分生子だけ対策しても収量は守れない。
農業現場で「カビが生えた」と表現される白い粉や灰色の塊の正体は、多くの場合、分生子と呼ばれる無性胞子です。胞子という言葉は、菌類が増殖や拡散のために作り出す生殖細胞全般を指す総称であり、その中には有性生殖によって作られる有性胞子と、無性生殖によって作られる無性胞子が含まれています。分生子は無性胞子の代表的なタイプの一つで、菌糸の一部が変形したり分裂したりして形成されます。
胞子には多様な種類が存在しており、有性胞子には子嚢胞子、担子胞子、接合胞子、卵胞子などがあります。一方、無性胞子には分生子のほか、胞子嚢胞子、遊走子、厚壁胞子などが含まれます。つまり分生子という言葉は、「胞子」という大きなカテゴリの中の一部分を表しているということです。
この違いを理解しておかないと、防除計画に大きな穴が生まれます。たとえば灰色かび病やうどんこ病の白い粉状のものは分生子ですが、同じ菌が環境条件によっては有性胞子を形成し、それが土壌中や植物残渣中で越冬することがあるのです。分生子だけを対象にした防除では、翌年の発生源を断つことができません。
胞子全般の働きを押さえることが基本です。
分生子は、菌糸から直接形成される無性胞子であり、その形成方法には大きく分けて「分節型」と「出芽型」の2つがあります。分節型は、菌糸が伸長した後に隔壁が形成され、その隔壁で区切られた各細胞が分生子として分離していくタイプです。一方、出芽型は菌糸の先端や側面から芽のように分生子が形成され、成熟すると離脱するタイプです。
分生子の形状は菌種によって極めて多様であり、球形、楕円形、紡錘形、三日月形、棍棒形など様々な形が存在します。さらに、単細胞のものもあれば、複数の隔壁を持つ多細胞のものもあり、色も無色から褐色、黒色まで幅広く存在します。たとえばAlternaria属菌の分生子は褐色で多細胞、くちばし状の突起を持つ特徴的な形をしており、Fusarium属菌の大型分生子は無色で三日月形をしています。
この多様性は、それぞれの菌が異なる環境条件に適応してきた進化の結果です。たとえば、直射日光に曝される葉の表面では、紫外線から身を守るために褐色や黒色の色素を持つ分生子が多く見られます。逆に葉の裏側では、紫外線の影響が少ないため無色や淡色の分生子が多く形成されます。このような形態の違いは、病害の診断や同定において重要な手がかりとなります。
形態の多様性が診断の鍵になります。
分生子の形成には、温度と湿度が決定的に重要な役割を果たします。多くの植物病原菌では、15~28℃の温度範囲で分生子が形成されやすく、特に20℃前後が最適温度とされる菌種が多く存在します。たとえばキュウリうどんこ病菌の分生子は15~35℃で形成され、最適温度は28℃です。一方、ナスすすかび病菌では15~25℃、特に20℃で最も多量に形成されます。
湿度に関しては、ほとんどの分生子形成に85%以上の高湿度が必要とされます。キュウリうどんこ病菌の場合、湿度45~85%が適湿で、95%以上になると逆に形成が阻害されるという興味深い特性があります。これは菌種によって異なり、べと病菌の分生子柄形成には94%以上の極めて高い湿度が必要とされ、ほとんどの場合、葉の裏側に形成されます。
光条件も分生子形成に影響を与える要因の一つです。多くの分生子は明るい条件下で形成が促進されますが、一部の菌種では逆に暗条件を好むものもあります。たとえば灰色かび病菌の分生子は昼間、特に10~15時に盛んに飛散し、夜間はほとんど飛散しません。このような生態的特性を理解することで、防除の最適なタイミングを見極めることができます。
条件を知れば防除適期が見えてきます。
施設栽培では、湿度管理が分生子形成を左右する重要な要素となります。換気不足や過度の灌水によって湿度が高まると、分生子形成が促進され、病害が急速に蔓延するリスクが高まります。逆に適切な換気や湿度管理を行うことで、分生子形成を抑制し、病害の発生を予防することが可能です。
農業現場で分生子形成を抑制するためには、まず栽培環境の湿度を85%以下に保つことが基本となります。施設内の換気システムを活用し、朝晩の湿度が高まる時間帯には特に注意を払う必要があります。また、紫外線除去フィルムを使用することで、灰色かび病などの分生子形成を物理的に阻害する方法も有効です。
農業における病害管理では、分生子と有性胞子の両方を理解することが不可欠です。分生子は主に生育期間中の二次伝染を引き起こし、短期間で爆発的に増殖して被害を拡大させます。一方、有性胞子は越冬や長期間の休眠に適した耐久性の高い構造を持ち、翌年の一次伝染源となります。
たとえばいもち病では、生育期間中に捕捉される胞子はすべて分生子であり、子嚢胞子は捕捉されません。これは分生子が風や雨によって飛散しやすい構造を持つ一方、子嚢胞子は主に越冬のために形成され、翌春に発芽して新たな感染サイクルを開始するためです。このような生活環の違いを把握していないと、収穫後の残渣処理や翌年の予防対策が不十分になります。
タマネギべと病菌では、卵胞子によって一次伝染し、分生胞子で二次伝染が繰り返されます。卵胞子は土壌中で数年間生存可能であり、輪作や土壌消毒といった耕種的防除が必要になります。しかし分生胞子への対策だけに目を向けていると、土壌中に残存する卵胞子を見逃し、毎年同じ圃場で病害が繰り返し発生することになります。
両方の胞子を押さえないと再発します。
防除薬剤の選択においても、分生子と有性胞子の違いは重要です。予防剤の多くは分生子の発芽や菌糸伸長を阻害する働きを持ちますが、すでに形成された有性胞子に対する効果は限定的です。したがって、生育期間中は分生子対策として予防剤や治療剤を使用し、収穫後は有性胞子の形成を防ぐために残渣処理や土壌消毒を徹底する必要があります。
農業試験場や普及センターが発表する発生予察情報では、主に分生子の飛散状況が報告されます。この情報を活用することで、分生子による二次伝染のピークを予測し、適切なタイミングで薬剤散布を行うことができます。ただし、有性胞子の形成時期や越冬場所については別途調査が必要であり、圃場の観察や過去の発生履歴を踏まえた総合的な判断が求められます。
圃場で病害を診断する際、分生子の形態を正確に観察することは病原菌の同定に直結します。肉眼で確認できる場合もありますが、多くの場合はルーペや顕微鏡を使った観察が必要です。分生子の色、形、大きさ、隔壁の有無、表面の構造などを細かく観察することで、属レベルや種レベルでの同定が可能になります。
葉の表面に白い粉状のものが見られる場合、それがうどんこ病の分生子なのか、灰色かび病の初期症状なのかを見分ける必要があります。うどんこ病の分生子は連鎖状に形成され、白色で粉っぽい外観を持ちます。一方、灰色かび病の分生子は灰色でやや湿り気があり、病斑の表面にビロード状に密生します。このような視覚的な違いを押さえておくことで、現場での迅速な判断が可能になります。
分生子柄や分生子形成細胞の構造も、菌種を特定する重要な手がかりです。たとえばAspergillus属菌(コウジカビ類)の分生子柄は、先端が膨らんで放射状に分生子を配置する特徴的な「分生子頭」を形成します。Penicillium属菌(アオカビ類)では、分生子柄が複数回分枝して筆のような形状になります。このような微細構造は顕微鏡観察によって確認できます。
微細構造が同定の決め手になります。
農業現場で簡易的に観察を行う場合には、携帯型の顕微鏡やルーペが役立ちます。倍率20~100倍程度のルーペでも、分生子の大まかな形や色を確認することができます。より詳細な観察が必要な場合は、病斑部分をテープで採取し、スライドガラスに貼り付けて顕微鏡で観察する方法が有効です。
病原菌の同定が困難な場合は、農業試験場や病害虫防除所に検体を持ち込むことをお勧めします。専門家による正確な診断を受けることで、適切な防除薬剤の選択や防除タイミングの判断が可能になります。
特定非営利活動法人 圃場診断システム推進機構「菌を知らば百戦危うからず」では、植物病原菌の形態的特徴や見分け方について詳細な解説と豊富な写真が掲載されており、分生子の観察や同定に役立つ参考資料となります。
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