カスガマイシン農薬の効果と使い方

カスガマイシンは春日大社の土壌から発見された抗生物質系農薬で、いもち病をはじめとする作物の病害防除に60年以上使われてきました。浸透移行性や耐性菌対策、有機JAS認可など、現代農業で知っておくべき重要ポイントは何でしょうか?

カスガマイシン農薬の効果と使い方

カスガマイシンを連用すると耐性菌が発生します。


この記事の要点
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春日大社から生まれた抗生物質

1960年代に奈良県春日大社の土壌から発見された放線菌由来の農業用抗生物質で、イネのいもち病を中心に幅広い病害に効果を発揮

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優れた浸透移行性と治療効果

植物体内に浸透して移行する特性により予防だけでなく感染初期の治療効果も期待でき、効果は5~7日で現れ30日以上持続

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耐性菌対策と有機JAS認可

1971年から耐性菌が確認されているため使用回数制限を厳守する必要があり、2024年7月から有機JASで使用可能に


カスガマイシンの発見と歴史的背景


カスガマイシンは1960年代、澤濱夫博士らによって奈良市の春日大社境内の土壌サンプルから発見された放線菌Streptomyces kasugaensisが産生する抗生物質です。採取地の名前にちなんで「カスガマイシン」と命名され、1965年に農薬として登録されました。発見から60年以上が経過した現在も、日本の農業現場で広く使用されている重要な殺菌剤です。


この農薬の最大の特徴は、カビや微生物には強い効力を発揮する一方で、動植物や人体への毒性が低いという点にあります。特にイネのいもち病に対して卓越した効果を示すことから、水稲栽培において欠かせない防除剤として位置づけられてきました。つまり抗生物質でありながら農業用に特化した安全性の高い薬剤ということですね。


カスガマイシンの作用機構は、病原菌のリボソーム30Sサブユニットに結合してメッセンジャーRNAの形成を阻害し、タンパク質の生合成を妨げることで殺菌効果を発揮します。この独特なメカニズムにより、他系統の殺菌剤とは異なる作用点を持つため、総合的な病害管理プログラムにおいて重要な役割を果たしています。


北興化学工業と微生物化学研究会が共同開発したカスミン剤として製品化されて以降、液剤、水和剤、粉剤、粒剤、水溶剤など多様な製剤が開発され、水稲だけでなく野菜、果樹、茶、てんさいなど幅広い作物に適用が拡大されてきました。これは単一の有効成分としては非常に汎用性が高いと言えます。


現在では箱育苗から本田散布、無人航空機による散布、空中散布まで多様な使用方法に対応しており、現代農業の省力化ニーズにも応えられる剤型が整備されています。


カスミン液剤の詳細情報|北興化学工業株式会社


カスガマイシンのいもち病への防除効果

いもち病はイネの最重要病害の一つで、葉いもち、穂いもちなど発生部位によって呼び名が変わり、放置すれば収量や品質に甚大な被害をもたらします。カスガマイシンはこのいもち病に対して優れた防除効果を示すことで知られており、発病前の予防散布から感染初期の治療的使用まで幅広い場面で活用できます。


カスガマイシンの大きな特徴は稲体への浸透性に優れている点です。葉の表面から吸収された薬剤が植物体内を移行するため、散布面だけでなく未散布部分にも効果が及びます。この浸透移行性により、散布後の降雨の影響を受けにくく、効果の発現が早いという実用上のメリットがあります。


治療効果も期待できますね。


予防散布として使用した場合、効果の持続性は約30日以上とされており、比較的長期間にわたって病害の発生を抑制できます。ただし効果の発現には5~7日程度を要するため、病気が蔓延してから使用するのではなく、発生初期や発生が予想される時期に計画的に散布することが重要です。


水稲における使用方法は多様で、種子浸漬処理(1回以内)、育苗箱への散布(1回以内)、本田での散布(2回以内)という形で、カスガマイシンを含む農薬の総使用回数は4回以内と定められています。この制限は耐性菌の発生を防ぐための重要な規制であり、必ず守る必要があります。


箱育苗段階で使用する場合、いもち病だけでなく褐条病などの細菌病にも高い効果を示すため、初期病害の総合的な防除が可能です。本田散布では500~1000倍に希釈して散布するのが一般的で、使用液量は圃場の状態や散布方法によって調整します。


トリシクラゾールなど他の殺菌剤と混合した製剤も開発されており、予防効果と治療効果を併せ持つ総合的ないもち病対策剤として活用されています。


カスガマイシン液剤の防除効果試験結果|理研グリーン


カスガマイシンの適用作物と病害の種類

カスガマイシンは水稲のいもち病防除剤として開発されましたが、現在では稲、果樹、野菜、いも、豆、花き、茶など多岐にわたる作物に適用登録があります。これは抗生物質系殺菌剤として糸状菌病害と細菌性病害の両方に効果を示すという特性によるものです。


適用範囲が広いということですね。


野菜類では、トマトやミニトマトの斑点細菌病、軟腐病、葉かび病キャベツの軟腐病、レタスの軟腐病など、主に細菌性の病害に対して高い効果を発揮します。カスガマイシン単剤または塩基性塩化銅との混合剤(カスミンボルドー、カッパーシン水和剤)として使用され、予防効果と治療効果の両方が期待できる点が特徴です。


果樹類では、かんきつのかいよう病、なしの黒星病や花腐細菌病、ももやあんずのせん孔細菌病・縮葉病、びわの灰斑病・がんしゅ病、キウイフルーツのかいよう病など、主に細菌性病害と一部の糸状菌病害に適用があります。果樹の場合、収穫前日数の制限が作物によって異なるため、ラベル表示を必ず確認する必要があります。


てんさいの褐斑病に対しても登録があり、北海道を中心とした産地で重要な防除剤となっています。てんさいでは耐性菌の発生が報告されているため、DMI剤やQoI剤などとのローテーション使用が推奨されています。


注意が必要です。


茶の病害では、輪斑病や赤焼病などの細菌性病害に効果が高く、摘採3日後まで散布できる点が実用上のメリットです。銅剤との混合剤を使用することで、予防効果と治療効果を兼ね備えた防除が可能になります。


各作物における希釈倍率は500~1000倍が一般的ですが、病害の種類や作物、使用時期によって異なるため、農薬のラベルや地域の防除基準を参照して適切に使用することが重要です。使用回数の制限も作物ごとに設定されており、カスガマイシンを含む農薬の総使用回数を超えないよう注意が必要です。


カスミンボルドーの適用作物一覧|農薬インデックス


カスガマイシンの耐性菌問題と対策

カスガマイシンは優れた効果を持つ一方で、耐性菌の発生という深刻な問題を抱えています。日本では1971年に山形県庄内地方でカスガマイシン耐性のイネいもち病菌が初めて確認され、その後も各地で耐性菌の出現が報告されてきました。これは農薬耐性管理において重要な教訓となっています。


耐性菌が発生する原因は、同一系統の薬剤を同じ圃場で繰り返し使用することです。カスガマイシンの場合、効果が高いために多用されたことで、薬剤に対して抵抗性を持つ菌株が選抜されて増殖してしまいました。一度耐性菌が優占すると、カスガマイシンの効果は著しく低下し、防除が困難になります。


深刻な問題ですね。


耐性菌対策の基本は、使用回数を制限することと、異なる系統の薬剤とローテーション散布を行うことです。水稲においては、カスガマイシンを含む農薬の総使用回数が4回以内(種子浸漬1回以内、育苗箱1回以内、本田2回以内)と明確に定められており、この基準を厳守する必要があります。


てんさいの褐斑病では、ベンゾイミダゾール剤耐性菌、QoI剤耐性菌、DMI剤耐性菌に加えてカスガマイシン剤耐性菌も確認されており、実用上の問題が生じています。このため、カスガマイシン剤の使用は可能な限り低減し、他系統の薬剤や耕種的防除を組み合わせた総合防除が推奨されています。


混合剤の活用も耐性菌対策として有効です。カスガマイシンと塩基性塩化銅を配合したカッパーシン水和剤やカスミンボルドーは、異なる作用機作を持つ2つの成分が相乗効果を発揮し、耐性菌の発生リスクを低減できます。予防と治療の両面からアプローチできるということですね。


圃場管理や品種選択などの耕種的防除も重要です。病気の発生を抑える栽培環境を整え、抵抗性品種を導入することで、農薬への依存度を下げることができます。薬剤散布量を減らすことは、耐性菌の発生リスクを低下させるだけでなく、環境負荷の軽減やコスト削減にもつながります。


地域の病害虫防除所や農業改良普及センターが提供する防除情報を参考に、計画的な薬剤使用を心がけることが、カスガマイシンの効果を長期的に維持するための鍵となります。


カスガマイシン耐性菌の圃場における動態|日本植物病理学会


カスガマイシンと有機JAS認可の意義

2024年7月31日、有機農産物日本農林規格(JAS)が改正され、カスガマイシン(液剤、粉剤、水溶剤、粒剤)が有機農産物の病害対策剤として使用可能になりました。これは有機農業を実践する農業者にとって大きな朗報です。従来、有機JASで使用できる病害対策剤は限られており、特に細菌性病害への対応に苦慮するケースが多かったためです。


有機農業では化学合成農薬の使用が原則禁止されていますが、天然物由来の物質や微生物由来の物質は一定の条件下で使用が認められています。カスガマイシンは放線菌が産生する天然の抗生物質であり、この基準に適合したことで有機JASでの使用が承認されました。


天然由来だから認められたということですね。


この認可により、有機栽培の水稲でいもち病が発生した場合、カスミン液剤などを使用して防除することが可能になりました。従来は銅剤などに限られていた選択肢が広がり、より効果的な病害管理が実現できます。特に感染初期の治療効果が期待できる点は、有機栽培における病害対策の幅を大きく広げる意義があります。


カスミンボルドーやカッパーシン水和剤のように、カスガマイシンと銅剤を混合した製剤も有機JASで使用可能です。これらは予防効果の高い銅と治療効果のあるカスガマイシンの相乗効果により、有機栽培における病害防除の信頼性を高めることができます。


ただし、有機JASでの使用にあたっては、認証機関の指導に従い、適切な記録管理を行う必要があります。使用した農薬の商品名、使用量、使用時期などを正確に記録し、有機認証の監査時に提示できるようにしておくことが求められます。


記録は必須です。


有機農業と慣行農業の間の選択肢が増えることで、特別栽培農産物(農薬や化学肥料の使用を慣行レベルの5割以下に削減した農産物)の生産においても、カスガマイシンの位置づけがより明確になりました。節減対象農薬としてカウントされるかどうかは自治体の基準により異なるため、地域の特別栽培認証制度を確認する必要があります。


有機JAS改正に伴うカスガマイシン使用可能のお知らせ|北興化学工業


カスガマイシンの製剤タイプと使用方法の違い

カスガマイシンには液剤、水和剤、粉剤、粒剤、水溶剤という複数の製剤タイプがあり、それぞれ使用場面や特性が異なります。農業現場では作物や病害の種類、栽培方法、散布機械の種類などに応じて最適な製剤を選択する必要があります。


液剤(カスミン液剤など)は、水で希釈して散布する最も一般的な形態です。濃緑色の液体で、カスガマイシン一塩酸塩を2.3%(カスガマイシンとして2.0%)含有しています。計量が容易で、希釈倍率を調整しやすいため、本田散布や果樹・野菜への散布に広く使用されます。500~1000倍に希釈して散布するのが一般的です。


水和剤(カスミンA水和剤など)は粉末状の製剤で、水に懸濁させて使用します。液剤と比較して有効成分濃度が高い製品が多く、保管や輸送が容易という利点があります。ただし均一に懸濁させるには十分な攪拌が必要で、懸垂性を維持するために使用前によく振り混ぜることが重要です。


使い方にコツがいりますね。


粉剤(カスミン粉剤30など)は、そのまま散布できる製剤で希釈の手間が不要です。主に水稲の育苗箱への散布や、圃場への散粉に使用されます。粉剤の利点は散布作業が簡便である点ですが、風の影響を受けやすく飛散しやすいため、無風時または微風時に使用する必要があります。


粒剤は育苗箱への施用や水田への散布に適した形態で、粒状になっているため粉剤よりも飛散が少なく、均一な散布が可能です。水稲の箱育苗では播種時または緑化期に育苗箱の上から均一に散布し、その後通常の管理を行います。


水溶剤は水に溶解して使用する製剤で、水和剤と異なり完全に溶けるため懸濁性の問題がありません。散布液調製が容易で、散布機械のノズル詰まりが起こりにくいという利点があります。


混合剤としては、カスガマイシンと塩基性塩化銅を配合したカスミンボルドーやカッパーシン水和剤が代表的です。これらは銅の予防効果とカスガマイシンの治療効果を併せ持ち、細菌性病害や糸状菌病害に幅広く対応できます。効果の持続性と耐雨性にも優れており、実用性の高い製剤として評価されています。


無人航空機(ドローン)による散布に対応した製剤もあり、8~32倍程度の高濃度で使用することで、少量散布による省力化が可能です。ただし適用作物や病害、希釈倍率などは通常の地上散布と異なる場合があるため、ラベル表示を必ず確認する必要があります。


製剤選択の際には、対象作物と病害、散布時期、使用回数制限、混用の可否などを総合的に判断することが重要です。不明な点がある場合は、JA営農指導員や農薬販売店に相談することをお勧めします。


カッパーシン水和剤の特徴と使用方法|グリーンジャパン


カスガマイシンの混用と薬害の注意点

カスガマイシンを他の農薬と混用する際には、いくつかの重要な注意点があります。適切な混用により散布作業の省力化や相乗効果が期待できる一方、不適切な組み合わせは薬効の低下や薬害の原因となるため、混用適否表を必ず確認する必要があります。


カスガマイシンと混用してはいけない代表的な農薬は、石灰硫黄合剤などのアルカリ性薬剤とチオファネートメチル剤です。これらと混用すると化学反応が起こり、有効成分が分解されて効果が失われたり、薬害が発生したりする危険があります。


絶対に避けてください。


銅剤との混用については、カスミンボルドーやカッパーシン水和剤のように製品化されている組み合わせは問題ありませんが、銅剤と相性の悪い薬剤を三者混用すると効果が低下することがあります。例えば銅剤とマシン油乳剤を混用すると、油分が銅の効果を阻害する可能性があるため注意が必要です。


薬害の発生しやすい条件として、高温時(6月以降の気温が高い時期)や高湿度時、作物が軟弱に育っている場合などが挙げられます。特にカスミンボルドーやカッパーシン水和剤のような銅を含む混合剤は、高温時の多数回散布で薬害を生じることがあるため、散布時期と回数に注意が必要です。


作物による薬害の出やすさにも違いがあり、うり類(キュウリメロンなど)、レタス、非結球レタス、だいこんなどは銅剤に対して薬害が出やすい傾向があります。これらの作物にカッパーシン水和剤を使用する場合は、ラベルに記載された適用作物であることを確認し、使用上の注意を守る必要があります。


果樹では、キウイフルーツの発芽後に使用すると葉に軽い薬害を生じることがありますが、実用上の問題はないとされています。ただし使用時期が遅れると葉や果梗に実害が出るため、使用時期の厳守が重要です。びわでは幼果期以降の散布で果実に薬害が出るため、使用時期を守る必要があります。


散布液調製時の注意点として、使用量に合わせて必要な量だけを調製し、使い切ることが原則です。調製後は時間の経過とともに成分が分解したり沈殿したりする可能性があるため、できるだけ速やかに散布を完了させます。


放置は厳禁ですね。


展着剤の使用については、適切な展着剤を加えることで付着性や展着性が向上し、効果の安定化が期待できます。ただし展着剤の種類によっては薬害を助長することがあるため、混用適否表を確認するか、少量でテストしてから本格的に使用することが推奨されます。


混用の順序も重要で、一般的には水→水和剤→液剤→乳剤→展着剤の順に加えるのが基本です。この順序を守ることで、各成分が均一に混ざり、沈殿や分離を防ぐことができます。散布直前に十分に攪拌し、散布中も時々攪拌を行って成分の沈降を防ぎます。


実際の混用にあたっては、農薬メーカーが提供する混用適否表や、各都道府県の病害虫防除所が発行する防除基準を参考にすることが安全です。不明な点があれば、メーカーの技術相談窓口やJAの営農指導員に問い合わせることをお勧めします。


農薬を混用する場合の注意点・混用の順番について|農家web


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