農薬を地上散布しても、フザリウム菌には一切効きません。
参考)野菜の病害防除12 土壌病害(2)【防除学習帖】第58回|防…
フザリウム菌(Fusarium spp.)は、土壌中に生息する糸状菌(カビ)の一種です。 植物の根や茎元から侵入し、導管を詰まらせて水分・栄養の通り道を塞ぐことで、作物が急激に萎れたり枯死したりします。kabi-mist+1
被害が怖いのは、症状が出る頃にはすでに手遅れになっていることが多い点です。
主な病害の種類と対象作物を整理しておきましょう。
フザリウム菌には「宿主特異性」があります。 つまり、トマトに感染する系統とイチゴに感染する系統は別物であり、作物ごとに菌種が異なります。この特性を理解することが、防除農薬を正しく選ぶ第一歩です。
参考)近年増加する土壌病害虫〜フザリウム属菌による病…
発病しやすい条件として、地温25〜27℃・酸性土壌(pH低め)・排水不良の圃場が挙げられます。 地温が33℃を超えると逆に発病率が下がるため、ハウス栽培では太陽熱消毒が有効な理由もここにあります。
参考)フザリウム菌から農作物を守ろう。病気の見分け方や防除の方法
まず「自分の圃場がフザリウムのリスクにさらされやすい環境かどうか」を確認することが基本です。
農薬取締法では、登録を受けた農薬を「登録された作物・使用方法・使用時期・使用量」の範囲でのみ使用しなければなりません。 フザリウム菌は土壌病害であるため、葉・茎への地上散布はほぼ無効です。
参考)農薬コーナー:農林水産省
使用できる主な農薬剤型と使い方を下表で確認しておきましょう。
| 使用方法 | 代表的な場面 | 主な農薬例 |
|---|---|---|
| 土壌灌注 | 定植後の根域への浸透 | ベンレート水和剤 |
| 種子粉衣・種子浸漬 | 播種前の種子消毒 | 各種殺菌剤登録品(作物別に確認) |
| 土壌混和 | 定植前の圃場全体処理 | 各種殺菌剤(フルジオキソニル等) |
| 土壌くん蒸 | 連作圃場のリセット | クロルピクリン剤、ディトラペックス剤 |
ベンレート水和剤(有効成分:ベノミル)は、水稲・野菜・果樹など幅広い作物に登録があり、浸透移行性によって予防と治療の両面に働きます。 種子伝染性病害や土壌病害にも効果があるため、フザリウム系の苗立枯病予防として育苗期に活用するケースが多い農薬です。
参考)https://www.greenjapan.co.jp/benreto_s.htm
新規成分としては、SDHI系統のアデピディン®を含む「ミラビスフロアブル」がフザリウム属菌・麦類赤かび病に対して極めて優れた効果を示すとして注目されています。
参考)ミラビスフロアブル|シンジェンタジャパンの農業用製品(殺虫剤…
つまり、農薬選びは「使用する作物」「病害の種類」「使用タイミング」の3点が条件です。
農薬を選ぶ際は、農林水産省が提供する「農薬登録情報提供システム(FAMIC)」で必ず確認しましょう。作物ごとに登録内容が異なるため、他の農家が使っている農薬をそのまま流用するのは違反になる可能性があります。
同じ系統の殺菌剤を繰り返し使い続けると、農薬が効かなくなる耐性菌が発生します。 これは農家にとって非常に大きなリスクです。
参考)https://www.croplifejapan.org/assets/file/labo/jfrac/measures/measures_pdf01.pdf
耐性菌が一度発生すると、その農薬は事実上「使えない農薬」になります。
フザリウム菌でも、ベンズイミダゾール系(ベノミル・チオファネートメチル等)に対する耐性菌の出現が報告されており、一部の圃場では防除効果が著しく低下しています。 こうした状況を避けるために、作用機作(MOA)の異なる農薬を計画的にローテーションして使うことが求められます。
ローテーション防除の基本ルールを以下に整理します。
生物農薬としては、バチルス菌(Bacillus subtilis)を有効成分とした資材がフザリウム菌の活動を抑制する抗菌物質を産生するとして知られています。 化学農薬と生物農薬を組み合わせることで、耐性菌リスクを下げながら防除効果を維持できます。
参考)https://note.com/gentle_thyme2834/n/ndf5b9eaddec1
これは使えそうですね。
農薬ローテーションの計画は、JAの営農指導員や農業改良普及員に相談するのが最も確実です。使用履歴を記録しておくと、耐性菌の発生リスクを後から見直す際に役立ちます。
殺菌剤耐性菌発生リスクを低減するために(CropLife Japan)|ローテーション防除の考え方を詳しく解説
フザリウム菌対策は、農薬だけに頼らないことが重要です。土壌消毒・環境改善・輪作を組み合わせることで、農薬の使用量自体を削減できます。
参考)https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/noken/kennkyuuhoukoku/documents/tokubetsu_06_1.pdf
代表的な土壌消毒の方法と特徴を比較しましょう。
| 方法 | 特徴・注意点 | 適した条件 |
|---|---|---|
| クロルピクリン剤くん蒸 | 菌密度を強力に低下させるが、ガス抜き期間が必要 | 連作障害が深刻な露地・ハウス圃場 |
| 太陽熱消毒 | ハウスに透明マルチを張り地温を60℃以上に上げる。農薬不使用 | 夏季・ハウス栽培 |
| 土壌還元消毒 | 水と有機物で嫌気状態を作り菌を死滅させる | 湛水可能な圃場 |
| 石灰・転炉スラグによるpH矯正 | 土壌pHを中性〜アルカリ性にするとフザリウム発病を抑制 | 酸性土壌圃場 |
ここで注意が必要なのが、有機物の施用方法です。完熟堆肥や鶏糞は土壌微生物の多様性を高め、フザリウム菌の密度を下げる効果があります。 しかし未熟堆肥や未分解の有機物を施用すると、フザリウム菌の厚膜胞子の発芽を逆に促してしまい、菌密度が増加して発病がかえって多くなります。
良かれと思った有機物施用が逆効果になる場合があります。
フザリウム病が発生している圃場では、完熟かどうか確認できない有機物の投入は控えるのが原則です。土壌診断を行って現状を把握してから対策を組み立てましょう。
また、抵抗性品種や抵抗性台木の導入も有効な選択肢です。 特にトマトやキュウリでは、フザリウム菌に抵抗性のある台木が複数市販されており、接木苗を利用することで農薬使用量を大幅に削減できるケースもあります。
AgriFuture Web|フザリウム属菌による病害と土壌消毒の代表的な方法を詳しく解説
同じフザリウム菌が同じ密度で存在していても、発病しやすい圃場と発病しにくい圃場があります。 これは「発病抑止土壌」と呼ばれる現象で、土壌中の微生物バランスが病害の発生を自然に抑えている状態を指します。
意外ですね。農薬よりも「土の質」が防除のカギになることがあります。
農研機構(NARO)は、土壌伝染性フザリウム病の被害軽減技術に関する研究成果集を公表しており、農薬・耐病性品種・生態的防除(輪作・有機物管理)を組み合わせた総合的な管理が最も効果的であると報告しています。 単一の農薬に依存せず、土壌生物性を高める方向での管理が長期的な防除効果につながります。
参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/tarc/059728.html
発病抑止土壌を維持・強化するために取り組める実践的な方法を挙げます。
フザリウム菌は一度土壌に定着すると、胞子の形で数年から十数年にわたって生存し続けます。 農薬だけで根絶することは事実上できません。
これが基本です。
長期的な視点で土壌の生物性を高め、菌が優占しにくい圃場環境を維持することが、農薬コストを下げながら安定した収量を確保するための本質的な戦略です。
農研機構|土壌伝染性フザリウム病の被害軽減技術に関する研究成果集(フザリウム病の総合防除戦略の概要)
JAcom農業協同組合新聞|野菜の土壌病害防除(フザリウム登録農薬一覧・有機物施用の注意点を詳解)