減農薬栽培を続けると、かえってナシマルカイガラムシが増えて商品価値が下がることがあります。
ナシマルカイガラムシは、別名サンホーゼカイガラムシとも呼ばれる重要害虫です。アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンノゼで多発したことが名前の由来になっています。りんごだけでなく、梨、桃、スモモ、ウメ、クリなど多くの果樹に寄生する広食性の害虫として知られています。
成虫と幼虫のどちらも幹や枝を中心に寄生しますが、葉や果実にも寄生して養水分を吸汁します。雌成虫のカイガラは淡灰色で直径約2mm、同心円状の模様が特徴的です。一方で雄のカイガラは小さめで楕円形になり、成虫になると有翅の姿で飛翔できるようになります。
ふ化したばかりの幼虫は「歩行幼虫」と呼ばれ、活発に移動して寄生場所を探します。やがて定着すると円形のカイガラを形成し、1齢幼虫となって固着生活を始めます。雌は卵胎生で幼虫を直接産むため、卵を見ることはありません。
つまり卵の段階がないということですね。
日本では北海道から九州まで広く分布しており、特に関東以西に多く発生します。地域によって発生時期や世代サイクルが異なり、関東以西では5月から9月にかけて年3回、東北では6月下旬から9月にかけて年2回あるいは3回発生するパターンが確認されています。
ナシマルカイガラムシに寄生された果実は、吸汁部分の周囲が赤紫色に変色して斑点が残ります。この斑点は目立ちやすく、外観が大きく損なわれるため商品価値が著しく低下します。多発した場合には奇形果や裂果が発生することもあり、出荷できない被害果が大量に発生する恐れがあります。
秋田県のりんご園では選果中に生食用として出荷予定だった果実に、ナシマルカイガラムシの被害が混入して格外になる事例が見受けられています。一度被害果が市場に流れると、産地全体の信用低下につながるリスクもあります。
枝への寄生も深刻です。幹や枝の全体が覆われるほど高密度に発生した場合、樹勢が著しく衰え、枝が枯死することがあります。枝枯れが進むと翌年以降の収量にも影響し、長期的な経済損失につながります。
葉への寄生では、主脈に沿って発生し、多発すると支脈にも広がります。寄生部位が赤紫色になった後に早期落葉することがあり、光合成量の低下によって樹勢が弱まります。
葉に寄生するのは主に羽のある雄成虫です。
減農薬栽培や特別栽培では、殺虫剤散布回数が減少する中で今まで問題にならなかった害虫が顕在化することが報告されています。ナシマルカイガラムシは日本に有効な天敵が知られていない外来害虫のため、防除圧が下がると急速に密度が上昇する傾向があります。このような背景から近年、千葉県や青森県のりんご園で多発傾向にあり、栽培上大きな問題になっています。
効果的な防除を行うには、ナシマルカイガラムシの発生時期を正確に把握することが不可欠です。2024年の福島県のりんご園における調査では、歩行幼虫の発生世代数は3回で、第1世代ふ化盛期は6月4日から11日頃、第2世代ふ化盛期は7月30日から8月6日頃、第3世代ふ化盛期は9月中旬から下旬頃でした。
東北地方北部では年2世代で、歩行幼虫は6月下旬から7月下旬、8月下旬から9月下旬に発生します。第1世代歩行幼虫の発生初期と発生ピークは、3月1日を起点とする有効積算温度で予測できることが明らかになっています。
年間3回発生する地域では、幼虫の発生最盛期は第1世代が6月上旬頃、第2世代が7月下旬頃、第3世代が9月下旬頃となります。地域によって発生時期が異なるのは気温の違いによるものです。
防除適期は介殻で覆われる前の幼虫期です。雌成虫、卵(実際には卵胎生なので幼虫を保持)、2齢幼虫は介殻(カイガラ)で覆われ薬液がかかりにくいため、その時期に農薬散布してもほとんど効果が期待できません。薬剤に弱い1齢幼虫が比較的そろう歩行幼虫発生ピークから少し後が最適タイミングです。
最後に発生した世代の1齢幼虫が越冬し、翌年の発生源になります。越冬は1齢幼虫で行い、開花期頃に2齢幼虫となります。越冬世代の密度が高いと、第1世代の発生が多くなり、歩行幼虫の発生ピークが高止まりしたまま発生が続きます。
厳しいですね。
各地域のJAや普及センターから毎年公表される有効積算温度に基づいた発生予測に従うことが、防除適期を逃さない基本です。防除適期を逃すと次世代の発生量が爆発的に増えるため、タイミングが重要になります。
ナシマルカイガラムシの防除で最も効果が高いとされるのは、発芽前の休眠期にマシン油乳剤を散布する方法です。越冬している1齢幼虫がふ化直後の段階を狙うことで、高い防除効果が期待できます。使用濃度は30倍から50倍希釈が一般的で、研究では30倍希釈散布で高い防除効果が確認され、50倍希釈散布でも同様の効果があることが明らかになっています。
マシン油乳剤は各社から多数販売されており、機械油乳剤95などが代表的です。散布時期は12月または3月の発芽前が推奨されていますが、厳寒期の散布は薬害を生じる可能性があるため避けてください。気温が低すぎると樹体にダメージを与えるリスクがあります。
散布直後の降雨は効果を低下させるため、特に冬期散布においては好天の続くときを選んで散布することが重要です。調製した薬液は速やかに散布し、時間を置かないようにしましょう。石灰硫黄合剤やボルドー液との混用は薬害の原因になるため、3月の発芽前にマシン油乳剤を散布した場合は石灰硫黄合剤を使用しないでください。
千葉県のナシ園における試験では、冬期の発芽前にマシン油乳剤30倍希釈を散布した結果、ナシマルカイガラムシに対して高い防除効果が確認されました。マシン油は農薬に含まれる油成分が害虫を覆って窒息死させる仕組みのため、抵抗性の発達がほとんどないのが特徴です。
前年にナシマルカイガラムシの被害があり、芽出前にマシン油乳剤の散布ができなかった場合は、展葉3日後にマシン油乳剤とアプロードフロアブルを混用散布する方法があります。
この場合も高い防除効果が期待できます。
マシン油の散布では、カイガラムシが潜んでいる枝や幹をめがけてまんべんなく散布することがポイントです。特に粗皮の下や枝の隙間に薬液がしっかり届くよう、丁寧に散布作業を行いましょう。カイガラムシ類はハダニ類よりも高い濃度が必要なことがあるので、カイガラムシ類の使用基準に適した濃度に合わせることが大切です。
発芽前に雪が残っているなどの理由でマシン油散布ができない場合や、マシン油散布後にも幼虫が残っている場合には、アプロードフロアブル(ブプロフェジン水和剤)による防除が効果的です。IGR剤(昆虫成長制御剤)であるアプロードフロアブルは、カイガラムシ類専用の薬剤として高い効果を発揮します。
青森県りんご研究所の研究では、「ふじの展葉1週間後頃」にアプロードフロアブル1000倍液を散布することで、ナシマルカイガラムシとクワコナカイガラムシを同時防除できることが明らかになりました。平成25年の試験では、展葉1週間後頃に散布した区の寄生果率は開花直前散布や無散布よりも大幅に低く、従来の方法に比べて効果が高いことが確認されました。
効果が高いということですね。
展葉1週間後頃の散布は、従来の開花直前散布よりも防除効果が高く、発芽前散布の労力が不要となるメリットがあります。スピードスプレーヤ(SS)で散布できるため、有機リン剤の手散布による胴木洗いと比べて労力が大幅に軽減され、春季の散布量が少ないことでコストも低くできます。
ブプロフェジン水和剤の防除効果は、歩行幼虫および定着した1齢幼虫に対して特に高いです。処理16日後のナシマルカイガラムシ死亡虫率は、無処理38.7%に対してブプロフェジン単用の場合86.7%と高い殺虫効果が認められています。さらに展着剤を加用した場合、死亡虫率が93%以上に向上することが確認されています。
リンゴワタムシ防除に使用したダントツ水溶剤3000倍とウララDF2000倍では、ダントツ水溶剤がナシマルカイガラムシに対しても優れた防除効果を示しました。モスピラン顆粒水溶剤も第1・2世代幼虫最多発生期に2000~4000倍で使用できます。
一方で、石灰硫黄合剤10倍を休眠期に使用した区では防除価が低く、ナシマルカイガラムシに対する防除効果は認められませんでした。
使えませんね。
耕種的防除も重要です。冬期に粗皮を削ったり、空洞や隙間を埋めたりして越冬場所をなくすことで、翌年の発生密度を大幅に下げることができます。青森県の研究では、高圧洗浄機を利用した効率的な粗皮削りがクワコナカイガラムシの越冬密度低減に効果があることが確認されており、ナシマルカイガラムシにも応用可能と考えられます。
9月の産卵時期に段ボールや新聞紙、布などを幹や大枝に巻き、産卵を誘引して春までに焼却する方法も有効です。カイガラムシが多発している樹では、枝に寄生しているナシマルカイガラムシをワイヤーブラシ等で削り落としてからマシン油乳剤を散布すると、より高い効果が得られます。
農薬散布だけに頼らず、耕種的防除も並行して実施することで、密度を効果的に減らし、持続可能な防除体系を構築できます。毎年の防除を徹底し、密度低下に努めることが長期的な被害軽減につながります。
青森県産業技術センター りんご研究所「りんごのクワコナカイガラムシとナシマルカイガラムシの同時防除」
展葉1週間後頃の防除タイミングと効果について詳しく解説されています。
BASF「りんごの害虫『カイガラムシ類』の防除方法!効く農薬や生態」
カイガラムシ類の生態、見分け方、効果的な農薬の選び方を写真付きで紹介しています。