農業現場で頻繁に使用される「炭カル(炭酸カルシウム)」ですが、なぜ酸と反応すると泡が出るのか、その発生原理を化学的に理解している方は意外と少ないかもしれません。
この現象は、化学反応式で以下のように表されます。
CaCO3+2HCl→CaCl2+H2O+CO2
この式が示しているのは、炭酸カルシウム(固体)が塩酸(液体)と出会うことで、塩化カルシウム(水溶液)、水、そして二酸化炭素(気体)へと変化する様子です。
参考)http://science.tamagawa.ed.jp/Achievements%20and%20dissemination/1st_term/Quantitative_relationship_of_chemical_changes.pdf
なぜ二酸化炭素が発生するのでしょうか。ポイントは「弱酸の遊離」という現象です。
石灰肥料の特徴と使い方|カクイチ
リンク先には、炭酸カルシウムが水に溶けず、根酸や微生物の有機酸によってゆっくり反応する「緩効性」のメカニズムが解説されています。
土壌改良において「どれくらいの石灰を撒けばよいか」は悩みの種ですが、これは化学反応式の計算によって理論値を導き出すことができます。反応式をもう一度見てみましょう。
物質 |
質量比 |
意味 |
|---|---|---|
炭酸カルシウム |
100g |
石灰資材の純分 |
塩化水素 |
73g |
土壌中の酸性物質(相当量) |
肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)
リンク先には、肥料分析における正確な酸分解の方法や試薬の調整方法が記載されており、化学的な定量分析の参照になります。
化学の実験では「塩酸」を使いますが、実際の畑で塩酸が撒かれているわけではありません。では、なぜこの反応式が農業の基礎として重要なのでしょうか。
それは、土壌の「酸性化」の原因である水素イオン(H+)を、塩酸のH+に見立てているからです。
土壌が酸性になる主な原因は以下の通りです。
炭酸カルシウムを施用すると、以下の反応で土壌を改良します。
消石灰(水酸化カルシウム)は水に溶けて急激に反応しますが、炭酸カルシウムは水に溶けにくく、酸のある場所でのみ反応が進みます。この「ゆっくりとした反応(緩効性)」が、作物の根を傷めず、穏やかに土壌酸度を矯正するために非常に重要なのです。
参考)代表的な石灰肥料、それぞれの特徴と使い方 - 農業メディア│…
土壌の塩基と中和の仕組み|JA全農
リンク先には、土壌の陽イオン交換容量(CEC)と石灰質資材の関係、なぜ土壌が酸性化するのかというメカニズムが詳しく解説されています。
この反応式で忘れてはならないのが、右辺にある CO2(二酸化炭素)の存在です。
露地栽培であれば、発生した二酸化炭素は大気中に拡散するため問題になりません。しかし、ハウス栽培などの閉鎖環境で大量の酸度矯正を行う場合は注意点があります。
リンク先には、炭酸カルシウムの取り扱いや、粉じん吸入時の応急処置、反応性に関する安全データシート(SDS)情報が含まれています。
最後に、通常の化学の教科書には載っていない、農業独自の視点について解説します。それは「反応速度と微生物へのショック」の関係です。
化学反応式の上では、最終的に中和されれば結果は同じに見えます。しかし、土壌の中には数億もの微生物が生息しています。
この反応式における「二酸化炭素の発生」は、実は土壌中に微細な空隙(すきま)を作る効果も期待できます。また、反応が穏やかであることは、土壌の「緩衝能」を維持しつつ、微生物が住みやすい環境を壊さずに酸度を調整できるというメリットがあります。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4395/12/1/219/pdf?version=1642572132
単に「pHを上げればよい」と考えがちですが、化学反応式の裏にある「反応の激しさ」を考慮して資材を選ぶことこそ、プロの農業者に求められる視点です。
Soil Nutrient Retention and pH Buffering Capacity (英語論文)
リンク先は、土壌のpH緩衝能と石灰資材の関係を示した研究論文です。急激な変化を避ける緩衝作用の重要性が示唆されています。

Heiltropfen CaCO3 炭酸カルシウムパウダー|医薬品グレード|454 g |最高純度の石灰岩| Calcium Carbonate | Heiltropfen®