焼け込みとは何か・農作物への影響と具体的な対策

農作物の「焼け込み」とはどんな現象なのか、発生メカニズムから症状、果実温度が46℃を超えると起こる被害の実態まで詳しく解説します。遮光ネットや炭酸カルシウム剤などの対策法も紹介。あなたの畑は大丈夫ですか?

焼け込みとは・農作物の高温障害と原因・対策まとめ

気温36℃の日、あなたの果実の表面は実際には45℃以上になっていて、すでに細胞が死んでいます。


この記事のポイント3選
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焼け込みとは何か

強い日射と高温で果実・葉の細胞が死滅し、変色・硬化・腐敗を起こす生理障害。気温36℃で果実表面は45℃超に達します。

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被害の深刻さ

焼け込んだ果実は商品価値がゼロになることも。りんご「ふじ」では49℃で日焼け果発生率が50%を超え、大量廃棄につながります。

今すぐできる対策

遮光ネット・炭酸カルシウム剤(ホワイトコート)の散布・袋かけの3つが主な対策。ドローン散布で日焼け果を約40%減少させた事例もあります。


焼け込みとは・農作物に起こる高温による生理障害の定義

「焼け込み」とは、強い日射と高温によって農作物の果実・葉・茎などの表面組織が熱を受けすぎ、細胞が死滅してしまう現象のことです。農業の現場では「日焼け果」「葉焼け」とも呼ばれ、高温障害の一種として分類されます。


発生のしくみを簡単に説明すると、強い直射日光が当たると果実や葉の表面温度が気温よりもはるかに高くなります。気温が36℃を超えるような日では、日当たりのよい果実の表面は45℃以上に達することが研究で確認されています。これはお風呂のお湯(42℃前後)よりも熱い温度です。


この温度が一定時間続くと、植物の細胞を構成するたんぱく質が変性し、細胞が不可逆的なダメージを受けます。つまり焼け込みとは、植物が受ける"熱傷"のようなものです。


近年、日本では年平均気温が統計開始(1898年)以来最高を更新し続けており、農研機構のデータによれば2024年の日本の年平均気温偏差は+1.48℃と、2023年の記録をさらに上回りました。猛暑日(最高気温35℃以上)の年間日数も増加の一途をたどっており、焼け込みを含む高温障害は今や夏場の農業における最重要課題の一つです。


焼け込みは特定の作物だけに起こるわけではありません。これが原則です。りんごみかん・ぶどうなどの果樹から、トマト・ナス・ピーマンといった果菜類、さらにはレタスキャベツなどの葉菜類まで、幅広い作物で発生します。


農研機構「果樹における高温障害および対策技術」(2025年)── 日焼け果の発生温度・症状・対策技術について詳しく解説されています


焼け込みの症状・軽微から重度の見分け方

焼け込みの症状は、被害の程度によって大きく3段階に分けることができます。正確に見極めることが、適切な対処につながります。


①軽微な症状は、果実の陽光面(直射日光が当たる側)がわずかに変色する状態です。りんごなら果皮表面に薄い褐色の変色が見られる程度で、果肉内部には問題がない場合がほとんどです。みかん(ウンシュウミカン)では、陽光面が高温で脱緑し黄緑色や黄色に変わります。この段階では商品性はやや落ちるものの、場合によっては出荷できることもあります。


②中度の症状になると、変色が明らかになり果皮が硬化します。みかんでは果形が変形し、果肉に「す上がり」(スカスカになる状態)が認められ、商品価値が著しく低下します。リンゴも同様に、果皮表面に明らかな日焼け症状が出て商品性が劣る状態です。意外ですね。


③重度の症状まで進むと、果皮が褐変・壊死し、果肉内部にも異常が生じます。さらに深刻なのは、焼け込んだ部分から炭疽病などの二次感染(病原菌の侵入)が起こり、落果や腐敗につながる点です。これは廃棄確定の状態です。


葉菜類やトマトなどの果菜類では、葉が黄緑色・灰白色に変色して萎れたり、果実が変形・裂果したりします。高温期にトマトの実がうまく色づかない、一部だけ緑のまま残るという場合も、焼け込みが原因の一つとして疑う必要があります。


大事なのは、症状が外から見えにくい初期段階を見逃さないことです。外観が無事に見えても、すでに内部品質が低下している「す上がり果」は珍しくありません。収穫時に初めて気づいても、その時点では手遅れです。定期的な目視確認が基本です。


島根県農業技術センター「カキの日焼け症状と対策」── 日焼け果の見た目の変化と発生条件が写真つきで紹介されています


焼け込みが発生しやすい条件・作物ごとの温度の目安

焼け込みが起こりやすい条件を知ることで、事前に対策を打つタイミングが把握できます。条件を整理すると次のようになります。


まず気温の目安ですが、一般に気温30℃を超えると高温障害のリスクが生じ始め、35℃以上が続くと多くの作物で深刻な被害が出やすくなります。ただし、気温そのものより果実・葉の表面温度の方が問題です。


研究データによると、リンゴ「ふじ」では果実表面温度が約46℃になると日焼け果が発生し始め、約49℃に達すると発生率が50%を超えます。これはざっくり言うと、気温36℃の晴天日には果実の"皮膚温度"がすでに危険ゾーンに入っているということです。


作物ごとの大まかな目安をまとめると、以下のとおりです。


































作物 被害が出始める果実表面温度 主な症状
りんご(ふじ) 約46℃以上 果皮変色、褐変、壊死
ウンシュウミカン 45℃以上(1時間以上) 脱緑・黄変、す上がり、炭疽病
トマト 40℃近くで危険域 変色、裂果、着果不良
ブドウ 35℃以上が目安 縮果、着色不良、肩焼け
葉菜類 葉温30℃超で要注意 葉焼け、萎れ、チップバーン


次に発生しやすい条件ですが、気温の高さだけでなく、次の要因が重なると一段とリスクが高まります。


- 直射日光が果実・葉に長時間当たる状況(樹冠外周部や南西向きの着果位置は特に要注意)
- 水分不足が重なる場合(乾燥ストレスが加わると焼け込みが助長される)
- 急激な温度上昇(朝涼しかった日が昼から急激に晴れるような気象条件)
- ハウス栽培で換気が不十分な状態(ハウス内は外気より10〜15℃ほど高くなることがある)


時期的には、雨明け直後から9月上旬にかけてが最もリスクが高い期間です。梅雨の曇天で慣らされた後、急激に強い日射が続くため、作物が一気に焼け込みやすくなります。


焼け込みの具体的な対策・遮光・炭酸カルシウム・袋かけ

焼け込みへの対策は、「果実表面温度を危険な閾値(いきち)まで上げない」という一点に集約されます。代表的な手段は3つです。


【対策①:遮光ネット・遮光資材の設置】


最もシンプルで導入しやすい対策が、遮光ネットの設置です。果樹全体や圃場に遮光ネットを張ることで、直射日光を物理的に遮り、果実・葉の温度上昇を抑えます。一般に、遮光率30〜50%程度のネットが果樹栽培では効果的とされています。遮光しすぎると光合成が不足して着色不良や糖度低下を招くため、適切な遮光率の製品を選ぶことが条件です。


ハウス栽培であれば、遮光カーテンや天窓の開放と組み合わせることで、より効果的に庫内温度を管理できます。設備が整っている場合は細霧冷房(ミスト)や循環扇の導入も選択肢に入ります。これは使えそうです。


【対策②:炭酸カルシウム剤(ホワイトコート等)の散布】


近年、現場での評価が高まっているのが、炭酸カルシウム水和剤の果実への散布です。製品名「ホワイトコート」などが代表的で、白色の微粒子が果実表面を薄くコーティングし、太陽光を反射させることで果面温度の上昇を2〜4℃程度抑えることができます。


散布自体は動力噴霧器で行えるため、広い面積でも対応しやすい手法です。2025年には農業用ドローンでの散布事例が報告されており、日焼け果が約40%減少したという記録も出ています。また、炭酸カルシウムは果実品質(糖度・酸含量)への悪影響がないことも確認されており、安心して使える対策です。


三陽農機「ホワイトコート炭酸カルシウムでみかんの日焼け軽減対策に」── 炭酸カルシウム剤の仕組みと散布方法について詳しく解説されています


【対策③:袋かけ・傘かけ】


個々の果実に袋や傘をかけることで、直射日光を直接遮断する方法です。ブドウの房への袋かけや、桃・なし・リンゴへの果実袋の被覆は、日焼け軽減効果が高いとされています。白色・ピンク色のテトロン製果実袋(商品名:ネルネットやサンテ)は、遮光と散光の効果を持ち、焼け込み軽減に有効です。


ただし、袋かけは果実の数が多い場合に労力がかかるデメリットがあります。遮光ネットや炭酸カルシウム剤との組み合わせで、優先順位を決めて実施するのが現実的な方法です。


加えて、根本的な対策として栽培管理の見直しも重要です。摘果を適切に行い、樹冠表層に当たりすぎる果実を減らすことで、南西方向など特に焼け込みやすい位置への着果を抑えられます。また、高温耐性品種の導入(りんごなら「つや姫」、水稲なら「にこまる」など)も中長期的な対策として有効です。


焼け込み対策を独自視点で考える・農家が見落としがちな"夜間高温"との複合リスク

焼け込みの対策を考えるとき、多くの農家が昼間の高温だけに注目しがちです。しかし実は、夜間の気温が下がりきらない"熱帯夜"との複合が、焼け込みの被害を倍増させているという側面があります。これは農業技術の情報発信でもあまり取り上げられない視点です。


昼間に強い日射を受けた果実は、夜間に表面温度を回復させることでダメージを軽減しようとします。ところが、夜間気温が25℃を下回らない熱帯夜が続くと、果実が昼間のダメージから回復しきれず、翌日の日射で再びダメージを受けます。この繰り返しが、軽微だった焼け込みを中度・重度へと悪化させる要因になります。


気象庁のデータでは、2023〜2024年の東日本の夏季平均気温は統計開始以来1位を更新しており、夜間の最低気温も上昇傾向にあります。つまり、作物が夜間に「休める」時間が年々短くなっているということです。


この複合リスクに対処するには、次の視点が参考になります。


- 気象庁の2週間気温予報を定期確認する:農研機構も推奨しており、高温が予測された際に先手を打てます。気象庁の「日本の天候の特徴と見通し」ページで確認できます。


- 土壌保水性を高める:土作りで堆肥を入れ、土壌が適度な水分を保つようにすることで、作物が熱ストレスから回復しやすい環境を整えます。水ストレスが高温ダメージを増幅させるためです。


- 樹冠内の通風を確保する:防風樹の手入れを行い、夜間の放熱を助けることが果実の温度回復に寄与します。


また、近年注目されているのが栽培管理支援システムの活用です。AIが圃場ごとの生育状況・気温データを分析し、最適な対策タイミングを通知してくれるサービスが普及しています。例えばBASFジャパンの「xarvio(ザルビオ)フィールドマネージャー」は会員登録が無料で、可変施肥マップや生育ステージ予測など、高温障害対策を含む栽培管理を一元化できます。実際に埼玉県のヤマザキライスがこのシステムを導入した結果、猛暑の年に前年比20%の収量アップを達成しています。


夜間高温というリスクを念頭に置きながら、昼夜を通した温度管理の視点で焼け込み対策を組み立てると、より実効性の高い栽培計画につながります。これが条件です。


焼け込みの被害は、適切な予防策と早期発見によって大きく軽減できます。気温が上昇し続ける今の農業環境において、焼け込みの知識と対策を持っているかどうかが、秋の収益を左右する大きな分岐点になります。梅雨明け前から対策の準備を始めることが原則です。


農研機構「果樹の温暖化被害(着色不良・日焼け・晩霜害)を予測するシステムの開発」── 温暖化による果樹への影響とその予測技術について詳しく紹介されています