有機リン系は主として殺虫剤として使われ、同じ系統でも「有効成分」が異なれば適用害虫・適用作物・希釈倍数・使用回数などが変わります。
そのため、現場の作業指示書や散布計画は、製品名だけでなく「有効成分名」と「登録内容」をセットで書くほうが事故が減ります。
また、系統としての大枠(有機リン、ピレスロイド等)を知っておくと、他剤との使い分け(抵抗性対策や混用回避)も判断しやすくなります。
ここでは「一覧」として、農業・衛生分野で名前が出やすい有機リン系の例を挙げます(ただし、登録や適用は更新されるため、最終判断は必ず最新の登録情報で確認してください)。
参考)農薬登録情報提供システム
【有機リン系で代表例として名前が挙がりやすい有効成分(例)】
・フェニトロチオン(例:スミチオンなどの代表成分として知られる)
参考)医学界新聞プラス [第1回]No.44 有機リン(殺虫剤)(…
・マラチオン(代表的な有機リンの一つ)
・ジクロルボス(DDVP)(代表的な有機リンの一つ)
参考)殺虫剤の一覧 - Wikipedia
・ダイアジノン(代表的な有機リンの一つとして挙げられる)
参考)PCO薬剤(害虫駆除用薬剤)の基礎知識
・クロルピリホス/クロルピリホスメチル(代表例として挙げられる)
参考)https://www.medience.co.jp/food/parts/pdf/zannou/66.pdf
・アセフェート(有機リン系として言及され、残留基準の話題でも取り上げられる)
参考)有機リン剤アセフェートの残留基準が改正、使えなくなる作物も …
【「一覧」を作るときの実務メモ】
✅ 同じ有機リンでも「粒剤・乳剤・水和剤」など剤型で使い方が変わるため、一覧には剤型も添える。
✅ 収穫前日数・使用回数は作物ごとに違うことがあるので、作物別に表を分けると現場で迷いにくい。
✅ 輸出や加工を想定する場合、残留基準の変更が影響することがあるため、出荷先条件も確認する。
(有用な公的情報:登録内容の照合に使う)
農薬の適用作物・使用方法・希釈倍数・使用回数などを最新情報で検索できます:農薬登録情報提供システム(農林水産省)
「一覧」を自作するときに一番安全なのは、農林水産省の「農薬登録情報提供システム」で、製品名や有効成分から登録内容を直接確認する方法です。
同システムには「有効成分で探す」導線があり、有効成分名称から検索できるため、同成分の製剤をまとめて把握しやすいのが利点です。
検索結果を使って、圃場で使う予定の作物・防除対象・回数・収穫前日数が一致しているかを必ず突合してください(紙の古い一覧だけに頼ると更新差分で事故が起きます)。
【現場向け:確認の順番(ミスが減る順)】
🔎 1) 作物名(作物群の扱いも含む)→ 2) 防除対象 → 3) 使用時期(収穫前日数)→ 4) 使用回数 → 5) 希釈倍数・使用量
【意外と落とし穴になりやすい点】
・同じ作物でも「個別作物」と「作物群」で登録が並立し、適用の読み替えルールがあるため、現場で作物名を曖昧にすると誤使用に繋がります。
・登録情報は更新されるため、前年の防除暦のコピペ運用は危険です(最低でも作付け前に再検索)。
有機リン系農薬は、コリンエステラーゼ(アセチルコリンエステラーゼ等)の作用を阻害し、神経伝達物質アセチルコリンが分解されにくくなることで症状が出る、と説明されています。
そのため、有機リン曝露では発汗、悪心、嘔吐、腹痛・下痢、流涎、全身倦怠感などが話題になり、診断の参考としてコリンエステラーゼ活性の低下が挙げられています。
さらに、揮発性を持つ有機リンもあり、胃内容物などの前処理で治療者や分析者が二次汚染を起こし得るという注意点が示されています。
【農作業者が「現場で」効かせるより先に守るべきポイント】
・曝露経路は吸入・摂取・皮膚接触などがあり得るため、散布条件(風、気温、密閉空間)に応じて防護を組む。
参考)有機リン毒性 - NYSORA
・体調不良時に「いつもの散布」をすると初期症状の見逃しが起きやすいので、散布前に体調確認をルール化する。
参考)エラー
・万一に備え、製品ラベルとSDS相当情報、散布日時・希釈倍率を記録しておくと医療機関への情報提供が速い。
参考)その6 有機リン系農薬
(権威性のある日本語の参考:有機リンの中毒概説と二次汚染など実務注意)
有機リン系農薬の概要・臨床症状・二次汚染リスクなどがまとまっています:一般社団法人 日本中毒学会「有機リン系農薬」
混用は便利ですが、環境省の資料では「これまでに知見のない農薬の組合せで現地混用を行うことは避けること」が示され、特に有機リン系農薬同士の混用は相加的作用を示唆する知見があるとして厳に控えるよう注意されています。
つまり「有機リンA+有機リンBで効きを上げる」発想は、害虫側だけでなく人や環境側のリスク(曝露・事故)も上げやすいので、混用は“効き”より“安全性と根拠”で判断するのが基本です。
混用可否の判断は、まず登録情報・ラベル、次に団体等の「混用事例集」のような蓄積知見を参照する、という順序が安全です。
【あまり語られないが効く視点:現場の“混用事故”は作業工程で起きる】
・薬液調製時の粉立ち・飛沫は曝露の山場になりやすいので、投入順と攪拌、作業位置(風上)を固定すると事故が減ります。
・散布機・ホース内の残液が次回の薬剤と混ざると想定外の混用になり得るため、系統を切り替えるタイミングでは洗浄手順を明確化するのが現実的です。
参考)https://www.env.go.jp/content/900542686.pdf
(権威性のある日本語の参考:混用の基本的注意、特に有機リン同士の混用注意)
混用時の注意点として、有機リン系同士の混用回避が明記されています:環境省資料(農薬の安全使用・混用注意の記載)
有機リン系はIRACの作用機構分類で同じグループ(例:1B)に位置づけられ、抵抗性(耐性)管理では「同一作用機作の連用を避ける」発想が重要になります。
実際に、IRACコードを理解して薬剤を選ぶことは、抵抗性・耐性対策を効果的で持続可能にするための指針を使用者に提供する目的がある、と説明されています。
「有機リンが効かなくなった」と感じたとき、単に希釈を濃くするのではなく、IRACの異なる作用機作へローテーションし、発生量が少ない時期から計画的に切り替えるほうが長期的に損失を減らしやすいです。
【現場で使える“ローテーション設計”のコツ】
🧩 ・薬剤名ではなくIRACコード(作用機作)でカレンダーを組むと、「実は同系統を連打していた」ミスに気づきやすい。
参考)農薬を上手に選択するために作用機作を知ろう|論文誌|iPLA…
🧩 ・同じ害虫でも世代交代が早い作物・時期ほど、同一系統の連続使用は避ける設計が必要になる。
参考)https://www.naro.go.jp/laboratory/nias/contents/files/PRMfull.pdf
🧩 ・IPM(総合防除)寄りに、天敵や物理防除と組み合わせると、化学農薬の“回数”そのものを減らせる可能性がある。
(権威性のある参考:抵抗性管理ガイドライン案、IRACと有機リンの位置づけ)
有機リン(IRAC 1B)を含む抵抗性管理の考え方が整理されています:農研機構(NARO)「薬剤抵抗性農業害虫管理のためのガイドライン案」
(論文等の引用:作用点とIRAC分類に触れた技術資料)
有機リン剤とカーバメート剤がIRAC分類で異なるグループにあり、標的がアセチルコリンエステラーゼであることが述べられています:日本農薬学会系資料(殺虫剤抵抗性機構の解析)
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/66_03_40.pdf