混用を検討するとき、最初に見るべき資料は「混用事例表」ですが、ここで大事なのは“表に載っている=推奨”ではない、という前提です。混用事例集の注意書きでは、混用事例はあくまで「目安」であり、相手剤の登録や混用液の保証ではないこと、さらに最新の登録内容を順守することが明記されています。特に作物の品種・生育ステージ・気象・栽培条件で薬害が変わる点も強調されており、「表で●でも、ほ場では例外があり得る」と理解しておくのが安全です。
また、混用事例集には混用による“作業者側のリスク”もはっきり書かれています。例えば「単用で皮ふかぶれを起こしやすい農薬と乳剤の混用は皮ふかぶれをさらに助長することがある」とあり、単に沈殿や凝集の話だけではありません。さらに有機リン剤同士の混用は急性毒性が増加する場合がある、という注意もあるため、混用は「農薬の物理性」だけでなく「安全性」もセットで見る必要があります。
参考)https://www.inochio-plantcare.co.jp/wp-content/uploads/9f4a0f7bd24ee927ab613d3183c97d9e.pdf
混用事例表では、凡例として「●:混用事例があり問題なかった」「×:混用できない」「空欄:知見がない」などが示される形式が一般的です。ここで空欄は“たぶんOK”ではなく、“判断材料が不足”なので、現場では小スケールでの確認(後述)や、メーカー・普及指導の助言が実務的です。
混用トラブル(分離、凝集、沈殿、泡立ち、フィルタ詰まり)の多くは、「何を混ぜたか」だけでなく「どう混ぜたか」で起きます。混用事例集では、水和剤またはフロアブル剤と乳剤を混用する場合の原則として、まず乳剤の希釈液を作り、その後に水和剤またはフロアブル剤を加える、と明確に書かれています。少量の水に乳剤と水和剤(またはフロアブル)を同時投入して練ってから希釈する方法は避けるべき、と注意されている点が実務上かなり重要です。
なぜこの順序が効くかを、現場感のある言い方にすると「乳剤は水に入った瞬間に“乳化して分散する”工程が必要で、その工程を邪魔すると戻れない」ということです。メーカーの解説でも、乳剤は油状で希釈時に水中へ超微細粒子として分散するよう調剤されており、油と水のバランスを崩すものは“乳剤を均一に分散させてから加える方が無難”と説明されています。つまり、先に乳剤をきちんと希釈してから次剤を入れるのは、再乳化不良を避ける実務ルールです。
参考)展着剤の役割と使い方
混用の作り方を、失敗しにくい手順に落とすと次の通りです。
「展着剤は最初か最後か」で迷うことがありますが、展着剤は製品タイプによって推奨投入順が異なる場合があるため、必ずラベル指示を優先します。一般論としては“溶けやすい順に混ぜる”が基本で、展着剤→液剤/水溶剤→乳剤/フロアブル→水和剤、の順が紹介されています。
アグロスリン乳剤のラベル情報として、「ボルドー液と混用する場合は使用直前に混合する」旨が明記されています。これは、一般的な“混用してタンクで回しておけばOK”という発想が通用しない、典型的な例外です。
ボルドー液のような無機銅剤系は、液のpHやイオン環境、粒子状態が変わりやすく、時間経過で沈降・凝集・ノズル詰まりが起きやすいことが現場では問題になります。ラベルが「使用直前」と指定するのは、物理性の不安定さが散布精度(付着ムラ)や機械トラブルへ直結しやすいからで、ここは“面倒でも省略できない工程”です。
参考)アグロスリン乳剤│園芸/殺虫剤│農薬製品│クミアイ化学工業株…
この「直前混合」の考え方は、ボルドー液に限らず応用できます。例えば、混用後に時間を置くと、見た目は均一でもタンク底に微細な沈殿ができたり、最初の数分だけ濃い液が出たりして、薬害や効果不足の原因になります。混用事例集が「できるだけ速やかに散布を完了すること」を前提にしているのは、まさにこの時間要因を小さくするためです。
参考リンク(ラベル上の“ボルドー液は使用直前”の根拠と、適用・安全注意がまとまっています)
クミアイ化学工業:アグロスリン乳剤(製品情報)
混用失敗は大きく分けて「物理的に混ざらない」「混ざるが散布中に壊れる」「混ざるが薬害・効力低下が出る」の3系統があります。混用事例集でも、混用は“良好な散布薬液を得る手順”が重要で、知見や経験がある場合はそれを優先し、不明点は専門技術者へ相談するよう促しています。つまり、混用はチェックリスト運用が向いている作業です。
現場で再現しやすい失敗パターンと対策を具体化します。
意外と見落とされるのが「作業者の皮ふトラブル」です。混用事例集には、乳剤混用が皮ふかぶれを助長する可能性が明記されているため、混用時は手袋・長袖・マスクなどの基本装備を“散布時だけでなく調製時から”徹底するのが安全側です。
検索上位の記事は「混用順序」や「混用事例表の凡例」に寄りがちですが、現場で差が出るのは“自分のほ場条件で再現できる事例を増やす”運用です。混用事例集が「全国的な目安」であり、地域・産地の経験や知見がある場合は表より優先する、と書いているのは、まさにローカル条件(用水の硬度、pH、散布水温、機械の攪拌性能)が効くためです。
そこでおすすめなのが、いきなり本タンクで勝負せず、1回だけ“小面積用の事例化”を行うやり方です(農薬ラベルの範囲内で実施し、登録外の使い方はしない前提)。混用事例集が禁じている「少量の水で練る」行為を避けつつ、実際の用水を使って、透明容器で沈殿・分離・泡立ち・経時変化(10分、30分)を観察し、問題が出た組み合わせを早めに除外します。こうして作った“自分の混用事例”は、翌年の繁忙期に効きます。
記録は凝らなくてよく、次の項目だけで十分に再現性が上がります。
参考リンク(「混用事例は推奨ではない」「乳剤→水和剤/フロアブルの順」「練ってから希釈を避ける」など、混用の原則がまとまっています)
主要薬剤・作物別混用事例集(記号の説明PDF)