殺菌剤を毎年同じ種類で散布し続けると、使用中止から5年後でも耐性菌の割合が8割を超えたまま残ります。
農作物に発生する病害のうち、原因の約80%は糸状菌(カビ)によるものです。 糸状菌は体が多数の「菌糸」と呼ばれる管状の細胞で構成されており、直径3〜10マイクロメートル、長さはセンチ単位にも達します。 土壌中には10万種以上の糸状菌が存在するとされており、そのすべてが悪者というわけではありません。rikeinokateisaien.hatenablog+1
実は、糸状菌の仲間には醤油や日本酒の発酵に使われるものや、抗生物質「ペニシリン」を生み出したアオカビなども含まれています。 問題となるのは、特定の植物病原性糸状菌が作物に感染した場合です。つまり病原菌かどうかを種類で判断することが大切です。
参考)病害の8割はカビが原因だった!?土を見直して病気知らずの畑を…
糸状菌性病害は感染・伝染の経路によって、大きく「空気伝染性病害」と「土壌伝染性病害」の2種類に分けられます。 この区別を知っておくと、どの段階でどんな対策を打つべきかが自然と見えてきます。
さらに、人の手指や農具からの接触でも伝染が広がることが確認されています。 農具の洗浄・消毒はそれだけで感染リスクを大きく下げる、費用のかからない重要な対策です。
野菜類の糸状菌性病害のなかでも、べと病・疫病・炭疽病・黒斑病・菌核病は被害が特に大きい代表的な病害です。 それぞれ症状や発生しやすい環境が異なるため、正確な見分け方を知ることが防除の第一歩になります。
参考)野菜の病害防除
まず「べと病」は、葉の表面に黄色い斑点が現れ、裏面に灰白色のカビが生えます。低温多湿条件で急速に広がり、タマネギやキュウリ、ホウレンソウなどで深刻な被害をもたらします。 次に「疫病」は、地際部や果実に水浸状の病斑を生じ、株全体が急速に枯れる恐ろしい病気です。大豆の茎疫病では幼苗期から収穫期まで全期間に発生し、地際部が茶褐色〜暗褐色の大型病斑に覆われます。pref+1
「炭疽病」は葉や莢に発生し、黒褐色の円形病斑が特徴です。
雨の多い年や高湿度条件で発生が増えます。
「菌核病」は、罹病部位が腐敗して白い菌糸に覆われ、やがて黒いネズミの糞状の菌核が形成されるのが特徴です。ymmfarm+1
| 病害名 | 主な病原菌 | 主要発生作物 | 発生しやすい条件 |
|---|---|---|---|
| べと病 | Peronospora属など | タマネギ・キュウリ・ホウレンソウ | 低温多湿・降雨後 |
| 疫病 | Phytophthora属 | 大豆・トマト・ジャガイモ | 高温多湿・排水不良 |
| 炭疽病 | Colletotrichum属 | インゲン・イチゴ・トウモロコシ | 高温多雨・降雨が続く時期 |
| 菌核病 | Sclerotinia属 | レタス・キャベツ・ナタネ | 低温多湿・密植・換気不良 |
| 白絹病 | Sclerotium属 | トマト・ナス・スイカ | 高温多湿・連作圃場 |
同じ「菌」でも、病原菌によって適した防除薬剤の種類が異なります。
これが基本です。
病名と病原菌の種類をセットで覚えることで、農薬選びのミスを防げます。
糸状菌は土壌・種子・空気の3つのルートから作物に侵入します。感染経路ごとに対策も変わるため、それぞれの仕組みを理解することが防除精度を高める近道です。
土壌からの感染では、菌が土壌中で越冬・越夏し、翌シーズンも生き続けます。大豆の紫斑病では、罹病種子に付着した菌糸が越冬し、翌年に分生子を飛散させて伝染源になることが確認されています。 土壌伝染性病害は、作物の栽培期間中に薬剤防除だけで対応するのが困難なものが多い点が大きな特徴です。gaityuu+1
種子からの感染では、播種前に気づかないうちに病原菌を圃場に持ち込むことになります。たとえばイネのばか苗病は育苗工程の浸種・催芽・出芽中に放出された病原菌による感染が主な原因です。
意外ですね。
病気は圃場に入る前、播種の段階ですでに始まっているわけです。
参考)https://jppa.or.jp/onlinestore/shuppan/images-txt/2018/2018_0409.pdf
空気伝染については、花粉のように目に見えない胞子が風雨とともに広がります。陸稲など露地では農機具の移動による土壌の持ち込みも見逃せません。 複数の感染ルートを同時にふさぐ発想が大切です。
種子消毒の際の水温管理は特に見落とされがちです。25℃以上ではばか苗病やもみ枯細菌病が助長されるリスクも生じます。 温度計を使って適温を保つ習慣を持っておきましょう。
参考)https://www.s-boujo.jp/kihon/file/05tyuui/0501.pdf
農薬(殺菌剤)を同じ種類で使い続けると、耐性菌が出現します。
これは農業現場において既に深刻な問題です。
キュウリのうどんこ病菌ではベンゾイミダゾール系薬剤への耐性菌が確認されており、イネのばか苗病菌でも同様の耐性化が起きています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ktpps/68/1/68_1/_pdf
特に注意が必要なのが、薬剤使用をやめた後の耐性菌の残留です。ある研究では、使用中止から5年後においても耐性菌全体の割合は依然80%と高率のままで、一度蔓延した耐性菌が容易には衰退しないことが明らかになっています。
痛いですね。
「農薬をやめれば土がリセットされる」という考えは、この観点からは成立しません。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphytopath1918/70/3/70_3_149/_pdf
耐性菌が発生しにくくするための農薬選びの基本は、以下の通りです。
耐性菌対策は農薬コストの節約にも直結します。
これが条件です。
有効な薬剤が減ってから対処しようとすると、使える農薬の選択肢が狭まり、かえって管理コストが跳ね上がります。農薬のラベルに記載されている「同一病害への使用回数制限」は、耐性菌抑制のための重要な情報です。
必ず確認しましょう。
耐性菌の発生リスクをもっと詳しく知りたい場合は、以下の解説記事が参考になります。
耐性菌が発生する仕組みと、農家が実践できる予防的薬剤散布の考え方が詳しく解説されています。
耐性菌を出さないための農薬の選び方|Green Control Lab
連作障害の最大の原因の一つが、土壌伝染性の糸状菌による病害です。 同じ作物を繰り返し栽培すると、その作物に感染しやすい特定の病原菌が土壌に蓄積し、毎年のように病害が繰り返されます。土壌伝染性病害は、農薬を散布するタイミングには既に手遅れになっていることが多いという点が、空気伝染性病害とは大きく異なります。
参考)国際有機公社
土壌中の糸状菌は、有益なものと有害なものが共存しています。有益な糸状菌(たとえばトリコデルマ菌など)は病原菌と競合し、病害を抑制する効果があります。 Trichoderma atroviride SKT-1株はイネの種子伝染性糸状菌病であるばか苗病に対し、従来の化学農薬と同等の防除効果を示すことが確認されています。 土壌の多様性を保つことが、自然な病害抑制につながるということですね。agresearcher.maff.go+1
土壌伝染性病害の具体的な対策には以下の方法があります。agrinews+1
太陽熱土壌消毒は施肥・畝立てを事前に済ませた状態で実施し、終了後はフィルムマルチを除去してから耕耘せずにそのまま定植するのが望ましいとされています。 処理後に耕耘すると深層の汚染土壌が表面に出てしまい、消毒効果が半減します。
耕耘しないことが条件です。
参考)http://gaityuu.com/mametisiki/byougai/dozyoudennsen.html
土壌伝染性病害の種類・防除法を図解で確認したい場合は、以下のページが役立ちます。
土壌伝染性の糸状菌による主要病害の一覧と、実践的な防除対策フローが整理されています。
土壌伝染性の糸状菌による病害|病害虫豆知識
糸状菌性病害の防除で成果を出している農家に共通しているのは、「農薬は補助手段」という認識を持っていることです。まず病害が発生しにくい環境をつくり、農薬はその補助として使う。この順序を逆にすると、農薬コストが増え続けるのに病害は減らない、という悪循環に陥ります。
参考)http://www.miyataba.or.jp/26nen/byougaitaisaku.pdf
具体的には、耕種的防除として、①排水対策の徹底(疫病・白絹病の多くは排水不良が引き金)、②密植を避けた通気性の確保、③被害残渣の圃場外への持ち出し、④種子更新による清浄種子の使用、を組み合わせることが基本です。 これらはいずれも費用をほとんどかけずに実行できます。agricare+1
薬剤防除のタイミングについては、病気が出てから散布するのではなく、発病前の予防的散布が原則です。 気象条件(100mm程度の降雨が2〜3回あった後など)をトリガーにした散布計画を立てておくと、タイミングを逃しにくくなります。
以下の点は実際の現場でよく見落とされています。
散布回数・薬量・タイミングを記録しておくことも、翌年の計画立案に役立ちます。「農薬使用基準」の確認と使用記録の保管は、農薬適正使用の観点からも必須です。 記録を残すことが防除精度を上げる最短ルートです。
さらに詳しい野菜類の糸状菌性病害と防除方法については、以下の記事で作物別に整理されています。
野菜の病害防除(2024年版)|農業共済新聞
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