塊茎と塊根の違いとは?ジャガイモとサツマイモの肥大と構造

ジャガイモは茎でサツマイモは根?意外と知らない塊茎と塊根の構造的な違いや見分け方を徹底解説。塊根植物のブームで注目される茎と根の曖昧な境界線とは?あなたの育てている植物はどっちのタイプですか?

塊茎と塊根の違い

塊茎と塊根の違い

塊茎と塊根の違いとは?
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塊茎(Tuber)

地下茎が肥大化したもの。表面に「芽(くぼみ)」があり、規則的に配置されている。例:ジャガイモ、里芋。

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塊根(Tuberous Root)

根が養分を蓄えて肥大化したもの。不定芽を出すが、茎のような規則的な節はない。例:サツマイモ、ダリア。

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園芸上のポイント

塊茎は分割しても芽があれば育つが、塊根は芽の出る場所(クラウン)を含まないと繁殖できない場合がある。

塊茎と塊根の構造的な違いと地下茎の役割

 

植物の貯蔵器官として知られる「塊茎(かいけい)」と「塊根(かいこん)」は、見た目は似ていても、その植物学的な起源と内部構造には決定的な違いがあります。

 

私たちが普段何気なく口にしているイモ類や、園芸店で見かける球根植物を観察すると、植物が厳しい環境を生き抜くために獲得した「地下茎」と「根」の進化の歴史を垣間見ることができます 。

 

参考)根茎と塊茎の違い

まず、最も基本的な定義として、塊茎は「地下茎」の一部が肥大化したものであり、塊根は「根」そのものが肥大化したものです 。

 

参考)イモ類の分類~塊茎?塊根?~ - カコモンズ(旧 Nスタディ…

この違いは、植物の内部構造である維管束(いかんそく)の配列に顕著に表れます。

 

植物の茎の断面を観察すると、水分を運ぶ木部(もくぶ)と栄養を運ぶ師部(しぶ)がセットになった維管束が、中心から放射状、あるいはリング状に規則正しく並んでいるのが特徴です 。

 

参考)https://www.ipc.shimane-u.ac.jp/food/kobayasi/experiment%20text_6.pdf

塊茎であるジャガイモの断面にも、この茎特有の構造が見られ、中心部には髄(ずい)と呼ばれる組織が存在します。

 

一方、根の構造を持つ塊根は、中心に木部が集中しており、その周囲を師部が取り囲む、あるいは木部と師部が交互に並ぶといった、茎とは異なる配置をとっています 。

 

参考)理科の最強指導法15 −植物編ー 「根・茎のつくり」|塾講師…

この構造的な違いは、植物としての機能にも影響を与えています。

 

塊茎はあくまで「茎」であるため、表面には葉の痕跡である「節(ふし)」が存在し、そこから規則的に芽を出す能力を持っています 。

 

参考)用語解説 |「食品衛生の窓」東京都保健医療局

ジャガイモの表面にある「くぼみ」は螺旋状に配置されていますが、これは茎につく葉の並び(葉序)と同じ法則に従っています。

 

対して塊根は「根」であるため、本来は葉や芽を作る器官ではありません。

 

サツマイモなどが芽を出す際は、不定芽(ふていが)と呼ばれる、本来の場所ではないところから突発的に作られる芽を利用します 。

 

参考)https://imoshin.or.jp/wp-content/uploads/sp-encyclopedia-chaper2.pdf

このように、塊茎と塊根は、養分を蓄えるという目的は同じでも、その成り立ちと利用する器官が全く異なっています。

 

  • 塊茎(Tuber)の特徴
    • 起源: 地下茎(ストロンなど)の先端が肥大化。
    • 表面: 節(ノード)があり、螺旋状に芽(眼)が配置される。
    • 内部: 茎と同様の維管束配列を持ち、中心に髄がある場合が多い。
    • 代表例: ジャガイモ、キクイモ、アネモネ。
  • 塊根(Tuberous Root)の特徴
    • 起源: 不定根や側根などの根が肥大化。
    • 表面: 節や規則的な芽の配置がなく、不定芽を形成する。
    • 内部: 根と同様の放射状の維管束構造、あるいは複雑な三次肥大成長が見られる。
    • 代表例: サツマイモ、ダリア、キャッサバ

    塊茎の代表ジャガイモと塊根の代表サツマイモの肥大

    私たちが最も身近に接する塊茎と塊根の代表例といえば、やはりジャガイモとサツマイモでしょう。

     

    これら二つの野菜は、どちらも土の中で育つため混同されがちですが、その肥大のプロセスには大きな違いがあります。

     

    ジャガイモの場合、種芋から伸びた茎の地中部分から、さらに「ストロン(匍匐枝:ほふくし)」と呼ばれる横に這う茎が伸びていきます 。

     

    参考)イモ類の塊根と塊茎の見分け方がわかりません>< - 日に当て…

    このストロンの先端部分に養分が蓄積され、風船のように膨らんでできるのが塊茎です。

     

    つまり、ジャガイモは根っこにできているのではなく、土の中に伸びた茎の先に実っているような状態なのです 。

     

    参考)じゃがいもは根っこじゃないってホント?|じゃがいもDiary…

    収穫時にジャガイモがポロポロと簡単に取れるのは、細い茎(ストロン)で繋がっているだけだからです。

     

    一方、サツマイモの肥大プロセスはもっと複雑で、根の細胞分裂がカギを握っています。

     

    サツマイモの苗を植え付けると、土に埋まった節から不定根が伸び始めます。

     

    この不定根の中で、特に中心柱の木化(もくか)が遅く、形成層の働きが活発なものが選ばれて塊根へと発達します 。

    通常の植物の根は、中心の形成層が細胞分裂をして太くなっていきますが、サツマイモのような塊根では、通常の形成層に加えて、その周囲の組織にも次々と新たな形成層(三次形成層)が作られます。

     

    この特殊な細胞分裂によって、根の内部にデンプンを溜め込む柔組織(じゅうそしき)が爆発的に増え、あの丸々とした形に肥大していくのです 。

     

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcs/73/2/73_2_197/_pdf

    サツマイモの断面を切ると、年輪のような模様や、不規則な繊維が見えることがありますが、これは次々と作られた形成層と維管束の痕跡です。

     

    • ジャガイモの肥大メカニズム
      • ストロンの形成: 地中の茎から腋芽(わきめ)としてストロンが伸長。
      • 先端の停止: ストロンの先端の伸長成長が止まり、横方向への肥大が始まる。
      • デンプンの蓄積: 地上部の葉で作られた光合成産物が転流し、先端部に集中的に蓄えられる。
    • サツマイモの肥大メカニズム
      • 不定根の選抜: 多数の根の中から、特定の条件(木化が少ない等)を満たした根だけが肥大を開始する。
      • 異型肥大成長: 通常の維管束形成層だけでなく、木部内や師部周辺に新たな分裂組織が発生する。
      • 環境の影響: 土壌の水分やカリウム量、温度によって、細い根のまま終わるか、立派な塊根になるかが決まる 。​

      このように、ジャガイモは「茎の先端が膨らむ」というシンプルな構造変化であるのに対し、サツマイモは「根の内部組織を作り変える」というダイナミックな細胞レベルの変化を起こしています。

       

      この違いは、栽培時の土寄せの重要性(ジャガイモはストロンを増やすために土寄せが必要)や、植え付け方法(サツマイモは苗を寝かせて不定根を多く出させる)など、実際の農業技術にも直結しています。

       

      塊茎と塊根の芽の有無と繁殖における生存戦略

      植物にとって、塊茎や塊根を作る最大の目的は、厳しい冬や乾季を乗り越えるための「貯蔵」と、次世代を残すための「繁殖」です。

       

      しかし、塊茎と塊根では、その繁殖の戦略、特に「芽」の出し方に大きな違いがあります。

       

      塊茎は茎そのものであるため、最初から次世代のための「芽」が準備されています。

       

      ジャガイモの皮にある「くぼみ」は、植物学的には「節(ノード)」にあたり、そこには休眠した状態の側芽(そくが)が存在しています 。

      このため、ジャガイモは収穫してそのまま置いておくだけで、時期が来れば自然と芽が出てきます。

       

      また、一つの塊茎をいくつかに切り分けても、それぞれの破片に「くぼみ(芽)」が含まれていれば、そこから独立した個体として再生することができます。

       

      これは、栄養繁殖(えいようはんしょく)を行う上で非常に効率的なシステムであり、人類がジャガイモを主要な作物として世界中に広めることができた大きな要因の一つです。

       

      対照的に、塊根を持つ植物の多くは、根自体には最初から芽が用意されていません。

       

      サツマイモやダリアの塊根をよく観察しても、ジャガイモのような規則的なくぼみは見当たりません。

       

      塊根から芽を出すには、根の内部組織が分化し直して、新たに「不定芽」を作り出す必要があります 。

       

      参考)https://www.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20040845.pdf

      サツマイモの場合、塊根の主に「茎に近い側(頭側)」から芽が出やすいという極性がありますが、これは植物ホルモンの流れによるものです。

       

      また、ダリアなどの園芸植物の場合、塊根そのものには発芽能力がないことが多く、塊根の付け根にある「クラウン(茎の基部)」と呼ばれる部分にしか芽が存在しません 。

       

      参考)【雑談】球根は全部で5種類!肥大化する部分によって呼称が違う…

      そのため、ダリアの球根を分ける際には、必ずこのクラウン部分をつけて切り分けないと、いくら立派な塊根を植えても永遠に芽が出ないという悲劇が起こります。

       

      • 塊茎の繁殖戦略(茎モデル)
        • プレハブ方式: 最初から芽(設計図)が各所に配置されている。
        • 分割耐性: どこで切っても芽が含まれる確率が高く、生存率が高い。
        • 即応性: 環境が整えば、既存の芽からすぐに成長を開始できる。
      • 塊根の繁殖戦略(根モデル)
        • 現地調達方式: 必要に応じて組織を変化させ、ゼロから芽を作る。
        • 部位依存性: 芽を作れる場所が限定されていたり(クラウン等)、エネルギーが必要だったりする。
        • リスク: 塊根だけが動物に持ち去られた場合、そこから再生できない種もある(ダリアなど)。

        このように、塊茎は「分散して増える」ことに特化した構造をしており、塊根はあくまで「個体の維持とエネルギー供給」を主軸に置きつつ、必要に応じて繁殖にも利用されるという、やや異なる進化の方向性を持っていると言えます。

         

        塊茎と塊根の見分け方と園芸における重要性

        園芸や家庭菜園を楽しんでいると、正体不明の「球根」に出会うことがあります。

         

        それが塊茎なのか、それとも塊根なのかを見分けることは、その後の管理や植え付け方法を決める上で非常に重要です。

         

        例えば、シクラメンやベゴニア、アネモネなどは塊茎性の植物ですが、ラナンキュラスの一部やダリアは塊根性の植物です 。

         

        参考)なぜ毎年咲く?球根植物の驚くべきメカニズムと生き残り戦略

        これらを混同して管理すると、腐らせてしまったり、花が咲かなかったりする原因になります。

         

        最も確実な見分け方は、表面の「質感」と「芽の出方」を観察することです。

         

        塊茎の場合、表面が比較的ツルッとしているか、あるいはコルク質で覆われており、よく見ると同心円状や螺旋状に小さな突起やへこみ(芽の跡)が見つかります。

         

        里芋やこんにゃく芋を想像すると分かりやすいでしょう。これらは親芋の周りに子芋がつくという増え方をしますが、これも茎が枝分かれする性質の表れです 。

        一方、塊根の場合は、文字通り「太った根っこ」の形をしています。

         

        一本の太い根から細いヒゲ根が出ている様子や、複数の太い根が束になっている様子(ダリアなど)が見られます。

         

        表面には茎のような規則的な模様はなく、肌質はザラザラとして土を噛んでいることが多いです 。

         

        参考)なんで塊”根”植物っていうの?区別がムズい根と地下茎。ジャガ…

        特徴 塊茎(Tuber) 塊根(Tuberous Root)
        表面の様子 節(凹みや線)があり、芽が点在する。 節はなく、全体的にのっぺりしているか、ヒゲ根がある。
        丸っこい、または扁平な塊状。 長細い紡錘形や、分岐した根の形。
        増やし方 芽が含まれるように切り分ける。 芽が出る基部(茎との境目)をつけて分ける。
        主な植物 ジャガイモ、シクラメン、アネモネ、グロキシニア、カラジウム サツマイモ、ダリア、ラナンキュラス、キャッサバ、トリカブ

        園芸における具体的な注意点として、水やりのタイミングが挙げられます。

         

        塊茎植物の多くは、休眠期に塊茎そのものが乾燥しすぎると干からびてしまいますが、過湿には弱く腐りやすい傾向があります。

         

        特にシクラメンなどの塊茎は、上部のくぼみに水が溜まるとそこから腐敗が進むため、底面給水が推奨されるのです。

         

        一方、塊根植物は、貯水能力が非常に高いため乾燥には強いですが、一度腐り始めると内部の組織がスポンジ状に崩壊しやすい特徴があります。

         

        特に輸入された「コーデックス(塊根植物)」などは、見た目は木のように見えても中身は水分を含んだ塊根や塊茎であるため、日本の多湿な夏や寒すぎる冬に管理を誤ると、一気にジュレ状に溶けてしまうことがあります。

         

        自分の育てている植物が、解剖学的に「茎」なのか「根」なのかを知ることは、その植物の弱点や好む環境を理解する第一歩となるのです。

         

        塊茎と塊根の境界が曖昧な塊根植物の不思議

        近年、インテリアプランツとして爆発的な人気を誇る「塊根植物(コーデックス)」の世界では、塊茎と塊根の区別が非常に曖昧で、興味深い現象が起きています。

         

        園芸用語としての「塊根植物」は、根や茎が肥大化して独特のフォルムを持つ植物の総称として使われており、厳密な植物学上の「塊根」だけを指しているわけではありません 。

         

        参考)はじめての塊根植物 - 天気を気にするひとのブロッグ

        この曖昧さは、植物の進化における「茎」と「根」の境界線の連続性を示唆しています。

         

        例えば、塊根植物の代名詞とも言える「パキポディウム・グラキリス」。

         

        丸く肥大した愛らしいボディを持っていますが、植物学的に見れば、あの肥大部分は主に「茎」であり、正確には「塊茎」植物、あるいは幹が肥大する「多肉茎(pachycaul)」植物に分類されるべきものです 。

        実際に株を抜いてみると、肥大したボディの下から普通の細い根が生えているのが分かります。

         

        しかし、同じパキポディウム属でも「ビスピノーサム」などの種は、地中に巨大なタンクのような器官を持っており、これは正真正銘の「塊根」です。

         

        さらにややこしいことに、多くの塊根植物では、種子から発芽した直後の「胚軸(はいじく)」と呼ばれる部分が肥大します。

         

        胚軸は、茎と根の中間に位置する器官であり、これが肥大したものを茎と呼ぶか根と呼ぶかは、成長後の維管束の配列を見なければ判別できないこともあります 。

         

        参考)https://www.asahi-net.or.jp/~dt4k-ynd/caudex01.htm

        • 塊根植物(Caudex)における分類の複雑さ
          • パキポディウム・グラキリス: 肥大部は主に「茎」。棘があり、光合成を行う。
          • アデニウム(砂漠のバラ: 根元から茎にかけて全体が肥大。茎と根の融合型。
          • 亀甲竜(ディオスコレア): 地表にあるゴツゴツした塊は「塊茎」。蔓(つる)を伸ばす。
          • 火星人(フォッケア・エデュリス): 地中から地上にかけて肥大するが、主な貯蔵器官は「塊根」。

          なぜ植物たちは、このように茎だか根だか分からないような肥大化を選んだのでしょうか?
          それは、乾燥した過酷な環境で生き延びるための究極の生存戦略です。

           

          水分を蓄えるタンクが必要な時、ある植物は茎を太らせ、ある植物は根を太らせ、またある植物は胚軸という中間地点を太らせました。

           

          進化の過程では「生き残れるならどっちでもいい」という実利が優先され、その結果として、私たち人間が分類に頭を悩ませるような多様な形態が生まれたのです 。

           

          参考)https://www.modernliving.jp/green-garden/green/a60313729/caudex-agave-raflum-interview/

          塊茎か塊根かという学術的な議論を超えて、そのユニークな姿そのものが、植物のたくましい生命力を物語っています。

           

          もし手元に塊根植物があるなら、その肥大した部分が「土の上にあるか、中にあるか」「トゲや葉の跡があるか」を観察してみてください。

           

          それは、その植物が何万年もかけて選び取ってきた、進化の履歴書なのです。

           

           


          塊茎