除草剤散布でノズルを選ぶとき、最初に押さえたいのは「薬剤の効かせ方」と「飛ばしたくない事情」です。吸収移行型(例:茎葉から吸われて効くタイプ)は、葉面に“ほどよく”付けば効果が出ますが、隣接作物に飛ぶと薬害になりやすいのが厄介です。接触型(付いた部分を焼くタイプ)は、付着ムラがそのまま効きムラになりやすく、散布品質の要求が上がります。
ここで登場するのが、霧なしノズル(泡ノズル)や、ドリフト低減を意図した粗大粒子系のノズルです。果樹のスピードスプレーヤ(SS)領域の資料ですが、ドリフトは噴霧粒子が細かいほど起きやすい、という原則が整理されています。慣行ノズルは平均粒径が90〜100μm程度と細かく、粗大粒子ノズルはそれより大きい粒子を出してドリフトを抑える、という考え方です(例として平均粒径や100μm以下の割合の違いが示されています)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
除草剤の現場目線で言い換えると、次のように整理できます。
意外と見落とされがちなのが、「狭い範囲にだけ効かせたい」除草剤散布ほど、ノズル性能より“オペレーションの再現性”が重要になる点です。泡ノズルに替えただけで安心してしまい、散布速度が日によって変わると、結果的に散布量が揺れて効きムラになります。ノズルの種類を変えた日は、必ず「散布幅」「歩行速度(または走行速度)」「圧力」をセットで固定して、まずは水で吐出状態を見てから本番に入るのが安全です。
ドリフト(目的外飛散)は、ノズルの当たり前の性能差だけでなく、「気象」と「設定」で増えたり減ったりします。農研機構の技術マニュアルでは、ドリフトを発生しやすくする要因として、噴霧粒子の細かさ、散布位置の高さ、風の強さ、散布幅や散布量の多さ、作業速度などが挙げられています。とくに粒子の細かさの影響が大きい、つまり細かいほど飛びやすい、という整理です。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
除草剤散布で現場が困るのは、「微風だから大丈夫と思ったのに、想定外に飛んだ」ケースです。これは、風が弱くても“風向が一定で通り道ができる”と、薬液が流されることがあるためです。果樹SSの例ですが、自然風がある場合はドリフトの状態が予想しにくい、風向・風速の簡易測定として吹き流しが使える、という実務的な記述もあります。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
ここを除草剤向けに落とすと、次のチェックが効きます。
あまり知られていない現場知として、「端の1往復だけ条件を変える」運用は、ドリフト事故の保険になります。SSの説明では、最外列付近の散布ではドリフトが多くなりやすく、園の中に入ると減る、という傾向が示されています。圃場でも“境界部だけは別ルール”にすると、クレームや薬害リスクが現実的に下がります。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
除草剤の効きムラは、「薬剤が弱い」より「当て方が揺れた」で起きることが多いです。圧力を上げれば勢いは出ますが、同時に粒径が細かくなる方向に寄りやすく、ドリフト面では不利になりがちです。だからこそ、圧力は“上げるか下げるか”ではなく、“適正範囲で安定させる”が正解になります。
農研機構の資料では、散布量を設定するときに、散布幅・作業速度・ノズル個数(吐出量)から総噴霧量を逆算する考え方が具体式で示されています。例として、散布量400L/10a、散布幅5m、速度1.5km/hのとき、総ノズル噴霧量は約50L/分になり、16個使うなら1個あたり約3.1L/分のノズルを選ぶ、という手順です。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
除草剤の背負い式・動噴・ブームでも考え方は同じで、次の3点をセットで固定するとムラが減ります。
現場でありがちな失敗は、「詰まりかけ」→「圧力が揺れる」→「粒が変わる」→「散布幅も変わる」→「線状に効きムラ」という連鎖です。目詰まりは後述しますが、圧力計が付いている機械なら、作業中に針が揺れるかを見てください。揺れているなら、ノズル以前に“流体系”が安定していない可能性があります。
また、散布量を下げればドリフトも減り、コストも下がる一方、効果を支える付着量の下限が存在します。果樹の文脈ですが、散布量削減はドリフト低減と経費削減に効果があるが、一律に削減できるとは限らない、という慎重な書きぶりです。除草剤でも同様で、雑草のサイズが大きい時期や、接触型中心の設計では、下げすぎは“効き残り”になって返ってきます。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
ノズルの詰まりは、除草剤散布の品質を静かに壊します。完全に詰まれば気づきますが、厄介なのは「半詰まり」で、吐出量と散布パターンが変形し、結果としてムラが出ます。とくに泡ノズルや低ドリフト系は、構造上、粒を作る工夫が入っている分だけ、異物に弱い場合があります(機種差あり)。
詰まり対策は、現場では結局、次の“当たり前の徹底”が一番効きます。
「針金で突く」は手軽ですが、ノズル孔を傷つけると、吐出量が増えて散布量設計が崩れます。結果として、同じ歩行速度でも過剰散布になったり、パターンが歪んで“帯ムラ”が出たりします。ノズル清掃は、柔らかいブラシや専用品を使い、最後は水で十分に流すのが安全です。
ここで一つ、意外だけど実務的な情報があります。感水紙(液滴が付くと色が変わる紙)は、作物体への付着やドリフト評価に使える一方、高湿度(相対湿度80%以上)では液滴がなくても変色が進むため、取り扱いに注意が必要だと説明されています。これは除草剤散布の「ノズル詰まり確認」にも応用でき、例えば“水で吐かせて付着を確認する”簡易チェックを短時間でやる、という使い方ができます。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
つまり、詰まりやパターン崩れは「本番の薬剤」で気づくのではなく、作業前の水運転で早期に潰すのが、最も安くて確実な対策です。
検索上位が語りがちなテーマは「ドリフト低減=近隣への迷惑防止」ですが、現場ではもう一つ重要な軸があります。それが作業者の被曝(体に付く量)です。農研機構の技術マニュアルでは、感水紙を作業者の着衣に貼り付けて、散布時の被曝を評価する例が示されています。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/compound.pdf
除草剤散布は「地面に向けるから安全」と思われがちですが、実際には跳ね返り(地面や草体からのリバウンド)や、横風で舞うミストで、下半身・腕・手袋に付着しやすいです。とくに畦畔の斜面や、背丈のある雑草を相手にすると、霧が戻ってくる感覚があるはずです。ここで、粗大粒子側のノズルや泡状散布は、目的外飛散だけでなく「自分に戻る微細粒子」を減らす方向に働く可能性があります(ただし、ゼロにはできません)。
独自視点として提案したいのは、「被曝を減らすノズル運用」を、品質管理と同じルーチンに入れることです。
除草剤散布のノズル選びは、効かせる・飛ばさないに加え、「自分を守る」にも直結します。ノズルは消耗品なので、ベストな一本を探すより、圃場条件(風、隣接、雑草サイズ)に合わせて“飛ばない側の選択肢を常備する”運用が、結局は事故を減らします。