土耕栽培のいちごのメリットとデメリット!味と費用を比較

いちご栽培を検討中の方へ。土耕栽培は本当に味が良いのか?高設栽培との違いや、導入にかかる費用、管理の難しさをプロ目線で解説します。あなたに最適な栽培方法はどちらでしょうか?

土耕栽培のいちご

記事の要約:土耕栽培の真価とは
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圧倒的な味の深み

根域制限がなく、複雑な土壌養分を吸収できるため、コクと香りが強い高品質ないちごが育ちます。

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初期費用の低さ

高設栽培のようなベンチや給液システムへの巨額投資が不要で、新規就農のハードルが下がります。

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微生物との共生

最新の農業技術では、根圏微生物をコントロールすることで病気を防ぎ、収量を安定させる手法が確立されています。

土耕栽培のいちごの高設栽培との費用の違いとメリット

 

いちご栽培を始める際に、最も大きな選択となるのが「土耕栽培」か「高設栽培(養液栽培)」かという点です。近年では作業性の良さから高設栽培が増加していますが、あえて土耕栽培を選ぶプロ農家も少なくありません。その最大の理由は、「初期導入費用の圧倒的な違い」「経営の安定性」にあります。

 

土耕栽培は、文字通り地面の土を使って栽培を行うため、高設ベンチや複雑な養液供給システム(ドリップチューブや制御盤など)への設備投資が不要です。一般的に、高設栽培のシステム導入には10アールあたり数百万円から一千万円近いコストがかかると言われていますが、土耕栽培であれば、トラクターやマルチ張り機などの基本的な農業機械があればスタートできます。

 

また、ランニングコストの面でも大きな違いがあります。高設栽培では、培地ロックウールピートモスなど)の定期的な交換や、廃棄処理費用が発生しますが、土耕栽培ではその土地にある土壌資源を永続的に活用できます。

 

  • 初期投資コスト: 土耕栽培は高設栽培の約1/3〜1/5程度で済むケースが多い。
  • 資材コスト: 培地交換や専用肥料が不要で、地域の有機質肥料を活用可能。
  • 温度変化への耐性: 地面は熱容量が大きいため、冬場の根圏温度が急激に低下しにくく、暖房コストの削減にも寄与する(地熱の利用)。

農研機構:いちご栽培の省エネルギー化技術(クラウン部局所加温などの技術情報)
上記のリンク先では、いちご栽培における温度管理技術や省エネ対策について詳しく解説されており、土耕栽培における地温管理のヒントが得られます。

 

以下の表は、土耕栽培と高設栽培の一般的な比較です。

 

項目 土耕栽培 高設栽培
初期費用 低い(土地と基本農機具のみ) 高い(ベンチ、給液システム必須)
作業負担 重い(腰を曲げた作業が多い) 軽い(立ったまま作業可能)
味・品質 濃厚・コクが出やすい 安定・均一だが淡白になりがち
土壌病害 リスクが高い(土壌消毒が必須) リスクが低い(培地が新しい場合)
保肥力 高い(土の緩衝能がある) 低い(肥料切れを起こしやすい)

土耕栽培の最大の「デメリット」とされる作業負担(腰痛など)については、近年では畝(うね)を高くする「高畝(たかうね)栽培」や、収穫台車の改良によって改善が進んでいます。それでもなお土耕を選ぶのは、次に解説する「味」という絶対的なメリットがあるからです。

 

土耕栽培のいちごの味がおいしい理由と根の張り方

「土耕のいちごは味が濃い」という話は、単なる経験則ではなく、植物生理学的な裏付けがあります。いちごの食味、特に「甘み(糖度)」と「コク(有機酸やアミノ酸)」のバランスは、根がどのような環境で養分を吸収しているかに大きく左右されます。

 

土耕栽培のいちごがおいしくなる主な理由は、以下の3点に集約されます。

 

  1. 根域(こんいき)の制限がない

    高設栽培のポットやプランターとは異なり、土耕栽培では根が地下深くまで自由に伸びることができます。いちごの根は直根的に深く伸びる性質があり、深い土壌層にあるミネラルや微量要素を吸い上げることができます。これにより、果実に複雑な味わいが生まれます。

     

  2. 適度な水分ストレス(水ストレス)

    いちごの糖度を高めるには、収穫期に適度な「水切り(水分制限)」を行うことが有効です。高設栽培の培地は保水性が低く、水を切るとすぐに萎れてしまうリスクがありますが、土耕栽培の土壌(特に団粒構造が発達した土)は保水力があり、「根が水を吸おうとしても吸いにくい」という絶妙なストレス状態(pF値の調整)を長く維持できます。このストレスにより、植物体内の浸透圧調整機能が働き、果実に糖分が転流・蓄積されます。

     

  3. 緩衝能(バッファー機能)によるアミノ酸吸収

    化学肥料(硝酸態窒素)中心の養液栽培とは異なり、土耕栽培では有機質肥料が微生物によって分解され、アミノ酸やペプチドとして根から直接吸収されるプロセスが働きます。アミノ酸態での吸収は、植物体内で糖を消費してタンパク質を再合成するエネルギーを節約できるため、余剰エネルギーが果実の甘みとして蓄積されやすくなります。

     

JAグループ:いちごの品種特性と栽培技術(各地域のJA技術情報を参照)
上記のリンク先はJAグループの公式サイトです。地域ごとのいちごの品種特性や、土耕栽培における味へのこだわりに関する生産者の取り組み事例などを探すのに役立ちます。

 

美味しいいちごを作るための根の状態は、引き抜いた時に「真っ白な細根がびっしりと張っている」ことが理想です。土耕栽培では、定植後の水管理(活着促進)と、その後の「根締め(水を控えて根を下へ伸ばす工程)」を丁寧に行うことで、最高品質のいちごを作り出す土台が完成します。

 

土耕栽培のいちごの土作りと肥料の管理方法

土耕栽培の成否の8割は「土作り」で決まると言っても過言ではありません。いちごは非常に肥料濃度に敏感な作物であり、多すぎる肥料は「チップバーン(葉先枯れ)」や「乱形果」の原因となり、少なすぎれば「株疲れ」を引き起こします。プロが行う土作りの手順は、定植の数ヶ月前から始まります。

 

プロの土作りの工程には、一般家庭菜園ではあまり行われない厳密な設計が含まれます。

 

  • 土壌診断(pHとECの測定):

    必ず土壌分析を行います。いちごの適正pHは5.5〜6.5(弱酸性)です。日本の土壌は酸性になりがちなので、苦土石灰などで調整しますが、pHが高すぎると微量要素(マンガンや鉄)の欠乏症が出るため、入れすぎは厳禁です。また、EC(電気伝導度)は残留肥料の目安となります。前作の肥料が残っている場合(ECが高い場合)は、元肥(もとごえ)を減らす調整が必要です。

     

  • 物理性の改善(団粒構造化):

    いちごの根は酸素を好みます。通気性と排水性を高めるため、完熟堆肥(牛糞やバーク堆肥)を10アールあたり2〜3トン投入します。ここで重要なのは「未熟な有機物を使わない」ことです。未熟な有機物は土の中で発酵してガスを出し、根を痛める原因になります。また、籾殻(もみがら)や炭などを混ぜ込み、物理的な隙間を作ることも有効です。

     

  • 肥料設計(C/N比の考慮):

    肥料は、窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)のバランスだけでなく、炭素率(C/N比)を意識します。

     

    • 元肥: 緩効性の有機肥料を中心に設計します。リン酸を多めに施用し、花芽分化と実付きを良くします。
    • 追肥 収穫期間が長い(12月〜5月)ため、一度に効かせるのではなく、液肥を使ってこまめに栄養を補給します。

    栃木県農業試験場 いちご研究所:いちご栽培マニュアル
    いちご生産量日本一を誇る栃木県の研究所サイトです。品種ごとの施肥基準や、土作りに関する詳細なデータが公開されており、非常に権威性の高い情報源です。

     

    特に「リン酸」の効かせ方がポイントです。日本の土壌(黒ボク土など)はリン酸を吸着して効かなくしてしまう「リン酸固定」が起きやすいため、「溶リン」や「グアノ」などのく溶性リン酸を元肥に使い、根酸(こんさん)によってゆっくり溶かしながら吸収させるテクニックが、食味向上に寄与します。

     

    土耕栽培のいちごの連作障害と病気の対策

    土耕栽培における最大のリスク、それは「連作障害」です。いちごはバラ科の植物であり、同じ場所で作り続けると特定の病原菌が増殖し、土壌中の養分バランスが崩れ、生育不良や枯死を引き起こします。特に恐ろしいのが、「萎黄病(いおうびょう)」や「炭疽病(たんそびょう)」、「疫病」といった土壌伝染性の病気です。

     

    これらの病気は一度発生すると、土壌中に病原菌が数年から10年以上も残留するため、翌年の栽培が壊滅的になることもあります。そのため、土耕栽培では以下の対策が必須となります。

     

    • 太陽熱土壌消毒(最も環境負荷が低い):

      夏場(7月〜8月)の最も暑い時期を利用します。

       

      1. 大量の有機物(米ぬかやカットわら)と石灰窒素を土に混ぜ込む。
      2. たっぷりと水を撒き、土壌水分を高める(熱伝導率を上げるため)。
      3. 透明のビニールマルチで地面を完全に被覆し、ハウスを密閉する。
      4. 地温が50℃〜60℃になる状態を2週間以上維持する。

        これにより、病原菌やセンチュウを死滅させると同時に、雑草の種子も焼くことができます。

         

    • 土壌還元消毒法:

      太陽熱消毒と似ていますが、ふすまや米ぬかなどの有機物を大量に入れ、水を張って酸欠状態(還元状態)にします。ドブ臭い匂いがしますが、この環境下で活動する微生物が病原菌を死滅させます。

       

    • 輪作(りんさく)の活用:

      いちごのオフシーズンに、イネ科の作物(ソルゴーやトウモロコシ)を栽培し、それを緑肥としてすき込む方法です。イネ科植物は根圏微生物のバランスを改善し(クリーニングクロップ)、土壌の物理性を回復させる効果があります。

       

    農林水産省:病害虫防除に関する情報
    農林水産省が提供する、最新の農薬登録情報や病害虫の発生予察情報です。使用可能な薬剤が変更されることもあるため、必ず最新情報を確認するために利用してください。

     

    化学農薬(クロルピクリンなど)による土壌くん蒸も効果的で即効性がありますが、近年では環境配慮の観点から、太陽熱や還元消毒といった物理的・生物的防除へのシフトが進んでいます。これらの消毒を行った後は、土の中の「良い菌」も死滅してしまっているため、定植前に有用微生物資材を投入して、良い菌叢(フローラ)を再構築することが重要です。

     

    土耕栽培のいちごの根圏微生物と共生関係の活用

    これは検索上位の一般的な記事にはあまり詳しく書かれていない、最新かつ専門的な視点です。土耕栽培のポテンシャルを最大限に引き出す鍵は、「根圏(こんけん)微生物」の活用にあります。

     

    高設栽培の培地は無菌に近い状態からスタートしますが、土耕栽培の土には無数の微生物が生息しています。従来はこれを「殺菌」することばかりに注目していましたが、現在は「有用菌を味方につける」アプローチが注目されています。

     

    1. アーバスキュラー菌根菌(AM菌)の活用

      いちごは菌根菌と共生しやすい植物です。この菌は、いちごの根に入り込み、根の延長として働きます。特に、植物が自力で吸収しにくい「リン酸」を土壌の微細な隙間から集め、宿主であるいちごに供給します。

       

      • 効果: リン酸吸収促進による花芽の充実、耐病性の向上、水ストレスへの耐性強化。
      • 導入法: 育苗期のポットに胞子資材を接種させ、菌根を形成させてから本圃(ほんぽ)に定植する。
    2. 拮抗(きっこう)微生物の利用

      トリコデルマ菌」や「バチルス菌納豆菌の仲間)」などの有用菌を意図的に土壌に増やします。これらの菌は、病原菌(フザリウムなど)よりも早く増殖して場所と餌を独占したり、病原菌を攻撃する抗生物質を出したりします。

       

      • プロの技: 太陽熱消毒後の「空白地帯」となった土壌に、真っ先にこれらの有用菌資材(堆肥に混ぜて培養したものなど)を投入し、土壌フローラを善玉菌優位にしてバリアを張ります。
    3. 根圏シグナルと免疫活性化

      土壌中の微生物が根に接触することで、いちごの植物体は「敵が来たかもしれない」と軽い警戒態勢をとります(プライミング効果)。これにより、全身の免疫システム(ジャスモン酸経路など)が活性化され、結果としてうどんこ病や炭疽病にかかりにくい強い株になります。これは、無菌的な環境では起こりにくい、土耕栽培ならではの「強さ」のメカニズムです。

       

    農研機構:微生物資材を活用した土壌病害抑制技術の研究成果
    微生物資材を利用した具体的な病害抑制データや、メカニズムに関する研究成果が閲覧できます。科学的根拠に基づいた微生物活用を行いたい場合に参照すべき資料です。

     

    このように、単に「土に植える」だけでなく、土の中の「見えない生態系」をデザインすることこそが、究極の土耕栽培いちごを作る秘訣なのです。土の中の微生物が作り出す代謝産物やホルモン様物質が、いちごの根を刺激し、あの忘れられない濃厚な味を生み出しています。

     

     


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