オオタバコガ対策でまず押さえたいのは、幼虫になってから追いかけるより「卵で止める」ほうが圧倒的に有利だという点です。奈良県の露地ナス向けマニュアルでも、オオタバコガは孵化幼虫の段階から収量に直結する被害を出すため、卵段階で作用する卵寄生バチが有望だと整理されています。
現場で卵寄生バチ(例:キイロタマゴバチの1種)の存在を確認する一番の近道は「卵の色」です。マニュアルでは、卵寄生バチに寄生された卵は黒色~黒紫色に変色し、慣れると容易に見分けられると書かれています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0afd0ed972a16a602d95022d4eff3247418fffb4
とくに、ナス葉裏で見つかる“黒化した卵”を見たら、それは天敵が稼働しているサインなので、うっかり潰さず、薬剤を当ててリセットせず、なるべく温存する発想が大切です(もちろん発生密度が高すぎる場合は別判断)。
さらに意外なポイントとして、同じ卵寄生バチでも「1卵から羽化する頭数」が害虫種で変わることがあります。奈良県の資料では、スズメガ類の卵(直径2mm程度)では1つの卵から100頭を超えると思われる卵寄生バチが羽化する一方、オオタバコガ卵に寄生した場合は「1卵から1頭」と記載があります。
つまり、圃場で黒化卵を多く見かける=オオタバコガだけの話ではなく、周辺で発生している別のチョウ目害虫の卵も含め、天敵が“現場に居着く理由(餌・寄主)”が複合的に成立している可能性があります。
天敵を活かすには、相手(オオタバコガ)の動きを雑に捉えないことが重要です。奈良県のマニュアルでは、オオタバコガは露地越冬可能で、株元の土中で蛹になって休眠するとされています。
また、年3~4世代発生と考えられ、越冬世代成虫が5月中下旬、その後も6月下旬~7月上旬、7月下旬~8月上旬、8月下旬~9月上旬、さらに10月下旬~11月上旬にも成虫が発生すると、性フェロモントラップの消長例と合わせて示されています。
産卵場所にもクセがあります。成虫は生長点付近の新葉や花蕾に1個ずつ産卵し、孵化幼虫はまず新葉や花蕾を食害してから下方へ移動し、果実に食入する流れが整理されています。
この「上(新葉・花蕾)→下(果実)」の移動は、圃場での見回り順序そのものに直結します。見回りで花蕾周りを見ずに果実だけを見ていると、天敵(卵寄生バチ)を見落とし、かつ防除適期(孵化直後)も逃しやすくなります。
加えて、薬剤防除が中心になる場合でも“どこを狙うか”は同じです。奈良県の資料では、オオタバコガの防除薬剤は主に幼虫に効くもので、卵や成虫への効果はあまり期待できず、花蕾・果実への食入を防ぐには孵化直後の防除徹底が必要とされています。
言い換えると、天敵を使う場合も薬剤を使う場合も、勝負所は「卵~若齢幼虫の入口」にあります。
天敵は“いるだけ”では足りず、圃場で増えたり働けたりする条件が必要です。奈良県の露地ナスの総合的害虫管理マニュアルでは、ヒメハナカメムシ類などの土着天敵を保護しつつ、他の害虫は「天敵に影響の小さい選択性殺虫剤」で整合させることが体系として示されています。
オオタバコガについても、ヒメハナカメムシ類への影響が小さい選択性殺虫剤が多いので、同時期に問題になる他害虫も含めて薬剤を選ぶ、と明記されています。
さらに重要なのは、「天敵が多い圃場では、散布回数が少なくても被害が少ない傾向がある」という観察結果です。奈良県の資料では、卵寄生バチだけでなく、ヒメハナカメムシ類やクモ類などの広食性捕食者が若齢幼虫を捕食し、天敵相が豊富な圃場でオオタバコガ被害リスク低減につながる可能性が示唆されています。
ここがIPMの“地味に効く”ところで、オオタバコガ単体の対策ではなく、圃場の生態系(天敵相)を維持するほど、結果としてオオタバコガも暴れにくくなる、という発想に繋がります。
具体的な運用のコツを、現場向けに噛み砕くと次の通りです(入れ子にしません)。
参考:オオタバコガの発生生態(世代・産卵場所・性フェロモントラップ消長例)と、卵寄生バチ(キイロタマゴバチの1種)・寄生卵の黒化の見分け方がまとまっています。
奈良県「露地ナスの総合的害虫管理マニュアル(2024年3月)」
「天敵=寄生蜂」だけではありません。奈良県の資料でも、ヒメハナカメムシ類やクモ類などの広食性捕食者がオオタバコガ若齢幼虫を捕食することが述べられています。
ただし、捕食者は“勝ち筋”が少し違って、卵寄生バチのように卵を確実に止めるというより、「密度が上がりきる前に、薄く削ってピークを鈍らせる」役割になりがちです。
捕食性カメムシの代表格として、ハリクチブトカメムシは鱗翅目害虫幼虫の天敵で、利用のためには増殖法が重要だと研究成果で整理されています。
参考)人工飼料による捕食性天敵ハリクチブトカメムシの飼育
この資料は現場投入そのものの手順書ではないものの、捕食性天敵の実用化でボトルネックになりやすい「増殖(餌・飼育)」の話が前面に出ている点が現実的で、放飼で戦う場合はコストや継続性が課題になりやすいことを示唆します。
一方で、土着天敵を“圃場内で自然に増やす”方向なら、話は変わります。奈良県のマニュアルが強調しているように、天敵相を崩さない選択性殺虫剤の運用や、圃場周縁の環境づくりでクモ類なども増え、結果としてオオタバコガ被害が少ない傾向が出る可能性があります。
このアプローチは、特定の天敵資材を買って放つよりも、再現性が高いことが多いです(ただし地域・作型・周辺環境で変動します)。
検索上位の記事では「薬剤ローテ」「若齢幼虫で叩く」寄りの説明が多くなりがちですが、現場で差がつくのは“見つけた天敵の成果物をどう扱うか”です。奈良県の資料が具体例として挙げるように、卵寄生バチに寄生された卵は黒化し、慣れると見分けられます。
黒化卵を見つけたとき、反射的に「卵がある=悪」と判断して潰したり、広域散布でまとめて流してしまうと、天敵の増殖機会(次世代)を自分で消してしまうことになります。
しかも、卵寄生バチは“圃場で増える条件”が揃うと、意外なほど連鎖します。奈良県のマニュアルには、減農薬に取り組む圃場で夏に卵寄生バチが確認されていること、そして寄生された卵を見つけた場合は「そのまま放置するのが望ましい」と明確に書かれています。
この一文は地味ですが、天敵活用の実務としてはかなり強い指示で、「天敵を増やす操作」として最も簡単で、コストがかからず、しかも失敗しにくい行動です。
ここから先は、圃場で実装するための“判断基準”に落とします(入れ子にしません)。
この「黒化卵の扱い」をルール化すると、天敵の稼働を“見える化”でき、上司チェックでも説明が通りやすくなります(感覚ではなく観察事実で語れるため)。
オクラで問題になりやすいのは、ワタアブラムシが優占し、次いでモモアカアブラムシが見られるパターンです。
寄生部位は葉裏が中心ですが、増えるとつぼみや幼果にも付き、見逃すと一気に作業量が増えます。
実害は「吸汁による生育抑制」だけではありません。高密度になると甘露(排泄物)で葉や果実の表面にすす病が出て、見た目の品質を落とします。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9a2e833bf15b4f7c0f21bc403ee8b1b4521cdd79
さらに生長点付近に多発すると葉の奇形や生育抑制が起こり、特に生育初期の多発はダメージが大きいとされています。
現場での点検は、毎回ぜんぶを細かく見るより「見る場所を固定」すると続きます。
意外と見落としがちなのが、「少数の発生でも先にすす病が目立つ」ケースです。甘露で葉がテカり、黒っぽい汚れが出たら、すでに群れが進行している合図なので、葉裏を裏返して確認します。
アブラムシ対策は、発生してから叩くより「最初の飛来を減らす」ほうが省力で、結果として薬剤依存を下げやすいです。
有翅アブラムシは反射光を嫌う性質があるため、シルバーやシルバーのストライプ入りマルチで忌避効果が得られます。
露地オクラの文脈でも、シルバーポリフィルムのマルチングやシルバーテープ処理が、有翅虫の飛び込み防止に有効とされています。
つまり、株に付き始める前の「侵入経路」を切る発想で、後半の防除をラクにする作戦です。
導入のコツは、反射が効く面積とタイミングを外さないことです。
「反射は家庭菜園向けの小技」と思われがちですが、露地の有翅虫侵入を抑える手段として位置づけられている点がポイントです。
また、反射資材は“薬剤の代替”というより、“薬剤が必要になる回数を減らす土台”と考えると運用がぶれません。
露地ではテントウムシや寄生蜂などの天敵類が、アブラムシ密度の抑制に役立つため、殺虫剤のむやみな使用はできるだけ避けるべきだとされています。
ここを無視して「見えたら毎回強めに散布」を続けると、天敵が減って後半にアブラムシが戻りやすくなり、結果的に回数が増える…という負のループに入りがちです。
その打開策として、鹿児島県の事例では、圃場周囲に“天敵温存植物”を植えて代替餌・花粉・花蜜を供給し、土着天敵の誘引・定着を促す技術が示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11437164/
同資料では、天敵温存植物の活用により、露地オクラでの殺虫剤散布回数と散布経費を大幅に低減できる、と整理されています。
温存植物の例として、ヘアリーベッチ、ソルゴー、シロカラシ、ハゼリソウ、ソバ、ホーリーバジルが挙げられています。
ここが「意外と効くポイント」で、オクラ株そのものを守るだけでなく、“畑の周辺環境”を設計してアブラムシの増殖を押し返す、という発想に切り替えられます。
現場での運用は、完璧を狙うより“できる範囲で再現性を上げる”のが現実的です。
参考(天敵温存植物・IPMの考え方、導入メリットの根拠)。
天敵温存植物の活用方法の例、殺虫剤散布回数・経費の低減の考え方がまとまっています。
鹿児島県:オクラのアブラムシ類に対する天敵温存植物を活用した土着天敵の保護・強化技術(PDF)
オクラはマイナー作物であるため、適用登録のある薬剤は極めて少ない、という前提がまず重要です。
アブラムシ類に対しては、イミダクロプリド水和剤、オルトラン水和剤が適用登録されていると記載されています。
ただし、同資料ではオルトラン水和剤はワタアブラムシに対し効果の劣ることがある、とも述べられています。
一方で、フタトガリコヤガ等との同時防除を図る場合に使える可能性がある、という「現場の組み立て」まで踏み込んでいる点が実務的です。
薬剤で外せないのは、同じタイプの連用を避けることです。アブラムシは薬剤抵抗性が問題になりやすく、異なる作用の薬剤をローテーションする重要性が強調されています。
参考)オクラに発生するアブラムシを防除する農薬について
翌日に集団で残るようなら抵抗性を疑い、RAC/IRACコード等を確認して散布体系を見直す、という観点も提示されています。
運用の現実解としては、次の順で判断すると迷いにくいです。
参考(オクラの主要害虫・アブラムシの被害、登録薬剤、反射資材や天敵の位置づけ)。
露地オクラを中心に、アブラムシの生態・被害(すす病、奇形、生育抑制)と、登録薬剤、反射資材、天敵配慮まで体系的に読めます。
高知県におけるオクラの主要害虫の生態と防除(アリスタ ライフサイエンス農薬ガイド)