日焼け果を見つけたら、すぐ摘み取れば大丈夫と思っていませんか?実は放置するより早期摘果するほうが、隣の健全果まで日焼けさせるリスクを高めることがあります。
みかん栽培でよく見かける「日焼け果」とは、強い直射日光と夏季の高温によって果皮が変色・硬化する生理障害のことです。一見すると外皮が少し茶色くなる程度に見えますが、症状は段階的に進行します。
初期は果皮の一部が黄緑色から黄褐色に変色し、表面が硬くなります。症状が中程度まで進むと、果形の変形が目立つようになります。さらに重症化すると、果肉まで「す上がり」(粒果症)が発生し、果実の内部の水分が抜けてスカスカになってしまいます。
つまり、外から見えている以上に、内側のダメージは深刻です。
日焼けが発生した果実の果皮では気孔が変形し、蒸散量がさらに増えるという悪循環に陥ります。さらに、黒くなった部分には炭疽病が二次的に発生するケースも多く、見た目の悪化だけでなく病気の入り口にもなってしまいます。
発生時期は主に2つのピークがあります。1回目は梅雨明け直後の7月中旬〜8月上旬、2回目は8月下旬〜9月にかけてです。農林水産省の調査でも、うんしゅうみかんにおける日焼け果の影響は西日本の生産地で4割程度の園地に見られると報告されており、決してめずらしい被害ではありません。
また、安山岩土壌など水はけが良すぎる(土壌が乾燥しやすい)園地では特に多発しやすいことも確認されています。水分ストレスと高温が重なると被害が一気に拡大します。これが原則です。
【山口県農林総合技術センター】カンキツ類に発生する日焼け果の発生要因と軽減対策(PDF)
発生メカニズムと各種軽減資材の効果比較データが詳細に掲載されています。
日焼け果は、すべての品種で同じ頻度で発生するわけではありません。品種ごとの傾向を知っておくことが、対策の優先順位を正しく判断するうえで非常に重要です。
山口県農業技術センターの調査(2016年)では、品種別の日焼け果発生率について、極早生・早生ウンシュウに分類される「日南姫」「日南1号」「興津早生」「南柑20号」「石地」といった早熟品種で特に発生率が高い傾向があることが明らかになっています。一方、青島温州などの普通温州や「せとか」「不知火」などの中晩柑類にも一定の発生が認められています。
なぜ早生品種に多いのでしょうか?
収穫時期が早い品種ほど、果実が真夏(7月〜9月)の強烈な日差しを長時間受けるサイクルと重なります。また、果皮がまだ成熟途上にある段階で高温にさらされるため、ダメージを受けやすい構造になっています。これは使えそうな知識ですね。
発生しやすい条件は次のとおりです。
| 条件 | 内容 |
|------|------|
| 部位 | 樹冠外周部・上部・南〜西向きの果実 |
| 温度 | 果皮表面温度が40℃で3時間以上、または45℃以上 |
| 水分 | 土壌乾燥による果実内水分不足 |
| 時期 | 7月中旬〜9月(ピークは8月) |
| 土壌 | 安山岩質など保水性の低い園地 |
特に注意が必要なのが「剪定後の果実」です。剪定によって葉が減ると、これまで葉陰に守られていた果実が突然、直射日光に直接さらされます。果皮が日光に"慣れていない"状態で高温にさらされるため、日焼けリスクが急激に高まります。剪定のタイミングと範囲には注意が必要です。
日焼け果の怖さは、単なる見た目の問題にとどまりません。収益に直結する問題です。
日焼け果は正品として出荷できないため、廃棄または加工用への格下げを余儀なくされます。愛媛大学農学部の研究によると、「宮内イヨ」は約20万トンの生産量があり、2〜3%に果皮障害が発生するだけでも農家が受ける経済的損失は大きく、10%以上の被害になれば経営に深刻な影響が生じると指摘されています。厳しいところですね。
さらに農林水産省の統計では、令和6年産(2024年産)みかんの10a当たり収量は1,620kgで、前年産を310kg(16%)下回った要因の一つとして「夏期の高温により落果や日焼け果が発生したこと」が明記されています。これは全国レベルで見ても、日焼け果が収穫量を大幅に押し下げていることを示しています。
2024年の記録的猛暑では、極早生みかんの収穫量が「例年の4割〜5割ほどにとどまった」と報道された産地もありました。消費者価格にも影響が波及し、2024〜2025年産みかんの高騰の背景にも日焼け被害の多発が挙げられています。
日焼け果が増えると損失が重なります。具体的には、①出荷量の減少、②選果・廃棄の追加作業コスト、③加工向けへの格下げによる単価低下、という3重の損失が重なります。早め早めの対策が、そのまま収益の防衛につながります。
【農林水産省】令和6年産みかんの結果樹面積・収穫量及び出荷量(PDF)
10a当たり収量が前年比16%減となった原因として日焼け果・落果が記載されています。
日焼け果を減らすうえで、現場での実績が積み重なっている有効な手法が「樹冠表層摘果」です。一般的な摘果と何が違うのでしょうか?
通常の摘果(慣行摘果)では、小果や奇形果など「品質の低い果実」を中心に除去します。これに対して樹冠表層摘果は、樹冠の外側(直射日光が当たりやすい部分)に露出している果実を優先的に摘果し、葉の裏側や樹冠内部に着果している果実を残す方法です。
葉に隠れた「内成り果」は、直射日光を受けにくいため果皮表面温度の上昇が抑えられます。葉が日よけになるということですね。
山口県農業技術センターの試験では、表層摘果単独でも慣行摘果より日焼け果発生率が低下し、後述するホワイトコート散布と組み合わせることで発生を72%削減できたと報告されています。これは東京ドームのグラウンドに例えれば、以前は5つ分のスペースで日焼けが起きていたのが、1.4つ分程度まで圧縮できるイメージです。
実施時期の目安は8月上旬頃が推奨されています。作業の流れとしては、まず7月中旬〜下旬の粗摘果で葉果比10程度まで落とし、次に8月上旬に樹冠外周の表層果を中心に仕上げ摘果を行います。
摘果を迷ったときはこう考えてください。「葉に隠れているか?」「南〜西面の外向き果か?」という2点で判断すれば、優先順位をつけやすくなります。2点だけ覚えておけばOKです。
【大分県農林水産研究指導センター】温州ミカン「おおいた早生」の樹冠表層摘果による日焼け果発生の軽減(PDF)
摘果時期・葉果比の具体的な数値と発生軽減効果が記載されています。
樹冠表層摘果と並んで、近年急速に普及しているのが炭酸カルシウム水和剤「ホワイトコート」の散布です。もともとチャノキイロアザミウマ(ハダニの一種)対策の殺虫剤として使われていた資材ですが、日焼け軽減効果があることが判明し、2024年12月にみかんへの日焼け軽減用農薬としての登録適用拡大が認められました。
仕組みはシンプルです。炭酸カルシウムの白色微粒子が果実表面に薄い保護膜を形成し、太陽光を反射させることで果皮温度の上昇を物理的に抑えます。試験データでは、ホワイトコート(25倍希釈)散布で果実表面温度を1.5〜4℃程度低下させることが確認されています。
日焼け果の発生は、果皮表面温度が40℃で3時間以上続くことが引き金になります。たった数℃の降温でも、この閾値を超える時間を大幅に短縮できるため、発生率を半減近くまで抑えられます。
ただし、使用にあたっては以下のポイントをおさえておく必要があります。
- ⏰ 散布時期:7月下旬〜8月上旬を目安に、収穫1か月前までに終える
- 🔄 希釈倍率:25〜50倍希釈(効果は25倍の方が高い)
- 🌀 撹拌:炭酸カルシウムは沈殿しやすいため、タンク内を常に撹拌しながら散布する
- 🧹 出荷前の洗浄:白い粉が残ると選果場での洗浄処理が必要。収穫時期から逆算して最後の散布日を決める
静岡県の農家・朝倉さんは「7月後半に散布すると8月末頃まで白さが残り、みかんの日焼けを見事に防いでくれる。効果は明らかで、今ではこの地域の農家の多くが取り入れている」と語っています。また、果実品質(糖度・酸含量)への影響がないことも試験で確認されており、食味を落とさずに日焼けを防止できる点が評価されています。
一方で、袋かけや鉄鋼用養生テープによる果実の個別保護も、日焼け軽減効果は高い方法です。特に木の本数が少ない園地や、品質の高い果実を守りたい場面では、テープ貼付は確実な選択肢になります。ただし、1果ずつ作業するため時間と人手がかかります。広い圃場では散布系の資材との使い分けが現実的です。
【マイナビ農業】みかんの日焼け対策に革命!「ホワイトコート」で暑い夏を乗り切る
農家の実体験と白石カルシウム株式会社の開発担当者へのインタビューが掲載されています。
農薬や摘果だけでなく、日常的な栽培管理の積み重ねが日焼け果の発生を根本から減らします。特に水分管理と剪定・樹形管理は、他の対策すべての土台になる部分です。
水分管理のポイント
日焼けのメカニズムの一つは、果実からの蒸散過剰です。土壌水分が不足すると根からの水分供給が追いつかず、果実が内部から干上がってしまいます。夕方に葉や果実が柔らかく萎れていたら、水分ストレスのサインです。
土壌の乾燥しやすい園地では、7〜9月の果実肥大期に定期的な灌水を行うことで冷却効果が維持されます。マルチングも効果的で、樹の周囲に敷きわらやバークチップを5〜10cmの厚さで敷くことで、土壌水分の急激な変動を防ぐことができます。
ただし、灌水しすぎると果実が必要以上に大きくなり、かえって日焼けリスクが高まるという報告もあります。灌水量と日焼けはトレードオフの側面があります。特に大玉傾向の裏年(不作年)には、この点に注意が必要です。水分管理は「多ければ良い」ではないということですね。
剪定・樹形管理のポイント
「開心自然形」を基本とした、内部にも適度な日光が入る樹形を維持することが重要です。しかし過度な「透かし剪定」はかえって日焼けリスクを高めます。急に多くの果実が日光にさらされるためです。
夏季の強剪定は特に避けてください。もし剪定が必要な場合は、露出した果実への保護対策(ホワイトコート散布・袋かけ等)をセットで行うことが原則です。
また、現場農家の経験則として「6〜7月に日照を当てて果皮を強くし、8月には果実が肥大しながら下垂して葉に隠れるような着果」が理想とされています。そのためには毎年しなやかな春芽をたくさん出させることが大切で、施肥と適切な剪定の継続が基本になります。秋肥と秋剪定をしっかり行うことで、翌年の健全な樹づくりにつながります。
日焼け対策は夏だけの問題ではありません。一年を通じた管理の積み重ねが、翌年の果実を守ることになります。結論は「通年管理」です。
【佐賀県農業技術防除センター】温州ミカンの日焼け果対策(PDF)
水分管理・着果管理・灌水の注意点など現場での実践情報がまとめられています。