葉を巻いて農薬が届かない場所に隠れるハマキムシ類。「撒いたのに効かない」は、実は散布のタイミングが原因のことが多いです。
農薬を散布したのに被害が続く——この悩みの原因は、ほぼ「散布タイミングの誤り」です。
ハマキムシ類の幼虫は、糸を吐いて葉を綴り合わせ、その内側に潜みながら食害します。 葉が巻かれてしまった後に農薬を散布しても、薬液が幼虫に直接届かないため、防除効果が大幅に落ちます。 つまり、「葉が巻かれてからでは遅い」ということです。sc-engei+1
効果的な防除のカギは、幼虫が孵化してすぐの若齢期(1〜2齢幼虫)を狙うことにあります。 この段階では葉がまだ開いており、薬液が幼虫に直接かかります。
孵化幼虫期が農薬防除の適期です。
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成虫は羽化の翌日から産卵を開始し、成虫の発蛾最盛期から5〜10日後には幼虫が出現します。 この時間差を頭に入れておくことが重要です。フェロモントラップで発蛾最盛期を確認し、1週間後を目安に散布すると効果的です。boujo+1
ハマキムシ類は年4〜5回発生します。 1回の発生で見逃すと、次の世代には倍の個体数が待っています。
参考)ハマキムシ類の薬剤防除
ハマキムシ類に使える農薬は数十種類あります。これは使える反面、選択を誤るリスクでもあります。
主な登録農薬を系統別に整理すると、下記のようになります。
| 系統 | 代表的な製品名 | 特徴 |
|---|---|---|
| ピレスロイド系 | アグロスリン水和剤、テルスター水和剤、トレボン水和剤 | 速効性が高い。連用で抵抗性が発達しやすい |
| 有機リン系 | スミチオン乳剤、ダイアジノン水和剤、マラソン乳剤 | 広範囲の害虫に有効。使用回数制限に注意 |
| ジアミド系 | サムコルフロアブル、フェニックス顆粒水溶剤 | 高い殺虫活性。ピレスロイドとのローテーションに最適 |
| ベンゾイル尿素系(IGR) | アタブロンSC、カスケード乳剤、マッチ乳剤 | キチン生合成阻害。若齢幼虫に有効で残効が長い |
| BT剤(微生物農薬) | デルフィン顆粒水和剤、ゼンターリ顆粒水和剤 | 有機JAS対応。天敵への影響が少ない |
| スピノシン系 | ディアナWDG | nAChR競合的阻害剤。BT剤との違いで選択可能 |
同一系統の農薬を繰り返し使い続けると、薬剤抵抗性が発達します。 これが起きると、同じ農薬が効かなくなり、より強い薬剤を使わざるを得なくなるという悪循環に陥ります。
ローテーション散布が原則です。
農薬ラベルに記載された「使用回数」は作物ごとに定められています。使用回数超過は農薬取締法違反となるため、必ずラベルを確認してください。
参考:農林水産省 農薬登録情報提供システム(最新の登録農薬を作物・害虫別で検索できます)
農薬登録情報提供システム
同じ農薬を毎年使い回すことで、抵抗性を持つ個体が生き残り、やがて集団全体に抵抗性が広がります。
農林水産省の調査によると、チャノコカクモンハマキ(茶のハマキムシ)では、IGR剤(ベンゾイル尿素系)に対する耐性個体群の拡大が報告されています。 これは全国の茶産地で深刻な問題となっており、有効な防除薬剤の選択肢が狭まるリスクを示しています。
意外ですね。
薬剤抵抗性が一度確認された後にもとの薬剤を再使用すれば、数世代のうちに集団全体へ抵抗性が再拡大します。 抵抗性が顕在化した薬剤の再使用には慎重な判断が必要です。
抵抗性対策として有効なのが、RACコード(農薬の作用機構分類)を活用したローテーションです。 RACコードが異なる農薬を順番に使用することで、特定の系統に対する抵抗性の蓄積を防げます。クロップライフジャパンがRACコードの日本語翻訳版を公開しているため、防除計画の策定に活用できます。
参考:薬剤抵抗性農業害虫管理のための実践マニュアル(農研機構)
https://www.naro.go.jp/laboratory/nias/contents/files/PRMfull.pdf
年間4〜5回発生するハマキムシ類に対抗するには、発生カレンダーに合わせた計画的な防除が欠かせません。
果樹(梨・もも・カキなど)を対象にした場合の、成虫の発生時期と散布目安は以下のとおりです。
特に第4回目の防除が翌年の発生密度に直結するため、見落とされがちですが重要です。
秋の防除を省くと翌春の被害が増えます。
参考)ハマキムシ類は多発すると駆除する薬剤が効き難いため、成虫や幼…
茶においては発生時期がわずかにずれ、チャノコカクモンハマキは年4回発生地帯では5月中下旬・7月上中旬・8月中下旬・10月上中旬が防除適期です。 地域によって発生時期の年次変動があるため、フェロモントラップによるモニタリングで補正することが推奨されます。
参考)https://www.fmc-japan.com/wiki/tea/butterfly/yasuda
農薬抵抗性が懸念される圃場や、有機栽培対応が必要な場合、交信かく乱剤(性フェロモン剤)が有力な選択肢です。これは使える場面が限定的と思われがちですが、実は化学農薬と組み合わせることで、農薬の使用回数を大幅に削減できます。
交信かく乱剤はハマキムシ類のオスが雌を探す際に使う性フェロモンを圃場に充満させ、交尾かく乱によって産卵・孵化数を減らす仕組みです。 これにより、農薬防除の回数を削減しつつ、天敵(寄生蜂など)の保護にもつながります。boujo+1
また、アリスタライフサイエンスが販売する「ハマキ天敵」は顆粒病ウイルスを用いた微生物農薬で、2齢までの若齢幼虫に感染して防除します。 有機JAS規格に適合しており、有機栽培圃場でも使用可能です。
これは使えそうです。
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ただし、ハマキ天敵を使う場合は散布タイミングが防除効果を大きく左右します。 2齢以上に成長した幼虫には感染しないため、孵化直後の若齢期を狙う必要があります。
若齢幼虫期への散布が条件です。
参考)農薬ガイドNo.105/B(2003.5.20)「ハマキ天敵…
第1世代(春)の幼虫は世代のそろいが良く、ハマキ天敵の罹病率が高いため、第1世代への散布が最も効果的とされています。 発生密度が高い圃場では、まず化学農薬で密度を下げ、次世代にハマキ天敵を散布するのが実践的な戦略です。
参考:アリスタライフサイエンス「ハマキ天敵」によるチャのハマキムシ防除ガイド
農薬ガイドNo.105/B(2003.5.20)「ハマキ天敵…