じゃがいも栽培において、種芋から出てきた複数の芽を整理する「芽かき」は、良質な芋を収穫するために欠かせない工程です。初心者の方は「せっかく生えてきた芽を抜くのはかわいそう」「たくさん芽があったほうがたくさん収穫できるのでは?」と考えがちですが、実はその逆であることが多いのです。
この工程を適切に行うことで、土の中の芋一つひとつに十分な栄養が行き渡り、料理に使いやすい立派なサイズのじゃがいもを育てることができます。逆に、この作業を怠ったり、時期を誤ったりすると、ピンポン玉のような小さな芋ばかりになってしまったり、風通しが悪くなって病気が発生したりするリスクが高まります。
本記事では、初めての方でも迷わず作業できるよう、具体的なタイミングや方法、そしてプロも実践するちょっとしたコツを深掘りして解説していきます。さらに、一般的にはゴミとして捨てられてしまう「抜いた芽」を有効活用する驚きの裏技もご紹介します。
じゃがいもの芽かきを行う上で、最も重要なのがタイミングです。早すぎても遅すぎても、その後の生育に影響が出てしまいます。ベストな時期を見極めるための具体的な指標をご紹介します。
まず、時期の目安としては、種芋を植え付けてから約3週間〜1ヶ月後あたりが一般的です。しかし、気温や地域によって成長スピードは異なるため、カレンダーの日付よりも、実際の「芽の大きさ(草丈)」を見て判断するのが確実です。
具体的な目安は以下の通りです。
なぜこの「10cm〜15cm」が重要なのでしょうか。
これより小さい段階(5cm程度)で芽かきを行おうとすると、まだ芽が小さすぎて掴みにくく、作業中に途中でちぎれてしまうことがあります。また、種芋の栄養がまだ十分に地上部に移行しておらず、どの芽が優勢か(強く育つか)の判断が難しいというデメリットもあります。
逆に、20cmを超えて大きく育ちすぎてから芽かきを行うと、以下のようなリスクが生じます。
もし、週末しか畑に行けないなどの理由でタイミングを逃し、草丈が30cm以上になってしまった場合は、無理に引き抜くのは避けましょう。その場合は、清潔なハサミやカッターで地際から切り取る方法に切り替えるのが無難です。ただし、地中に残った茎から再び芽が伸びてくる可能性があるため、こまめな観察が必要になります。
じゃがいもの芽かきのやり方!時期はいつ?|GreenSnap
参考リンク:芽かきの基本的な時期や、草丈の目安について写真付きで分かりやすく解説されています。
「芽かきは手でやるべきか、ハサミを使うべきか?」
これは家庭菜園の議論でよく挙がるテーマですが、結論から言うと、「手」で行うのが最も推奨されます。
その最大の理由は、ウイルス病(モザイク病など)の感染リスクを抑えるためです。じゃがいもはウイルス病に非常に弱い植物です。もし、ハサミを使って1株目を処理し、その株が病気にかかっていた場合、ハサミの刃にウイルスが付着します。そのまま消毒せずに次の株、また次の株とハサミを入れていくと、あっという間に畑全体に病気を広げてしまう「伝染源」になってしまうのです。
手作業であれば、引き抜く際に植物の汁(樹液)が他の株に付着するリスクを比較的低く抑えられます(もちろん、明らかに病気の株を触った後は手を洗う必要があります)。また、手で引き抜くことで、地中の茎の付け根からきれいに取り除くことができ、再発芽(再生)を防ぐ効果も高いのです。
【失敗しない手作業の手順】
まず、株全体を観察し、太くて色が濃く、勢いのある芽を2〜3本選びます(残す芽)。ひょろひょろと細い芽、色が薄い芽、病気の兆候がある芽を取り除く対象にします。
残す芽の根元付近の土を片手でしっかりと押さえます。これは、抜く勢いで種芋(マザーポテト)が一緒に持ち上がってしまうのを防ぐためです。種芋が動くと根が切れ、生育不良の原因になります。
取り除く芽の根元をしっかりと握り、真上ではなく、やや斜め横方向にゆっくりと力を入れて引き抜きます。垂直に引っ張ると種芋がついてきやすいですが、横に倒すように引くと、「ブチッ」と付け根からきれいに外れやすくなります。
作業後は、抜いた跡に土を寄せ、手で軽く押さえて(鎮圧して)穴をふさぎます。これにより根の乾燥を防ぎ、株を安定させます。
どうしても力が弱くて抜けない場合や、すでに芽が太くなりすぎている場合に限り、ハサミやナイフを使用します。その際は、1株処理するごとに、刃先をビストロンなどの消毒液に浸すか、熱湯消毒やライターの火で炙る(焼き入れ)などの対策を徹底してください。家庭菜園で全滅のリスクを避けるためには、この「ひと手間」が命取りになります。
じゃがいもの芽の取り方(調理編ですが道具の扱いの参考に)|キッコーマン
参考リンク:調理時の芽取り解説ですが、道具を使って芽の根元からえぐり取る感覚や構造の理解に役立ちます。
「面倒だから芽かきをしなくてもいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。確かに、広大な農地を持つ北海道の一部の業務用栽培などでは、省力化のためにあえて芽かきを行わないケースもあります。しかし、限られたスペースで栽培する家庭菜園においては、芽かきをしないことのデメリットの方が圧倒的に大きくなります。
芽かきをしない(放任栽培)とどうなるか、主な3つの理由と結果を解説します。
じゃがいもの収穫個数は、地上部の茎(芽)の数に比例する傾向があります。茎が多ければ多いほど、地中にできるストロン(芋ができる茎)の数も増えます。しかし、1株が光合成で作れる栄養や、根から吸収できる肥料分には限りがあります。
芽かきをせずに茎が10本も生えている状態だと、限られた栄養が10個以上の芋に分散してしまいます。結果として、食べる部分がほとんどない、パチンコ玉やピンポン玉サイズの極小じゃがいもが大量にできてしまうのです。これらは皮をむくのも大変で、調理の手間が激増します。
茎が密集してジャングルのようになると、株元の風通しが極端に悪くなります。じゃがいもの大敵である「疫病」や「軟腐病」は、多湿環境を好みます。また、アブラムシなどの害虫も発見しにくくなります。芽かきで茎数を適正に保つことは、物理的な防除対策でもあるのです。
芋の数が増えすぎると、土の中で芋同士が押し合いへし合いの状態になります。すると、成長した芋が地表に露出してしまう確率が高くなります。日光に当たった芋は「緑化」し、天然毒素であるソラニンやチャコニンが増加して食べられなくなります。
【収穫量との関係】
「総重量」で見れば、芽かきあり・なしで大きな差が出ないこともあります。しかし、「可食部(料理に使える部分)の総重量」で見れば、芽かきをした方が圧倒的に有利です。小さな芋は皮むきで削る部分が多く、実質の歩留まりが悪いためです。
「カレーや肉じゃがに使えるゴロゴロとした芋」を目指すなら、芽かきは必須の作業と言えるでしょう。
じゃがいも芽かき、遅れた!今からでも間に合う?|Sweets Village
参考リンク:芽かきをしなかった場合のリスクや、時期を逃した場合の対処法について詳しく書かれています。
基本的なセオリーとして「残す芽は2本(または3本)」と言われますが、実は品種や「どんな料理に使いたいか」によって、最適な本数は変わります。これを使い分けることで、プロ並みの栽培コントロールが可能になります。
1. 品種による特性の違い
ストロン(芋がつく茎)が短く、芋が株元にまとまってつきやすい品種です。比較的肥大性は良いですが、芽数を多くしすぎると小さくなりやすいので、基本通り2本にするのが無難です。
芽の数が比較的多く出やすい傾向があります。また、個数も多くつきやすいので、芽かきをしっかり行わないと小玉になりがちです。大きなLサイズを狙うなら1〜2本に厳しく制限するのも手です。
非常に肥大性が良く、芋が大きくなりやすい品種です。逆に言えば、芽数を減らしすぎると(1本など)、芋が巨大化しすぎて中心に空洞ができる「空洞果」になりやすいリスクがあります。巨大化を防ぎ、手頃なM〜Lサイズに揃えるために、あえて3本程度残すというテクニックも有効です。
この品種はもともと芋が小さく、数多くつく特性があります(野性味が強い)。普通に育てても小粒になりがちなので、少しでも大きくするために1〜2本に制限することをおすすめします。
2. 目的による使い分け
1本仕立てにします。1株の全エネルギーを少数の芋に集中させるため、スーパーでは見かけないような特大サイズが収穫できます。ただし、空洞果のリスクや、味が大味になる可能性も少しあります。
2本仕立てがベストバランスです。失敗が少なく、調理しやすいサイズが安定して収穫できます。
あえて3〜4本残します。一口サイズの可愛い芋がたくさん採れます。皮ごと食べる新じゃがを楽しみたい場合は、この方法もアリです。
春植えと秋植えの違いや品種による特徴|ハイポネックス
参考リンク:肥料メーカーによる解説で、品種ごとの育て方のポイントや肥料との兼ね合いが学べます。
最後に、検索上位の記事ではあまり触れられていない、家庭菜園ならではの裏技をご紹介します。それは、芽かきで引き抜いた「不要な芽(かき芽)」を捨てずに、新たな苗として再利用する「挿し芽(さしめ)栽培」です。
「えっ、芋がついていない茎だけ植えても芋ができるの?」と驚かれるかもしれませんが、実はじゃがいもは生命力が非常に強く、茎から根を出し、そこからストロンを伸ばして新しい芋を作ることができるのです。
【挿し芽栽培の手順】
芽かきの際、根元からきれいに白く抜けた(根がついているとなお良い)元気な芽を選びます。途中でちぎれてしまった緑色の茎だけでも成功することはありますが、地中の白い部分が残っている方が発根率は高いです。
抜いた直後に、畑の空いているスペースや、プランターの隙間に植え付けます。深さは通常の植え付け同様、茎の半分〜2/3が埋まる程度にします。
ここが最大のポイントです。種芋というエネルギー源がないため、根付くまでは乾燥に弱いです。植え付け直後はたっぷりと水をやり、最初の3〜4日間は新聞紙や寒冷紗で日陰を作ってあげます。直射日光に当てると、根が出る前に萎れて枯れてしまいます。
1週間ほどして茎がシャキッと立ち上がり、成長点(先端)が動き出せば活着(根付くこと)成功です。その後は通常のじゃがいもと同じように育てます。
【この方法のメリット】
収穫できるサイズは親株よりやや小ぶりになることが多いですが、うまくいけば「おまけ」としては十分すぎる量のじゃがいもが手に入ります。芽かきをした際は、ぜひ数本で試してみてください。まさに「もったいない」精神が生む、お得な栽培テクニックです。

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