炭酸カルシウムと塩酸の化学反応式
炭酸カルシウムと塩酸の反応
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農業への応用
土壌酸度(H+)を中和し環境を整える
炭酸カルシウムと塩酸の化学反応式と二酸化炭素の発生原理
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農業現場で頻繁に使用される「炭カル(炭酸カルシウム)」ですが、なぜ酸と反応すると泡が出るのか、その発生原理を化学的に理解している方は意外と少ないかもしれません。
この現象は、化学反応式で以下のように表されます。
CaCO3+2HCl→CaCl2+H2O+CO2
この式が示しているのは、炭酸カルシウム(固体)が塩酸(液体)と出会うことで、塩化カルシウム(水溶液)、水、そして二酸化炭素(気体)へと変化する様子です。
参考)http://science.tamagawa.ed.jp/Achievements%20and%20dissemination/1st_term/Quantitative_relationship_of_chemical_changes.pdf
なぜ二酸化炭素が発生するのでしょうか。ポイントは「弱酸の遊離」という現象です。
- 炭酸カルシウムに含まれる「炭酸」は弱い酸です。
- 塩酸は非常に強い酸です。
- 強い酸がやってくると、弱い酸(炭酸)は居場所を奪われて追い出されます。
- 追い出された炭酸(H2CO3)は非常に不安定なため、すぐに水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解されてしまいます。
これが、
土壌改良資材を撒いた際に、土壌中の酸と反応してガスが出る(あるいは中和される)基本的な
基礎メカニズムです。
石灰肥料の特徴と使い方|カクイチ
リンク先には、炭酸カルシウムが水に溶けず、根酸や微生物の有機酸によってゆっくり反応する「緩効性」のメカニズムが解説されています。
炭酸カルシウムと塩酸の化学反応式に基づく過不足ない量の計算
土壌改良において「どれくらいの石灰を撒けばよいか」は悩みの種ですが、これは化学反応式の計算によって理論値を導き出すことができます。反応式をもう一度見てみましょう。
- CaCO3(係数なし=1)
- 2HCl(係数2)
これは、
物質量(モル)の比で言うと、「炭酸カルシウム 1 に対して、塩酸 2 が反応する」ということを意味しています。これを重さ(質量)に換算して考えてみます。原子量は Ca=40, C=12, O=16, H=1, Cl=35.5 とします。
参考)
https://webc.gifu-net.ed.jp/rika/wp-content/uploads/sites/16/2024/02/%EF%BC%98%E3%80%80%E8%B3%87%E6%96%99.pdf
- 炭酸カルシウムの式量:40+12+(16×3)=100
- 塩化水素の分子量:1+35.5=36.5
つまり、理論上は以下の比率で
過不足なく反応します。
物質 |
質量比 |
意味 |
炭酸カルシウム |
100g |
石灰資材の純分 |
塩化水素 |
73g |
土壌中の酸性物質(相当量) |
もし、土壌の酸性度(H+の量)に対して炭酸カルシウムが多すぎれば、反応しきれなかった石灰が土壌に残ります。逆に少なすぎれば
中和は不完全になります。実際の農業では、土壌の緩衝能(pHの下がりにくさ、上がりにくさ)があるため、この理論値通りにはいきませんが、基本の
計算を知っておくことで「なぜ大量に撒いても急にpHが上がらないのか」あるいは「なぜ効き目がゆっくりなのか」を理解する助けになります。
参考)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/gtuti3.pdf
肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)
リンク先には、肥料分析における正確な酸分解の方法や試薬の調整方法が記載されており、化学的な定量分析の参照になります。
炭酸カルシウムと塩酸の化学反応式から学ぶ農業土壌の中和
化学の実験では「塩酸」を使いますが、実際の畑で塩酸が撒かれているわけではありません。では、なぜこの反応式が農業の基礎として重要なのでしょうか。
それは、土壌の「酸性化」の原因である水素イオン(H+)を、塩酸のH+に見立てているからです。
土壌が酸性になる主な原因は以下の通りです。
- 雨水による塩基(カルシウムやマグネシウム)の流亡
- 化学肥料(硫安など)の使用による酸性物質の蓄積
- 植物の根から出る根酸
炭酸カルシウムを施用すると、以下の反応で土壌を改良します。
- 炭酸カルシウムが土壌中の水素イオン(H+)と反応する。
- 酸性の原因であるH+が、水(H2O)となって無害化される。
- 同時にカルシウムイオン(Ca2+)が土壌コロイドに吸着され、栄養分として保持される。
消石灰(水酸化カルシウム)は水に溶けて急激に反応しますが、炭酸カルシウムは水に溶けにくく、酸のある場所でのみ反応が進みます。この「ゆっくりとした反応(緩効性)」が、作物の根を傷めず、穏やかに土壌酸度を矯正するために非常に重要なのです。
参考)代表的な石灰肥料、それぞれの特徴と使い方 - 農業メディア│…
土壌の塩基と中和の仕組み|JA全農
リンク先には、土壌の陽イオン交換容量(CEC)と石灰質資材の関係、なぜ土壌が酸性化するのかというメカニズムが詳しく解説されています。
炭酸カルシウムと塩酸の化学反応式で注意すべき密閉環境のリスク
この反応式で忘れてはならないのが、右辺にある CO2(二酸化炭素)の存在です。
露地栽培であれば、発生した二酸化炭素は大気中に拡散するため問題になりません。しかし、ハウス栽培などの閉鎖環境で大量の酸度矯正を行う場合は注意点があります。
- ガス発生のリスク。
急激な反応が起きる条件(例えば、非常に酸性が強い土壌に、反応性の高い微粉末の炭カルを大量に施用し、水を撒いた場合など)では、一時的に二酸化炭素濃度が上昇する可能性があります。
- 酸欠の危険性。
二酸化炭素は空気より重いため、低い場所に溜まります。作業者がしゃがんで作業する場合、高濃度のCO2を吸い込むリスクもゼロではありません。
化学反応式
CaCO3+2HCl→CO2↑ が示す通り、「1モル(100g)の炭カルから、標準状態で22.4リットルの二酸化炭素が出る」という事実を頭に入れておく必要があります。特に、土壌消毒などで酸を使う工程と石灰の施用が重なる場合は、化学反応によるガスの
発生量に十分注意してください。
タンカル(炭酸カルシウム)製品安全データシート|足立石灰工業
リンク先には、炭酸カルシウムの取り扱いや、粉じん吸入時の応急処置、反応性に関する安全データシート(SDS)情報が含まれています。
炭酸カルシウムと塩酸の化学反応式と土壌微生物への影響
最後に、通常の化学の教科書には載っていない、農業独自の視点について解説します。それは「反応速度と微生物へのショック」の関係です。
化学反応式の上では、最終的に中和されれば結果は同じに見えます。しかし、土壌の中には数億もの微生物が生息しています。
- 消石灰の場合:反応が激しく、pHが急上昇します。これは微生物にとって環境の激変であり、ショックを与えて一時的に微生物相を貧弱にする可能性があります。
- 炭酸カルシウムの場合:酸と出会った部分だけが反応し、水と二酸化炭素を出して穏やかに中和します。
この反応式における「二酸化炭素の発生」は、実は土壌中に微細な空隙(すきま)を作る効果も期待できます。また、反応が穏やかであることは、土壌の「緩衝能」を維持しつつ、微生物が住みやすい環境を壊さずに酸度を調整できるというメリットがあります。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4395/12/1/219/pdf?version=1642572132
単に「pHを上げればよい」と考えがちですが、化学反応式の裏にある「反応の激しさ」を考慮して資材を選ぶことこそ、プロの農業者に求められる視点です。
Soil Nutrient Retention and pH Buffering Capacity (英語論文)
リンク先は、土壌のpH緩衝能と石灰資材の関係を示した研究論文です。急激な変化を避ける緩衝作用の重要性が示唆されています。
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炭酸カルシウム 500g 食品添加物