下葉をどんどん取れば取るほど、トマトの収量が下がることがあります。
下葉かき(したばかき)とは、野菜や花きなどの栽培において、植物の下部についた古い葉を取り除く管理作業のことを指します。農業技術事典であるNAROPEDIA(農研機構)によれば、「葉は植物体の下方から上方へ向かって展開し、生育に役立っているのは成葉であり、早くから展葉して葉齢の進んだ下葉は同化力を失い、病害の誘発源となる」と説明されています。
つまり下葉かきが必要なのです。
光合成を行う葉には「寿命」があります。若い葉ほど光合成能力が高く、上部の葉が植物全体のエネルギー生産をリードします。一方で古くなった下葉は、光が届きにくく光合成の効率が著しく低下し、養分を生み出すよりも消費する「お荷物」になってしまうことがあります。
この状態を放置すると、密生した葉が通気性を悪化させ、灰色かび病・葉かび病・うどんこ病などのカビ性病害の温床となります。結果として農薬コストが増加したり、果実の品質が低下したりするリスクが高まります。
下葉かきの主な目的は以下の3点に整理できます。
- 養分効率の最大化:不要な葉が消費していた養分を、果実や上部の若い葉へ集中させる
- 風通し・日当たりの改善:株元まで光と空気が届くようになり、果実の着色が均一になる
- 病害虫リスクの低減:土壌の泥はねが付着しやすい地表近くの葉を除去し、感染源を断つ
対象となる作物はトマト・ミニトマト・きゅうり・ピーマン・イチゴ・ハボタンなど幅広く、施設園芸でも露地栽培でも広く行われている基本的な栽培管理技術です。
参考:農業技術の基礎用語として国立研究開発法人農研機構(NARO)が解説しています。
農業技術事典 NAROPEDIA「下葉かき」の解説(農研機構)
下葉かきの効果を最大化するには「いつ行うか」が非常に重要です。タイミングを誤ると、逆に収量を下げたり、病気を広げる原因になります。これが基本です。
作物別の開始タイミング
トマト・ミニトマトの場合、葉かきを始めるのは1段目の果実の収穫が始まってからが原則です。それ以前に行うと、果実を肥大させるための「現役の工場」として働いている葉を失ってしまい、実が太らなくなります。きゅうりの場合は、親づるを摘心したころ、株元から5枚までの本葉を取り除くのが基本で、その後は週に2〜3枚のペースで継続的に実施します。イチゴでは、芽数が1個の場合は1株あたり5.5〜6.5枚を目安に季節ごとに調整します。
天気との関係が重要です
下葉かきは必ず晴れた日の午前中に行いましょう。切り口が早く乾燥することで、病原菌の侵入リスクを最小限に抑えられます。雨の日や曇天時に作業を行うと、切り口が湿ったまま長時間露出することになり、灰色かび病や疫病などの病原菌が侵入しやすくなります。農業ベンチャーでのトマト栽培経験をまとめた記事(note, 柿崎よしえ)でも「基本的に傷口が直ぐに乾く条件下で行い、ハサミもエタノールで消毒しながら行う」と明記されています。
1段ずつ順番に進める
トマト栽培においては「着色が始まった果房のすぐ下の葉から順次処理する」のが正解です。肥大中の果実のすぐ上の葉は、まだ養分を供給している現役の工場です。その葉を取ってしまうと、果実の肥大が止まったり着色が悪くなったりします。
また、地表から約30cm以内にある葉は、着果の有無にかかわらず、水やりや雨による泥はねで病原菌が付着しやすいため、早めに処理することが推奨されます。この高さ30cmという目安は、大人の手のひらを広げた長さの約2倍強に相当します。
参考:夏秋トマト栽培における葉かきと病害の関係について詳しい解説があります。
夏秋トマトの収穫開始期における栽培管理ポイント(PsEco)
正しい方法で行わないと、下葉かきが病気の引き金になってしまいます。手順と道具の扱い方を正確に把握しておくことが大切です。
使う道具と衛生管理
下葉かきには、鋭利な剪定ばさみまたは刃の薄いナイフを使用します。切れ味の悪い道具で作業すると切り口が荒れ、傷口が大きくなって病原菌の侵入リスクが上がります。必ず作業前にアルコール(エタノール)で刃を消毒してください。特にウイルス病(モザイク病など)が出ている圃場では、1株ごとに消毒する徹底した衛生意識が求められます。
これは必須です。
切り方のポイント
葉の付け根(葉柄)から切り取る際は、主枝(茎)を傷つけないよう注意します。葉柄を根元から無理にもぎ取ることは厳禁です。茎に大きな傷が残ると、そこから病原菌が侵入します。葉柄を1〜2cm程度残してカットすると、主枝へのダメージを最小限に抑えられ、残った葉柄はやがて自然に枯れて脱落します。
1日・1回あたりの上限枚数
農業経営サポーターの小川隆宏氏(農業経営サポートサービス)のアドバイスでは「週に1〜2枚程度、段階的に進める」ことが安全策とされています。一般的には1日2〜3枚が目安であり、一度に大量の葉を切り取ると株が大きなストレスを受け、生育が一時的に停滞します。夏の強い日差しの中で急激に葉を失わせると、果実が「サンバーン(日焼け)」を起こすリスクも高まります。
取り除いた葉の処置
切り取った葉(残渣)はビニール袋に入れてハウス外へ持ち出すのが原則です。ハウス内に放置すると病害虫の温床になります。圃場外に持ち出した葉は、地面に穴を掘って埋めるか、コンポスト(堆肥)化しましょう。農業ベンチャーの事例では、残渣を産業廃棄物として業者に委託していた時期もあったとされており、その費用は毎月数十万円規模に達したケースもあります。適切な自家処理の方法を確立しておくことが、コスト削減につながります。
以下のリンクでは、いちご農家向けの葉かきについて、芽数・季節別に葉数管理の詳細が解説されています。
いちご農家の葉かき・葉面積管理のコツ【収量を増やし病害虫を減らす】(ichigo-tech)
「葉を取れば取るほどよい」と思っている農家さんも少なくありません。しかし過剰な下葉かきは、収量を下げるだけでなく、深刻な生理障害を引き起こします。厳しいところですね。
「やりすぎ」で起きるカルシウム問題
トマトの葉は、水分を吸収・蒸散させるポンプのような役割も担っています。葉の量が激減すると、この蒸散作用が極端に弱まるため、根から吸い上げられる水の量が減少します。カルシウムは水の流れに乗って果実の先端まで届く性質を持っているため、蒸散が弱まるとカルシウムが果実に届かなくなります。その結果、果実のお尻部分が黒く腐る「尻腐れ病(カルシウム欠乏症)」が発生します。これはトマト農家が最も頭を悩ませる生理障害のひとつです。
LAI(葉面積指数)という考え方
施設園芸の専門家が重視する指標に「LAI(葉面積指数)」があります。これは単位面積あたりの土地に対する葉の面積の比率を示すもので、トマト栽培では一般にLAI1以上が理想とされます。LAIが低すぎると光合成量が落ち、収量が直接的に低下します。静岡のトマト農家の記録によれば、養液栽培の場合は葉の枚数をおおよそ12〜13枚程度(最低10枚以上)になるように管理しており、季節や植物の状況に応じて細かく調整しています。
サンバーン(果実の日焼け)リスク
葉を一気に失うと、それまで葉が遮っていた直射日光が突然果実に直接当たるようになります。特に夏場は果実表面が高温になり、白化や褐変するサンバーン(日焼け)が起きます。これが起きると商品価値が大幅に下がります。痛いですね。
施設野菜の「下葉欠きのやり過ぎ」について専門家の見解
農業支援サービス「エース会」の「施設野菜 昼休み読本」では、「生育後半の下葉欠きのやり過ぎが多い。下葉は緑色を保っている限り、呼吸量より光合成のほうが多く、玉の肥大や樹の生育にプラスである。むやみに葉を取ることは避けるべき」と明記されています。
つまり「緑色の葉は仕事をしている」という原則が条件です。色が変わっていない葉を取りすぎることは、みずから収量を下げる行為になってしまいます。
下葉かきは単なる「不要な葉の除去」ではありません。作業の方向性や頻度、株の観察ポイントを体系的に管理することで、圃場全体の病害リスクをコントロールし、作業時間を短縮できます。これは使えそうです。
作業の進行方向を統一する
農業ベンチャー「農業ベンチャーでのお話」(note)では、プロの先輩農家から「作業は利き手によらず、全員一方向に進めるのが原則」と指導を受けた事例が紹介されています。理由は2つあります。ひとつは作業効率の向上(どこまで終わったかが一目でわかる)、もうひとつは病害虫の拡散防止です。病気は作業の進行方向に沿って広がりやすいため、方向を統一することで病害虫の管理も同時に行えます。
週1回の定期作業がプロの基準
農業ベンチャーのトマト栽培現場では、「1株につき週に1回程度、その時の日射量に対して適切な葉面積になるよう葉かきを行う」ことが標準とされています。1回の作業量は1株につき2〜3枚が目安です。この頻度を守ることで株への負担が分散され、病原菌の侵入リスクも最小化されます。
イチゴ栽培の管理においては、葉かき単独で行うのは非効率とされています。芽かき(わき芽の除去)や摘花(余分な花の除去)と同時に行うことで、1回の作業あたりの時間を大きく短縮できます。特に芽かきを行うと自然に葉が3〜5枚程度減るため、そのぶん葉かきの手間が省けます。
ハサミの消毒を「株ごと」に行う意識
農研機構の報告や農業専門家の指摘によると、ウイルス病のリスクがある圃場では「1株処理するたびにハサミを消毒する」ことが推奨されます。岩手県農業普及センターの解説によれば、「アルコールに30分以上浸すか、炎で高熱処理する方法が衛生的に有効」とされています。圃場全体で作業する際は、複数本のハサミを用意して交互に使いながら消毒時間を確保する方法が現実的です。
残渣はハウス外に持ち出すルールを徹底する
切り取った葉はその場に捨てるのではなく、必ずハウス外に搬出してください。残渣の廃棄場所が病害虫の温床になると、作業者がそこへ行くたびにハウスへ病原菌を持ち込むことになります。ハウス入口の消毒マット設置と組み合わせると、感染リスクをさらに下げられます。
参考:農業ベンチャーの現場で実際に行われた葉かき管理と作業方向の統一について詳しい解説があります。
農業ベンチャーでのお話【5】:トマトの葉かきと作業方向(note, 柿崎よしえ)