ストロンとは除草剤の効果と使い方で雑草の広葉や薬害の注意

ストロンとは何か、その強力な除草効果と正しい使い方を知っていますか?ホルモン型除草剤としての特性や、広葉雑草への劇的な効き目、そして使用時に最も気をつけたい薬害やドリフト対策までを網羅的に解説します。あなたの圃場は大丈夫ですか?

ストロンとは除草剤

ストロン(2,4-D)の基礎知識
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ホルモン型除草剤

植物ホルモンを撹乱し、広葉雑草を異常生長させて枯殺します。

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選択性の高さ

イネ科作物(水稲・芝)には安全で、広葉雑草だけを狙い撃ちできます。

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ドリフト厳禁

微量でも野菜や果樹に付着すると甚大な薬害を引き起こすため注意が必要です。

ストロンとは効果と特徴で広葉雑草を枯らす仕組み

 

農業現場において、長年にわたり信頼されている「ストロン」という名称は、主に「2,4-D(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)」を含む除草剤、特に「2,4-D『石原』アミン塩」などを指す通称として定着しています。この除草剤の最大の特徴は、「ホルモン型除草剤」であるという点にあります。

 

多くの除草剤光合成を阻害したり、アミノ酸合成を止めたりして植物を枯らすのに対し、ストロン(2,4-D)は植物の生長ホルモンである「オーキシン」の作用を過剰に模倣・撹乱します。これにより、散布された雑草は細胞分裂が異常に促進され、茎や葉がねじれたり(ねじれ現象)、奇形化したりしながら、最終的に植物体全体の代謝機能が崩壊して枯死に至ります。このプロセスは「エピナスティ(屈曲反応)」と呼ばれ、散布翌日には茎が曲がり始めるなど、目に見える効果が比較的早く現れるのが特徴です。

 

さらに、ストロンは「吸収移行型」の除草剤です。葉や茎から吸収された成分が、維管束を通って根まで移行するため、地上部だけでなく地下部までダメージを与えることができます。これにより、再生力の強い多年生雑草に対しても高い効果を発揮します。

 

特筆すべきは、その鮮やかな「選択性」です。イネ科植物(水稲、トウモロコシ、芝など)は、この成分を速やかに無毒化する代謝機能を持っていたり、維管束の構造の違いにより成分が殺草作用を示す部位まで到達しにくかったりするため、ほとんど影響を受けません。一方で、広葉雑草(オオバコ、クローバー、タンポポ、アザミなど)は、この成分に対して非常に敏感であり、低濃度でも確実に枯れます。この「イネ科は守り、広葉だけを枯らす」という特性こそが、水稲栽培や芝生管理でストロンが重宝される最大の理由です。

 

メーカー公式の製品情報ページです。2,4-D「石原」アミン塩の登録内容や特徴が詳細に記載されています。

 

2,4-D「石原」アミン塩 - 石原バイオサイエンス

ストロンとは散布時期と希釈倍率で芝生を守る使い方

ストロン(2,4-Dアミン塩)を安全かつ効果的に使用するためには、散布時期希釈倍率の厳守が不可欠です。特に水稲(稲作)と芝生(ターフ管理)では、使用のタイミングを誤ると作物自体に薬害が出るリスクがあります。

 

水稲栽培における使い方
水稲に使用する場合、散布のタイミングは極めて限定的です。一般的には「有効分けつ終止期」から「幼穂形成期前」までの間が適期とされています。

 

  • 早すぎる場合: 田植え直後や分けつ盛期に散布すると、稲の分けつが抑制されたり、根の伸長が阻害されたりして、「オニオンリーフ(葉が筒状になる現象)」などの薬害が発生する恐れがあります。
  • 遅すぎる場合: 幼穂形成期に入ってから散布すると、穂の奇形や不稔(実が入らないこと)の原因となります。

    また、散布時は田んぼの水を落とす「落水散布」が基本です。雑草の茎葉に直接薬剤を付着させる必要があるため、水があると薬剤が薄まったり、雑草が水没して付着しなかったりするからです。散布後は1〜2日間そのまま放置し、成分を吸収させてから入水します。

     

芝生(日本芝)における使い方
高麗芝や野芝などの日本芝に対しては非常に安全性が高いですが、西洋芝(ベントグラスやブルーグラスなど)には激しい薬害が出るため絶対に使用してはいけません。

  • 希釈倍率: 通常、200〜300倍程度に希釈して散布します。展着剤を加用することで、撥水性のある雑草(クローバーなど)への付着率を高めることができます。
  • 散布水量: 1平方メートルあたり約100〜200ml程度が目安です。じょうろや噴霧器を使って、雑草の葉面全体が濡れるように丁寧に散布します。

気温との関係
ストロンの効果は気温に大きく左右されます。気温が高いほど(25℃以上)吸収と移行が活発になり、効果が高まります。
逆に、低温時(20℃以下)では効果が出るまでに時間がかかったり、効き目が甘くなったりすることがあります。春先よりも、初夏から夏場にかけての散布が最も効率的です。ただし、真夏の高温時に高濃度で散布すると、日本芝であっても一時的な黄変(薬害)が出ることがあるため、規定の倍率を守ることが重要です。

 

農林水産省の農薬登録情報に基づく詳細な使用基準です。作物ごとの使用量や時期が確認できます。

 

農薬抄録 2,4-PA(PDF) - 農林水産省

ストロンとは薬害のリスクとドリフト対策で失敗しない

ストロンを使用する上で、農業従事者が最も恐れるのが「ドリフト(飛散)による薬害」です。この除草剤は広葉植物に対して極めて微量でも作用するため、周辺の作物に少しでも霧がかかると、壊滅的な被害をもたらす可能性があります。

 

特に注意が必要な作物
以下の作物は2,4-Dに対する感受性が極めて高く、数百メートル離れていても風に乗って微粒子が届けば被害が出ることがあります。

 

  • ナス科 トマト、ナス(葉が縮れ、果実が変形する)
  • マメ科 ダイズ、エダマメ、インゲン(茎がねじれ、落花する)
  • ウリ科: キュウリ、メロン
  • 果樹: ブドウ、柿(新梢が奇形化する)

ドリフト対策の鉄則

  1. 風のない日に散布する: 微風でも危険です。早朝や夕凪の時間を狙います。
  2. ドリフト低減ノズルを使用する: 粒子を粗くして飛散を抑える専用のノズル(キリナシノズル等)を使用します。
  3. 圧力と高さを調整する: 噴霧圧力を下げ、ノズルの位置をできるだけ地面(雑草)に近づけて散布します。
  4. 緩衝地帯を設ける: 隣接する畑に敏感な作物がある場合は、境界付近の散布を避けるか、遮蔽シートを使用します。

「揮発」による見えないドリフト
2,4-Dには「エステル剤」と「アミン塩」がありますが、ストロン(アミン塩)は比較的揮発性が低いタイプです。しかし、かつて多用されたエステル剤は、散布後に成分がガス化して揮発し、周囲の作物を枯らす「蒸気ドリフト」が問題となりました。現在はアミン塩が主流ですが、それでも閉鎖されたハウス内や極端な高温時には、散布面からの揮発成分が影響を与える可能性があるため、ハウス周辺での使用には細心の注意が必要です。

 

噴霧器の洗浄(重要)
ストロンを使用した後の噴霧器は、「ストロン専用」にするのが理想です。タンクやホースの内側に残留した微量の成分は、水洗い程度では完全に落ちないことがあります。その噴霧器で後に殺虫剤殺菌剤をトマトや大豆に散布すると、残留成分による薬害が発生します。もし共用せざるを得ない場合は、アルカリ性の洗浄剤や専用のタンククリーナーを使って、何度も念入りに洗浄する必要があります。

 

除草剤のドリフト問題と対策について詳しく解説されている技術資料です。

 

農薬飛散低減技術マニュアル - 農研機構

ストロンとは気温と土壌移動性で変わる効きの強さ

多くの除草剤解説ではあまり深く触れられませんが、ストロンの効果を最大化し、かつ環境への負荷を最小限にするためには、「土壌移動性」と「温度依存性」という独自の視点を理解しておく必要があります。

 

土壌中での移動と残留期間
ストロン(2,4-D)は、土壌吸着性が比較的低く、水に溶けやすい性質を持っています。これは、雨が降ると土壌の下層へ移動しやすいことを意味します。

 

  • メリット: 根の深い雑草の根圏まで薬剤が到達しやすいため、深根性の広葉雑草に効き目があります。
  • デメリット: 砂質土壌や水はけの良すぎる土壌では、薬剤がすぐに流亡してしまい、効果の持続期間(通常は約20日間)が短くなることがあります。逆に、地下水位が高い場所では、地下水への影響を考慮する必要があります。

また、土壌中の微生物による分解が速いのも特徴の一つです。好気的な条件(空気が十分にある畑など)では速やかに分解されますが、嫌気的な条件(水田の還元層など)では分解が遅れる傾向があります。次作に広葉作物を植える場合は、散布から十分な期間(最低でも1ヶ月以上)を空け、土壌混和を行って分解を促進させるなどの配慮が必要です。

 

温度係数(Q10)の高さ
前述の通り、ストロンは「高温でよく効く」除草剤ですが、これは植物の生理代謝速度に依存しているためです。

 

  • 低温時の盲点: 15℃以下の低温時に散布すると、雑草の代謝が遅いため、成分が体内に取り込まれても「オーキシン撹乱作用」が十分に発動せず、植物体内で解毒・隔離されてしまうことがあります。この状態で後から気温が上がっても、すでに薬剤が無効化されており、枯れないという現象が起きます。これを防ぐには、「散布後数日間の平均気温」をチェックすることが重要です。散布当日だけでなく、その後数日間暖かい日が続く予報の時に散布するのが、プロのテクニックです。

難防除雑草へのアプローチ
スギナやギシギシなどの難防除雑草に対しては、単用では根まで枯らしきれないことがあります。この場合、葉からの吸収を助けるために、尿素を少量混入したり、あるいは移行性を高めるために展着剤の濃度を少し上げたりといった工夫が現場では行われています(ただし、登録範囲内の使用に限ります)。

 

土壌中での農薬の挙動や分解に関する科学的なデータが参照できます。

 

水質汚濁に係る農薬登録保留基準 - 環境省

ストロンとは石原2,4-Dアミン塩とザイトロンの違い

「ストロン(2,4-D)」と同じく、広葉雑草に効果があるホルモン型除草剤としてよく比較されるのが「ザイトロン(トリクロピル)」です。現場ではどちらを使うべきか迷うことも多いため、その違いを明確に理解しておく必要があります。

 

成分と作用の強さ

  • ストロン(2,4-Dアミン塩): フェノキシ酸系。歴史が長く、安価。一般的な一年生広葉雑草や、一部の多年生雑草に広く効きます。即効性はザイトロンに劣ることがありますが、コストパフォーマンスに優れています。
  • ザイトロン(トリクロピル): ピリジン系。2,4-Dよりもさらに強力な殺草力を持ちます。特に、クローバー(シロツメクサ)、カタバミ、チドメグサといった、2,4-Dでは再生してしまいがちな「マメ科雑草」や「しつこい多年生雑草」に対して、圧倒的な効果を発揮します。また、葛(クズ)などの木本類(樹木の芽)に対しても強い効果があります。

使い分けのポイント

  • コスト重視・一般雑草メインなら「ストロン」:

    オオバコやタンポポ、アザミなどが主体の場合は、経済的なストロンで十分な効果が得られます。水稲の場面ではストロン(2,4-D)が基本です。

     

  • クローバー・難防除雑草メインなら「ザイトロン」:

    芝生の中にクローバーが蔓延している場合や、ストロンでは枯れきらない雑草が多い場合は、ザイトロンを選択します。ただし、ザイトロンは価格が比較的高めです。

     

  • 混用の可能性:

    ゴルフ場のターフ管理などでは、両剤を混用(あるいはMCPPを加えた3種混用)することで、殺草スペクトルを広げ、相乗効果を狙うこともあります。しかし、薬害のリスクも高まるため、専門的な知識と事前の試験散布が必要です。

     

安全性と臭気
ストロン(特に古い製剤やエステル剤)は特有のフェノール臭(薬品臭)が強いものがありましたが、最近のアミン塩製剤は比較的低臭化されています。一方、ザイトロンも臭気はありますが、種類が異なります。住宅地周辺での散布では、効果だけでなく「臭いによる近隣トラブル」も考慮し、散布直後の換気や周知を行うことが、現代の農業従事者には求められるマナーと言えるでしょう。

 

ザイトロンアミン液剤の特徴や、2,4-Dとの使い分けに関する情報が含まれています。

 

ザイトロンアミン液剤 - グリーンジャパン

 

 


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