散布間隔を11日以上空けると黒星病のリスクは2倍になります。
りんごの防除暦は、各地域のJAや農業試験場が毎年作成する病害虫防除のスケジュール表です。青森県、長野県、岩手県など主要なりんご産地ごとに内容が異なります。これは各地域の気候条件、病害虫の発生パターン、降水量の違いによるものです。
青森県では「青森県りんご病害虫防除暦」が県りんご病害虫防除暦編成部会によって作成され、JAごしょつがるやJA津軽みらいなどから入手できます。長野県では「長野県農作物病害虫・雑草防除基準」をもとにJAながのなどが地域版を作成しています。
防除暦には散布時期、使用する薬剤名、希釈倍率、10a当たりの散布量、収穫前日数、年間使用回数制限などが詳細に記載されています。通常、年間で15回から20回程度の散布スケジュールが組まれており、生育期には10日間隔で延べ40成分回数以上の薬剤散布が行われるのが一般的です。
入手方法は各JAの営農指導窓口、農業改良普及センター、またはJAのウェブサイトからPDFでダウンロードできる場合もあります。毎年3月から4月にかけて最新版が公開されるため、栽培を始める前に必ず最新の防除暦を確認することが重要です。
地域が異なれば気候も違います。他地域の防除暦をそのまま使うと、散布時期のズレや薬剤選択のミスマッチが生じ、防除効果が得られません。自分の栽培地域に対応した防除暦を使用することが基本です。
JAながの公式サイトでは長野県版のりんご防除暦が公開されており、地域に合わせた詳細な防除スケジュールを確認できます。
りんご栽培で最も重要なのは散布間隔の厳守です。展葉期から落花40日後頃までの期間は、散布間隔を10日以内に保つことが防除暦の基本原則となっています。この期間は黒星病や黒点病などの主要病害の一次感染期にあたり、予防散布が効果を発揮する唯一のタイミングです。
散布間隔が11日以上空いてしまうと、病原菌の侵入を許し、後から治療剤を使っても手遅れになるケースが多発します。特に黒星病は感染から発病まで7日から10日と短いため、散布のタイミングを逃すと急速に蔓延します。
降雨と散布のタイミングも極めて重要です。防除暦では「降雨前散布」が推奨されており、雨が降る前に薬剤を散布することで病原菌の侵入を防ぎます。散布後6時間以内に降雨があると薬剤が流れ落ち、防除効果が大きく低下してしまいます。
このため天気予報を常にチェックし、降雨が予想される場合は前倒しで散布を実施する必要があります。JAごしょつがるの防除暦では「基準散布との間に降雨が見込まれる場合は降雨前に特別散布を行う」と明記されており、柔軟な対応が求められます。
夏期の防除では散布間隔を15日まで延ばせる場合もありますが、これは合成ピレスロイド剤など残効性の高い薬剤を使用した場合に限られます。
基本的には10日間隔を守ることが安全です。
散布量も重要な要素です。10a当たり300リットルから600リットルが標準で、散布量が少ないと散布ムラが発生し、防除効果が低下します。散布ムラは黒星病多発の原因として青森県の調査で指摘されています。
りんご栽培における病害虫防除は、それぞれの病害虫に応じた重点防除期間を理解することが成功の鍵です。主要3病害である黒星病、炭疽病、褐斑病は、それぞれ異なる時期に集中的な防除が必要となります。
黒星病の重点防除時期は発芽10日後頃から梅雨期までで、特に5月上旬の開花直前と5月下旬の落花直後が最も重要です。この時期にヘキサコナゾール系のDMI剤を使用することで、一次感染を効果的に抑制できます。展葉1週間後から落花20日後までは散布間隔を10日以内に保ち、降雨前散布を徹底する必要があります。
炭疽病の防除時期は6月中旬から8月末までです。梅雨期の6月上旬から7月中下旬が分生胞子飛散時期にあたり、この時期に有機銅材などの効果的な薬剤を2回から3回散布します。二次伝染期となる8月下旬から9月上中旬も重要な防除タイミングです。
褐斑病は6月から8月が防除期間で、一次感染期の5月中旬から6月中旬と、二次感染期の7月中旬から下旬が重点時期となります。日光の当たらない枝や多湿条件で発生しやすいため、剪定で風通しを良くする耕種的防除も併用します。
害虫では、ハダニ類とカイガラムシ類の越冬防除が重要です。発芽前のマシン油乳剤50倍散布は、越冬したハダニの卵やナシマルカイガラムシの幼虫を対象とした基本防除で、この時期を逃すと年間を通じて防除が困難になります。展葉1週間後頃にはマシン油200倍の散布でリンゴハダニの越冬卵を防除できます。
モモシンクイガやキンモンホソガには交信かく乱剤(コンフューザーR)の設置が効果的で、5月中旬の設置が推奨されています。これにより殺虫剤の散布回数を削減でき、環境負荷の軽減にもつながります。
シンジェンタ社の病害虫防除解説記事では、各病害の発生傾向と防除方法について詳細な情報が提供されています。
りんご防除暦における薬剤選択では、農薬取締法に基づく使用基準の遵守が最優先です。各薬剤には「収穫前日数」と「年間使用回数」の制限があり、これを超えると農薬残留基準違反となり、出荷できなくなるリスクがあります。
使用回数の管理で注意すべきは、カウントが製品ごとではなく有効成分ごとに行われることです。例えば、同じ有効成分を含む異なる商品名の農薬を使用した場合、それぞれの使用回数を合算して年間使用回数を計算します。これを見落とすと知らないうちに使用回数オーバーとなります。
薬剤耐性菌の発達を防ぐため、同じ系統の薬剤を連続使用しないローテーション散布が推奨されています。特にSDHI剤、QoI剤、DMI剤などの系統別分類を理解し、異なる系統の薬剤を交互に使用することで、薬剤の効果を長期間維持できます。
青森県の防除暦では、SDHI剤のミギワ20フロアブルやユニックス顆粒水和剤は薬剤耐性菌発達の懸念があるため年1回の使用に制限されています。こうした制限を守らないと、数年後に薬剤が効かなくなり、防除体系全体が機能不全に陥ります。
混用の可否も重要なチェックポイントです。防除暦には混用例が記載されており、一般的に「展着剤→液剤→乳剤→顆粒水溶剤→水溶剤→フロアブル→ドライフロアブル」の順で混合します。コロマイト乳剤とササラ(展着剤)のように混用できない組み合わせもあり、誤った混用は薬害や効果低下の原因となります。
散布時間帯による薬害リスクにも注意が必要です。7月以降、午後4時から5時頃の時間帯に薬剤散布を行うと、葉に褐変症状の薬害が発生しやすくなります。特にボルドー液は薬害リスクが高いため、散布時間を慎重に選びます。早朝や夕方の気温が低い時間帯の散布が推奨されています。
防除日誌の記録も法的義務です。散布日、使用した薬剤名、希釈倍率、散布量を記録し、使用回数を常に把握することで、基準違反を未然に防げます。
標準的な防除暦は地域全体の平均的な病害虫発生パターンに基づいて作成されていますが、個々の園地では病害虫の発生状況が異なるため、独自の対応が必要になる場面があります。防除暦を基本としながら、自園の特性に合わせた調整を行うことで、より効率的な防除が実現できます。
前年に特定の病害虫が多発した園地では、防除暦に加えて追加防除が必要です。例えば、リンゴハダニの発生が多かった園地では、発芽前にマシン油50倍を散布し、さらに展葉1週間後頃にもマシン油200倍の散布を実施します。黒星病が多発した園地では、展葉1週間後頃にアプロードフロアブルを加用するか、落花10日後と20日後に防除剤による胴木洗いを行います。
減農薬栽培を目指す場合でも、防除暦の重点防除時期は維持することが原則です。農研機構の研究では、交信かく乱剤を活用することで殺虫剤の散布回数を半減できることが実証されており、5月中旬にコンフューザーRを設置すると、モモシンクイガ、キンモンホソガ、ハマキムシ類に対する殺虫剤散布回数を大幅に削減できます。
ただし散布回数を減らす際は、残した防除の精度を高める必要があります。散布量を増やし、散布ムラをなくし、降雨前散布を徹底することで、少ない散布回数でも防除効果を維持できます。青森県では夏期の散布間隔を10日から15日に延ばす取り組みが行われていますが、これは合成ピレスロイド剤など残効性の高い薬剤を使用することが前提です。
耕種的防除との組み合わせも効果的です。黒星病、褐斑病、モニリア病の防除では、落葉を集めて処分することで越冬病原菌を減らせます。カイガラムシ対策では粗皮削りやバンド巻きなど、薬剤散布以外の方法を併用すると防除効果が高まります。
園地の観察と記録が独自防除体系を確立する基礎です。摘果時に黒星病の発生を確認し、発病部を除去する。斑点落葉病防除のため6月中下旬に余分な徒長枝を剪除する。こうした日常的な管理作業を記録し、翌年の防除計画に反映させることで、自園に最適化された防除体系が完成します。
農研機構のプレスリリースでは、交信かく乱剤を活用した農薬50%削減技術について詳しく解説されており、減農薬栽培を目指す生産者にとって有用な情報源となっています。