定植後20日の予防散布を忘れると翌年の越年罹病株が3倍に増える
タマネギべと病の初期症状を写真で正確に判断できるかどうかが、圃場全体への被害拡大を防ぐ分かれ道です。発生初期の病斑は非常に見つけにくく、気づいたときには既に感染が広がっている場合が少なくありません。
発生初期の症状として最も特徴的なのが、葉の先端や縁から現れる薄い黄緑色の楕円形病斑です。この病斑は境界がぼんやりしており、健全部との区別がつきにくい点に注意が必要です。病斑の大きさは初期段階で1~2cm程度ですが、湿度が高い環境では急速に拡大します。朝露が残る早朝や雨上がりの曇天時には、病斑部の表面にうっすらと白色から灰色のカビが観察できることがあります。これがべと病の病原菌が形成する分生胞子です。
つまり早朝の観察が効果的です。
1400株規模の圃場で初期症状が見られるのはわずか2~3株程度という報告もあり、この段階での発見は容易ではありません。しかし初期発見ができれば、その後の二次感染を大幅に抑制できるため、定期的な圃場観察が重要になります。発見から2~3日経過すると、カビの範囲が広がり、葉の黄化も明確になってきます。胞子が一部黒っぽく変色し始めるのもこの時期の特徴です。
初発生から1週間も経過すると、葉全体の黄化が進み、よく見る「べと病の写真」のような典型的な症状になります。湿度が高いと葉全体にカビが広がり、胞子の色も暗緑色から暗紫色へと変化していきます。症状が進行した葉は淡黄色にしおれて、やがて枯死してしまいます。
葉の黄化は目立つので見つけやすいですが、実際には発生から1週間程度経過している状態です。この段階では既に周辺株への感染が始まっているため、防除効果が限定的になります。初期症状の段階で発見できるよう、圃場の定期巡回時には以下のポイントに注目してください。
📋 初期症状チェックポイント
- 葉先や葉縁のぼんやりした淡黄緑色の変色
- 早朝の葉表面にある白~灰色の粉状のもの
- 健全株と比較して生育が遅れている株
- 葉の湾曲や艶の消失
発見のコツは健全株との比較です。
べと病の初期症状を写真で記録しておくと、次作以降の早期発見に役立ちます。スマートフォンで症状を撮影し、発見日時と天候条件をメモしておくことで、自分の圃場でのべと病発生パターンが把握できるようになります。農薬散布の判断材料としても、過去の発生記録は貴重な情報源となります。
タマネギべと病の初期症状を実際の圃場写真で詳しく解説しているダコニール倶楽部の記事
タマネギべと病が発生しやすい気象条件を正確に理解しておくと、予防散布のタイミングを適切に判断できるようになります。病原菌の活動には明確な温度と湿度の条件があり、これらの条件が揃った時期に感染リスクが急激に高まります。
べと病の病原菌であるPeronospora destructor の分生胞子は、気温6~19℃で形成され、最適気温は13~15℃です。分生胞子の発芽には気温15℃前後、湿度90%以上の条件が必要で、植物体の表面に水滴ができやすい気象条件で感染しやすくなります。曇天や雨天が1~2日続くと、これらの条件が満たされ、感染と発病のリスクが一気に高まります。
温度と湿度の両方が重要です。
季節的には秋から春にかけて感染が起こりやすく、特に10~12月の定植時期と2~5月の生育期が要注意期間となります。3月はやや暖かくなり、5月は平年より気温が高めに推移する年には、べと病の発生が増加する傾向があります。降雨日数、降水量、平均湿度、高湿度日数が多いほど、累積発病株率との間に強い正の相関が認められています。
タマネギべと病には「一次感染」と「二次感染」という2つの感染パターンがあります。一次感染は、前作の罹病株から土壌中に残存した卵胞子が、10~12月頃に苗床や本圃で次作の株に感染する現象です。感染後はしばらく潜伏期間があり、翌年の2~3月頃に発病して症状が現れます。この時期に発病した株は「越年罹病株」または「一次感染株」と呼ばれます。
一次感染株は見た目でわかります。
越年罹病株の特徴は、健全株と比較して草丈が低く、葉全体が厚みを増し、葉が萎縮・黄化してつやがなく、ねじ曲がり、硬くなることです。早春の温暖多湿条件下では、全身に白色のつゆ状または暗紫色のカビを生じます。1000株に数株程度の発生でも、その後の二次感染株の多発につながるため、発見次第すぐに抜き取ることが重要です。
二次感染は、越年罹病株が伝染源となって周辺の株に広がる現象です。2月下旬以降、平均気温が10℃以上になり降雨が続く時期から、越年罹病株の葉表面に灰色~灰褐色の分生胞子が大量に形成されます。これらの胞子は風で飛散し、通常100m程度、強風時にはさらに広範囲に広がります。3~5月に好適な気温となり降水量が多い条件が整うと、二次感染株の発生が増え、急速にまん延します。
二次感染の病斑は葉の一部に形成される局所症状で、淡黄緑色の楕円形から不整形の病斑ができ、病斑部から折れて垂れ下がります。病斑は拡大して灰緑色や灰褐色に変化し、重症化すると葉全体が黄色くなり枯死します。好適条件が揃うと、感染から発病までの潜伏期間は約1週間程度と短く、あっという間に圃場全体に広がってしまいます。
早生タマネギでは3月上旬~4月上旬、中晩生では3月下旬~4月下旬が主要感染期であり、重点防除期間となります。この時期に曇雨天が続く場合は、予防散布を徹底する必要があります。定植後4週間の気象要因として、平均気温、最低気温、降雨日数、降水量、平均湿度、高湿度日数は、累積発病株率と強い正の相関があることが研究で明らかになっています。
つまり定植直後の天候が鍵です。
佐賀県が発行するタマネギべと病防除対策マニュアル(PDF)では発生条件と感染時期の詳細データが確認できます
タマネギべと病の防除で最も重要なのは、感染前からの予防散布を徹底することです。発病してから農薬を散布しても治療効果は限定的で、被害部位の回復は期待できません。そのため予防剤と治療剤の特性を理解し、適切なタイミングでローテーション散布する体系が求められます。
定植直後から定植20~30日後までの初期防除が、べと病対策の最も重要な時期です。この時期の予防散布を徹底することで、越年罹病株の発生を大幅に抑制できます。定植直後の第一次感染時期における予防散布を怠ると、翌年の越年罹病株が増加し、二次感染による被害が拡大する悪循環に陥ります。
定植後20日までが勝負です。
予防効果が優れた農薬として代表的なのがダコニール1000(TPN剤)です。収穫7日前まで使用でき、使用回数は4回以内です。希釈倍数は1000倍で、7~10日おきに散布することで、べと病と灰色かび病を同時に防除できます。気温15℃前後で曇雨天が続く時期には、特に効果を発揮します。
ジマンダイセン水和剤やペンコゼブ水和剤などのマンゼブ剤も、予防用として広く使われています。収穫3日前まで使用可能で、使用回数は5回以内です。2月下旬の二次伝染直前から収穫まで、10日間隔の防除体系で切れ目のない防除を行う際の基幹剤として位置づけられています。
予防剤は感染前に散布します。
治療効果と予防効果を併せ持つ農薬として、ランマンフロアブルがあります。収穫7日前まで使用でき、使用回数は4回以内、希釈倍数は2000倍です。べと病の発生を認めた際の初動対応として、予防散布から切り替えて使用します。ベトファイター顆粒水和剤も治療効果が高く、収穫7日前まで、3回以内の使用で、発病株の治療に効果を発揮します。
近年注目されているのがオロンディスウルトラSCです。定植後14日頃までに使用することで、一次感染を効果的に抑制し、越年罹病株の発生を減らす効果が実証されています。予防効果の持続性が高く、初期防除の省力化に貢献する薬剤として評価されています。
ピシロックフロアブルは予防用で、収穫前日まで使用可能、3回以内の使用制限があります。淡路島のタマネギ産地では、べと病の大発生を抑制した実績があり、ブランド産地を守る重要な薬剤として位置づけられています。
収穫前日まで使える薬剤もあります。
農薬散布の時期別ポイントは以下の通りです。
🗓️ 時期別散布スケジュール
- 11~12月(定植直後):予防剤による初期防除の徹底。オロンディスウルトラSCまたはダコニール1000を散布
- 1月上旬~3月:越年罹病株の発見・除去と定期的な予防散布。マンゼブ剤を軸に7~10日間隔で継続
- 3月中旬~下旬:二次感染防止のため治療剤を数回散布。ランマンフロアブルやベトファイター顆粒水和剤を使用
- 4月~収穫前:重点防除期間。予防剤と治療剤のローテーション散布で感染拡大を阻止
同一薬剤の連用は耐性菌の発生リスクを高めるため、必ず異なる系統の薬剤をローテーションして使用してください。FRAC(殺菌剤耐性菌対策委員会)コードが異なる薬剤を組み合わせることで、耐性菌の発生を予防できます。
ローテーションが耐性菌を防ぎます。
散布方法にも注意が必要です。べと病の病原菌は葉の表面だけでなく、株元にも潜んでいるため、株元まで十分量を散布することが重要です。展着剤を加用することで、タマネギの葉は濡れにくい作物であるため、薬液の付着性と浸透性を高めることができます。薬剤散布後は防除効果の確認を行い、効果が不十分な場合は散布方法や薬剤の選定を見直してください。
タキイ種苗の病害虫図鑑ページではタマネギべと病に登録のある農薬の詳細情報を確認できます
農薬散布だけではタマネギべと病を完全に防ぐことはできません。栽培管理による予防対策を組み合わせることで、べと病の発生リスクを大幅に低減できます。特に連作回避と土壌管理は、一次感染源を減らす上で極めて重要な対策となります。
連作を避けることが、べと病防除の第一歩です。発病した株の葉や根の内部、収穫終了後の残渣の内部には卵胞子が形成されます。卵胞子は高温や乾燥に強く、寿命が長いため、圃場に残ると次作タマネギの伝染源になります。発生の多い圃場での連作を避け、夏期に水田作を行うなど、2年以上栽培の間隔をあけることが推奨されています。
連作すると卵胞子が残ります。
苗床の土壌消毒も効果的な予防対策です。7月の高温時に30日以上、畝の谷部の両端を土でせき止めて水張りをします。次いで8月上旬にせき止めた土を取り、水抜きをして元肥を入れ、ビニールを張り太陽熱消毒を約20日間行います。この方法により、土壌中の卵胞子を大幅に減少させることができます。夏期高温期の湛水処理は、一次伝染の発生を抑制する技術として確立されています。
収穫後の圃場を長期間(45日間以上)湛水する方法も、一次伝染抑制に効果があります。あるいは残渣の腐熟を促進する資材として石灰窒素を施用することで、べと病の一次伝染の発生を抑制できます。タマネギ初作地でも、べと病に罹病したタマネギの収穫後残渣を圃場にすき込むことで一次伝染による発病が見られるため、残渣処理は徹底してください。
残渣処理が翌年を左右します。
発病株の早期除去は、二次感染の拡大を防ぐ最も確実な方法です。越年罹病株や症状が激しい二次感染株を発見したら、速やかに抜き取り、ビニール袋に入れて圃場外に持ち出して焼却または埋没処分してください。抜き取った株を圃場内に放置すると、そこから分生胞子が飛散して周辺株への感染が続くため、必ず圃場外へ持ち出す必要があります。
1000株に数株程度の越年罹病株でも、その後の二次感染株の多発につながります。「数株だけだから」と軽視せず、発見次第すぐに除去することが、圃場全体の被害を最小限に抑える鍵となります。発病株の除去は、農薬散布よりも確実に感染源を減らせる対策です。
数株でも必ず抜き取ります。
適切な肥培管理もべと病の発生を抑制します。肥料過多で葉がたくさん茂った状態だと、圃場内の湿度が高まり、べと病が発生しやすくなります。また肥料が多すぎて茎葉が柔らかくなっている場合、べと病菌が容易に表皮に侵入しやすく、菌糸を伸ばしやすくなります。窒素肥料の過剰施用を避け、バランスの取れた施肥設計を心がけてください。
健全な苗を育てることも重要です。病原菌への抵抗性は、株の栄養状態に大きく影響されます。育苗期から適切な水分管理と施肥を行い、徒長させずに充実した苗を育てることで、定植後の病気への抵抗性が高まります。播種前の種子消毒も、種子伝染を防ぐ有効な手段となります。
圃場の排水性改善も見逃せません。水はけの悪い圃場では、降雨後に土壌の過湿状態が続き、べと病の発生が助長されます。明渠や暗渠の設置、高畝栽培などで排水性を改善することで、土壌の過湿を防ぎ、べと病の発生リスクを低減できます。
排水対策も感染リスクを下げます。
有機栽培を行う場合は、銅剤や微生物農薬の活用が選択肢となります。炭酸水素ナトリウム・無水硫酸銅水和剤は、二次感染株に対する防除効果が最も高いとされています。Zボルドーなどの銅剤も、有機栽培で使用可能な予防剤として位置づけられています。ただし有機栽培では化学合成農薬ほどの防除効果は期待できないため、予防対策と栽培管理をより徹底する必要があります。
アルム農材の記事では有機栽培におけるべと病への対処法が詳しく解説されています
べと病が発生してしまった圃場では、収穫時期の判断と収穫後の処理が重要になります。病気の進行度合いによって、収穫物の品質や保存性が大きく変わるため、適切な判断が求められます。また農家にとって気になるのが、べと病にかかったタマネギは食べられるのかという点です。
べと病が発生したタマネギでも、球根部分が健全であれば食用として問題ありません。べと病はカビ(糸状菌)による病気ですが、人体に有害な毒素を産生する病害ではないため、洗浄して調理すれば安全に食べられます。実際にべと病が発生したタマネギを食べた事例でも、味や体調に問題はなかったという報告があります。
球根が健全なら食べられます。
ただし葉がヌメヌメしている場合や、病斑が球根表面まで広がっている場合は注意が必要です。外皮を数枚むいて、内部の白い部分が健全であることを確認してから使用してください。球根表面に淡黄緑色の斑点が現れ、拡大して褐色に変色している場合は、その部分を除去すれば残りの部分は利用できます。
問題は保存性です。べと病が発生したタマネギは、健全なタマネギと比較して保存期間が大幅に短くなります。病原菌が球根内部で活動を続けるため、保存中に腐敗が進行しやすくなります。そのためべと病が発生したタマネギは、早めに消費するか、早期に出荷して長期保存を避ける判断が必要です。
保存には向きません。
収穫時期の判断は、病気の進行度合いによって変わります。葉の黄化や枯死が進行している場合、それ以上の球肥大は期待できないため、早めに収穫して被害の拡大を防ぐ選択肢があります。一方で葉がまだ青々としており、球肥大の余地がある場合は、農薬散布で病気の進行を抑えながら、もう少し生育を待つ判断もあります。
収穫間際にべと病が出てしまった場合、収穫を急ぐべきか悩むところです。べと病は玉ねぎが腐る病気ではないため、サイズを気にしなければ美味しく食べられます。小さな玉ねぎでも、丸ごと料理に使えたり、乾燥しやすく、保存しやすいというメリットもあります。ただし出荷用の場合は、規格サイズに達していないと販売価格が大幅に下がるため、経済的損失を考慮した判断が必要です。
サイズが小さくても食用OKです。
収穫後の処理も重要です。べと病が発生した圃場から収穫したタマネギは、健全なタマネギと分けて保管してください。混在させると、保管中に病原菌が健全なタマネギにも移る可能性があります。また収穫後の圃場には、病原菌の卵胞子が大量に残存しているため、残渣処理を徹底する必要があります。
収穫後の残渣をそのまま圃場にすき込むと、卵胞子が土壌中に残存し、次作の一次感染源となります。残渣は圃場外に持ち出して焼却するか、収穫後の圃場を45日間以上湛水して卵胞子を不活化させる処理が推奨されています。あるいは石灰窒素を施用して残渣の腐熟を促進し、卵胞子の密度を下げる方法も効果的です。
次作のために残渣処理します。
べと病が多発した圃場では、次作のタマネギ栽培は避けるべきです。どうしても同じ圃場で栽培する必要がある場合は、夏期の太陽熱消毒や湛水処理を徹底し、土壌中の卵胞子密度を可能な限り下げてから栽培を開始してください。べと病の発生履歴がある圃場では、定植直後からの予防散布をより徹底する必要があります。
出荷する際の注意点として、べと病が発生したタマネギは外観品質が低下しているため、正直に申告して販売価格を調整するか、加工用として出荷する判断が必要です。消費者に対して誠実な対応をすることが、長期的な信頼関係を築く上で重要となります。
べと病が大発生したタマネギの収穫後の処理方法を解説した動画では実際の対処法が確認できます
Please continue.