ダコニールの使い方と玉ねぎの希釈倍率や散布時期と病気

玉ねぎ栽培でダコニールの効果を最大化する使い方とは?希釈倍率の計算から、べと病や灰色かび病を防ぐ散布時期、展着剤の選び方まで徹底解説。収穫前の使用回数や安全性の疑問も解決します。

ダコニールの使い方と玉ねぎ

記事の概要
🧅
希釈とタイミング

1000倍希釈が基本。雨上がりのタイミングで予防散布を徹底する。

💧
展着剤の重要性

玉ねぎはワックス層が強いため、固着性の高い展着剤が必須。

🛡️
耐性菌対策

基幹剤としてローテーションに組み込み、耐性菌リスクを下げる。

ダコニールの希釈倍率と玉ねぎへの散布時期の基本

 

玉ねぎ栽培において、ダコニール1000は最も信頼される「基幹防除剤」の一つです。しかし、その効果を正しく発揮させるためには、正確な希釈倍率と適切な散布時期(タイミング)の見極めが不可欠です。

 

まず、希釈倍率についてですが、玉ねぎに対するダコニール1000の登録希釈倍数は1000倍です。これは農業現場で非常に一般的な倍率ですが、計算を間違えると濃度障害(薬害)や効果不足の原因になります。

 

具体的な調製例を挙げます。

 

  • 水10リットルの場合:ダコニール1000を10ml混和します。
  • 水20リットル(背負い動噴)の場合:ダコニール1000を20ml混和します。
  • 水500リットル(タンク)の場合:ダコニール1000を500ml(ボトル1本分)混和します。

1000倍という倍率は計算しやすいですが、必ず計量カップやピペットを使用して正確に測ってください。「キャップ1杯」といった目分量は、過剰濃度による葉先枯れのリスクを高めるため厳禁です。

 

次に、散布時期についてです。ダコニールの最大の特徴は「保護殺菌剤(予防剤)」であるという点です。つまり、病気が蔓延してから撒くのではなく、病気が出る前に葉の表面をコーティングしておくことで、病原菌の侵入をブロックする使い方が求められます。

 

玉ねぎ栽培で特に重要となるタイミングは以下の通りです。

 

  1. 育苗期後半:苗床での感染を防ぐため、定植前に散布します。
  2. 定植後の活着期:11月〜12月頃、冬の湿害による病気を防ぎます。
  3. 春の伸長期(重要):2月下旬〜4月、気温が上がり雨が増える時期は、最も重要度が高い時期です。

特に春先は「雨上がり」のタイミングで散布しがちですが、理想は「雨が降る前」です。ダコニールの有効成分TPNは、葉の表面に付着して耐雨性を発揮しますが、乾いて定着する前に雨に打たれると流亡してしまいます。天気予報を確認し、降雨の予報がある前日や前々日に散布を済ませておくのが、プロの農家が実践する「勝ちパターン」です。

 

たまねぎ病害防除のポイント|ダコニール1000(公式)
参考リンク:ダコニール倶楽部による公式情報です。気温15℃前後での曇雨天続きが散布の重要なシグナルであることが解説されています。

 

玉ねぎのべと病や灰色かび病へのダコニールの効果

玉ねぎ栽培で最も恐れられる二大病害が、「べと病」と「灰色かび病」です。ダコニールはこの両方に対して登録があり、同時防除が可能な点が大きなメリットです。

 

【べと病(Downy Mildew)】
べと病は、玉ねぎ栽培における最大の敵と言っても過言ではありません。

 

初期症状では葉の色がぼんやりと退色し、進行すると葉が波打つように変形したり、黄白色の病斑が現れます。湿度の高い朝には、病斑上に汚白色〜紫色のカビ(分生子)がびっしりと発生します。

 

べと病の恐ろしい点は、「全身感染(システム感染)」を起こすことです。秋に感染した苗は、菌糸が植物体内で越冬し、春になって気温が上がると一気に全身に症状が現れ、周囲に大量の胞子を飛ばします(これを第一次伝染源と呼びます)。

 

ダコニールは、この胞子が葉に付着した際、発芽を阻害することで感染を食い止めます。すでに植物体内に入り込んでしまった菌を殺す「治療効果(キュラティブ効果)」は期待できないため、いかに「感染させないか」が勝負となります。

 

【灰色かび病(Gray Mold / Botrytis)】
灰色かび病は、主に葉先から枯れ込み、灰色のカビを生じる病気です。

 

「ボトリティス葉枯症」とも呼ばれ、小さな白斑(多犯性斑点)が無数にできる症状もこの菌の仲間によるものです。枯れた葉先は光合成能力を失うだけでなく、そこから腐敗菌が入り込んで貯蔵中の腐り(腐敗玉)の原因にもなります。

 

ダコニールは、これらの病原菌が持つ酵素(SH基)を阻害することで、エネルギー代謝を止めて死滅させます。この作用機序は非常に強力で、カビの胞子が発芽する段階でシャットアウトするため、発病を未然に防ぐ効果が極めて高いのです。

 

特に、暖冬の年は灰色かび病が増えやすく、春の長雨の年はべと病が爆発的に増える傾向があります。どちらの予兆があっても対応できるよう、3月〜4月の防除暦には必ずダコニールを組み込んでおくことが、収量確保の生命線となります。

 

日本植物防疫協会 - 野菜の病害虫防除
参考リンク:べと病などの重要病害に対する薬剤のポジショニングや、防除の基本的な考え方が学術的にまとめられています。

 

ダコニールと展着剤の混用と玉ねぎへの付着性

「ダコニールを撒いたのに、あまり効かなかった」という声を聞くことがありますが、その原因の多くは「展着剤」の選択ミスにあります。

 

玉ねぎやネギ類の葉は、表面に「ブルーム」と呼ばれる白い粉(ワックス層)を持っています。このワックス層は水を強烈に弾く性質があるため、ダコニールを水で溶いただけの薬液を散布しても、コロコロとした水滴になって転がり落ちてしまいます。これでは薬剤が葉に留まらず、防除効果はほとんど期待できません。

 

そこで重要になるのが、薬液を葉に馴染ませ、貼り付ける役割を持つ「展着剤」です。

 

しかし、一般的な安価な展着剤(界面活性剤成分のみのもの)では、玉ねぎの強力なワックス層には対抗できない場合があります。玉ねぎ栽培では、以下のような機能性展着剤の使用が推奨されます。

 

展着剤の種類 特徴 玉ねぎへの推奨度
一般展着剤 表面張力を下げ、広がりやすくする。(例:ダイン、グラミンSなど) △(弾かれる場合がある)
固着性展着剤 パラフィン等が主成分。雨に強く、糊のように張り付く。(例:アビオンEなど) ◎(非常に推奨)
浸透性展着剤 ワックス層を溶かして浸透させる。(例:アプローチBIなど) 〇(効果は高いが、ブルーム落ちに注意)

【混用のポイント】
ダコニール1000の粒子は非常に細かいため、固着性の高い展着剤(アビオンEなど)と混用することで、葉の表面に強固な保護膜を形成します。これにより、散布後に多少の雨が降っても薬剤が流亡しにくくなり、残効期間(効果が続く期間)を延ばすことができます。

 

【注意点:ブルームレス現象】
浸透性の強すぎる展着剤を高濃度で使用したり、高温時に散布したりすると、玉ねぎのワックス層(ブルーム)が溶けてしまい、葉がテカテカの緑色になることがあります。これを「ブルーム落ち」と呼びます。ブルームが落ちると、逆に病気にかかりやすくなったり、日焼けを起こしたりすることがあるため、使用量(通常1000倍〜数千倍)は厳守してください。

 

基本的には、ダコニールには「固着性」重視の展着剤を組み合わせるのが、玉ねぎ栽培におけるセオリーです。

 

ダコニールの耐性菌リスクとローテーション散布

農薬を使用する上で避けて通れない問題が「耐性菌(薬剤抵抗性菌)」です。同じ種類の殺菌剤を使い続けると、その薬剤が効かない菌が生き残り、最終的に薬が全く効かなくなる現象です。

 

特に、近年よく使用される浸透移行性の殺菌剤(ストロビルリン系やEBI剤など)は、「作用点」が単一であるため、耐性菌が発生しやすいという弱点があります。一度耐性がつくと、その畑ではその系統の薬剤が使えなくなってしまいます。

 

ここで、ダコニールの真価が発揮されます。

 

ダコニールの有効成分TPNは、病原菌の細胞内の複数の酵素(SH基)を同時に阻害する「多作用点阻害剤」です。菌からすれば、同時に何箇所も攻撃されるため、対抗する手段(耐性)を獲得するのが極めて難しいのです。事実、発売から数十年が経過していますが、ダコニールに対する実用的な耐性菌の発生事例はほとんど報告されていません。

この特徴を生かしたのが「ローテーション散布」です。

 

  1. A剤(治療剤):ストロビルリン系など(効き目は鋭いが耐性がつきやすい)
  2. B剤(保護剤):ダコニール(耐性がつきにくい)
  3. C剤(治療剤):アニリノピリミジン系など

このように、耐性リスクの高い治療剤の間にダコニールを挟むことで、耐性菌の密度を下げ、他の薬剤の寿命も延ばすことができます。ダコニールは単なる「古い薬」ではなく、最新の薬剤を守るための「盾」としても機能するのです。

 

特に玉ねぎのべと病防除では、シーズン中に何度も薬剤散布を行う必要があります。すべての回数を治療剤で行うのはコスト的にもリスク的にも不可能です。

 

「基本はダコニールで守り、リスクが高い時や発病が見られた時に治療剤を投入する」という戦略を立てることで、経済的かつ持続可能な防除が可能になります。

 

サンケイ化学 - ダコニール1000製品PDF
参考リンク:作用機序や耐性菌に関する公式の技術資料です。SH酵素阻害作用についての詳細が確認できます。

 

玉ねぎの収穫とダコニールの使用回数や安全性

収穫が近づくにつれて気になってくるのが、農薬の残留と安全性、そして使用回数の制限です。玉ねぎに対するダコニール1000の使用ルールを正しく理解しましょう。

 

【収穫前使用日数】
玉ねぎの場合、ダコニール1000は「収穫7日前まで」使用可能です。

 

(※一部の古い資料や他作物(ねぎ等)と混同して「前日まで」と誤認されることがありますが、玉ねぎの登録は基本的に7日前です。必ず最新のラベルを確認してください。)
これは、収穫予定日の1週間前までに最後の散布を終えなければならないことを意味します。早生(わせ)品種などで収穫が早まる可能性がある場合は、余裕を持って散布を切り上げる必要があります。

 

【使用回数】
ダコニール1000(およびTPNを含む農薬)の総使用回数は、「6回以内」と定められています。

 

育苗期から本圃での栽培期間を通して、合計6回までしか使えません。

 

例えば、育苗期に2回散布し、秋の定植後に2回散布した場合、春の防除で使えるのは残り2回となります。春はべと病のリスクが最も高まる時期ですので、ここに回数を残しておくような配分計画が必要です。

 

【収穫物の「白さ」について】
ダコニールを散布すると、葉や茎に白い薬液の跡が残ります。これは有効成分がしっかりと付着している証拠(=防除が成功している証)であり、この「白さ」こそが病原菌から植物を守っています。

 

しかし、収穫直前に散布すると、玉ねぎの首部分や皮に白い粉が残ることがあります。

 

これは食品安全上の基準(残留農薬基準)を守っていれば、食べても健康に害はありませんし、洗えば落ちるものです。しかし、市場出荷直売所での販売を考えている場合、見た目の品質として嫌われることがあります。

 

そのため、安全基準は「7日前」であっても、汚れを気にする場合は収穫の14日〜20日前にはダコニールの使用を終了し、汚れの残りにくい液剤や顆粒水和剤などに切り替えるのが賢明です。

 

【安全性のまとめ】

  • 使用期限:収穫7日前まで厳守。
  • 回数制限:栽培期間通算で6回まで。
  • 汚れ対策:出荷用なら早めに切り上げる工夫を。

農薬取締法に基づくこれらの基準は、消費者の安全を守るための絶対的なルールです。使用した日付と倍率を必ず防除日誌に記録し、適正な使用を心がけてください。正しい知識でダコニールを使いこなせば、玉ねぎ栽培の成功率は飛躍的に向上します。

 

 


住友化学 殺菌剤 ダコニール粉剤 3kg