リゾクトニア菌の特徴と農業被害・防除法を徹底解説

リゾクトニア菌の特徴や感染する作物、発病しやすい環境条件をわかりやすく解説します。連作や高温多湿が引き金になると知っていましたか?

リゾクトニア菌の特徴・被害・防除を農家が知るべき理由

リゾクトニア菌を「高温期だけ注意すればいい菌」だと思っていると、地温15℃の春先にも苗が根元からバタバタ倒れる被害を受けます。


🌱 リゾクトニア菌とは?3つのポイント
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胞子を作らない異色の菌

リゾクトニア菌は菌糸と菌核で繁殖・越冬します。一般的なカビとは異なり、胞子による空気感染はほぼなく、土壌伝染が主です。

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500種以上の植物に病原性あり

イネ・ジャガイモ・トマト・キャベツ・レタス・イチゴなど多数の作物が宿主になります。 「特定の作物だけの問題」ではありません。

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菌核は土中に数年間残存

菌核は乾燥にも強く、2〜3年は土壌中に生存します。一度発生した圃場は根絶が困難で、継続的な対策が必要です。

リゾクトニア菌の分類と基本的な生物学的特徴


リゾクトニア菌(学名:Rhizoctonia solani を代表種とする)は、不完全菌類(Deuteromycota)に属する糸状菌(カビの一種)です。ほとんどの菌が胞子を作って増殖するのとは異なり、この菌は主に菌糸と菌核によって繁殖・生存します。つまり空気中を飛散する胞子がほとんどないため、「空気感染しない土壌病原菌」という点が大きな特徴です。


この菌は腐生菌としての側面も持ちます。作物がない時期でも、土壌中の枯れた有機物(未分解残渣など)を栄養源にして生き続けられます。この性質があるため、「作物を作っていないから菌は減っている」という考えは危険です。


菌核の大きさはおよそ1〜3mm程度(ごま粒ほどの大きさ)で、褐色〜黒褐色を呈します。この小さなかたまりが、乾燥状態でも2〜3年間は土中で休眠できるとされています。



  • 学名:Rhizoctonia solani(リゾクトニア・ソラニ)が最も農業上重要な種

  • 菌糸は分岐する際に直角に近い角度(75〜90°)を示す——これが顕微鏡での識別ポイント

  • 胞子(分生子)をほぼ形成しない——土壌伝染・接触伝染が主要感染ルート

  • 腐生能力あり——作物不在でも有機物を分解しながら土中で生存

菌糸が直角分岐するという形態的特徴は、現場での診断に役立ちます。蜘蛛の巣状の白〜褐色の菌糸が地際部に広がっていれば、リゾクトニア菌を疑う根拠になります。


参考:リゾクトニア菌の菌糸形態と各種病害の詳細(植物防疫・日本植物防疫協会)
リゾクトニア菌による病害(日本植物防疫協会 植物防疫)

リゾクトニア菌が引き起こす主な病害と感染作物の一覧

リゾクトニア菌が農業的に問題になる最大の理由は、宿主の幅が極めて広いことです。イネ科・ナス科アブラナ科マメ科キク科など、ほとんどの作物グループに病原性を持ちます。


主な病害と対象作物を以下にまとめます。












































病害名 主な作物 症状の特徴
苗立枯病 トマト、ナス、キャベツレタス全般 茎の地際がくびれて腰折れ・枯死
紋枯病 イネ 葉鞘に褐色楕円〜不正形の斑点が拡大
黒あざ病 ジャガイモ 塊茎表面に黒褐色のかさぶた状病変
尻腐病(すそ枯病) ハクサイ、レタス 地際の葉柄が褐色腐敗・株全体がしおれ
根腐病 ダイコン、ニンジン 根の外皮が褐変・ひび割れ・腐敗
クラウン腐敗 イチゴ 根と茎の境界部(クラウン)が腐れ全株枯死
立枯病(白絹病を含む) 大豆、ネギ 地際の茎が白糸状の菌糸で包まれ腐敗

これだけ多岐にわたります。イネの紋枯病は大発生すると収穫量が激減するとされており、水田農家にとって特に深刻な病害のひとつです。


苗立枯病が怖い点は、発芽直後の弱い苗が標的になるところです。苗が10cm程度(はがきの短辺くらい)に育つ前の段階が最も感染リスクが高く、育苗床での衛生管理が決定的に重要になります。


参考:苗立枯病の原因・症状・農薬情報(施設園芸.com)
苗立枯病の原因と対策!おすすめの農薬と予防方法(施設園芸.com)

リゾクトニア菌の発病を助長する環境条件と土壌要因

リゾクトニア菌の生育適温は15〜30℃とされており、夏だけの問題ではありません。低温菌系統(培養型Ⅱ)では地温18〜22℃、高温菌系統(培養型ⅢB)では25〜30℃でそれぞれ発病力が強まります。つまり春先の地温15℃台でも十分に活性化する系統が存在します。


「気温が下がれば菌も弱まる」が原則ではありません。


発病には温度よりも湿度が大きく影響するという研究データがあります。飽和湿度(湿度100%)の環境では、最高気温が20℃以下でも枯死株が発生する事例が確認されています。水はけの悪い圃場がリスクを何倍にも高めます。


発病が助長される主な条件は以下のとおりです。



  • 🌧️ 高温多湿雨〜初秋(6〜9月)に活動が特に活発化

  • 💧 排水不良・過湿土壌粘土質や低湿地の圃場

  • 🔄 連作:同一圃場での同科作物の反復栽培で菌密度が急上昇

  • 🍂 未分解有機物の多い土壌:未熟堆肥・病残渣が菌の増殖源になる

  • 🌱 苗床・育苗期の過密播種:蒸れが生じやすく感染が一気に拡大

連作については注意が必要です。同じほ場にナスを3年続けて作ると、リゾクトニア菌を含む土壌病原菌の密度が着実に積み上がります。


これが連作障害の正体のひとつです。


参考:連作障害と土壌病原菌・微生物のメカニズム
土壌病害の効果的な防除法(iPLANT 論文誌)

リゾクトニア菌の防除法——農薬・輪作・土壌管理を組み合わせる

リゾクトニア菌の防除は、「農薬だけで解決しようとすること」が最も失敗しやすいパターンです。この菌は土壌伝染性であり、菌核が数年残存するため、農薬は発病を一時的に抑えるツールにすぎません。根本的には土壌管理と組み合わせた総合防除が必要です。


① 輪作による菌密度の低下
異なる科の作物を1〜3年サイクルで栽培することで、菌が利用できる宿主を断ち、自然に密度を下げられます。


輪作が基本です。


② 排水性の改善
高畝(10〜15cm程度の畝立て)や暗渠排水の整備で、根が過湿にさらされる時間を短縮します。


③ 種子・苗の薬剤消毒(予防)
播種前にオーサイド水和剤(チウラム系)などで種子消毒を行うと、苗立枯病のリスクを大幅に低減できます。育苗中のリゾクトニア菌とピシウム菌では有効な薬剤が異なるため、症状から菌種を特定してから薬剤を選ぶことが重要です。


④ 発病後の土壌灌注処理
発病が確認された場合や発病が予測される時期には、リゾレックス水和剤(トルクロホスメチル)やフロンサイドSCの土壌灌注が有効とされています。ただし、リゾクトニア菌とピシウム菌では有効農薬が異なる点に注意が必要です。


⑤ 太陽熱消毒・石灰窒素処理
発病多発圃場では、夏期に灌水後ビニールで被覆する太陽熱消毒が有効です。地温50℃以上を数週間維持することで菌核を死滅させる効果が期待できます。ただし、善玉菌も減少するため、消毒後の有用微生物補充が重要です。



  • 🧫 トリコデルマ菌製剤:根の周りに素早く増殖し、リゾクトニア菌を物理的・化学的に抑制

  • 🦠 バチルス菌製剤:抗菌物質を産生してリゾクトニア菌の活動を阻害し、植物免疫も高める

有用微生物資材はあくまでも土壌バランスを整える補助手段として捉えましょう。資材を入れたから大丈夫、という過信は禁物です。


参考:リゾクトニア菌に有効な農薬一覧と使用方法(JAcom農業協同組合新聞)
野菜の病害防除 土壌病害(4)【防除学習帖】(JAcom)

農家が見落としがちな「リゾクトニア菌の意外な感染ルート」

リゾクトニア菌の感染経路は「土壌中の菌核から」が教科書的な説明ですが、現場では見落とされやすい経路がいくつかあります。知っておくと、思わぬ圃場間での感染拡大を防げます。


まず、長靴の底・農機具・管理機のロータリー刃です。発病圃場を歩いた長靴や、土がついたままの機械を隣の圃場に持ち込むと、菌核ごと移動させることになります。宮城県の病害虫防除所の資料では「長靴の底や作業機械の洗浄を丁寧に行う」ことが明記されています。1台の管理機で複数圃場を作業する農家には特に見落とされがちです。


次に、雑草の問題があります。畑の周辺に生える雑草もリゾクトニア菌の宿主になり得ます。「作物の残渣を除去した」だけでは不十分で、畦畔の雑草残渣が再感染源になるケースがあります。


これは意外ですね。


さらに、未完熟堆肥の投入も感染リスクを高めます。完熟していない有機物は菌の絶好の増殖基盤になるため、完熟堆肥だけを使うことが原則です。堆肥の状態を見極めずに投入すると逆効果になります。



  • 👟 農機具・長靴の泥は圃場をまたぐ前に必ず洗浄する

  • 🌿 畦畔の雑草残渣も定期的に除去・適切に処分する

  • ♻️ 完熟堆肥のみを使用し、未熟有機物の直接すき込みは避ける

  • 🚜 連作圃場で使用した農機具は消毒(70%エタノール噴霧等)が理想

  • 🌱 病株は圃場内に放置せず、速やかに撤去・焼却または袋詰め処分する

「土壌病害だから土の中だけ対策すれば大丈夫」という考えは要注意です。


農作業動線そのものが感染経路になり得ます。


参考:ネギのリゾクトニア病における長靴・農機具由来の感染と防除指導(宮城県病害虫防除所)
ネギのリゾクトニア病 防除資料(宮城県病害虫防除所)




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