育苗箱の種まき手順と失敗原因!水稲の覆土や水やりのコツと対策

育苗箱の種まきで失敗しないための手順とコツとは?水稲の覆土や水やりの重要ポイント、高密度播種のメリット、そして意外と知らない残留農薬のリスクまで、プロが押さえるべき重要知識を網羅しました。あなたの苗作り、本当に今のままで大丈夫ですか?
育苗箱の種まき:成功への3つの鍵
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均一な播種と覆土

厚さムラは発芽不揃いの元。覆土は種が隠れる程度で均一に。

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水やりと温度管理

播種後の潅水は底から出るまで。芽出しは30〜32℃をキープ。

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残留農薬リスク

箱処理剤の土壌流出に注意。後作野菜への影響を防ぐシート利用を。

育苗箱の種まき

育苗箱種類選び方水稲用と野菜用の深さと穴数の違い

育苗箱(苗箱)は一見どれも同じように見えますが、底面の形状や穴の数、深さによって用途が大きく異なります。適切な箱を選ぶことは、根の健全な発達と作業効率の向上に直結します。

 

  • 標準サイズと深さの選定

    一般的に水稲用育苗箱の内寸は580mm × 280mmが標準規格となっています。深さは約30mmが一般的ですが、近年注目されている「密苗」や「高密度播種」を行う場合は、培土量を確保するために深さが40mmある深型タイプを選ぶケースが増えています。深型を使うことで、播種量が増えても根が十分に張るスペースと保水力を確保でき、水切れのリスクを軽減できます。

     

  • 底面形状と穴数の違い

    底面の穴の数や形状は、保水性排水性のバランスを決定づけます。

     

    • 稚苗用(穴が小さい/少ない): 根が培土を抱きかかえる力が弱い段階で移植する場合に適しています。肥料や土が流出しにくい構造になっています。
    • 中苗用(穴が大きい/多い): 育苗期間が長く、根張りを重視する場合に使います。通気性が良く、酸素不足による根腐れ(根張り不良)を防ぐ効果があります。
    • 底面形状: 平底タイプは汎用性が高いですが、凸凹加工が施されたタイプは、箱の底に水が滞留するのを防ぎ、過湿による病気のリスクを下げることができます。特に、プール育苗などを行う場合は、水の通りが良い形状を選ぶことが重要です。

    育苗箱のサイズや種類(稚苗用・中苗用)の特徴と選び方について詳しく解説されています。

     

    参考)【稲の育苗】水稲用の育苗箱の種類と選び方 - のうちくジャー…

    【稲の育苗】水稲用の育苗箱の種類と選び方

    種まき手順覆土の極意:均一な播種と培土の水分量

    種まきの工程で最も重要なのは「均一性」です。播種量や覆土の厚さが不均一だと、発芽が揃わず、その後の管理が非常に難しくなります。特に大規模なライン作業では、機械の設定と土の状態確認が必須です。

     

    1. 床土入れと鎮圧

      育苗箱に培土を入れますが、このとき重要なのが鎮圧(土を平らにならすこと)です。土の表面に凹凸があると、種が落ちる深さがバラバラになり、発芽のタイミングがずれてしまいます。また、鎮圧不足で土が柔らかすぎると、種が深く沈み込みすぎて酸素不足になり、発芽不良の原因となります。

       

    2. 播種前の潅水(水やり)

      播種直前の床土には、十分な水分が必要です。目安としては、育苗箱1箱あたり約1リットルの水を含ませます。乾燥した培土にいきなり種をまくと、種が必要な水分を吸えず、発芽スイッチが入らないことがあります。逆に水分過多でドロドロの状態では、播種機が詰まる原因になるため、表面の水が引いたタイミングで播種を行います。

       

    3. 覆土の厚さと均一性

      覆土は種を保護し、乾燥を防ぐ役割がありますが、厚すぎても薄すぎてもいけません。

       

      • 適正量: 一般的に、種籾が隠れる程度から、種子の厚みの2〜3倍(約5mm〜1cm弱)が目安です。
      • 厚すぎる場合: 芽が地上に出るまでにエネルギーを使い果たし、苗が弱々しくなる「もやし苗」の原因になります。
      • 薄すぎる場合: 種が露出して乾燥し、発芽しなかったり、根が浮き上がって定植時に欠株する「根上がり」が発生します。
      • 裏技: 覆土に籾殻くん炭を混ぜる、あるいは単体で使用する方法があります。くん炭は通気性と保水性が良く、黒色で太陽熱を吸収しやすいため地温確保に有利です。さらに、低温期における窒素吸収を助ける効果も報告されています。

    播種時の適切な潅水量(1箱1L)や覆土量の注意点(厚すぎ・薄すぎの弊害)が詳細に記載されています。

     

    参考)水稲育苗培土の種まき方法と管理方法

    水稲育苗培土の種まき方法と管理方法
    籾殻くん炭を覆土に利用した際の発芽や養分吸収への好影響について研究されています。

     

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/9/4/9_4_421/_pdf/-char/ja

    籾殻くん炭の覆土が有機質肥料を用いた低温期の育苗に及ぼす影響

    育苗箱水やり温度管理失敗しない芽出し徒長対策

    種まき後の管理は、苗の命運を握ります。特に「出芽機(育苗器)」を使用する場合と、ハウス内で自然出芽させる場合では管理ポイントが異なりますが、共通して「高温障害」と「徒長」には細心の注意が必要です。

     

    • 出芽期の温度管理(30℃〜32℃)

      種まき後、均一に発芽させるためには30℃〜32℃の温度を維持します。35℃を超えると高温障害(ムレ苗)が発生しやすく、カビや腐敗の原因となります。逆に低温すぎると発芽に日数がかかり、雑菌に侵されるリスクが高まります。

       

      • 積載のコツ: 育苗箱を積み重ねて出芽機に入れる際、一番上の箱には土だけを入れた空箱を載せて蓋をします。これにより、最上段の箱の乾燥や温度低下を防ぐことができます。
      • 積み替え: 機内の温度ムラを防ぐため、途中で箱の積む位置を上下入れ替える(天地返し)を行うと、より発芽が揃います。
    • 緑化期の水やりと徒長防止

      芽が1cm程度伸びたら、箱をハウス内に並べて光を当てる「緑化」の段階に入ります。

       

      • 白化苗: 出芽直後の苗は白くひ弱です。いきなり直射日光に当てると「白化現象」で枯れてしまうため、最初は遮光シート(ラブシート等)をかけて徐々に光に慣らします。
      • 徒長の原因: 「水のやりすぎ」と「高温・低照度」が最大の原因です。特に夕方の水やりは、夜間の徒長を助長するため厳禁です。水やりは朝のうちにたっぷりと行い、夕方には土の表面が乾いている状態が理想です。
      • 温度管理: 緑化〜硬化期は、日中20〜25℃、夜間10〜15℃を目指します。夜温が高いと呼吸による消耗が激しくなり、苗が細長く伸びてしまいます(徒長)。

      育苗中のトラブル(発芽不揃い、根上がり、マット形成不良)ごとの具体的な原因と対策表があります。

       

      参考)水稲育苗における症状別の対策・知恵をご紹介します

      水稲育苗における症状別の対策・知恵をご紹介します

      高密度播種密苗技術:育苗コストと労働力の大幅削減

      近年、農業現場で急速に普及しているのが「高密度播種(密苗・密播)」です。これは、1枚の育苗箱に通常の1.5倍〜2倍以上の種籾をまく技術です。

       

      • メリット:コストと労力の削減
        • 箱数の削減: 通常、10アールあたり15〜20枚程度の苗箱が必要ですが、高密度播種(乾籾250g〜300g/箱)にすることで、必要枚数を10枚以下(約7〜8枚)に減らすことが可能です。
        • 労働時間の短縮: 苗箱の枚数が減ることで、土入れ、種まき、運搬、苗並べ、水やり、田植え時の苗補給といった一連の作業時間が大幅に短縮されます。特に重労働である苗箱の運搬・並べ作業が半減するのは大きなメリットです。
        • 資材費の圧縮: 苗箱そのものや、培土の使用量も減るため、資材コストの削減にもつながります。
      • 導入時の注意点と失敗リスク
        • 播種精度の要求: 高密度になるほど、種同士が重なりやすくなります。播種ムラがあると、密集しすぎた部分が「苗立ち枯れ病」や「ムレ苗」になりやすくなります。専用の播種機や高精度な設定が必要です。
        • 植え付け本数の調整: 田植え機の掻き取り量を「横送り回数」や「縦取り量」で調整し、1株あたりの植え付け本数を慣行と同じになるように設定する必要があります。これを忘れると、欠株や植えすぎが発生します。
        • 育苗期間: 播種密度が高いため、長期間の育苗には不向きです。過密による徒長を防ぐため、通常より短い育苗日数(稚苗〜中苗手前)で移植するのが一般的です。

        高密度播種(密苗)の具体的な播種量(200-300g)や、慣行栽培と比較したコスト削減効果について解説されています。

         

        参考)https://www.zennoh.or.jp/nt/shared/farming/pdf/backnumber/r2/0513_03.pdf

        10 水稲高密度播種の導入 - 全農

        育苗箱施用剤の残留農薬リスク:後作野菜への影響防止

        最後に、意外と見落とされがちですが、重いペナルティや出荷停止につながりかねない「残留農薬」のリスクについて解説します。これは特に、水稲育苗を行った後のハウスで、野菜などを栽培する場合に重要となる視点です。

         

        • 育苗箱施用剤の「落下」問題

          種まきの際、いもち病や害虫予防のために「育苗箱施用剤(粒剤)」を使用することが一般的です。しかし、育苗箱の底には穴が開いているため、水やりのたびに薬剤成分が溶け出したり、粒剤そのものがハウスの土壌に落下・浸透したりします。

           

        • 後作野菜への吸収リスク

          育苗終了後、そのハウスの土をそのまま耕して小松菜やほうれん草などの野菜を栽培すると、土壌に残留した水稲用農薬成分を野菜が根から吸収してしまうことがあります。

           

          • 登録外使用の扱い: 水稲用の農薬は、当然ながら後作の野菜には農薬登録がない場合が多く、わずかでも検出されれば食品衛生法違反(ポジティブリスト制度違反)となり、回収命令や出荷停止などの重大なペナルティを受けます。
        • 防止対策:シートの敷設

          このリスクを回避するためには、物理的な遮断が最も有効です。

           

          1. 遮水シート(無孔シート)の使用: 育苗箱の下に、水や薬剤を通さないビニールシートを敷きます。根切りネットや通常の寒冷紗だけでは、成分の浸透を防げません。
          2. 育苗場所の固定: 毎年、ハウス内の同じ場所で育苗を行い、そこでは食用作物を栽培しないようにゾーニングすることも一つの手です。
          3. 箱の洗浄: 使用済みの育苗箱を再利用する場合、箱の隅に古い薬剤や保菌土が残っていると、次の苗に病気を移したり、予期せぬ薬害を引き起こしたりする原因になります。使用後は専用の洗浄機やブラシで徹底的に洗い、乾燥・消毒して保管することが、翌年の成功への第一歩です。

        育苗箱処理剤が土壌に残留し、後作作物に影響を与えるリスクと、その対策(シート敷設)について環境省の報告書で言及されています。

         

        参考)https://www.env.go.jp/water/dojo/noyaku/report2/h24/05.pdf

        土壌残留による農薬リスクの管理手法の検討
        実際に育苗ハウスの後作野菜で農薬残留が問題になった事例と、その対応策について詳細に記されています。

         

        参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030901270.pdf

        育苗ハウス後作野菜における農薬残留