タバココナジラミは1989年の海外からの侵入以降、日本の施設園芸に深刻な被害をもたらし続けている害虫です。特に問題となるのが薬剤抵抗性の発達で、現在主流となっているバイオタイプQは、従来のバイオタイプBよりもさらに強い抵抗性を持っています。
この害虫が厄介な理由は複数あります。体長約0.8ミリという微小サイズで発見が遅れやすく、繁殖力が極めて高いため、気づいた時には既に大量発生していることが珍しくありません。さらに、トマト黄化葉巻病やキュウリ退緑黄化病などのウイルス病を媒介し、栽培初期に感染すると収穫が皆無になるケースもあります。
実際、トマトの全国生産額は年間1000億円以上に達しており、その1%が被害を受けるだけでも10億円以上の損失となります。このような背景から、タバココナジラミの防除は単なる害虫対策ではなく、経営を守るための最重要課題となっているのです。
薬剤抵抗性は遺伝するため、不適切な農薬の使用は次世代へと問題を引き継ぎます。つまり、今日の防除方法が明日の効果を左右するということですね。
バイオタイプQに対して効果が確認されている農薬は限られています。各地の農業試験場での検定結果によると、成虫と幼虫の両方に高い効果を示す薬剤は特に少なく、発育ステージに応じた使い分けが必要です。
成虫に対して効果が高い薬剤としては、ネオニコチノイド系のモスピラン顆粒水溶剤やアルバリン顆粒水溶剤、新規系統のトランスフォームフロアブル、ベネビアODなどがあります。これらは接触後速やかに吸汁活動を停止させ、ウイルス媒介を抑制する効果が認められています。
幼虫に対してはコロマイト乳剤、ディアナSC、アニキ乳剤などが高い死虫率を示します。特に3齢幼虫に効く薬剤は非常に少ないため、若齢幼虫のうちに防除することが重要です。
栽培初期の防除には、灌注処理タイプのベリマークSCが注目されています。定植前後に株元へ灌注処理することで、根から吸収された有効成分が地上部全体に移行し、約3~4週間の長い残効性を発揮します。育苗期や定植直後は作業が集中する時期ですが、灌注処理なら葉面散布に比べて省力的に防除できます。
気門封鎖剤のムシラップも効果的な選択肢です。この剤は物理的に害虫の気門を塞いで窒息死させるため、薬剤抵抗性の心配が少ないという利点があります。ただし、接触した虫体にのみ効果があるため、7日間隔での連続散布が推奨されています。
和歌山県農業試験場のタバココナジラミバイオタイプQに対する薬剤効果試験結果(PDF)では、具体的な死虫率データが公開されており、薬剤選択の参考になります。
農薬の効果を最大限に引き出すには、散布方法が極めて重要です。タバココナジラミは葉裏に生息するため、葉の裏側までしっかり薬液を到達させる必要があります。
展着剤の使用は防除成功の鍵となります。タバココナジラミの体表はワックス層で覆われており、農薬をはじきやすい性質があるからです。福井県の試験によると、スカッシュ、ニーズ、ブラボーなどの展着剤を加用することで農薬の効果が大幅に向上することが報告されています。ただし、展着剤の種類によっては作物を汚したり、高温期に薬害を引き起こすリスクがあるため、使用前に必ず注意事項を確認してください。
散布時期も重要な要素です。コナジラミ類は気温が高く乾燥した環境を好むため、4月から10月にかけて発生数が増加します。特に栽培初期の防除が最も重要で、この時期にウイルス病に感染すると致命的なダメージとなるからです。
黄色粘着板を設置して、成虫の飛来を早期に発見する仕組みを作りましょう。1複葉あたりの成虫数が10頭を超えると被害が急増するというデータがあり、この密度を超える前に防除を開始することが理想的です。
灌注処理を行う場合は、薬液が培土にしっかり吸収されることが大切です。葉に薬液が付着する必要はないため、展着剤は不要となります。処理後は適切に灌水し、有効成分を根から効率よく吸収させる環境を整えます。
同じ系統の農薬を連続使用すると、薬剤抵抗性が急速に発達します。これを防ぐには、作用機構の異なる農薬をローテーション散布することが絶対条件です。
作用機構による分類は、IRAC(殺虫剤抵抗性行動委員会)が定めたRACコードで確認できます。同じRACコードの薬剤は作用機構が同じため、連続使用は避けなければなりません。例えば、ネオニコチノイド系(RACコード4A)の薬剤を使用した後は、ピリジン系(RACコード9B)やジアミド系(RACコード28)など、異なる系統へ切り替えます。
ローテーションの基本パターンとしては、育苗期にネオニコチノイド系粒剤を処理し、定植前後にベリマークSCなどの灌注剤を使用、その後の散布剤では気門封鎖剤を含む複数系統を組み合わせるという方法が推奨されています。
化学農薬だけに頼らない総合的な防除体系(IPM)の構築も重要です。これには天敵利用、物理的防除、耕種的対策を組み合わせることで、化学農薬への依存度を下げ、抵抗性発達のリスクを低減します。
茨城県園芸研究所のタバココナジラミバイオタイプQに対する有効薬剤試験(PDF)には、作用機構別の効果データと推奨ローテーション例が掲載されています。
化学農薬と天敵を上手に組み合わせることで、持続可能な防除体系を構築できます。タバココナジラミの天敵としては、タバコカスミカメとスワルスキーカブリダニが実用化されています。
タバコカスミカメは体長約3.5ミリのカメムシで、コナジラミの卵・幼虫・成虫すべてを捕食する優秀な天敵です。雑食性でクレオメやゴマなどの天敵温存植物で維持できるため、害虫がいない時期でも圃場に定着させられます。ただし、定着までに時間がかかるため、害虫密度が低いうちに導入することが成功の条件です。
スワルスキーカブリダニはアザミウマ類に特に効果的ですが、タバココナジラミの若齢幼虫も捕食します。花粉を餌にして増殖できるため、植物上での定着性に優れています。栽培初期の高温期にはスワルスキーが活躍し、気温が下がる冬場にはタバコカスミカメが主力となるという、季節に応じた役割分担が可能です。
天敵を使用する場合、農薬の選択に注意が必要です。合成ピレスロイド系や有機リン系、カーバメート系の薬剤は天敵への影響が強く長期間継続します。一方、気門封鎖型殺虫剤やIGR剤の一部は、散布薬液が乾いてからの放飼であれば影響が少ないとされています。
福岡県や熊本県では、スワルスキーカブリダニとタバコカスミカメを併用し、選択的農薬を組み合わせた防除体系で、化学合成農薬の散布回数を大幅に削減しながら高い防除効果を達成した事例が報告されています。結果として単収や品質が向上し、経営改善にもつながったということですね。
農研機構の天敵タバコカスミカメを利用したトマトのコナジラミ類防除マニュアル(PDF)では、導入時期や放飼密度、併用可能な農薬リストなど実践的な情報が詳しく解説されています。
天敵利用は初期投資が必要ですが、長期的には農薬コストの削減、作業時間の短縮、環境負荷の低減という複数のメリットを得られます。地域全体で取り組むことで、より高い効果が期待できる防除方法です。