フロアブル剤と展着剤の混用ルール!効果を広げる選び方と手順

フロアブル剤と展着剤を正しく混用できていますか?実は、組み合わせ次第で効果が激変したり、逆に薬害を招くことも。この記事では、プロが実践する選び方や混用順序、意外な失敗例を徹底解説します。あなたは「入れすぎ」のリスクを知っていますか?
記事の概要:フロアブル剤×展着剤の極意
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展着剤の必要性

フロアブル剤は単体でも付着しますが、ワックス質の強い作物には展着剤が必須です。

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混用の順番が命

基本は展着剤が最初。しかしシリコーン系など例外もあり、間違えると沈殿の原因になります。

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ランオフ現象に注意

展着剤を入れすぎると薬液が滑り落ち、逆に付着量が減る「ランオフ」が発生します。

フロアブル剤と展着剤の基礎知識

必要性 フロアブル剤に展着剤は必要か?

フロアブル剤を使用する際、多くの農業従事者が抱く疑問の一つに「そもそも展着剤は必要なのか?」という点があります。結論から言えば、フロアブル剤は単体でも一定の付着性を持っていますが、対象作物や防除の目的によっては展着剤の加用が強く推奨されます

 

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フロアブル剤(ゾル剤)は、水に溶けにくい有効成分を微細な粒子(数マイクロメートル以下)にし、界面活性剤凍結防止剤などを含む水の中で分散させた製剤です 。製剤自体に界面活性剤が含まれているため、粉剤や粒剤に比べて作物への付着性は高い設計になっています。そのため、濡れやすい作物(ナスやキュウリなど)に対しては、必ずしも追加の展着剤を必要としないケースもあります 。

 

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しかし、ネギ、キャベツ、ブロッコリーといったワックス層(ブルーム)が発達した作物や、イネ科の雑草などは、葉の表面が水を強力に弾く性質を持っています 。このような「難付着性」のターゲットに対しては、フロアブル剤にもともと含まれている界面活性剤だけでは表面張力を下げきれず、薬液が水滴となって転がり落ちてしまうことがあります 。ここで展着剤の出番となります。展着剤を加用することで、薬液の表面張力を大幅に低下させ、ワックス層の上でも均一に濡れ広がる「濡れ性(ウェッティング)」を確保することが可能になります 。

 

参考)プロ農家が教える本当に効く農薬展着剤|失敗しない選び方&使い…

また、殺虫剤としてのフロアブル剤を使用する場合、害虫が隠れている葉の裏側や新芽の奥深くまで薬剤を届ける必要があります。展着剤には、単に付着させるだけでなく、薬液を広げたり(拡展性)、入り込ませたり(浸透性)する機能を持つものがあり、これらを適切に組み合わせることで防除価(効果)を最大化できるのです 。

 

参考)展着剤の役割と使い方

種類 展着剤の種類の選び方と使い分け

展着剤と一口に言っても、その成分や作用機序によって大きく3つのタイプに分類され、フロアブル剤との相性も異なります。適切な種類を選ばなければ、効果が出ないばかりか薬害のリスクさえあります。

 

種類 主な成分 特徴 向いている用途
一般展着剤 非イオン系界面活性剤など 最も安価で一般的。表面張力を下げ、薬液を「濡れやすく」する基本的なタイプ。 濡れにくい作物全般。予防散布。コスト重視の場合 ​。
固着性展着剤 パラフィン、樹脂酸エステルなど 薬液を葉面に「糊(のり)」のように張り付かせる。耐雨性に優れる。 梅雨時期や、散布後に雨が予想される場合。保護殺菌剤との混用 ​。
機能性展着剤 シリコーン系、特殊界面活性剤 驚異的な「拡展性」や「浸透性」を持つ。葉の裏側まで回り込んだり、組織内部へ浸透を促す。

難防除害虫(ダニ・アザミウマ)、ワックスが強い作物。治療剤との混用
参考)濡れ性の良さが多くのメリットを生む!シリコーン系展着剤「ブレ…
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参考リンク:展着剤とは?農薬の効果を引き出す機能性展着剤の選び方(機能性展着剤と一般展着剤の使い分けについて詳しく解説されています)
フロアブル剤と組み合わせる際の選び方のポイントは、「何を目的とするか」です。

 

  • 予防目的で長持ちさせたい場合: パラフィン系などの固着性展着剤が推奨されます。フロアブル剤の粒子を葉面にしっかり留め、雨による流亡を防ぐ効果が期待できます 。​
  • 治療目的や害虫駆除の場合: シリコーン系などの機能性展着剤が有効です。特にフロアブル剤は粒子が細かいため、機能性展着剤の強力な拡展力と組み合わせることで、気孔や隙間から有効成分を浸達させやすくなります 。​

ただし、機能性展着剤は作用が強いため、高温時や幼苗期に使用すると薬害(葉焼けなど)を引き起こすリスクが高まります 。特に「ストロビーフロアブル」や「アミスター20フロアブル」など、特定の薬剤は浸透性の高い展着剤との混用に注意が必要とラベルに明記されていることがあるため、必ず確認が必要です 。

 

参考)https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/product/4231

順番 フロアブル剤と展着剤の混用の順番

農薬の混用において、順番は極めて重要です。間違った順番でタンクに投入すると、薬剤が凝固したり、沈殿(凝集)が発生したりして、散布機のノズル詰まりや散布ムラの原因になります。これを防ぐための鉄則があります。

 

基本的な混用の順番は、以下の通りです(英語の頭文字をとって「WALES」の法則などとも呼ばれますが、日本の一般的な剤型で言えば以下の順序です) 。

 

参考)いまさら聞けない?農薬の混用・展着剤の役割!

  1. 水(タンクに半量程度)
  2. 展着剤(※例外あり)
  3. 液剤・水溶剤(水に完全に溶けるもの)
  4. 乳剤(Emulsion:油状のもの)
  5. フロアブル剤(Flowable:懸濁液)
  6. 水和剤(Wettable Powder:粉末)

なぜこの順番なのか、メカニズムを理解しておくと間違いが減ります。

 

まず、展着剤を最初に入れる理由は、タンクの水全体の表面張力を下げ、後から入れる薬剤を混ざりやすくするためです(「馴染ませ役」と言えます) 。

 

参考)https://ja-kyotocity.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/03/tac_271.pdf

次に、水に溶けやすい液剤を入れます。

 

その後に、水と油を乳化させている乳剤フロアブル剤を入れます。

 

最後に、水に溶けずに分散するだけの水和剤を入れます。もし水和剤を先に入れてしまうと、後から入れた乳剤やフロアブル剤の油分が水和剤の粉末粒子に吸着してしまい、ダマ(凝集体)になりやすくなるからです 。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4084700/

重要な例外(シリコーン系展着剤など):
一部の機能性展着剤、特にシリコーン系(例:ブレイクスルー、まくぴか等)は、非常に泡立ちやすいという性質を持っています。これらを最初に投入して撹拌すると、タンク内が泡だらけになり、後から入れる薬剤の計量が不正確になったり、泡が溢れ出たりするトラブルが起きます。そのため、シリコーン系展着剤に関しては、「すべての薬剤を溶かした後、最後に加える」よう指示されている製品があります 。

必ず使用する展着剤のラベルを確認し、「最後に添加」という記述がないかチェックしてください。

 

独自視点 展着剤の入れすぎによる「ランオフ」現象と薬害リスク

ここまでの解説で「展着剤は効果を高める魔法の添加剤」のように思えるかもしれません。しかし、「展着剤を入れれば入れるほど付着が良くなる」というのは大きな間違いです。むしろ、過剰な添加は逆効果になることすらあります。これが、検索上位の記事ではあまり深く語られない「ランオフ(Run-off)」現象の罠です 。

 

参考)https://ja-imakane.or.jp/manager/wp-content/uploads/2025/04/1c09651c315f0f18cf558c7b1a744c13.pdf

ランオフ現象とは何か?
通常、葉の表面に乗った水滴は、表面張力によって丸まろうとします。展着剤はこの表面張力を下げ、水滴を平たく潰して広げます。適度な濃度であれば、これで葉面にピタリと張り付きます。

 

しかし、展着剤を規定量以上に入れて表面張力を下げすぎてしまうと、薬液は重力に逆らって葉に留まる力を失います。その結果、葉全体が濡れた瞬間に、薬液がズルズルと滑り落ちて地面に滴下してしまうのです。これをランオフと呼びます。

 

ランオフが引き起こす2つの問題:

  1. 有効成分の付着量減少:

    「したたり落ちるほどたっぷりかけた」つもりでも、実際には葉の表面に薄い膜が一瞬できただけで、大部分の有効成分は地面に捨てられています。ある実験データでは、展着剤の濃度を上げすぎた結果、逆に葉への残留農薬量が減少したという報告もあります 。特にフロアブル剤は粒子分散液なので、水と一緒に粒子ごと滑り落ちてしまいます。

     

    参考)https://www.s-boujo.jp/kihon/file/14sonota/1406.pdf

  2. 液だまりによる薬害(リングスポット):

    ランオフした薬液は、葉の先端や縁(鋸歯部分)、果実の下部などに集まります。そこだけで乾燥が進むと、薬剤濃度が局所的に高くなり、その部分の細胞が壊死して薬害が発生します。これを「リングスポット」や「縁枯れ」と呼びます 。機能性展着剤(浸透性が高いもの)を過剰に使った場合、このリスクはさらに跳ね上がります。

     

    参考)展着材を多めに入れすぎると、何かの害とかありますか? - Y…

対策:
「とりあえず濃いめに1000倍で入れておこう」という安易な判断は危険です。ラベルに記載された希釈倍数(例:3000倍〜5000倍など)を厳守してください。特に、濡れやすい作物に対して機能性展着剤を使う場合は、もっとも薄い倍率(例:10000倍)から試すのがプロの鉄則です。

 

沈殿 フロアブル剤の沈殿を防ぐ上手な希釈テクニック

フロアブル剤を使用する際、もう一つの大きな悩みが沈殿です。フロアブル剤は「液体の農薬」に見えますが、化学的には「微細な固体の粉を水に浮かべている状態(懸濁液)」です。そのため、静置しておくと重力で粒子が底に溜まり、ハードな沈殿層(ケーキ)を形成することがあります 。

この沈殿を防ぎ、均一な散布液を作るための希釈テクニックを紹介します。

 

  1. 容器ごと激しく振る(シェイク):

    基本中の基本ですが、ボトルを開ける前に、底に溜まった成分が完全に混ざるまで上下に激しく振ってください。特に長期間保管していたフロアブル剤は底で固まっていることが多いです。「チャプチャプ」という音が均一になるまで振ります 。

     

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/2/4/2_205/_pdf

  2. 「迎え水」で予備溶解する:

    タンクに直接ドボドボと原液を注ぐのは避けましょう。バケツに少量の水を張り、そこでフロアブル剤を一度溶かしてから(予備希釈)、タンクに投入する方法がベストです。これにより、タンク内で高濃度の原液がダマになるのを防げます。

     

  3. 泡立ちを抑える投入法:

    フロアブル剤自体も界面活性剤を含むため、勢いよく水を注ぐと泡立ちが発生しやすいです。泡が立つとタンクの目盛りが見にくくなり、希釈倍率が狂う原因になります。これを防ぐには、タンクの水注入口(ホース)を液面の中に突っ込んだ状態で給水するか、消泡効果のある展着剤を選ぶと作業効率が上がります 。

     

    参考)https://www.greenjapan.co.jp/preo_f.htm

  4. 混用時の「相性」確認:

    フロアブル剤と乳剤、あるいは金属を含む殺菌剤(銅剤など)を混用すると、化学反応で凝集沈殿(ゲル化)が起こることがあります。これを防ぐためにも、前述の「混用の順番」を守ることが第一ですが、初めての組み合わせの場合は、ペットボトルなどで少量を試し混ぜ(ジャーテスト)を行い、沈殿や分離が起きないか確認することを強くお勧めします。

     

農薬散布は、準備8割です。適切な展着剤を選び、正しい順番で混ぜ、適正な濃度で散布することで、フロアブル剤のポテンシャルを100%引き出し、コストパフォーマンスの良い防除を実現しましょう。