知らないと収量減を招く可能性も。
あなたの対策は万全でしょうか?
抵抗性品種でもウイルス感染源になる
トマト黄化葉巻病は、トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)がタバココナジラミによって媒介されるウイルス病です。この病気の厄介な点は、感染しても症状が出るまでに時間がかかることです。25℃の環境では感染から発病まで約3週間、冬の低温期には1〜2ヶ月以上かかる場合もあり、気づいたときには手遅れという状況に陥りやすいのです。
タバココナジラミは体長約1mmの小さな害虫ですが、その繁殖力と媒介能力は驚くべきものです。ウイルスを獲得した保毒虫は、最短15分の吸汁で健全なトマト株にウイルスを感染させることができます。1日吸汁させた場合には6〜8割という高い確率で感染が成立するため、少数の保毒虫でも爆発的に病気が広がるリスクがあります。
さらに問題なのが、バイオタイプQと呼ばれる系統の存在です。この系統は海外から侵入した外来害虫で、高い薬剤抵抗性を持つことが知られています。国内の調査では、採取された系統のほとんどがこのバイオタイプQであることが確認されており、従来の農薬が効きにくくなっているのが現状です。
つまり薬剤防除だけに頼ると失敗しやすいということですね。
病原ウイルスは接木で伝染しますが、種子伝染、汁液伝染、土壌伝染は起こしません。つまり、ウイルスの移動手段はタバココナジラミによる媒介のみです。この特性を理解することが、効果的な防除戦略を立てる第一歩となります。
トマト以外にもトルコギキョウなどいくつかの植物に感染しますが、実際にウイルス源として重要なのはトマトだけです。したがって、施設内外の野良生えトマトや家庭菜園のトマトが、重要な伝染源になることを認識しておく必要があります。
農研機構のトマト黄化葉巻病総合防除マニュアルには、病原ウイルスとタバココナジラミの詳細な生態情報が記載されています。
トマト黄化葉巻病の防除では、ウイルス自体に効く農薬は存在しないため、媒介虫であるタバココナジラミを対象とした殺虫剤が中心となります。バイオタイプBとバイオタイプQの両系統に有効な薬剤として「ディアナSC」や「ベストガード水溶剤」が代表的です。これらはネオニコチノイド系やダイアミド系の薬剤で、コナジラミ類に対して高い殺虫効果を示します。
育苗期および定植時には「ベリマークSC」の灌注処理が非常に効果的です。この薬剤は根から素早く吸収され、約3〜4週間という長い残効性を発揮します。栽培初期の難防除コナジラミ類に有効なだけでなく、食害を速やかに停止させることでウイルス媒介を抑制する効果も認められています。定植前日に育苗ポットへ灌注処理することで、定植後の初期防除を省力化できるのがメリットです。
育苗期の処理で初期侵入を防げます。
一方、薬剤抵抗性が発達しにくい気門封鎖剤として「粘着くん液剤」や「ムシラップ」などのデンプン液剤があります。これらは物理的にコナジラミの気門を封鎖して窒息死させるため、化学農薬のような抵抗性発達のリスクがありません。成虫に対して特に高い効果があり、幼虫にも一定の効果が認められます。ただし残効期間が4〜7日程度と短いため、定期的な散布が必要になります。
微生物農薬も注目されています。昆虫病原性糸状菌を有効成分とする「プリファード水和剤」は、コナジラミ類の全ステージ(卵、幼虫、蛹、成虫)に感染して効果を発揮します。化学農薬の効果が悪いコナジラミ類にもよく効くため、抵抗性管理の観点からローテーション防除に組み込むと効果的です。
これらの農薬を組み合わせることで効果が高まります。
育苗期には粒剤(ジノテフラン粒剤など)の処理も有効ですが、同じ種類の薬剤を繰り返し使用すると抵抗性が発達するため注意が必要です。特にバイオタイプQは薬剤抵抗性が発達しやすいので、本バイオタイプの発生が報告された地域では、有効な薬剤に関する情報を県などの指導機関に確認してから使用することが重要です。
多くの農家が誤解しているのが、抵抗性品種を使えば農薬散布を減らせるという考え方です。実は現在市販されているトマト黄化葉巻病抵抗性品種は、発病が抑制されるもののTYLCVには感染し、ウイルスの増殖源となり得ます。つまり、見た目は健全でもウイルスを保持している「無病徴感染株」になる可能性があるのです。
農研機構の技術指針でも明確に「感染した抵抗性品種上でウイルス保毒虫を発生させないためにも、感受性品種と同様にコナジラミの防除を行う必要がある」と指摘されています。抵抗性品種は発病による収量減少を軽減する効果はありますが、地域全体のウイルス蔓延を防ぐという観点では、決して油断してはいけません。
抵抗性品種でも防除は必須です。
具体的な防除体系としては、育苗期に0.3〜0.4mm目合いの防虫ネットで開口部を被覆し、定植時にはニテンピラム粒剤やジノテフラン粒剤などの粒剤処理を行います。定植後は7〜10日間隔でデンプン液剤や昆虫病原性糸状菌製剤(ボーベリア・バシアーナ乳剤など)を散布し、化学農薬はローテーションで使用するのが基本です。
さらに重要なのが、発病株の早期発見と除去です。抵抗性品種であっても、高温条件下や他のウイルス(トマト黄化病ウイルスToCV)との複合感染により、抵抗性が崩壊して発病することがあります。2021年度には例年にない大発生が報告された地域もあり、抵抗性品種の過信は禁物です。
発病株を見つけたら直ちに抜き取ることですね。
抜き取った株はビニール袋に密封して枯死させてから処分します。これはコナジラミの飛散やウイルスの感染源となるのを防ぐためです。抵抗性品種であっても、感受性品種と同じレベルの警戒と防除対策が求められるということを忘れてはいけません。
研究では、抵抗性品種でもウイルスに罹病した株を獲得源としてコナジラミが吸汁した場合、健全株への伝搬が確認されています。つまり、地域全体で抵抗性品種を導入していても、一部で防除を怠れば、そこが感染源となって周辺に被害が広がるリスクがあるのです。
物理的防除と化学的防除を組み合わせることで、農薬使用量を削減しながら高い防除効果を得ることができます。最も重要なのが防虫ネットによる侵入防止対策です。ハウスの出入口やサイド、谷といった換気部に目合い0.4mm以下の防虫ネットを展張することで、コナジラミのハウス内への侵入を大幅に抑制できます。
岐阜県の試験では、0.4mm目合いのネットはタバココナジラミのハウス内への侵入を約80%シャットアウトすることが確認されています。対照区(4mm目合い防風網)と比較すると、侵入個体数を1/20以下に抑制できるという驚くべき効果です。
8割も侵入を防げるんです。
ただし、0.4mm目合いの従来型ネットは通風性が低く、ハウス内の高温化が問題となります。この課題を解決したのが、極細糸(ポリエチレン製110dtex)を使用した0.4mm目合いネットです。このネットは従来の1.0mmネットとほぼ同じ通風性を持ちながら、高い侵入防止効果を維持します。広島県の試験では、トマト草冠内の気温が慣行の1mm目合い防虫ネット設置時と同等で、月別の平均最高気温差も1℃以下に抑えられました。
さらに高温対策として、循環扇による空気の均質化や、細霧冷房の導入も有効です。極細糸使用0.4mm目合いネット設置施設内で微細細霧冷房を作動させると、トマト草冠部の温度を5分程度で約2℃低下させることができます。初期投資は約60万円かかりますが、労働環境の改善効果も大きく、導入する農家が増えています。
防虫ネットと農薬を組み合わせた防除体系では、宮崎県の事例が参考になります。0.3〜0.4mm目合いの防虫ネットを設置し、デンプン液剤とピリダベンフロアブルをローテーション散布で合計6回散布することにより、タバココナジラミおよびTYLCVの発生を低く抑えることができました。無処理区と比較して、発病株率を大幅に減少させる効果が確認されています。
結論はネットと農薬の併用です。
防虫ネットの設置時には、破れや隙間がないかを定植前に必ず確認することが重要です。わずかな隙間からでもコナジラミは侵入するため、出入口は二重カーテンにして開放状態にならないよう注意します。また、ハウス周辺に黄色粘着シートやロールを設置して誘殺することで、侵入圧を下げる効果も期待できます。
熊本県農業情報サイトでは、日本一のトマト産地における具体的な防除対策が詳しく解説されています。
残念ながら、一度トマト黄化葉巻病を発病した株に対して、農薬を散布しても治療することはできません。ウイルス病の特性上、感染してしまった株はウイルスを全身に保持し続けるため、症状を回復させる薬剤は存在しないのです。したがって、発病株を発見したら、直ちに抜き取り処分することが唯一の対処法となります。
抜き取り作業では、根ごと引き抜いてビニール袋に密封し、株が枯れてコナジラミ類が死滅してから施設外へ持ち出します。この手順を守らないと、抜き取り時にコナジラミが飛散して周辺の健全株に感染を広げてしまう危険があります。施設外に持ち出した株は土中に埋没するか、焼却処分します。
発病株は必ず密封処分することです。
発病株を発見した直後には、残存するタバココナジラミを駆除するため、直ちに農薬散布を実施します。1週間後にもう一度散布を行うことで、発病株で増殖していた保毒虫による二次感染を防ぐことができます。この緊急防除では、速効性の高いネオニコチノイド系やダイアミド系の薬剤を使用するのが効果的です。
栽培終了時の対応も重要です。ハウス栽培終了後は、株を切断・抜根して枯死させると同時に、施設を密閉して蒸し込み処理を行います。晴天時に60℃以上を数日続けることで、生息しているコナジラミを死滅させ、ウイルス保毒虫の施設外への逃亡を防ぎます。タバココナジラミの成虫は45℃以上で1時間以内、幼虫は7時間以内に死亡するため、5〜7日間を目安に蒸し込み処理を行うことが推奨されています。
蒸し込みは約1週間が目安です。
また、施設内外の雑草管理も忘れてはいけません。ホトケノザなどの雑草はコナジラミの増殖源となるため、適切に除去します。特に芽かきした茎葉や不良果から派生する野良生えトマトは、夏季にコナジラミおよびTYLCVの増殖源となるため、見つけ次第除去することが重要です。家庭菜園や露地栽培の発病トマト株も増殖源となるので、地域全体で協力して除去する体制を整えることが理想的です。
発病後の対応では、次作への持ち越しを防ぐことが最優先となります。一度ウイルスが施設内に侵入すると、完全に排除することは非常に困難です。だからこそ、発病株の早期発見・除去、栽培終了時の徹底した蒸し込み処理、そして施設内外の衛生管理を徹底することが、持続可能なトマト栽培には不可欠なのです。
個々の農家が頑張って防除しても、地域全体で取り組まなければトマト黄化葉巻病の蔓延を防ぐことはできません。なぜなら、タバココナジラミは施設間を移動する能力を持ち、一つの施設で防除に失敗すれば、そこが伝染源となって周辺に被害が拡大するからです。実際に、日本一のトマト産地である熊本県八代地域では、地域一丸となった防除対策が成功事例として注目されています。
八代地域では「入れない、出さない、増やさない」を合言葉に、耕種的防除に取り組んでいます。最も重要な対策の一つが、全農家が休作期間を順守することです。約2カ月間の栽培自粛期間を設けることで、野外のトマトとコナジラミの感染環を断ち切ります。作付け時には野外にタバココナジラミがいない環境を作り出すことで、初期侵入を大幅に減らすことができるのです。
地域全体で休作期間を守ることが基本です。
茨城県の事例では、地域ぐるみでトマト黄化葉巻病の総合防除対策を進めた結果、抵抗性品種の導入面積が約8割(平成26年時点)に達し、黄色粘着資材やUVカットフィルムの普及も進みました。育苗期の薬剤防除体系が確立され、地域全体での発生を抑制することに成功しています。
農薬使用においても、地域で統一した防除暦を作成し、薬剤抵抗性の発達を遅らせる工夫が重要です。同じ系統の薬剤を連用せず、作用機構の異なる薬剤をローテーションで使用することで、バイオタイプQのような抵抗性害虫に対しても一定の効果を維持できます。各地域の病害虫防除所や農業試験場が発表する防除指針を参考に、地域に適した薬剤体系を構築することが推奨されます。
作用機構をローテーションすることですね。
さらに、情報共有の仕組みも重要です。発生状況のモニタリング結果を地域で共有し、発生初期に迅速な防除対応を取ることで、被害の拡大を最小限に抑えることができます。病害虫発生予察情報を活用し、発生が予想される時期には予防的な農薬散布を実施することも有効です。
家庭菜園や露地栽培のトマトも、地域全体の伝染源として無視できません。これらの栽培者に対しても、トマト黄化葉巻病の危険性と発病株の除去の重要性を啓発し、協力を求める活動が不可欠です。行政や農協が中心となって、地域住民への情報提供や技術指導を行うことで、産地全体の防除レベルを底上げすることができます。
地域全体での協力が成功の鍵です。
農薬費用の削減も地域で取り組むメリットの一つです。共同購入や防除作業の共同化により、個々の農家の負担を軽減しながら、効果的な防除を実現できます。最新の防除技術や資材についても、地域で試験導入し、効果を検証してから普及させることで、失敗リスクを減らすことができるのです。