同一薬剤を3回以上散布すると効果が半減する
マメハモグリバエは1990年に日本で初めて確認された外来害虫で、侵入当初から強い薬剤抵抗性を持っていました。北アメリカ原産のこの害虫は、体長わずか2mm程度の小さな成虫ですが、その被害は深刻です。幼虫が葉肉内部を潜行して食害することで、白い線状の痕が葉に残り、「絵描き虫」と呼ばれています。激しく発生すると葉の全面に食害痕が広がり、最終的に枯死や落葉に至ります。
この害虫の厄介な点は、寄主範囲が極めて広いことです。実際には21科120種以上の植物を加害するとされ、キク科のキクやガーベラ、ナス科のトマトやナス、ウリ科野菜など多様な作物で被害が報告されています。名前にマメと付いていますが、マメ科に限定されず、施設栽培では周年発生する難防除害虫となっています。
つまり多作物で警戒が必要です。
薬剤抵抗性の発達が早いため、化学農薬だけに頼った防除では効果が得られにくくなります。欧米では以前から問題となっていた害虫で、日本への侵入時にはすでに多くの殺虫剤に対する抵抗性を獲得していました。このため、発生初期から「殺虫剤をしっかり散布しているのにまったく効果がない」という声が農家から多数上がりました。
25℃の条件下では一世代期間が約16日間と短く、繁殖サイクルが速いことも抵抗性発達を加速させる要因となっています。世代交代が早いということは、それだけ薬剤への適応も早く進むということですね。春から秋にかけて特に多く発生し、施設栽培では温度管理により周年的に増殖を繰り返します。
FMC Japanの害虫Wikiでマメハモグリバエの詳細な生態と被害症状を確認できます
マメハモグリバエ防除に使用できる農薬は複数の系統に分かれており、それぞれ作用機序が異なります。効果的な防除を行うには、異なる系統の薬剤をローテーション使用することが不可欠です。主要な登録農薬としては、アファーム乳剤、アクタラ顆粒水溶剤、アグリメック乳剤、ベネビアOD、プレバソンフロアブル5などがあります。
浸透移行性を持つ薬剤は特に有効です。
育苗期後半から定植時に使用する粒剤タイプでは、ベリマークSCやプリロッソ粒剤オメガなどが効果を発揮します。ベリマークSCは灌注処理により素早く根から吸収され、生育初期の作物を守ります。定植当日まで使用可能なため、初期防除の選択肢として重要です。プリロッソ粒剤オメガは株元散布により、薬剤がかかりにくい葉裏に潜むハモグリバエにも高い効果を示します。
生育期の散布処理では、ベネビアODやプレバソンフロアブル5が推奨されます。ベネビアODは葉のすみずみまで浸達し、速効性が高い特徴があります。プレバソンフロアブル5は高い浸透性と移行性を持ち、作物全体に成分が行きわたることで、葉内部の幼虫に対しても効果を発揮します。予防的散布で利用することで、食害を未然に防げます。
どういうことでしょうか?
薬剤選択では、天敵への影響も考慮する必要があります。上記で紹介した薬剤の多くは天敵にやさしい農薬として知られており、生物農薬との併用が可能です。総合的病害虫管理(IPM)の観点から、化学農薬と生物的防除を組み合わせることで、持続可能な防除体系を構築できます。
薬剤散布のタイミングは防除効果を大きく左右します。マメハモグリバエは葉の表面に産卵痕や食害痕が見られたらすぐに散布を開始すべきです。幼虫期間が短いため、白い線状の食害が確認できた時点では既に幼虫が成長している可能性があります。葉内部に潜り込んだ老齢幼虫には薬剤の効果が低下するため、発生初期の対応が重要です。
黄色粘着トラップを使った発生モニタリングが効果的です。マメハモグリバエの成虫は黄色に強く誘引される習性があるため、圃場内に黄色粘着板を設置することで、成虫の飛来や発生状況を早期に把握できます。トラップで成虫の増加が確認されたら、産卵前に薬剤散布を行うことで被害を最小限に抑えられます。
結論は早期発見です。
散布時の薬液調製では、ラベルに記載された希釈倍数を厳守してください。濃度を濃くしても効果が上がるわけではなく、むしろ薬害のリスクが高まります。散布は早朝や夕方の気温が低い時間帯に行い、薬液が葉の表裏にむらなく付着するよう丁寧に散布します。特に葉裏は成虫の潜伏場所となるため、十分な散布が必要です。
散布後は最低2〜3時間の乾燥時間を確保できる天候を選びます。雨が予想される日の散布は避け、散布後に雨が降ると薬剤が流れて効果が低下します。施設栽培では湿度管理にも注意し、過湿状態では薬剤の乾燥が遅れて効果発現が遅れることがあります。
厳しいところですね。
育苗期の処理では、定植前の健全な苗づくりが後の被害軽減につながります。育苗施設への成虫侵入を防ぐため、開口部に防虫ネットを張るとともに、育苗後半にベリマークSCなどの灌注処理を行います。定植時にプリロッソ粒剤オメガを株元散布することで、定植後の初期被害を効果的に抑制できます。
同一系統の薬剤を連続使用すると、急速に抵抗性が発達します。マメハモグリバエはもともと薬剤抵抗性が高い上に、世代交代が早いため、同じ作用機序を持つ薬剤を連用すると数世代で効果が著しく低下します。実際の事例では、同一薬剤を3回以上連続散布した圃場で、当初は高い効果を示した薬剤が全く効かなくなったケースが報告されています。
薬剤のローテーション散布が基本原則です。
異なる系統の殺虫成分を交互に使用することで、抵抗性の発達を遅らせることができます。農薬のラベルや技術資料には、IRAC(殺虫剤抵抗性対策委員会)コードが記載されており、このコードが異なる薬剤を選択することが重要です。例えば、ある散布でアファーム乳剤(IRACコード5)を使用したら、次回はアクタラ顆粒水溶剤(IRACコード4A)を使用するといった具合です。
ローテーション計画を立てる際は、作付け期間全体を見通して少なくとも3〜4種類の異なる系統薬剤を準備しておきます。一つの系統薬剤は、シーズン中に最大2回までの使用に留めることが推奨されます。散布間隔は7〜10日程度を目安とし、害虫の発生状況や気温によって調整します。高温期は世代交代が早いため、より短い間隔での散布が必要になることもあります。
防除履歴の記録も欠かせません。いつ、どの薬剤を、何回使用したかを記録しておくことで、同一薬剤の連用を避けられます。複数の圃場を管理している場合は特に、記録がないと同じ薬剤を連続使用してしまう危険性があります。スマートフォンのアプリやノートなどで簡単に記録できるシステムを作っておくと便利です。
これは使えそうです。
抵抗性が疑われる場合の対応として、まず使用薬剤の系統を見直します。効果が低下したと感じたら、それまで使用していなかった作用機序の薬剤に切り替えます。また、天敵製剤との併用に切り替えることも有効な選択肢です。生物的防除に移行することで、化学農薬への依存度を下げながら抵抗性問題を回避できます。
マメハモグリバエの天敵として、寄生蜂が重要な役割を果たします。イサエアヒメコバチ、ハモグリコマユバチ、そして国内の土着天敵であるハモグリミドリヒメコバチが生物農薬として登録され、実用化されています。これらの天敵寄生蜂は、生きたハモグリバエの幼虫に産卵し、孵化した蜂の幼虫がハモグリバエを体内から食い尽くして防除します。
ハモグリミドリヒメコバチは特に注目されます。
この天敵は、製剤化された商品名「ミドリヒメ」として販売されており、施設栽培のトマトやキュウリなどで利用されています。愛媛県での実証試験では、従来のトマト栽培と比較して農薬散布回数を7割削減できたという成果が報告されています。成虫は1日に約15個、生涯で約300個もの卵を産み、25℃では約2週間で次世代が羽化するため、放飼後に圃場内で増殖して継続的な防除効果が期待できます。
天敵製剤の使用方法では、放飼のタイミングが重要です。マメハモグリバエの発生初期、まだ密度が低いうちに天敵を導入することで、害虫の増殖を抑え込むことができます。既に大発生している状況では天敵だけでの制圧は困難なため、発生予察と早期放飼が成功の鍵となります。
天敵に影響が少ない農薬を選ぶことが条件です。
化学農薬と天敵を併用する場合、天敵に対する影響の少ない選択的農薬を使用する必要があります。前述のベリマークSC、ベネビアOD、プリロッソ粒剤オメガ、プレバソンフロアブル5などは天敵への影響が小さく、IPM体系に組み込みやすい薬剤です。一方、有機リン系やピレスロイド系など、天敵に強い影響を与える薬剤の使用は避けるべきです。
天敵放飼後の環境管理も大切です。施設内の温度は天敵の活動性に影響し、高温期(7〜9月上旬)は天敵の活動が活発になる一方、低温期(11〜3月)は活動性が低下します。冬季の施設栽培では、最低気温を15℃以上に保つことで天敵の定着と増殖を促進できます。また、施設内への新たな害虫侵入を防ぐため、開口部の防虫ネット設置は必須です。
アリスタライフサイエンスの技術資料でマメハモグリバエ天敵製品の効果的な使い方が詳しく解説されています
防虫ネットによる侵入防止は、予防的防除の基本です。マメハモグリバエの成虫は体長約2mmと小さいため、細かい目合いのネットが必要となります。ハモグリバエ類の侵入を効果的に防ぐには、0.4〜0.6mm目合いの防虫ネットが推奨されます。0.4mm目合いはアザミウマ類やコナジラミ類にも対応でき、より総合的な防虫効果が得られます。
トンネル栽培や露地栽培では、作物の定植直後からネットを被覆します。ネットの裾部分は土でしっかり押さえるか、杭で固定して隙間をなくします。わずかな隙間からでも成虫が侵入するため、丁寧な設置作業が重要です。施設栽培では、側窓や天窓、出入口など全ての開口部に防虫ネットを張り、外部からの侵入経路を完全に遮断します。
つまり隙間ゼロが原則です。
防虫ネットの選択では、目合いの細かさと通気性のバランスを考慮します。目合いが細かいほど防虫効果は高まりますが、通気性が低下して施設内の温度や湿度が上昇しやすくなります。最近では超極細糸を使用した製品が開発されており、極小網目でも通気性に優れた防虫ネットが利用可能です。透光性にも配慮された製品を選ぶことで、作物の生育への影響を最小限に抑えられます。
黄色粘着トラップは、モニタリングだけでなく捕殺効果もあります。施設内の複数箇所に設置することで、侵入してきた成虫を捕獲し、密度を低下させることができます。設置高さは作物の上部、成虫が飛翔する高さに合わせます。トラップは定期的に交換し、捕獲数を記録することで発生動向を把握できます。
圃場衛生管理も見逃せません。収穫後の残渣は速やかに圃場外へ搬出し、適切に処分します。残渣中には蛹が含まれている可能性があり、放置すると次作の発生源となります。施設栽培では、栽培終了後に蒸し込み処理や太陽熱消毒を行うことで、土壌中の蛹を死滅させることができます。
周辺雑草の管理も防除効果を高めます。圃場周辺の雑草はマメハモグリバエの寄主植物となり得るため、こまめな除草を実施します。特にキク科やマメ科の雑草は好適な寄主となるため、優先的に除草します。圃場周辺を清潔に保つことで、害虫の生息場所を減らし、圃場内への侵入圧を低下させることができます。
栽培品種の選択や作付け時期の調整も検討できます。マメハモグリバエの発生が多い時期を避けて作付けすることで、被害を軽減できる場合があります。また、輪作や間作により作物の多様性を高めることで、特定害虫の大発生を抑制する効果も期待できます。これらの耕種的防除を組み合わせることで、化学農薬への依存度をさらに下げた持続可能な栽培体系を実現できます。
意外ですね。
農林水産省の技術資料でマメハモグリバエの天敵ハモグリミドリヒメコバチの詳細情報が公開されています