「ダコニールと一緒に混ぜたら、散布してもコナジラミが全然減らなかった」という声が農家の間で実際にあります。
ボタニガード水和剤の有効成分は「ボーベリア バシアーナ GHA株」という昆虫病原性糸状菌です。カビの仲間であるこの菌は、自然界に広く存在しており、古くから「僵病菌(きょうびょうきん)」とも呼ばれてきた昆虫寄生菌です。
この菌は、害虫の体表面に分生子(胞子)が付着すると、発芽して菌糸を伸ばし、虫体の表皮を物理的・酵素的に突き破って体内に侵入します。侵入後は体内で菌糸が増殖し、害虫を死に至らしめます。つまり「生きた菌を使う農薬」です。
製品の特徴として、有効成分の含量は1g中に4.4×10¹⁰個の分生子が含まれています。これは1gの粉の中に数百億個以上の生きた胞子が詰まっているイメージです。生菌だからこそ、使い方と混用の可否が非常に重要になります。
混用を誤ると効果はゼロです。
コナジラミ類・アザミウマ類・アブラムシ類に対し、従来の化学農薬と同等の高い防除効果を発揮する点も大きな特徴です。さらに2019年11月には適用拡大が行われ、野菜類のうどんこ病にも使用可能になっています。「害虫防除」と「病害防除」を1剤でカバーできる「デュアルコントロール」が可能な農薬として、農業試験機関からも高い関心が寄せられています。
また、JAS法に適合しているため、農薬散布回数にカウントされません。有機栽培や特別栽培農産物でも使用でき、化学農薬の使用回数を節減したい農家にとって非常に使い勝手のよい資材です。
保管方法に注意が必要です。有効成分が生菌であるため、購入後は冷暗所(約5℃)に密封して保管する必要があります。冷凍保存は避け、食品とは区別して保管することが求められます。
参考リンク:ボタニガード水和剤の適用害虫・使用方法・特長の公式情報
ボタニガード水和剤:微生物農薬(殺虫)アザミウマほか|アリスタライフサイエンス
混用表を正確に理解することが、防除効果を最大化する第一歩です。摂南大学農学部植物病理学研究室が、生研支援センターの研究事業として作成した「ボタニガードESの混用可能性表」では、各農薬とボタニガードの組み合わせを以下のように分類しています。
| 記号 | 意味 | 対応方針 |
|---|---|---|
| ○ | 影響が小さい | 混用可能 |
| △ | やや影響あり | 要注意・条件次第で近接散布を検討 |
| ×(強い影響) | 強い影響あり | 混用厳禁・3日以上間隔を空けて近接散布 |
この表の記号は、ボーベリア バシアーナ GHA株の胞子またはボタニガードに対する各農薬の影響を示したものです。混用による薬害の有無を示したものではない点も覚えておきましょう。
つまり「○」が目安であり、最終的には圃場条件(温度・降雨・紫外線量など)によって結果は変わる可能性があります。
「△」の農薬については、混用そのものは可能なケースもありますが、菌への影響がゼロではありません。こうした場合は、ボタニガード散布から3日以上間隔を空けた「近接散布」が現実的な対応策です。近接散布とは、同時に混ぜて散布するのではなく、数日のタイムラグを設けて別々に散布する方法を指します。
一方、「×」の農薬は混用厳禁です。混ぜた瞬間から胞子が死滅するリスクがあり、せっかくの防除資材が無駄になります。
参考リンク:摂南大学が作成した混用可能性表(殺菌剤・殺虫剤の両面)
ボタニガードESの混用可能性(殺菌剤・殺虫剤)一覧|摂南大学農学部
農業現場で実際によく使われる殺菌剤の中に、ボタニガードとの混用が「×(強い影響)」となるものが多数含まれています。知らずに混用してしまうと、防除効果が得られないだけでなく、無駄なコストと手間が発生します。
まず、混用に強い影響が出る(×)殺菌剤の代表例を確認しましょう。
これらは、野菜類の栽培ではごく一般的に使われる殺菌剤です。「いつも使っているから大丈夫」という思い込みが、最大のリスクになります。
一方、混用に影響が小さい(○)殺菌剤としては以下が挙げられます。
注意点として、同じ薬剤でも「散布前の日数」によって評価が変わる場合があります。例えばダコニール1000は、ボタニガードを散布した3日後であれば「◎」になる場合もあります(近接散布対応)。これはボタニガードが菌の感染を成立させるのに数日かかるためであり、感染が成立してからであれば殺菌剤が菌を殺すリスクが下がるからです。
混用可否は状況次第です。
施設トマトやイチゴの栽培では、うどんこ病と害虫の同時防除が必要な場面が多くあります。その際、ボタニガードとカリグリーン(炭酸水素カリウム)の混用は○評価であり、うどんこ病と害虫の同時防除が1回の散布で可能です。これは現場にとって省力化の観点から非常に有利な組み合わせです。
参考リンク:国立研究機関が作成した混用可能性と防除体系の詳細マニュアル
微生物農薬を用いた野菜類の微小害虫とうどんこ病を対象としたデュアルコントロール技術マニュアル|農研機構
殺虫剤との混用については、殺菌剤の場合とは異なり、むしろ「相乗効果が得られる」ケースが多く確認されています。この事実は、農業従事者にとって非常に大きなメリットになります。
ボーベリア バシアーナは、化学殺虫剤で弱った害虫に、より感染しやすくなることが知られています。つまり、化学殺虫剤が100%殺しきれなかった個体でも、糸状菌がダメを押して防除効果を高める仕組みです。これを「相乗効果」と呼びます。
宮城県病害虫防除所の試験(2009年)では、ボタニガードESにカスケード乳剤またはアファーム乳剤を混用した結果、単独散布よりも明らかに高い防除効果が得られたことが確認されています。三重県の施設トマトでも、薬剤感受性が低下したタバココナジラミに対し、ボタニガードESと化学殺虫剤の混用区が単独散布区よりも高い殺虫効果を示しました。
これは使えそうです。
混用可能な殺虫剤(○評価の代表例)は以下のとおりです。
一方、気門封鎖型の薬剤(サンクリスタル乳剤、エコピタ液剤など)については、○評価であっても、アザミウマ類への防除効果の相乗作用は確認されていません。アザミウマは動きが素早いため、散布された気門封鎖剤がすぐに振り払われてしまうためです。
スミチオン乳剤(MEP)は「×」評価で、ボタニガードとの混用は推奨されません。化学殺虫剤の中にも混用できないものがある点に注意が必要です。
混用前に必ず○×を確認することが大切です。
なお、コルト顆粒水和剤やディアナSCとボタニガードESの混用試験では、単剤散布よりも明らかに防除効果が向上したことが現地試験でも確認されています(農研機構・デュアルコントロール技術マニュアル)。抵抗性害虫が増えている農場では、この組み合わせを積極的に活用する価値があります。
参考リンク:糸状菌製剤と殺虫剤の混用による防除効果向上の事例報告
糸状菌製剤と殺虫剤の混用による防除効果向上の試み|アリスタIPM通信(宮城県病害虫防除所)
ボタニガード水和剤と、乳剤タイプのボタニガードES(エマルション製剤)は、見た目には似た製品ですが、天敵との相性に大きな差があります。これは多くの農業従事者が見落としがちな重要なポイントです。
ボタニガードESには補助成分として鉱物油が含まれています。この鉱物油がカブリダニ類に影響を及ぼすため、カブリダニ類を有効成分とする天敵製剤(例:スワルスキー、ミヤコカブリダニなど)とは「併用できない」とされています。チリ・ミヤコ・スワルスキーカブリダニへの室内試験では、ボタニガードES(500倍)がより高い影響を示しました。
水和剤なら天敵と一緒に使えます。
一方、ボタニガード水和剤は鉱物油を含まないため、カブリダニ類との併用が可能です。室内試験では「全く影響を及ぼさなかった」というデータも報告されています(アリスタ通信38号)。IPM(総合的病害虫管理)体系を組んでいる農場では、この水和剤タイプの優位性が大きく発揮されます。
ただし1点注意が必要です。ボーベリア バシアーナは宿主範囲が広く、タイリクヒメハナカメムシやタバコカスミカメといった天敵昆虫にも感染する可能性があります。カブリダニは問題ないですが、捕食性昆虫系の天敵との同時使用は避けることが推奨されます。
天敵との組み合わせは種類ごとに確認が条件です。
実際の施設栽培では、スワルスキーカブリダニなどを放飼しながらボタニガード水和剤を散布し、化学殺虫剤の使用を極力減らすIPM体系が国や各県の農業試験機関から推奨されています。特にトマト・いちご・ピーマンなどの施設栽培では、この組み合わせの効果が現地実証で確認されています。
また、ボタニガード水和剤は鉱物油を含まないことで薬害リスクも低くなっています。ただし、トマトの品種によって(例:「麗夏」など)は軽度の薬害が生じる場合もあるため、初回使用時は小面積での確認が安全です。
参考リンク:昆虫寄生菌製剤の天敵への影響・利用ポイントの詳細解説
アザミウマ類、コナジラミ類に対する昆虫寄生菌製剤の利用ポイント|アリスタIPM通信
混用表で問題ない農薬を選んだとしても、散布液の調製を間違えると防除効果が著しく下がります。ここでは実際の手順と注意点を整理します。
散布液の調製は以下の手順が公式ラベルに記載されています。
この静置時間(2〜4時間)は胞子の発芽を促して効果の発現を早める目的がありますが、現地の専門家の見解では「静置なしでも十分な効果が得られる」とも報告されています。時間の確保が難しい場合は、調製後すみやかに散布しても問題はないとされています。
調製後の散布液は長時間放置しないことが原則です。有効成分が生菌であるため、散布液を調製したら「できるだけ速やかに散布すること」とラベルに明記されています。
散布のタイミングについても注意が必要です。ボーベリア バシアーナは紫外線の影響を受けやすい性質を持ちます。より安定した効果を得るためには、夕方または曇天・雨天など紫外線量の少ない時間帯での散布が推奨されています。
効果の発現には1週間〜10日程度必要です。
散布回数は7日間隔で3〜4回が標準的な使い方です。1回の散布で効果を期待するのは難しく、複数回散布することで施設内の菌密度を高め、安定した防除効果を得ることができます。
また、散布の際は特に葉裏にかかるように行うことが重要です。害虫の多くは葉裏に寄生するため、薬液が確実に届くよう散布量(100〜300L/10a)を十分に確保してください。
5回以上の連続散布は薬害が出る可能性があるので要注意です。
低温期(18℃以下)の使用は効果が落ちやすいため避けることが推奨されます。逆に18〜28℃・湿度80%以上の環境では最も安定した効果が発揮されます。梅雨時期や秋雨の時期は菌が増殖しやすい好条件です。
参考リンク:ボタニガードESの上手な使い方と散布条件の詳細
ボタニガードESの上手な使い方(散布手順・温度湿度・薬害注意)|アリスタライフサイエンス