ダゾメット剤で土壌消毒!水分と温度管理で失敗しないガス抜き術

ダゾメット剤を使った土壌消毒の成功には水分とガス抜きが命!効果を最大化する混和のコツから、薬害を防ぐ発芽テストの手順、処理後の菌バランス回復まで徹底解説します。あなたの畑、ガス抜け切っていますか?
ダゾメット剤で土壌消毒!水分と温度管理で失敗しないガス抜き術
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水分の重要性

薬剤がガス化するには適度な土壌水分が必須。乾燥は大敵!

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丁寧な混和

深さ15~25cmまで均一に混ぜ込むことで、効果ムラを防ぎます。

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発芽テスト

ガス抜き確認は「臭い」だけでなく、レタスの種で確実な判定を。

ダゾメット剤の土壌消毒

土壌病害やセンチュウ、さらには雑草の抑制にも効果を発揮するダゾメット剤(バスアミド、ガスタードなど)は、多くの農業従事者にとって頼れる土壌消毒剤です。しかし、その効果を十分に引き出し、かつ作物の薬害(生育不良や枯死)を防ぐためには、単に「撒いて混ぜる」だけではない、科学的なメカニズムの理解と緻密な管理が求められます。特に「ガス化」と「ガス抜き」のプロセスは、成功と失敗を分ける最大の分水嶺です。本記事では、ダゾメット剤のポテンシャルを最大化し、安全に作付けを行うためのプロフェッショナルな技術を深掘りします。

 

参考)https://www.greenjapan.co.jp/syuka_dojo.htm

参考:臭化メチル代替技術としてのダゾメット剤の位置づけ(グリーンジャパン)

効果の仕組みと対象病害虫

 

ダゾメット剤がなぜ強力な土壌消毒効果を持つのか、そのメカニズムを正確に理解しているでしょうか。ダゾメット自体は微粒剤であり、そのままでは殺菌効果を持ちません。土壌に混和され、土壌中の水分と反応して加水分解することで、初めて有効成分であるMITC(メチルイソチオシアネート)ガスを発生させます。このMITCガスが土壌の空隙を拡散し、病原菌の細胞やセンチュウ、雑草種子の呼吸酵素系を阻害することで死滅させるのです。

 

参考)https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/wp-content/uploads/2023/03/Q_BASAMID_MG.pdf

  • 主な対象病害虫:
    • 土壌病害: トマトやナスの青枯病、フザリウム萎凋病)、バーティシリウム(半身萎凋病)、白絹病、苗立枯病など、多岐にわたる糸状菌・細菌性病害に効果があります。

      参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11682314/

    • センチュウ: ネコブセンチュウやシストセンチュウなど、根に寄生して養分を奪う害虫の密度を劇的に低下させます。​
    • 雑草種子: 一年生雑草の種子に対しても高い殺草効果を持ち、作付け初期の除草労力を大幅に削減できるのが大きなメリットです。

    特筆すべきは、クロルピクリン剤などと比較して刺激臭が少なく扱いやすい点です。粉立ちが少ない微粒剤であるため、防除衣や専用マスクは必須ですが、近隣への臭気漏れリスクは相対的に低く、住宅地に近い圃場でも採用しやすいという特徴があります。ただし、「臭いが少ない=安全」ではないため、ガスそのものの毒性は強く認識しておく必要があります。

     

    参考)手軽にできる土壌消毒のやり方

    参考:バスアミド微粒剤の詳しい適用病害虫と特徴(アグロカネショウ)

    水分と混和深度の重要ポイント

    「ダゾメット剤を撒いたけれど効果がいまいちだった」という失敗事例の多くは、土壌水分不足混和の不均一に起因します。前述の通り、ダゾメットは水と反応してガス化するため、土壌が乾燥していると分解が進まず、ガスが発生しないまま薬剤が残留してしまいます。

     

    • 水分の目安:
      • 処理時の土壌水分は「適湿」よりもやや多めが推奨されます。手で土を握って団子ができ、指で押すと崩れる程度の水分量が理想ですが、乾燥している場合は事前の散水、あるいは混和直後の散水が必須です。

        参考)https://www.zennoh.or.jp/cb/producer/einou/base/pdf/22-2009.pdf

      • 特にハウス栽培などで長期間雨が入っていない土壌は乾燥しきっていることが多いため、事前に十分な灌水を行い、土壌全体を湿らせておく「前処理」が成功の鍵を握ります。
    • 温度管理:
      • 地温も分解速度に大きく影響します。地温が15℃以上あることが望ましく、25℃以上であれば急速に分解が進みます。

        参考)https://www.zennoh.or.jp/cb/producer/einou/base/pdf/22-2009_r3.pdf

      • 逆に10℃以下の低温期に使用すると、分解が極端に遅れ、いつまでもガスが発生し続ける「ダラダラ分解」の状態になりやすく、春先の定植時にガスが抜けきらずに薬害を起こすリスクが跳ね上がります。低温期に使用せざるを得ない場合は、被覆期間を通常より長く(30日以上など)取る計画が必要です。

        参考)https://www.zennoh.or.jp/ib/contents/make/einou/2757.pdf

    • 混和のテクニック:
      • 薬剤を散布した後は、速やかにロータリーなどで土壌と混和します。目標とする混和深度は通常15~25cmですが、ヤマノイモなど深根性の作物の場合は50~60cmの深層混和が必要になることもあります。

        参考)ガスタード微粒剤│園芸/土壌消毒剤│農薬製品│クミアイ化学工…

      • トラクターの速度は普段よりも落とし、ロータリーの回転を上げることで、土の粒子と薬剤を徹底的に混ぜ合わせます。ここでの「ムラ」は、消毒されない「逃げ場」を病原菌に与えることになり、再発の原因となります。
      • 混和後は直ちにビニールやポリマルチで被覆し、発生したガスを逃さないように「蒸し込み」を行います。被覆が遅れるとガスが大気中に散散してしまい、効果が半減します。

        参考)https://www.otentosan.com/goods/image/nouyaku_sakkin/basamid.pdf

      参考:日本曹達によるQ&A(温度と分解日数の相関グラフあり)

      ガス抜きの具体的な手順と期間

      ダゾメット剤による消毒工程の中で、最も神経を使うべきフェーズがガス抜きです。土壌中に充満したMITCガスは、病害虫にとっては毒ですが、これから植える作物にとっても猛毒です。ガスが完全に抜けていない状態で定植や播種を行うと、根が焼けて活着不良を起こしたり、最悪の場合は全滅したりする深刻な薬害が発生します。

       

      参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/hukyu/h_zirei/brand/attach/pdf/201023_5-16.pdf

      • 標準的なスケジュール:
        1. 被覆期間: 薬剤混和・被覆後、地温20℃前後なら7~14日間放置します。低温時はさらに長く置きます。​
        2. 被覆除去: ビニールを剥がします。この時点ではまだ土壌中にガスが残っています。
        3. 耕起(ガス抜き作業): 被覆除去直後から、ロータリーを入れて耕起します。これを2~3日おきに最低2回以上行います。土を反転させて空気に触れさせることで、土壌粒子に吸着したガスを大気中へ放出させます。

          参考)https://www.city.kanoya.lg.jp/documents/1581/dojousyoudokutebiki_r1.pdf

      • 注意点:
        • ガス抜き期間中に大雨が降って土が過湿状態になると、ガスの抜けが悪くなります。水が蓋をしてしまう状態になるため、その場合は耕起回数を増やしたり、期間を延長したりする判断が必要です。​
        • ハウス内でのガス抜き時は、サイドや天窓を全開にして換気を良くしてください。人間にとっても高濃度のMITCガスは有害であり、目の痛みや喉の刺激を引き起こす可能性があります。

        参考:鹿屋市の土壌消毒手引き(ガス抜き手順の図解)

        発芽テストで薬害を完全回避する

        「なんとなく期間が過ぎたから」「臭いを嗅いでもしなかったから」という感覚での判断は非常に危険です。人間の嗅覚は環境に慣れやすく、また低濃度のガスは無臭に感じても植物には致命的である場合があります。プロの農業現場で必ず実施すべきなのが、簡易的な発芽テスト(生物検定)です。

         

        参考)2000年10月号『一般』収穫後の土壌消毒剤|農薬通信200…

        • 簡易発芽テストの手順:
          1. 土の採取: 消毒した圃場の数カ所(特にガスの抜けにくいハウスの隅や支柱際など)から、深さ15cm程度の土(作土層)を採取します。比較用に、未処理の土(庭の土など)も用意します。
          2. 密閉容器へ: 採取した土をジャムの瓶やタッパーなどの密閉できる透明容器に入れます。土は適度な湿り気を持たせてください。
          3. 播種: 発芽の早いレタスやダイコン(カイワレ大根の種でも可)の種を、湿らせた脱脂綿やガーゼの上に置き、それを土の上に置くか、直接土に蒔きます。​
          4. 観察: 蓋をして暖かい室内に置き、2~3日待ちます。
          5. 判定:
            • 安全: 未処理の土と同じように正常に発芽し、根が伸びていればガス抜き完了です。
            • 危険: 発芽しなかったり、発芽しても根の先が茶色く変色(褐変)していたり、双葉が縮れていたりする場合は、まだガスが残っています。

              参考)https://www.pref.tokushima.lg.jp/file/attachment/432458.pdf

        このテストで異常が見られた場合は、絶対に定植してはいけません。再度耕起を行い、数日後に再テストをして安全を確認してください。この数日間の手間を惜しむことで、作付全滅のリスクを回避できるのですから、コストパフォーマンスは絶大です。

         

        参考:収穫後の土壌消毒剤と発芽テストの詳細手順

        菌のバランスを整える処理後の裏技

        土壌消毒は、病原菌だけでなく、作物の生育を助ける有用な微生物(放線菌やトリコデルマ菌など)まで一掃してしまいます。消毒直後の土壌は、いわば「微生物の空白地帯(真空地帯)」です。この状態で万が一、外部から病原菌が侵入すると、競合する相手がいないため爆発的に増殖してしまう「リバウンド現象」が起こりやすくなります。

         

        参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8197695/

        そこで、検索上位の情報にはあまり載っていない、一歩進んだプロのテクニックとして推奨したいのが、ガス抜き完了直後の「有用微生物資材」の投入です。