スピノサドは「天然由来だから何回でも使える」と思っていると、知らぬ間に違反になります。
スピノサドは、土壌中の放線菌(Saccharopolyspora spinosa)が生産する天然化合物です。主成分はスピノシンAとスピノシンDの混合物で、微生物発酵によって生産されます。
作用のしくみは独特です。昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、神経伝達を狂わせます。同時にGABA受容体の機能にも影響を与えるため、害虫の筋肉が異常に収縮・痙攣し、麻痺したまま死に至ります。
これは使えそうですね。
既存の有機リン系・ピレスロイド系農薬とは作用点が異なるため、これらに抵抗性を持った害虫にも効果を発揮する点が大きな強みです。コナガ、オオタバコガ、アザミウマ類、ハモグリバエ類など、野菜農家が頭を悩ませる害虫に対して幅広く使えます。
作用機序の分類はIRACコード5です。ローテーション散布で抵抗性管理を行う際には、この番号をラベルで確認して他の作用機序の農薬と組み合わせるのが原則です。
スピノサドの有効成分は、有機JAS規格の別表2(使用可能な農薬)に記載されており、有機農産物の栽培に使用できます。これはスピノエース顆粒水和剤などの製品ラベルにも明記されています。
ここが重要です。
「特別栽培農産物」の基準では、スピノサドは使用回数にカウントされない農薬として認められています。しかし、各都道府県や地域の農業団体が独自に設けた農薬使用基準では、カウント対象としているケースがあります。
全国一律ではないということですね。
農薬の使用計画を立てる前に、必ず地域の農業指導機関や農協に確認するのが条件です。「国の基準でカウントゼロだから大丈夫」という思い込みで進めると、地域ルール違反で特別栽培の認証を取り消されるリスクがあります。認証を失えば販売単価の大幅な低下につながるため、確認の手間は惜しまないでください。
スピノサドを含む農薬の使用回数は、作物ごとに登録ラベルで細かく定められています。たとえばスピノエース顆粒水和剤の場合、以下が代表的な基準です。
「収穫前日まで使える=いつでも使える」ではありません。使用回数の上限を超えた場合、農薬取締法違反になります。
特に見落としやすいのが「スピノサドを含む農薬の総使用回数」の欄です。スピノエース以外にスピノサドを含む別の農薬を使っていた場合、その回数も合算されます。複数メーカーの製品を使っている農家は、成分名で使用履歴を管理することが必須です。農薬散布の記録帳や管理アプリ(農業日誌アプリなど)を活用して、成分名ベースで回数を把握する習慣をつけましょう。
天然由来で安全なイメージのあるスピノサドですが、ミツバチへの毒性は高いとされています。
これは意外ですね。
哺乳類や魚介類への急性毒性は低く(ウサギの経皮LD50は2000mg/kg超)、土壌中のミミズへの毒性も限定的です。
しかしミツバチは別です。
スピノサドはハチ目昆虫に対して強い毒性を持ち、花粉や葉の残留物を経由した暴露でも被害が出ることが報告されています。
農薬取締法に基づく使用基準では、周辺で養蜂が行われている場合、農薬使用前に関係機関(都道府県の農業指導部局や市町村)へ情報提供し、ミツバチへの危害防止措置を講じることが求められています。この対応を怠ってミツバチ被害が発生した場合、損害賠償請求のリスクがあります。
養蜂家とのトラブルは金銭的損害だけでなく、地域での営農継続にも影響します。施用前に地域の農協や病害虫防除所に養蜂業者の有無を問い合わせる手順を、作業マニュアルに組み込んでおくのがベストです。
スピノサドは効果が高い分、同じ圃場に繰り返し使い続けると抵抗性を持った害虫集団が出現するリスクがあります。実際にコナガやアザミウマ類でスピノサドへの抵抗性が確認された事例が、国内外の農業試験場から報告されています。
抵抗性が発達すると、規定の希釈倍数で散布しても効かなくなります。つまり使用回数の上限まで使い切っても防除できず、他の農薬に切り替えざるを得ない状況になります。
これは時間とコストの両方で大きな損失です。
抵抗性管理が条件です。
IRACの抵抗性管理指針では、同じ作用機序(コード5)の農薬を連続使用せず、異なる作用機序の農薬とローテーションすることが推奨されています。たとえば、スピノサド(コード5)→ジアミド系(コード28)→BT剤(コード11)のように、1シーズン内で作用点を変えながら使うのが基本です。
地域の病害虫防除所が発行する「農薬抵抗性管理ガイドライン」を確認すると、地域の害虫の抵抗性発達状況に合わせた具体的なローテーション例が記載されています。年に一度は目を通しておくだけで、長期的な防除コストを大幅に抑えられます。
参考:農林水産省が定める農薬登録情報や使用基準について確認できます。
スピノエース顆粒水和剤 製品ページ(コルテバ・アグリサイエンス)―適用作物・希釈倍数・使用回数の正式一覧が確認できます
参考:スピノサドの毒性評価・環境影響に関する公的資料です。
環境省 農薬登録審査資料「スピノサド」―ミツバチを含む生態系への影響データが掲載されています
参考:特別栽培農産物の使用基準と農薬カウントの考え方が詳しく解説されています。
天敵Wiki「スピノエース」―特別栽培カウントに関する地域差の注意点が記載されています