養液栽培のメリットとデメリット:初期費用から収量品質まで徹底解説

養液栽培は土を使わず培養液で作物を育てる新しい農法です。連作障害の回避や省力化など魅力的なメリットがある反面、初期費用や病害対策など気になる課題も存在します。これから養液栽培を始めたい農業従事者の方は、どのような準備が必要でしょうか?

養液栽培のメリットとデメリット

この記事のポイント
連作障害を回避

土壌病害やセンチュウ類の被害を気にせず、同じ作物を継続栽培できます

💰
初期費用は慎重に

設備投資は1㎡あたり3万円程度。規模に応じた資金計画が必要です

📈
収量・品質の向上

培養液の濃度管理により、作物の成長スピードと収穫量がアップします

養液栽培における連作障害回避のメリット

 

養液栽培の最大のメリットは、土を使わないため土壌病害や連作障害を回避できる点です。土耕栽培では同じ圃場で同一作物を栽培し続けると、フザリウム菌などの病原菌やネコブセンチュウなどのセンチュウ類が繁殖し、立ち枯れや生育不良が発生しやすくなります。養液栽培では培地に土を使用しないため、これらの土壌由来の病害虫リスクが大幅に軽減されます。

 

参考)養液栽培のメリット・デメリットについて知りたい! 養液栽培の…

また、耕起畝立て・土寄せ・除草といった土耕栽培で必要な作業が省略できるため、必要最低限の人員で栽培が可能となり、全体的なコストカットにつながります。給液管理が向上すれば大規模栽培も容易になり、さらなる効率化が期待できます。

 

参考)養液栽培研究会

特に害虫駆除の薬剤を必要最小限に抑えられるため、適切な管理下では無農薬栽培も実現しやすくなります。これは消費者の健康志向にも対応できる重要なメリットといえます。

 

参考)養液栽培のメリット

養液栽培の初期費用と設備投資

養液栽培を始める際の最大のデメリットは、初期費用の高さです。新規に水耕栽培事業を開始する場合、温室建設費用が1㎡あたり約15,000円、水耕栽培設備が1㎡あたり約18,000円となり、合計で1㎡あたりおよそ3万円の設備投資資金が必要になります。

 

参考)養液栽培で効率的な農業を実現|品質と収穫量の安定を目指すため…

小規模なシステムであれば10万円から30万円程度で始められますが、栽培装置(水槽、ポンプ、栽培棚)で3万円~15万円、照明設備で1万円~5万円、液体肥料の初期セットで5千円~1万円といった費用が発生します。1000㎡規模の養液栽培システムでは300万円から500万円の資材費がかかるケースもあります。

 

参考)水耕栽培にかかる費用は?補助金についても詳しく解説!

ランニングコストとしては、肥料・培地・種などの消耗品類に加え、電気代や水道代が継続的に必要となります。土耕栽培に比べて肥料代が高額になりがちな点も考慮する必要があります。

 

参考)【植物工場】水耕栽培事業の初期費用からランニングコストまで

養液栽培における培養液濃度管理と収量品質向上

養液栽培では培養液の濃度管理が収量と品質の向上に直結します。培養液管理では、液肥の濃度をEC(電気伝導度)で測定し、品目・品種・栽培ステージに応じた濃度調整が行われます。固形培地耕では、適切に濃度管理された培養液を点滴灌水で培地に与えることで、作物の養分吸収を最適化できます。

 

参考)養液栽培の培養液管理~培地により異なる培養液管理の方法~ -…

作物は根から効率よく栄養を吸収できるため、成長スピードが土耕栽培より早く、収穫量が増加します。実際に培養液を3℃加温することで、根からの養分の取り込みとアミノ酸代謝が促進され、レタスの生育とカロテノイドやビタミンCなどの機能性成分が向上したという研究結果もあります。

 

参考)培養液を3℃加温するだけでレタスの収穫量アップ! ——植物工…

濃度管理の方法には、一定の濃度を維持する方法と、「金魚にエサをやる方法」と呼ばれる量的管理があり、後者は植物が必要とする肥料分だけを適宜追肥し、培養液の肥料濃度を常に低レベルに保つ手法です。作物の特性に合わせた管理方法の選択が重要です。

養液栽培における病害拡大リスクと対策

養液栽培は連作障害を回避できる一方で、独自の病害リスクも抱えています。特にピシウム菌(Pythium属菌)やフィトフトラ菌(Phytophthora属菌)といった水媒伝染性の植物病原菌が問題となります。これらの病原菌は遊走子で伝染し、根に対する走化性があり、わずか1個の遊走子でも発病する高い感染性を持ちます。

 

参考)養液栽培・水耕栽培で注意が必要な病気_シリーズ『病害虫の今!…

循環式の養液栽培では、病害が侵入すると培養液を通じて施設全体に急速に拡大しやすい点が短所です。対策としては、培養液や設備の定期的な消毒(塩素系薬剤や蒸気消毒)が有効です。また、養液温度を25℃以下に管理し、溶存酸素濃度を高く保つことで発生を抑制できます。

 

参考)農業技術事典NAROPEDIA

病害が侵入してしまった場合は、栽培施設全体(パイプや貯水槽も含む)を塩素系薬剤や蒸気で殺菌する必要があります。予防策として、施設を陽圧にし、出入り口での着替え・履き替えを徹底するなど、施設設計段階から侵入経路を減らす構造にすることが重要です。

 

参考)養液栽培における病害の診断と防除対策の基本|論文誌|iPLA…

養液栽培における省力化と自動化システムの活用

養液栽培の大きな魅力は、省力化と作業の自動化です。点滴チューブを通して液肥が自動給水されるため、手作業での水やりに比べ大幅な時間短縮が実現します。従来のタイマー式システムでは日々の天気や生長段階に応じた手動設定が必要でしたが、最新のIT農業システムでは日射センサーと土壌センサーで取得した情報を基に、潅水施肥の供給量を自動で決定します。

 

参考)ハウス栽培の自動化/効率化の大きな助けに養液土耕栽培システム…

自動灌水制御システムを導入することで、灌水作業の手間や時間を大幅に削減でき、生産者は他の重要な作業に集中できるため、作業効率と生産性が向上します。実際に養液土耕栽培システム「ゼロアグリ」を導入した農家では、収量が前年比28%増加し、施肥の手間が省けたことで作業時間を90%削減、規模拡大につながった例も報告されています。

 

参考)【新規就農・農業参入の豆知識】スマート農業で養液供給!自動灌…

給液や施肥管理の自動化により、大規模化が容易になり、肥料や水の利用効率も向上します。栽培方法がマニュアル化しやすいため、技術の標準化や新規参入者への教育もスムーズになります。

 

参考)渡辺パイプの養液栽培システム商品一覧|渡辺パイプ株式会社グリ…

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