ミラビスフロアブル(500mlボトル)を導入する際、最も気になるのがその初期コストです。2025年現在の農薬通販市場を調査したところ、1本あたりの価格相場は税込5,600円〜6,500円のレンジで推移しています 。
参考)【農薬通販.jp】ミラビスフロアブル(500ml) 商品合…
地元のJAや農薬店で購入する場合とネット通販を比較すると、通販の方が単価が安い傾向にありますが、ここで注意すべきは「送料」の存在です。多くの通販サイトでは、1万円以上の購入で送料無料となるケースが多いため、ミラビスフロアブルを単体で1本だけ購入すると、送料(800円〜1,000円程度)が加算され、結果的に地元の店舗より割高になる可能性があります 。
参考)ミラビスフロアブル 500ml【有効期限2026年10月】 …
賢い買い方としては、赤かび病防除のシーズン前に、展着剤や他の除草剤とまとめて「送料無料ライン」までまとめ買いすることです。また、有効期限は比較的長いため(通常3〜4年)、翌年分を含めて2本購入するという手もあります 。一部のサイトでは「4本セット」などのまとめ売りで単価を下げているケースもあるため、作付け面積が2haを超える農家はセット購入を検討すべきでしょう 。
「1本6,000円」と聞くと、従来の殺菌剤(トップジンMなど)と比較して「高い」と感じるかもしれません。しかし、農薬のコストはボトル価格ではなく、「10アール(1反)あたりいくらかかるか」で判断する必要があります。ミラビスフロアブルのコストパフォーマンスを計算してみましょう。
ミラビスフロアブルの標準的な使用方法は以下の通りです 。
参考)https://www.zennoh.or.jp/me/farming/agri-info/pdf/2025_mugi_koyomi.pdf
例えば、2000倍希釈で10aに100L散布する場合、必要な薬剤量はわずか50mlです。
500mlボトル1本で、なんと100アール(1ヘクタール)分の散布が可能になります。
これを金額に換算すると。
比較対象として、安価な汎用殺菌剤(トップジンM水和剤など)を例に挙げると、10aあたり約300円〜400円程度で済む場合が多いです 。確かにミラビスは倍近いコストがかかりますが、後述する「効果の確実性」や「再散布のリスク低減」を考慮すれば、この差額(1反あたり約200〜300円)は十分に回収できる投資と言えます。特に、防除失敗による等級低下(赤かび粒混入)のリスクを考えれば、決して高い保険料ではありません。
赤かび病防除において、薬剤費そのものよりも恐ろしいのは「防除効果が不十分で、DON(カビ毒)基準値を超過してしまうこと」です。基準値を超えた小麦は食用として流通できず、大幅な減収、あるいは廃棄処分という最悪の事態を招きます。
ミラビスフロアブルの有効成分「ピジフルメトフェン(アデピディン®)」は、赤かび病の原因菌であるフザリウム属菌に対して、既存剤とは異なる強力な結合力を持っています 。特に注目すべきは、「耐雨性」です。
参考)ミラビスフロアブル|シンジェンタジャパンの農業用農薬(殺虫剤…
メーカー試験によると、散布後わずか1時間で雨が降っても、高い防除効果が維持されることが確認されています 。
参考)ミラビスフロアブル
日本の麦類防除時期(4月〜5月)は、天候が不安定になりがちです。「散布した直後に夕立が降ってしまい、効果が落ちたかもしれないから再散布する」という経験はないでしょうか?この「再散布」にかかる人件費と燃料代、そして薬剤代の二重払いを考えれば、最初から雨に強いミラビスフロアブル(10aあたり600円)を使用する方が、トータルコストは安くなる可能性が高いのです。
【参考リンク】赤かび病を抑え、新しい施肥体系で小麦の反収・製品率を改善(シンジェンタジャパン) - 実際の農家による歩留まり向上の事例
ミラビスフロアブルは「SDHI剤」という系統に属します。この系統は近年、赤かび病防除の切り札として注目されていますが、同じSDHI剤の中でもミラビスには独自の特徴があります。
| 特徴 | ミラビスフロアブル | 従来のEBI剤 (チルトなど) | 従来のMBC剤 (トップジンMなど) |
|---|---|---|---|
| 有効成分 | ピジフルメトフェン | プロピコナゾール等 | チオファネートメチル |
| 系統 | SDHI (新規) | DMI (EBI) | MBC |
| 耐性菌リスク | 既存耐性菌に有効 | リスクあり | 耐性菌が広範囲で確認 |
| 10aコスト | 約600円 | 約400円〜 | 約300円〜 |
| 得意分野 | 赤かび病、葉枯病 | うどんこ病、赤さび病 | 雪腐病、うどんこ病 |
現在、多くの産地で問題になっているのが、MBC剤(ベンズイミダゾール系)に対する耐性菌の出現です 。これまで安価なトップジンMなどで防除できていた地域でも、「撒いたのに効かない」という事例が増えています。
参考)小麦の赤かび病とDON対策のポイントは? 防除におすすめの農…
ミラビスフロアブルは、これらの耐性菌に対しても高い効果を発揮するため、ローテーション防除の核として最適です。特に、「開花期」という最も重要な防除タイミングに本剤を使用し、他の時期に安価なEBI剤を使用するなど、体系防除の中でメリハリをつける使い方が推奨されます 。
意外と知られていないミラビスフロアブルの強みが、ドローン(無人航空機)散布への適性の高さです。
通常の地上散布では1500倍〜2000倍に薄めますが、ドローン散布では8倍〜16倍という非常に濃い濃度での散布が登録されています 。
参考)https://www.yanagawa-fk-ja.or.jp/wp-content/uploads/2024/04/dccf807a84672a4cc01596e7592d2333.pdf
この圧倒的な水量の少なさは、大規模化が進む麦作経営において革命的です。ミラビスフロアブルの製剤は、高濃度でもノズル詰まりを起こしにくく、スムーズな吐出が可能になるよう設計されています。
また、ドローンによる空中散布は、トラクターでのブームスプレイヤー散布と異なり、麦を踏み倒すロス(踏圧害)がゼロになります。地上散布の場合、タイヤによる踏み倒しで数%の収量ロスが発生すると言われていますが、ドローン散布ならその分がまるまる収穫量としてプラスになります。
「10aあたり600円」という薬剤コストも、この「踏み倒しロス削減分」と「給水作業の人件費削減」を考慮すれば、実質的にはお釣りが来る計算になることも珍しくありません。収穫間際の麦畑に入らなくて済むメリットは、数字以上に大きいと言えるでしょう。
【参考リンク】赤かび病防除に新規系統の殺菌剤 ミラビスフロアブルの紹介 - ドローン散布時の希釈倍率や特性についての詳細