種子伝染性病害とは何か農家が知るべき防除法

種子伝染性病害とは何か、その仕組みや代表的な病原体の種類を解説します。ばか苗病・いもち病など身近な病害の伝染経路と、温湯消毒・種子更新など実践的な防除策を農業従事者向けにまとめました。あなたの農場は正しい対策が取れていますか?

種子伝染性病害とは・農家が知るべき防除の基本

自家採種を繰り返すだけで、2〜3年後に収量が壊滅的に落ちることがあります。


種子伝染性病害とは?3つのポイント
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定義:種子を介して広がる病害

糸状菌・細菌・ウイルスなどの病原体が種子に付着・潜伏し、発芽後の作物へ感染する病害の総称です。

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主な対象作物:イネ・ムギ・ダイズ

日本国内で生産量の多い普通作物を中心に発生しやすく、放置すると収穫量・品質が大幅に低下します。

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対策:温湯消毒と種子更新が基本

60〜62℃の温湯で10分処理することで最大99%の防除効果が得られ、農薬を使わないクリーンな防除が可能です。

種子伝染性病害とは何か:定義と伝染の仕組み


種子伝染性病害とは、糸状菌・細菌・ウイルスなどの植物病原体が種子に付着・混合、あるいは種子の内部に潜伏して伝播する病害のことです。 病原体が種子表面に付着する「外部付着型」と、種子の内部組織に入り込む「内部潜伏型」の2つに大きく分けられます。


参考)http://jppa.or.jp/onlinestore/shuppan/images-txt/2024/2024_0606.pdf


外部付着の場合は種子消毒で比較的取り除きやすい一方、内部潜伏型の病原体は消毒処理をしても完全には排除しにくいのが特徴です。 病原体は発芽・生育の過程で植物体に感染を広げ、収穫量の減少や品質の低下を引き起こします。つまり「種子を植えた瞬間から、病害リスクも一緒に植えている」という状態になりえます。


参考)種子伝染(しゅしでんせん)


感染経路をもう少し細かく見ると、以下の3種類に分類できます。


病害の発生リスクは「どの経路で感染しているか」によって防除方法が変わります。


これが基本です。


種子伝染性病害の代表例:イネ・ムギ・ダイズの主な病害

日本の主要作物を中心に、種子伝染性病害として農業現場に最も大きな影響を与えてきた病害を確認しておきましょう。


🌾 イネの主な種子伝染性病害

病害名 病原体の種類 主な症状
ばか苗病 糸状菌(Fusarium fujikuroi)

苗が異常に徒長・枯死
参考)https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/365012.pdf

もみ枯細菌病 細菌 苗期に葉鞘が褐変・腐敗
いもち病 糸状菌(Pyricularia oryzae)

葉・穂に褐色の病斑
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphytopath1918/67/1/67_1_26/_pdf

ごま葉枯病 糸状菌(Cochliobolus miyabeanus)

葉にごま状の褐色斑点
参考)【植物の病害あれこれ】穀類の病気まとめ①イネ編。病害の特徴や…

心枯線虫 線虫

籾の内部で線虫が増殖・品質低下
参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/555244.pdf

特に注意が必要なのがばか苗病です。 発病した圃場の稲ワラ・もみ殻米ぬかすら伝染源になり、翌年の育苗箱・作業場経由で感染が広がります。 発生後の有効な防除方法はなく、「発見=手遅れ」になりやすい病害です。


参考)Object moved


🌿 ムギ・ダイズの主な種子伝染性病害

ダイズ萎縮病の種子伝染率は品種によって30〜100%という幅があります。 つまり、品種選択そのものが種子伝染リスクの大小を左右するということですね。



農業資材サイト「農薬・資材.com」では各病害の詳細な症状や対策農薬情報が確認できます。


種子伝染(しゅしでんせん)の概要|農業資材の紹介サイト

種子伝染性病害の防除法:温湯消毒と農薬消毒の比較

種子伝染性病害の防除において最も重要なのが、「播種前の種子消毒」です。 病原体の第一次伝染源を播種の時点で断ち切ることで、圃場全体への拡散を最小限に抑えられます。


参考)https://www.ktpps.org/pdf/journal/50(2003)_body_01.pdf


農薬を使わない「温湯消毒(おんとうしょうどく)」は、60〜62℃の温湯に種籾を10分間浸漬する方法です。 北海道農業研究センターのデータでは、62℃・10分間処理でばか苗病に対して99%の防除効果が確認されています。 農薬の茎葉散布に比べ、種子1粒あたりの農薬付着量が100〜1000分の1ほどに抑えられる点も評価されています。jstage.jst+2
ただし、温湯消毒には注意点があります。


化学農薬を使う場合、殺菌剤を種子に直接コーティングする「種子処理剤」が一般的です。 地上部への茎葉散布と比べて少量の農薬で広範囲に対応できるのが利点ですが、登録農薬の適用範囲を必ず確認する必要があります。patents.google+1
温湯か農薬か、どちらが絶対にいいというわけではなく、病害の種類・作物・農薬使用の方針に合わせて選ぶのが基本です。


種子更新で種子伝染性病害を防ぐ重要性

種子伝染性病害の蔓延を長期的に防ぐ上で、「種子更新」は非常に重要な手段です。 自家増殖(自家採種を繰り返すこと)は、品質管理が行き届かないまま病原体が世代を超えて種子に蓄積するリスクを高めます。


参考)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000920320201117004.htm


広島県立総合技術研究所の調査では、新しく線虫感染率の低い種子を購入してから栽培を繰り返すと、2〜3年で線虫の大発生が起こりやすいと報告されています。 これは、自家採種での循環が病原体密度を指数的に高める典型的な事例です。


意外ですね。



種子更新を実践する際のポイントは以下の通りです。


  • JA等の認定種子を利用:種子伝染率が管理された公的機関由来の種子を使う
  • 自家採種種子との混用を避ける:消毒・浸種・保管の段階でJA購入種子と自家採種種子を一緒にしない
  • 県外産種子に注意:県外産の種子にはばか苗病菌等が付着している可能性があり、感染リスクが高まる
  • 毎年の更新が理想:水稲では種子更新率が年々向上しており、三重県のデータでは平成5年時点でも56%に達していた

    参考)https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000167637.pdf


種子更新にはコストがかかります。しかし、発病後の防除コストや収量減損と比べると、事前投資としての費用対効果は非常に高いといえます。


これは使えそうです。


農水省では種子生産に関わる法令・制度の情報も整備されています。防除対策の制度的背景を確認したい場合はこちらが参考になります。


農林水産省 病害虫の防除に関する情報|農林水産省

種子伝染性病害と国際検疫:見落とされがちな輸入種子のリスク

国内の自家採種や農薬管理に注目が集まる一方で、「輸入種子経由の病原体侵入」は農業従事者にとってまだ意識が低いリスクの一つです。


植物防疫法では、種子伝染性病害を引き起こす病原体を含む「検疫警戒有害植物」を指定し、国内への侵入を厳重に警戒しています。 イネ・ムギ・ダイズのように国内でほとんどの種子を生産する「普通作物」と異なり、野菜・花き類は海外から種子を輸入するケースが多く、国際的な感染リスクが異なります。


国際的な観点では、次のような点が重要です。


  • 新種の病原体侵入リスク:国外で猛威を振るう病原体が種子とともに国内に持ち込まれると、国内に天敵が存在せず一気に蔓延する可能性がある

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpestics/28/4/28_440/_pdf


  • 種子会社による事前消毒の重要性:野菜・花きでは農家が個別消毒するのではなく、種苗会社側が流通前に消毒を行う形態が主流になっている
  • FAO・ISPMの基準:国際植物防疫条約(IPPC)のもと、種子の検疫基準が国際的に設けられており、輸出入の際には相手国の植物検疫証明書が必要

国内農業だけを見ていると気づきにくい視点です。 輸入資材(特に野菜・花き向け種子)を使用している農家は、種苗会社の消毒済み証明を必ず確認する習慣をつけておくことが大切です。


病害の国際動向については、日本植物防疫協会が継続的に情報を発表しており、最新の種子伝染性病害の動向を調べる際に役立ちます。


水稲における種子伝染性病害防除の現状と種子無病化への試み|日本植物防疫協会




種子伝染性病害の管理・研究・制御: 国際ワークショップの報告から