病害虫発生予察情報とは、農林水産省や各都道府県の病害虫防除所が発表する、農作物の病気や害虫の発生状況や今後の予測に関する情報のことです。これは農業における「天気予報」のようなもので、いつ、どこで、どのような病害虫が発生しやすいかを知ることで、農家は適切なタイミングで対策を打つことができます。
参考)病害虫発生予察情報を活用して、植物病害虫から農作物を守ろう|…
従来、これらの情報は紙やPDFで配布されることが一般的でしたが、近年ではデジタル化が進み、より迅速かつピンポイントな情報提供が可能になっています。特に、気候変動により過去の経験則が通用しにくい現代において、データに基づいた予察情報の重要性は増しています。
病害虫発生予察情報には、その緊急度や内容に応じて大きく分けて4つの種類があります。これらを正しく区別し、それぞれの発表時にどのようなアクションを取るべきかを知っておくことが、農作物を守る第一歩です。
特に重要なのが「警報」と「注意報」の違いです。これらは似ていますが、求められる対応の緊急度が異なります。
| 種類 | 発表の基準と内容 | 農家に求められる対応 |
|---|---|---|
| 発生予報 |
定期的(月1回程度)に発表され、向こう1ヶ月間の発生予測を示します。平年と比較して「多い」「並」「少ない」などで表現されます |
通常の防除計画の参考にする。平年より「多い」と予測された場合は、早めの準備を心がける。 |
| 注意報 | 警報ほどではないものの、重要な病害虫が多発することが予測される場合に発表されます。 | ほ場をよく見回り、早期発見に努める。いつでも防除ができるように農薬や機材の準備をしておく。 |
| 警報 | 最重要。 病害虫が大発生し、農作物に大きな被害が生じる恐れがある場合に発表されます。 | 直ちに防除を実施する。 または即座に実施できるようスタンバイする。地域全体での一斉防除が必要な場合も多い。 |
| 特殊報 | 新規の病害虫が発見された場合や、従来の予測とは異なる特異な発生現象が見られた場合に発表されます。 | 情報の内容を確認し、行政の指導に従ってまん延防止措置などに協力する。 |
「警報」が出た場合は、すでに被害拡大のリスクが目前に迫っている状態です。一方、「特殊報」は、海外からの侵入害虫が初めて見つかった際などに出されるため、ニュースで取り上げられることも多くあります。これらの定義を理解しておくことで、防災無線やJAの広報誌で情報に触れた際の初動が劇的に早くなります。
以下のリンクは、農林水産省がまとめている全国の警報・注意報の発表状況です。自分の地域でどのような警報が出ているかを確認するのに役立ちます。
病害虫発生予察情報の作成と発表の実務は、主に各都道府県に設置されている「病害虫防除所」が担っています。防除所の職員や調査員が、実際に田畑に入って虫の数を数えたり、予察灯(虫をおびき寄せるライト)にかかった虫の種類を同定したりして、地道なデータを積み上げています。
参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/attach/pdf/index-19.pdf
情報の入手方法は多岐にわたりますが、現代の農家が押さえておくべきルートは以下の通りです。
各都道府県の情報は、地域の気候や作付体系に特化しているため、国全体の情報よりも現場での実用性が高いのが特徴です。例えば、愛知県では「果樹カメムシ類情報」として詳細なPDFを公開しており、地域ごとの飛来数をグラフで見ることができます。
参考)発生予察情報令和7年度 - あいち病害虫情報 - 愛知県
以下のリンクは、全国の病害虫防除所の情報がまとめられているポータル的な役割を果たしています。
新しい時代に向けた病害虫の診断と発生予察(日本植物防疫協会資料)
病害虫発生予察情報を適切に活用することは、単に被害を防ぐだけでなく、経営的なメリット、特に「農薬コストの削減」に直結します。
多くの農家が暦(カレンダー)通りに定期的な防除を行っていますが、予察情報を活用すれば「今年は発生が少ないから、この時期の散布はスキップできる」「来週から急増する予報だから、今のうちに叩いておく」といった戦略的な防除(IPM:総合的病害虫・雑草管理)が可能になります。
参考)愛媛県松山市の生産者が習慣的に利用!病害虫アプリ防除DXアプ…
例えば、カメムシ類のように移動性が高く、いつ来るかわかりにくい害虫の場合、注意報が出たタイミングで一斉に防除することで、地域全体での密度を下げ、個々の農家の被害を最小限に抑えることができます。
これは検索上位の記事にはあまり詳しく書かれていない、最新のトレンド情報です。近年、農林水産省は「農業データ連携基盤(WAGRI)」を通じて、病害虫発生予察情報をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)として公開し始めました。
参考)病害虫発生予察情報:農林水産省
これにより、以下のような革新的なサービスが登場しています。
普段使っている日誌アプリや管理ソフトを開くだけで、自分の畑のエリアに出ている注意報が自動で表示されるようになります。わざわざ防除所のサイトを見に行く必要がなくなります。
過去20年分の気象データと発生予察情報、さらにはユーザーが投稿した「今、ここに虫がいた」というリアルタイム情報をAIが解析し、「6日先」までの病害虫発生リスクを予測するサービスも登場しています。
参考)AIで病害虫発生を予測するアプリ「TENRYO」がJA豊橋に…
従来の予察情報が「県全域」などの広い範囲での予測だったのに対し、こうしたAIアプリは「自分の畑のピンポイントなリスク」を可視化しようとしています。例えば、JA豊橋ではこのシステムを導入し、指導員が個別に管理していた情報をマップ上で共有することで、地域全体の防除タイミングを最適化しています。
スマートフォンのカメラで作物を撮影するだけで病害虫を特定する「診断アプリ(レイミーなど)」と予察情報が連動し、「今、この病気が増えているから、この診断結果の可能性が高い」といったレコメンドが行われるようになりつつあります。
このように、病害虫発生予察情報は「読むもの」から、システムが自動で解析して「教えてくれるもの」へと進化しています。
最後に、情報を受け取った後に現場でどのような判断を下すべきか、具体的な対策フローを整理します。
重要なのは、予察情報を「絶対的な予言」ではなく「リスク管理の指標」として扱うことです。予察情報で「少ない」とされていても、局地的な気象条件(通り雨が多かった、近くに放置された畑があるなど)によっては多発することがあります。
「予察情報で全体傾向をつかみ、最終判断は自分の目で見て下す」。このハイブリッドな姿勢こそが、異常気象時代の農業において最も確実な防除対策となります。