、排水、ハウスか露地か)に応じて現実的な方を選びます。
ここで、意外と見落とされやすい実務ポイントがあります。土壌消毒は「やった/やらない」よりも、“やるタイミングを逃さない”ほうが難所です。
発生を確認してから慌てて準備すると、適期(7~8月の高温期)を外しやすいので、発病が出た年は早めに資材・被覆・日程を押さえるのが安全策になります。
土壌消毒としては複数の資材名も列挙されていますが、登録や作型で使えるものが変わるため、地域の指導とラベル確認が前提です。
「治る」に最も近い手応えを出しやすいのが、抵抗性台木の活用です。発病が予想される場合は抵抗性台木に接ぎ木する、とされています。
さらに研究成果として、半身萎凋病抵抗性台木の高接ぎ木および多段接ぎ木ナスと併用すると安定した効果が得られた、と報告されています。
もう一つ、検索上位でもまだ“やっている人が限られる”実務寄りの打ち手がブロッコリー輪作です。ナスの前作にブロッコリーを作付け(栽培・収穫後・残さすきこみ)することで、ナス半身萎凋病を抑制する管理技術が開発されたとされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10497615/
その要因として、ブロッコリー栽培中に病原菌密度が低下することが明らかにされ、ブロッコリーが病原菌をトラップする「おとり作物」として働く可能性も示唆されています。
さらに重要なのは「効く条件」が整理されている点です。前作のナスの発病株割合がおよそ30%以下での適用、抵抗性台木の使用、罹病葉を圃場に放置しないで処分することが、抑制効果の安定化要因として挙げられています。
つまり、激発圃場で輪作だけに賭けるより、「台木+衛生+輪作」をセットにした方が成功確率が上がる設計です。
加えて、ブロッコリー輪作を継続することで発病が漸減していく事例も確認されたとされ、単年で評価せず複数年で効かせる発想が合います。
この“漸減”という時間軸は、土壌病害の現場感覚とも一致しやすく、短期で焦って対策を変えすぎないことが結果的に近道になります。
参考リンク(ブロッコリー輪作・多段接ぎ木など、現場導入まで含めた研究背景と「効く条件」が読めます)
農研機構関連:革新的接ぎ木法と輪作によるナス半身萎凋病対策