エマルション(乳化物)は、油と水のように互いに溶け合わない液体の一方が、他方に微細な液滴(乳化粒子)として分散した状態を指します。
このとき、外側に連続して存在する相を「連続相」、液滴として散っている相を「分散相」と呼び、性質は連続相の影響が強く出ます。
代表的な型は、油滴が水に分散したO/W型と、水滴が油に分散したW/O型で、O/Wは水に溶けやすく、W/Oは水に溶けにくい挙動になります。
エマルションは「混ざった」ように見えても、実際には界面(油と水の境界)が膨大に増えた高エネルギー状態なので、放っておくと分離方向へ戻ろうとします。
参考)📚 (2-1) 撹拌の立場から乳化をイメージしよう 【乳化と…
そこで重要になるのが界面活性剤(乳化剤)で、界面に吸着して界面張力を下げ、液滴の合一(くっついて大きくなる現象)を起きにくくして安定化します。
現場での直感としては、「透明に溶けた」は水溶液寄り、「白く濁った」はエマルション寄りのことが多いです。
ただし粒子径が光の波長より十分小さいと半透明〜透明に見える場合もあり、見た目だけで安定性を判断できない点は意外な落とし穴です。
身近なO/W型エマルションの例として牛乳が挙げられ、連続相が水なので水に溶解する(薄めても広がる)性質が表れます。
一方、W/O型の例としてバターが挙げられ、連続相が油のため水には溶けません。
どちらも白く濁って見えやすいのは、水と油の屈折率の違いで光が界面散乱するためです。
この「散乱で白く見える」性質は、農薬タンクで希釈したときに乳白色になっても異常とは限らない、という判断材料になります。
逆に、希釈後に一見きれいに見えても、時間とともに上澄み・下層が分かれる場合は、液滴が成長して分離が進んでいる可能性があります。
また、乳化は自然に起きにくく、攪拌など外部から機械的エネルギーを入れて液滴を細かくする必要があります。
「入れたら勝手に均一になる」と思い込むと、タンク上部と下部で濃度が変わり、効きムラ・薬害ムラの温床になります。
農薬の剤型で「乳剤(EC)」は、水に溶けにくい成分を水中で均一に分散できるよう、界面活性剤・乳化剤などで安定化させた製剤です。
希釈後は乳化して乳剤と同様の性質を示し、タンク内で有効成分を均一に運ぶことを狙っています。
EW剤(emulsion oil in water)は、成分を水溶性ポリマーなどで被覆して水に分散させた製剤で、調整後の性状は乳剤と同じ、と整理されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/44/4/44_269/_pdf
さらに「有機溶剤を用いないので危険物に該当しない」という特徴が挙げられており、保管・取り扱い面の判断軸になります。
マイクロエマルジョン(ME)は、水に溶けない成分を少量の有機溶剤と界面活性剤で水に分散させた液体製剤で、水希釈後は安定な液剤になる、と説明されています。
この“安定な液剤”という表現は、現場感覚では「分離しにくい=管理が楽」に直結しやすい一方、混用順序や水質で挙動が変わることもあるため、常にラベル指示が優先です。
剤型の理解が役立つ場面の例を、作業単位でまとめます。
農薬剤型の一覧と「EW」「ME」などの用語の意味を押さえる(本記事の剤型パートの根拠)
農薬の剤型とその特性(EW・MEなどの定義と特徴)
エマルションは界面面積が大きく、界面自由エネルギー(界面張力)も高い状態なので、外力なしに自然発生しにくい、というのが基本です。
実際には攪拌などで液滴を作り、さらに乳化剤(界面活性剤)で界面張力を下げることで、分離しにくい状態を作ります。
単にかき混ぜただけでは分離してしまうことがある、という指摘は、タンク内の攪拌が「最初だけ」になりがちな現場で特に重要です。
安定性の話を“見える化”すると、現場では次の3つが効きます。
意外と見落とされやすいのが「透明=成功、白濁=失敗」という誤解です。
粒子径が光の波長より十分小さくなると透明に見える場合があり、透明でも油水が“溶けた”わけではないことがあります。
逆に白濁は界面散乱の結果であり、正しく乳化しているサインであることもあるので、判断は“分離挙動(時間変化)”で行うのが安全です。
エマルションの定義・O/WとW/O・白濁の理由・乳化剤の役割(本記事の基礎パートの根拠)
日本化粧品技術者会(SCCJ)用語集:エマルションの定義と性質
エマルションは連続相の性質が強く出るため、同じ“乳白色の薬液”に見えても、タンク内で局所的に連続相・分散相の状態が揺らぐと、ノズルへ行く薬液の濃度が時間で変わり得ます。
このとき怖いのは、面積全体が一様に薄い・濃いのではなく、「散布開始直後だけ濃い」「最後だけ薄い」といった時間軸のムラが、圃場の位置ムラとして現れる点です。
つまり散布ムラ対策は“圃場のムラ取り”だけでなく、“タンク内の濃度マップ(時間変動)”を潰す作業でもあります。
実務上の工夫として、次のように「観察→対処」をセットにすると再現性が上がります。
この視点が独自なのは、乳化を“化学の話”で終わらせず、圃場で起きる現象を「タンク内の状態変化が作る濃度の時系列」として扱うところです。
同じ剤型でも、段取り(攪拌・放置・移動の振動)で結果が変わることがあり、技術の差が出やすいのはこうした運用の部分です。
ラベルに書かれた希釈・混用・攪拌の指示は、単なる形式ではなく“濃度マップを平坦にするための条件”と捉えると守る理由が腹落ちしやすくなります。