カブは家庭菜園の中でも比較的栽培期間が短く、初心者でも成果が出やすい野菜ですが、最初の準備段階である「種まきの時期」と「土作り」が成功の8割を決めると言っても過言ではありません。カブは冷涼な気候を好むため、真夏や真冬を除けば栽培可能ですが、最も育てやすく味が良くなるのは秋まきです。
カブの根(正確には胚軸)は、土の中に障害物があると真っ直ぐに伸びず、二股に分かれたり形がいびつになったりする「又根(またね)」の原因になります。プランター栽培の場合も畑の場合も、以下の手順で丁寧に土作りを行いましょう。
プランターで育てる場合は、深さが重要です。小カブや中カブであれば、深さ15cm~20cm程度の標準的なプランターで十分育ちます。60cm幅のプランターであれば、2列の「すじまき」にするのが一般的です。
種まきの際は、深さに注意してください。カブの種は非常に小さい好光性種子(発芽に光を必要とする性質を持つ場合が多いアブラナ科の中では嫌光性ではないが、深植えは厳禁)に近い扱いが必要です。指や木の板で深さ1cm程度の浅い溝を作り、種が重ならないようにパラパラとまいていきます。覆土(ふくど)は種が隠れる程度に薄くかけ、手で軽く押さえて(鎮圧)、種と土を密着させましょう。これにより土中の水分が種に伝わりやすくなり、発芽率が向上します。
サカタのタネによる詳しい種まき手順と栽培カレンダーはこちらが参考になります。
カブ栽培において、最も失敗しやすいポイントが「間引き」です。「せっかく芽が出たのにもったいない」と考えて間引きを怠ると、株同士が栄養を奪い合い、根が太らずに葉ばかりが茂る状態になってしまいます。丸くて美しいカブを収穫するためには、心を鬼にして3回に分けて間引きを行いましょう。
| 回数 | 時期(目安) | 残す株の間隔 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 本葉が1~2枚の頃 | 3~4cm | 葉の形が悪いもの、生育が極端に遅いもの、葉色が濃すぎるものを抜く。 |
| 2回目 | 本葉が3~4枚の頃 | 6~7cm | 生育の良い株を残す。このタイミングで少し土寄せを行い、株を安定させる。 |
| 3回目 | 本葉が5~6枚の頃 | 10~12cm | 最終的な株間を決定。直径10cm以上の中カブ~大カブを目指すなら15cm以上空ける。 |
間引きを行う際は、残す株の根を傷めないように注意が必要です。隣り合う株が近すぎる場合は、引き抜くのではなく、ハサミで地際から切り取るのが安全な方法です。また、間引きの後は株元が緩んでいるため、必ず「土寄せ」を行ってください。胚軸(将来カブになる部分)が地上に露出していると、風で倒れやすくなるだけでなく、緑色に変色して硬くなってしまうことがあります。
追肥(ついひ)のタイミングも重要です。カブは初期生育で葉を作り、後半で根を太らせます。
肥料を与える場所は、葉が広がっている先端の真下あたり(プランターなら株と株の間)です。株元に直接肥料がかかると肥料焼けの原因になるので避けましょう。化成肥料なら1株あたりひとつまみ(約3g~5g)程度が適量です。液肥を使用する場合は、1週間に1回のペースで水やり代わりに与えると効果的です。
肥料過多、特に窒素過多になると、葉ばかりが巨大化して肝心の根が大きくならない「つるぼけ」のような状態になったり、アブラムシが大量発生する原因になったりします。葉の色が濃すぎる緑色の場合は肥料が効きすぎているサインですので、追肥を控える判断も必要です。
タキイ種苗による間引きの図解と詳細な解説は非常に分かりやすいです。
カブはアブラナ科の野菜であり、アブラナ科は「害虫のレストラン」と呼ばれるほど多くの虫に好まれます。特に無農薬や低農薬で育てたい場合、物理的な防御と早期発見が栽培成功の鍵となります。
代表的な害虫とその対策は以下の通りです。
これらの害虫に対する最強の対策は「防虫ネット」です。ポイントは、「種をまいたらすぐに」ネットをかけることです。芽が出てからネットをかけても、すでに土の中に卵があったり、隙間から侵入されたりして手遅れになることが多いです。プランターであれば、すっぽりと覆うカバータイプのネットが便利です。目合い(網目の大きさ)は0.6mm~0.8mm以下の細かいものを選ぶと、キスジノミハムシやアブラムシの侵入もかなり防げます。
病気に関しては、以下の2つに特に注意しましょう。
農薬を使いたくない場合は、自然由来の防除スプレー(お酢や焼酎、トウガラシなどを混ぜたもの)を定期的に散布するのも一つの手ですが、雨で流れてしまうためこまめな散布が必要です。
JAグループによる病害虫防除の基本は、専門的かつ信頼性が高い情報源です。
カブ単体で育てるのも良いですが、相性の良い植物(コンパニオンプランツ)を一緒に植えることで、農薬に頼らずに害虫を減らしたり、生育を促進させたりすることが可能です。これは検索上位の一般的な育て方記事ではあまり触れられない、一歩進んだ栽培テクニックです。
1. カブ × ニンジン(セリ科)
最もおすすめの組み合わせです。カブはアブラナ科、ニンジンはセリ科です。モンシロチョウなどのアブラナ科を好む害虫はセリ科の香りを嫌い、キアゲハなどのセリ科を好む害虫はアブラナ科の香りを嫌います。互いに香りで害虫を混乱させ、寄せ付けにくくする効果(忌避効果)が期待できます。
また、カブは比較的浅い場所に根を張りますが、ニンジンは地中深くへ根を伸ばします。土の中で競合しないため、限られたスペース(プランターなど)を有効活用できるメリットもあります。
2. カブ × レタス・サラダ菜(キク科)
レタス類もモンシロチョウやコナガが嫌う独特の香りを持っています。カブの株間にレタスを植えることで、害虫の飛来を防ぐ効果があります。さらに、レタスは横に広がって育つため、土の表面を覆う「マルチ」のような役割を果たし、土の乾燥を防いで適度な湿度を保ってくれます。カブは水分を好む野菜なので、この保湿効果は生育にプラスに働きます。
3. カブ × カモミール(キク科)
ハーブの一種であるカモミールは「植物のお医者さん」とも呼ばれます。近くに植えるとカブの生育を助け、風味を良くすると言われています。また、アブラムシの天敵であるテントウムシやヒラタアブを呼び寄せるバンカープランツ(天敵温存植物)としての役割も果たします。
注意点:相性の悪い植物
逆に、一緒に植えてはいけない植物もあります。例えば「ネギ類」です。ネギ類の根に共生する菌が、カブの根の成長を阻害したり、風味を悪くしたりする可能性があります。また、キャベツやブロッコリーなどの同じアブラナ科の野菜は、共通の害虫を呼び寄せて被害を拡大させるため、隣同士での栽培は避けたほうが無難です。
コンパニオンプランツの科学的なメカニズムや詳細な組み合わせ例については、以下のサイトが詳しいです。
手塩にかけて育てたカブも、収穫のタイミングを逃すと味が落ちてしまいます。特にカブは「収穫適期」が比較的短い野菜です。
収穫の目安は、地上に出ている根の直径で見極めます。
収穫時期が近づいたら、株元の土を少し指で払いのけて、根の大きさを確認してみましょう。収穫が遅れると、根が割れてしまったり(裂根)、内部がスカスカになる「す(鬆)が入る」状態になったりします。「す」が入ると食感がスポンジのようになり、味も極端に落ちてしまいます。初心者は「もう少し大きくなるかも」と欲張らず、やや若いうちに収穫するのが美味しく食べるコツです。
収穫方法は簡単です。葉の付け根をしっかりと持ち、真上に引き抜くだけです。プランター栽培などで土が固くなっている場合は、無理に引くと葉がちぎれてしまうので、移植ゴテなどで周りの土を少しほぐしてから抜きましょう。
収穫後の保存テクニック
収穫したカブを美味しく保存するための鉄則は、「すぐに葉と根を切り離すこと」です。
スーパーで葉付きのまま売られていることがありますが、あれは鮮度アピールのためであり、保存には適していません。葉がついたままだと、根(食べる白い部分)の水分や養分がどんどん葉に吸い上げられてしまい、根がシワシワになったり「す」が入ったりする原因になります。
収穫の判断基準や「す」が入るメカニズムについては、こちらの記事も参考になります。
Hyponex Plantia:カブの収穫時期と失敗しないポイント