発生後に農薬を散布しても手遅れです。
不完全菌類とは、有性生殖の段階が発見されていない菌類の総称を指します。子のう菌類や担子菌類のように、有性胞子による分類ができないため、便宜的に「不完全菌類」という枠組みでまとめられているのです。
これは決して未発達の菌類という意味ではありません。有性生殖を行わずに、無性生殖のみで効率的に繁殖する戦略を選択した菌類なのです。現在では分子系統解析により、多くの不完全菌類が実は子のう菌類に属することが判明しています。
不完全菌類は酵母状不完全菌綱、糸状不完全菌綱、分生子果不完全菌綱、地衣不完全菌綱に大別されます。このうち農業分野で最も問題となるのが糸状不完全菌綱です。菌糸を伸ばして成長し、分生子と呼ばれる無性胞子を大量に形成して繁殖します。
実は、カビらしいカビのほとんどがこのグループに入るのです。約80,000種以上のカビが確認されており、その多くが不完全菌類に分類されています。つまり、分類学上の便宜的な「未決箱」が、実際には菌類の中で非常に大きな割合を占めているということですね。
農業従事者が日常的に目にする病原菌の多くは不完全菌類です。この分類群への正しい理解が、効果的な防除戦略の第一歩となります。
アオカビ(ペニシリウム属)とコウジカビ(アスペルギルス属)は不完全菌類の代表格です。アオカビには約150種類が存在し、食品の腐敗から抗生物質ペニシリンの生産まで、幅広い役割を持っています。
コウジカビも同様に約150菌種を含む大きなグループで、日本酒・醤油・味噌などの醸造に使われる黄麹菌(Aspergillus oryzae)は「国菌」として認定されています。しかし、同じアスペルギルス属でもAspergillus flavusは強力な発がん物質アフラトキシンを産生するため警戒が必要です。
農業で深刻な被害をもたらす不完全菌類の例として、灰色かび病の病原菌Botrytis cinereaがあります。トマト、イチゴ、キュウリなど多くの作物を侵し、トマトでは発生面積2,477ヘクタールと最重要病害の一つです。生育適温は20℃前後で、湿度95%の条件が8~10時間続くと発病します。
フザリウム属菌(Fusarium)も重要な病原菌群です。トルコギキョウの立枯病では年間8.5億円の被害が推定され、麦類の赤かび病では国内作付面積の2割程度が被害を受けると170億円程度の損失になると試算されています。軽い感染でも5~10%の減収、ひどい感染では50%以上の収穫量損失も報告されているのです。
クロカビ(Cladosporium)やアルテルナリア属も一般家庭から農業現場まで広く見られます。これらは無性生殖で爆発的に増殖するため、一度発生すると短期間で圃場全体に広がる特徴があります。
分生子による繁殖は非常に効率的です。1つの分生子が発芽すれば、数日のうちに数千から数万の新しい分生子を生産できます。この高い繁殖力が、不完全菌類による病害の急速な拡大を引き起こす主要因となっているのです。
不完全菌類の最大の特徴は、分生子による無性生殖です。分生子とは、菌糸の一部が伸びて、その先がくびれてできる特別な胞子のこと。体細胞分裂で作られるため、親と全く同じ遺伝情報を持ちます。
分生子の形成様式は多様です。菌糸から直接分生子が生じる単純な形から、分生子柄という特別な構造を形成してその先端に分生子を作る複雑な形まであります。アオカビでは分生子柄が先端付近で樹枝状に小枝を分岐し、先端に分生子を房状に多数形成します。
コウジカビの分生子柄は放射状に並ぶ特徴的な構造を持っています。顕微鏡で観察すると、まるで花火のように見えることから同定の重要な手がかりとなるのです。
分生子の色や形も種類によって異なります。褐色で縦横斜めに隔壁を持ち先端にビーク(くちばし)があるもの、三日月型のもの、四放射型のものなど実に多様です。この多様性が不完全菌類の分類の基準になっています。
農業現場で問題となるのは、分生子の飛散による二次感染です。風や雨水によって分生子が圃場内に広がり、傷口や気孔から侵入して新たな感染を引き起こします。湿度が高い条件では分生子の発芽率が上がるため、梅雨時期や施設栽培での密閉時に被害が拡大しやすくなります。
分生子の生存期間も長いのが厄介です。乾燥条件下でも数か月から数年間生存できる種類もあり、前作の病原菌が土壌中や資材に残って次作に影響を及ぼすケースも少なくありません。
灰色かび病は施設園芸で最も警戒すべき病害の一つです。花弁や枯死した下葉に病原菌が寄生し、それが果実への伝染源となります。感染した部分は腐敗し、表面に灰色のかびと胞子が密生するのが特徴です。
イチゴでは発病果率が平年で約0.4~1.0%程度ですが、気象条件が悪化すると急速に拡大します。トマトでも葉に褐色の大型円形病斑、茎や葉柄に暗褐色水浸状の円形病斑を生じ、病勢が激しいときには被害部より上の茎葉が枯死します。
赤かび病は麦類の重要病害で、感染した麦は出荷停止となり産地と生産者に大きな経済的損失をもたらします。小麦では開花始め~開花期(出穂期の約7~10日後)、大麦では葯殻抽出期(出穂期の約2週間後)が防除適期です。このタイミングを逃すと効果が大幅に低下するため、適期防除が絶対条件となります。
フザリウム病は土壌伝染性で、一度発生すると連作障害を引き起こします。厚膜胞子という耐久体を形成して長期間生き延びる能力があるため、病原菌が発生した圃場では輪作や作付け体系の見直しが必要です。バナナのフザリウム萎凋病では、キャベンディッシュ品種の栽培地で深刻な被害が報告されています。
これらの病害に共通するのは、発生してからでは防除が困難という点です。病原菌が植物組織内に侵入した後は、予防剤の効果はほとんど期待できません。治療効果のある薬剤も完全に病気を治すことは難しく、被害の拡大を遅らせる程度の効果しかない場合が多いのです。
経済的損失は収量減だけではありません。品質低下による市場価格の下落、出荷停止による機会損失、追加の防除コストなど、複合的な打撃を受けることになります。特に契約栽培の場合、品質基準を満たせないと契約解除のリスクも生じます。
不完全菌類による病害の防除は「予防が9割」という原則を理解することから始まります。病原菌が植物に侵入する前のタイミングで保護殺菌剤を散布し、作物表面をコーティングして侵入を防ぐのが基本戦略です。
発病前・初期からの予防散布が最も重要です。気象条件や予察情報、過去の発生消長を確認して、病気が発生しやすい時期の1~2週間前から散布を開始します。雨の前に殺菌剤を散布するのが効果的で、病原菌の多くが雨を契機として活動を始めるためです。
薬剤のローテーション散布も欠かせません。同じ系統の薬剤を連続使用すると耐性菌が発生しやすくなるため、作用機作の異なる2~3種類の薬剤を交互に使用します。保護殺菌剤のマンゼブ水和剤やダコニール1000などは、幅広い病原菌に効果があり予防散布に適しています。
施設栽培では環境管理が防除の鍵を握ります。循環扇や暖房機を活用して多湿条件を避け、湿度95%以上の状態が長時間続かないようにします。多灌水を避け、朝方に葉面が濡れている時間を短縮することも重要です。
栽培管理では、発病果や枯死した果梗を見つけ次第除去して被害の拡大を防ぎます。これは圃場内の伝染源を減らす最も確実な方法です。剪定や収穫時の傷口が侵入口になるため、作業後は速やかに保護剤を散布します。
土壌消毒も有効な対策です。クロルピクリンくん蒸剤やダゾメット粉粒剤で病原菌密度を減らすことができます。ダゾメット剤の場合、地温が25℃以上なら被覆日数7~10日、20℃なら期間を延ばす必要があります。
完熟堆肥や消石灰の施用は土壌改良に役立ち、発病軽減効果を高めます。未熟堆肥やC/N比の低い未分解有機物を春から夏に施すとフザリウム属菌の土壌中密度が増加するため、秋に施して土作りを行うのが正解です。
無病種子の使用と健全親株からの育苗も基本中の基本です。種子伝染する病害も多いため、温湯消毒済みの種子を選ぶか、自分で種子消毒を行います。
予防散布の薬剤費用は、発病後の治療散布や収量損失と比較すれば遥かに安いコストです。病害防除は手っ取り早い増収・増益の手段であり、適切な予防管理により経営の安定化が図れます。
防除情報は各都道府県の病害虫発生予察情報を活用しましょう。タイムリーな情報により、自分の地域での病害発生リスクを事前に把握できます。
農林水産省の病害虫防除に関する情報ページでは、全国の発生予察情報や防除の基本的な考え方が整理されています。
不完全菌類による病害は決して避けられない災害ではありません。正しい知識に基づく計画的な予防管理により、被害を最小限に抑えることが可能です。発生してからの対応ではなく、発生させない栽培体系を構築することが、持続可能な農業経営の要となります。

【生きた 酪酸菌 “37億個”贅沢配合】 酪酸菌サプリメント クリニック×製薬会社 共同開発 30日分 乳酸菌 ビフィズス菌 国内製造 菌活 オリゴ糖 イヌリン プロバイオティクス プレバイオティクス