育苗箱の種類と選び方:水稲用と野菜用の深さと穴数の違い育苗箱(苗箱)は一見どれも同じように見えますが、底面の形状や穴の数、深さによって用途が大きく異なります。適切な箱を選ぶことは、根の健全な発達と作業効率の向上に直結します。
一般的に水稲用育苗箱の内寸は580mm × 280mmが標準規格となっています。深さは約30mmが一般的ですが、近年注目されている「密苗」や「高密度播種」を行う場合は、培土量を確保するために深さが40mmある深型タイプを選ぶケースが増えています。深型を使うことで、播種量が増えても根が十分に張るスペースと保水力を確保でき、水切れのリスクを軽減できます。
底面の穴の数や形状は、保水性と排水性のバランスを決定づけます。
育苗箱のサイズや種類(稚苗用・中苗用)の特徴と選び方について詳しく解説されています。
参考)【稲の育苗】水稲用の育苗箱の種類と選び方 - のうちくジャー…
【稲の育苗】水稲用の育苗箱の種類と選び方
種まきの手順と覆土の極意:均一な播種と培土の水分量種まきの工程で最も重要なのは「均一性」です。播種量や覆土の厚さが不均一だと、発芽が揃わず、その後の管理が非常に難しくなります。特に大規模なライン作業では、機械の設定と土の状態確認が必須です。
育苗箱に培土を入れますが、このとき重要なのが鎮圧(土を平らにならすこと)です。土の表面に凹凸があると、種が落ちる深さがバラバラになり、発芽のタイミングがずれてしまいます。また、鎮圧不足で土が柔らかすぎると、種が深く沈み込みすぎて酸素不足になり、発芽不良の原因となります。
播種直前の床土には、十分な水分が必要です。目安としては、育苗箱1箱あたり約1リットルの水を含ませます。乾燥した培土にいきなり種をまくと、種が必要な水分を吸えず、発芽スイッチが入らないことがあります。逆に水分過多でドロドロの状態では、播種機が詰まる原因になるため、表面の水が引いたタイミングで播種を行います。
覆土は種を保護し、乾燥を防ぐ役割がありますが、厚すぎても薄すぎてもいけません。
播種時の適切な潅水量(1箱1L)や覆土量の注意点(厚すぎ・薄すぎの弊害)が詳細に記載されています。
参考)水稲育苗培土の種まき方法と管理方法
水稲育苗培土の種まき方法と管理方法
籾殻くん炭を覆土に利用した際の発芽や養分吸収への好影響について研究されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/9/4/9_4_421/_pdf/-char/ja
籾殻くん炭の覆土が有機質肥料を用いた低温期の育苗に及ぼす影響
育苗箱の水やりと温度管理:失敗しない芽出しと徒長対策種まき後の管理は、苗の命運を握ります。特に「出芽機(育苗器)」を使用する場合と、ハウス内で自然出芽させる場合では管理ポイントが異なりますが、共通して「高温障害」と「徒長」には細心の注意が必要です。
種まき後、均一に発芽させるためには30℃〜32℃の温度を維持します。35℃を超えると高温障害(ムレ苗)が発生しやすく、カビや腐敗の原因となります。逆に低温すぎると発芽に日数がかかり、雑菌に侵されるリスクが高まります。
芽が1cm程度伸びたら、箱をハウス内に並べて光を当てる「緑化」の段階に入ります。
育苗中のトラブル(発芽不揃い、根上がり、マット形成不良)ごとの具体的な原因と対策表があります。
参考)水稲育苗における症状別の対策・知恵をご紹介します
水稲育苗における症状別の対策・知恵をご紹介します
高密度播種と密苗技術:育苗コストと労働力の大幅削減近年、農業現場で急速に普及しているのが「高密度播種(密苗・密播)」です。これは、1枚の育苗箱に通常の1.5倍〜2倍以上の種籾をまく技術です。
高密度播種(密苗)の具体的な播種量(200-300g)や、慣行栽培と比較したコスト削減効果について解説されています。
参考)https://www.zennoh.or.jp/nt/shared/farming/pdf/backnumber/r2/0513_03.pdf
10 水稲高密度播種の導入 - 全農
育苗箱施用剤の残留農薬リスク:後作野菜への影響と防止策最後に、意外と見落とされがちですが、重いペナルティや出荷停止につながりかねない「残留農薬」のリスクについて解説します。これは特に、水稲育苗を行った後のハウスで、野菜などを栽培する場合に重要となる視点です。
種まきの際、いもち病や害虫予防のために「育苗箱施用剤(粒剤)」を使用することが一般的です。しかし、育苗箱の底には穴が開いているため、水やりのたびに薬剤成分が溶け出したり、粒剤そのものがハウスの土壌に落下・浸透したりします。
育苗終了後、そのハウスの土をそのまま耕して小松菜やほうれん草などの野菜を栽培すると、土壌に残留した水稲用農薬成分を野菜が根から吸収してしまうことがあります。
このリスクを回避するためには、物理的な遮断が最も有効です。
育苗箱処理剤が土壌に残留し、後作作物に影響を与えるリスクと、その対策(シート敷設)について環境省の報告書で言及されています。
参考)https://www.env.go.jp/water/dojo/noyaku/report2/h24/05.pdf
土壌残留による農薬リスクの管理手法の検討
実際に育苗ハウスの後作野菜で農薬残留が問題になった事例と、その対応策について詳細に記されています。
参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030901270.pdf
育苗ハウス後作野菜における農薬残留